■ 2004.7月読書記録

 7/1 『真・運命のタロット9 《世界》。(上・下)』[皆川ゆか/講談社X文庫ティーンズハート] →【bk1 (上巻下巻)】

1980年ミッドウェイ海域において、《世界》に巻き込まれた空母〈エセックス〉は時間を跳躍し、1983年のモントークへ現れた。その時こそ、モントーク機関の存続を巡る《愚者》と《神の家》のフェーデが決せられる時だった。協力者としての存在に苦悩する片桐、ライコへの思慕を新たにする大河もまた、時間によって綾なされる運命に苦杯を舐めることになる。
一方、記憶を取り戻したライコと《女教皇》だったが、《魔法使い》とは離れ離れとなってしまう。1997年のノバヤゼムリャに飛ばされた彼女たちの前に現れた虚数強化体〈バルバラ〉。《女教皇》が洩らした〈バルバラ〉の正体に、ライコは動揺する。1983年に戻ったライコはその是非を確かめようとするが、そこで待ち構えていたのは宿敵ともいえる田村桂子だった。

 運命決定論の世界で如何に生きるべきか。人間の自由意志とその代償とは――等のテーマに取り組んでいた「運命のタロット」シリーズ、第二部完結編。
 最終巻と銘うたれてはいるけど、なんだかちっともそんな気がせず読み進めていました。だって、この期に及んで新たな謎や伏線がこれでもかというぐらいに盛り込まれてるし(苦笑) ただ、ラストシーンを読んだときに「あ、これで終わりなんだ」と、なんとなく納得してしまったという感じではありますね。この先の展開も確かに気になるし、できれば読んでみたかったけれど。
 全体的に重く難解な展開の中、自分を取り戻した《女教皇》の姿勢や、あの状態にあっても彼女への誓いをひたすら守ろうとする大河の姿は眩しく感じられました……そんな彼らの想いや行動、最期までもが既に定められているものなのだとしても。

 以下、つらつらと思い浮かんだことを。
 最初、いきなり〈エセックス〉内部から話が始まったことに一瞬戸惑い。いやまぁ、彼らも一応《吊るされた男》の内部に捉えられていたわけだし、登場してもおかしくないのですが。しかも、生き残ったニックやスワンソン母子は、それぞれ厄介な役割を割り振られているようで。彼ら、特にジョンが今後果たすべき役割が気になるところ。ニックに関しては……うん、まぁ、頑張ってくださいとしか。
 〈エセックス〉の出現が趨勢を決した《愚者》と《神の家》のフェーデ。精霊連中はかなり遠慮なく暴れておりますが、片桐さんはこのフェーデにそもそも納得しておらず、さらに《教皇》の協力者ラオの言葉に苦悩を深めることになってしまいます。こうしてみると、かつて完璧超人に思えた片桐さんも、秀でてはいるもののやはり人間、それも平和な環境で育った日本の高校生なんだと、今さらながらに気づかされました。そして、フェーデの結果は片桐さんが望んだようなものにはならず……なんというか、《隠者》も酷なことをします。あと、スワンソン母子に対しての《愚者》の反応も気になるところ。前巻でリンダがなにやら気づいたらしい事柄と、何か関連があるのでしょうか。そういえば、前巻で死んだとばかり思っていたカインも最期の悪あがきをしてみたりするのですが……この期に及んで、救いようのない馬鹿だこと。

 前巻ラストでライコと《女教皇》がノバヤゼムリャで遭遇した謎の人物、その正体は予想通り[趙に憑依(?)された安西さん]で。以前、田村さんが吐いた言葉の真意はこれだったのか、と苦い思いになってしまいました。もう一つライコ絡みでは、1983年で彼女と対峙した田村さん。この人も相変わらず複雑な人で……彼女の吐く言葉は毒さながらにこちらの意識に効いてくるので、読んでてキツイです。その心情を、意識のどこかで理解できてしまうのも、またキツイ。もし、ライコが《魔法使い》と再会するために選択せざるを得ないこと、というのが田村さんの予言ならば。そのときライコと相対する人物は間違いなく〈バルバラ〉なのでしょうしね……考えただけで気が重い。
 一方、過去の自分に助力するため時の縦糸を遡る《女教皇》が対峙したのは、《審判》。田村さんとはまた違った形で彼女と相容れない存在である彼との対話を通し、《女教皇》は自分の中で一つの結論を得て、自らの意思で前に進む決意をするのですが……その結果、どんな運命に直面することになるのか。今回、ほんの僅かだけ語られた「世界の命運に関わる重大な事象」での彼女の役割に繋がってしまうのかと思うと、なんとなくやりきれなさが残ります。そういえば、《審判》が《女教皇》への言葉として『ドグラマグラ』の一節を持ち出してきたのは、あの一節の意味だけを考えればいいのか、小説の意味まで考えたほうがいいのかどっちなのか。前者だと、やはりあの存在は私が思ってるとおりかどうかはさておいても何らかの形で関わってくるってことなのかと素直に解釈できるのですが、後者だと……泣くしかないんですけどー(←あの話いまいち理解できてない人)

 《審判》と《力》の〈会堂〉でのやりとりや上巻巻末の年表で、その断片が垣間見えた「世界の命運に関わる重大な事象」。どういう経緯があってそんな事態になるのか、非常に気になります。前巻での狂乱した《女帝》の叫びからすると《愚者》も重要な役割を占めるのだろうと推測はできるけれど、今出てる情報からはそれぐらいしか分からないんだものなぁ……。《審判》と《力》の会話でもう一つ気になるのは、「ただ一度、すべての精霊が集う会議」ですね。つまりこれが、《女帝》と《皇帝》の結婚式のことなのでしょうけれど、《審判》の口ぶりからしてどうも「結婚式」も言葉通りの意味だけではなさそうだし……いや、《力》が《女帝》に対して抱いている感情からすると……うーむ、謎はつきません。

 もともと、『《世界》。』は複数巻で構成される予定だったらしいのですが、諸般の事情によりその一幕で物語は幕を下ろされました。そのことについては正直残念に思いますし、機会があれば是非とも第三部を書いていただきたいとも思いますが。とにかく今は、この物語が無事に(一応の)完結を迎えたことに、最大級の祝辞を作者氏に奉げたいと思います。この物語に巡りあえて、私はきっと、とても幸運でした。

 蛇足ながら、シリーズ全体を通してのネタバレ雑感はこちら。考察等はほとんどなしで思いつくまま適当に語ってるだけですが、かなり重要な部分も反転無しでネタバレしてますのでご注意ください。

 7/9 『Mew Mew! Crazy Cat's Night』[成田良悟/電撃文庫] →【bk1

九龍城さながらの無法都市と化した人工島。その島に捨てられた子供たちは「鼠」だった。地下に棲み、暗い路地を走り、あらゆる物を喰い荒らし、そしてこの島から逃げたがっている。その島で育った少女は「猫」だった。可愛らしく、しなやかで、全てを切り裂く爪を持ち、そしてこの島を護り続けている。彼らはいずれ巡り会う。何しろ「猫と鼠」なのだから……。

 昨年末に発売された『バウワウ!』の続編、「越佐大橋」シリーズ(by.作者サイト)第2巻。今回はあらすじにもあるとおり猫と鼠の話。話が転がり始めるまで少し時間がかかった前作に比べ、今回は割と最初からテンポ良く話が進みます。
 『バウワウ!』を読んだときにも思ったことですが、某笑顔中毒者ほどではないにしろMr.ハッピーエンドという印象がある成田氏の諸作品の中で、このシリーズはちょっとばかり雰囲気が違ってますね。ダークというほどでもないけれど、ちょっと突き放すような感じがあるというか。それでも、この作品はこれで、やっぱり面白い話でした。

 前回は戌とケリーぐらいしかぶっ飛んだキャラはいませんでしたが、今回はさすがに某葡萄酒には敵わないだろうけれどそれでも規格外な連中がぞろぞろと登場します。中でも目を引くのは、やはり猫こと砂原潤でしょうか。1巻メインの一人葛原とはまた違ったタイプの「島」の守護者で、ちょっとばかり物騒な得物を携えた(←あれはちょっとですむ範囲か?)、女の子。いろんな意味でなかなか良いキャラしてました。
 一方、鼠ことネジロ君。「島」に捨てられた子供たちを<ラッツ>という名の集団にまとめて支配し、己の望みのために利用できるものは利用する。ある意味悪人の鑑、と言えなくもない彼ですが、不気味さは彼が作り育て上げた<ラッツ>のほうが数段上という感じかな。ネジロ君はまた人間性が感じられたのだけれど、<ラッツ>のあの性質はこの奇妙な「島」の物語においても異質だと思う。

 次巻は葛と金の因縁話になりそうな感じですが、一体どんな展開になるのでしょうか。狗のほうは微妙だけど戌はあの調子だと確実に島に舞い戻ってきそうだし。それに加えて猫やら今回名前だけ出てきた連中やらが話に絡んできたりしたら……うわ、収拾つきそうにないし(笑) まぁとにかく、俄然3巻が楽しみになってきました。

 7/10 『タクティカル・ジャッジメントSS 紅の超新星、降臨!』[師走トオル/富士見ミステリー文庫] →【bk1

 性悪弁護士の事件簿、今回は初の短編集。時間軸的には本編よりも過去の話で構成されています。

 感想。えーと、長編とは違って訴訟に訴えるまでもない程度の小ネタが扱われていますね。これはこれで面白かったけれど、山鹿流ペテンすれすれ戦法を用いたトンデモ裁判が行なわれなかったため、多少物足りなくもあり。それでも山鹿はあいかわらずの性悪弁護士だったわけですが。つーか、こんなのに弁護士やらせていいのでしょうか……。

 次巻は長編で、4巻ラストで匂わせたとおり旅行編になるとのこと。さて、どんな話になることやら。

 7/11 『マルタ・サギーは探偵ですか? a collection of s.』[野梨原花南/富士見ミステリー文庫] →【bk1

 謎のゲーム「カード戦争」の参加者にして、異世界オルタスにおいては「推理をしない名探偵」であるマルタ・サギーの物語、第2作目は短編集。1巻のキャラに加え、助手のリッツやジョゼフ犬などの新キャラも登場。

 マルタの持つカードの能力が「事件を強制的に解決させる」というものなので、前巻と同じく今巻も推理劇としては御世辞にも見られたものとはいえません。なので、この際それは横に置いといて(酷)
 マルタとその周囲の人々のドタバタやら交流はなかなか面白かったです。基本姿勢がやる気なしのマルタに「全くコイツは仕方がないなぁ」と口やかましく言う一方でつい世話を焼いてしまう助手のリッツやトーリアス警部などの関係が微笑ましく。マルタもマルタなりに年下のリッツの世話を焼こうとしたりと、1巻の駄目駄目人間振りをいくらか挽回していたり。マルタのライバルであるドクトル・バーチは、なんだかキャラが壊れてる……いつの間にこんなにマルタらぶになってますかこのお方は(笑)

 そんなこんなで、この話は探偵モノじゃないと割り切って軽く読むぶんにはそれなりに楽しめました。次巻もそれなりに楽しみ……かも。

 7/12 『クレギオン5 タリファの子守歌』[野尻抱介/ハヤカワ文庫JA] →【bk1

 「クレギオン」シリーズ5冊目。今回はミリガン運送のパイロット、マージがメインの話。

 砂嵐が荒れ狂う惑星タリファで、尊敬するかつての教官・ホセと再会したマージ。しかし、すっかり変わってしまったホセの姿にマージは衝撃を受ける……と、導入はだいたいこんな感じ。マージとホセの、パイロットとしての微妙な感情のやりとりやひょんなことから始まったシャトルと飛行機のチェイスなど、これまでの話とはまた少し違った魅力がある話に仕上がっています(ちょっとばかり御都合主義っぽいところもありますが) あと、マージの「ある積荷」への対応にやや笑い。いくら管轄外&思考停止状態でもピーナッツは駄目だと気がついてーっ!(笑)

 さて、次巻『アフナスの貴石』は社長のロイド……いや、正確にはロイドに振り回される面々の話ですね。確か。

 7/17 『カオス レギオン04 -天路哀憧篇-』[冲方丁/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 かつての友を追う騎士とその従者の道程を描く「カオス レギオン」シリーズ、6冊目(過去篇では通算5冊目) 雑誌掲載分(全6回)に加筆修正しての発売らしいですが……一体どれだけの量を加筆されたのでしょうかこれ。シリーズ最厚だった前巻を上回る分厚さとなっています(汗)
 で、今回の話の内容はと言うと。叛逆者ドラクロワを追い大河を下ることになったジーク達とひょんなことから一緒に行動することになった少女キリの旅路と別れが中心。その他、ジークに対する第二の刺客アキレスの襲撃や聖地シャイオンの領主レオニスと彼の周りにいる人々の心の変化、さらに本格的に動き出したドラクロワの狙いなどもしっかりたっぷり描かれています。

 ノヴィアにとって初めての、同い年の仲間になるキリ。彼女との交流の中で、ノヴィアはこれまでにないほど歳相応な反応を見せてくれました。些細なことで喧嘩をしたり、互いに嫉妬や反発から無理な行動に出て失敗してしまったり……アリスハートとはこういう交流の仕方がなかったものですから、なんだかとても新鮮。そして、喧嘩をしながらも心を通じ合わせた二人の海までの旅路と否応なく訪れた別離の時。切なくてやりきれなくて、思わず涙が……。「故郷」へと還ったキリが安らかであることを、祈らずにはいられません。あと、03ほどではないにしろその心の内を垣間見せてくれたジークも良かったです。灯台のシーンとか。
 レオニス一派は、「03」の終わり方が終わり方だったので、どうなることかと思っていましたが。実際、途中までは、レオニスがとにかく痛々しくて。諫言すらできず見守るしかないトールの心境も分からなくはないものの、それでもレオニスを引き戻せるのはトールしかいないのだから、何でもいいから行動してくれないかとやきもきしていたら……期待を裏切りませんでしたよ彼は。レティーシャとレオニスと対峙したときの彼は、本当に格好良かった。さらに、敵わぬことを承知でドラクロワに挑んだ時はもう、彼がレオニスに宛てた手紙や交錯する人々の描写も手伝って感動するしかなかったですよ。やはりウブカタ氏、こういう演出が上手いです。また、新たな意志を持ったレオニスに接したことが影響したのか、レティーシャにも微妙な変化が。……あの行動・反応はちょっとかわいいと思ってしまったのですが……おかしくないですよね、別に(汗)

 次巻、「聖魔飛翔篇」で「カオス レギオン」シリーズは完結するとのこと。ジークやノヴィア、アリスハートは何を見、感じるのか。レオニスたちはどうなるのか。また、最終的な目的に向けて邁進するドラクロワの動きや、思いがけず「聖戦魔軍篇」以来の登場となったあの女性が聖地でどのような変化を遂げるのか。そして何より、分厚さはどれぐらいになるのか(笑) とにかくいろいろと期待です。

 7/18 『BLACK BLOOD BROTHERS 1 -ブラック・ブラッド・ブラザーズ 兄弟上陸-』[あざの耕平/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

横浜沖に浮かぶ人工島、特区。吸血鬼が人間と共存できる、世界で唯一の場所であるこの都市に、遠くロシアの地から二人の吸血鬼――望月ジローとコタロウの兄弟が移住目的でやってきた。彼らと人間・葛城ミミコが出会った時、運命は孵化へと進み始める。

 好評のうちに完結した「Dクラッカーズ」に続く、あざの耕平氏の新シリーズ。今回は吸血鬼ネタということで、ドラッグよりは健康的です。うん。

 今回の話はメイン(と思われる)登場人物の紹介編といった感じで、望月兄弟が「特区」に入る時に巻き込まれた騒動が世界情勢や吸血鬼の性質などの背景設定の説明を交えつつ展開されていきます。
 総合的な感想としては、普通に面白かったというぐらいですね。でもまぁ、シリーズとしてはまだまだ導入部だし、「Dクラ」もある程度登場人物のキャラクターが固まってからだんだんと盛り上がっていったことだし。次巻以降の展開に期待してます。

 ……それにしても、最後に明らかになった兄弟の秘密からすると、巻を追うごとに重い展開になっていきそうな気がひしひしと。実際、この巻の冒頭の一言も、最初に目にした時と再読時ではまったく印象が変わるし。あれはおそらく「BBB」の全エピソードが終わったあとのコタロウの呟きなのでしょうけど……どんな心境であの一言を洩らしたにしろ、なんとも痛く(あるいは切なく)感じてしまうなぁ……。

 7/21 『エンジェル・ハウリング9 握る小指――from the aspect of MIZU』[秋田禎信/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 二人のヒロインそれぞれの視線で描かれる「エンジェル・ハウリング」シリーズ9巻目。書き下ろしのミズー編、最終話です。

 うーん、ミズー個人の物語としては割りときれいに完結してるとは思うのですが、アマワが絡んでいる部分、「エンジェル・ハウリング」というシリーズ全体でみるとやっぱりなんだか分かったような分からないような……私の理解力の問題かもしれませんが(凹) まぁ、持ち越されたあれやこれやの謎はフリウ編の最終巻で明らかになると信じておくとして。
 とりあえず、ミズーの精神的な変化がとても印象的でした。1巻当初に比べると心に余裕があるというか、なんとも良い感じになりましたよね、彼女。「人を好きになる距離だ」の一文を見たとき、自分で驚くぐらい感銘を受けてしまったり。あと、ある意味でミズーと対極に居たウルペンとアイネストもそれぞれ印象深く、またそれぞれの哀切を感じさせてくれました。

 次巻はフリウ編の最終話。一体どんな風にこのシリーズの幕が下ろされるのか、楽しみです。……アマワ関連の謎、明かされるよねさすがに……。

 7/23 『クロスカディア5 月眠ル地ノ反逆者タチ』[神坂一/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 なんか印象は地味な話なのだけれどそれなりに続きが気になる「クロスカディア」シリーズ5巻。

 前巻同様、背景事情などあれやこれやの設定が明らかになり、ラストに向かってまとめに入ってるという感じでした。あと、単なるラスボスっぽい存在かと思ってた「神(?)」もなにやらいろいろありそうで。多分次巻あたりで完結すると思いますが、この辺の事情説明も忘れずお願いしたいところ。……しかし、決して面白くないってわけじゃないとは思うのだけれど、なんとなく読んでて物足りなさがつきまとうなー。スケール大きそうに見せかけて、実はこじんまりとした話だからかなぁ。

 そういえば、結局この世界は四対の魔王と竜神たちのどれか(実質残り二つか)に関わりがある世界なんでしょうかね?

 7/24 『デス・タイガー・ライジング4 宿命の回帰』[荻野目悠樹/ハヤカワ文庫JA] →【bk1

 千年に一度到来する<夏>を前に、生き残りを賭けた星間戦争を繰り広げる二つの星系の物語、通算では10冊目。戦争に翻弄されたある恋人たちの物語は、この巻で完結。

 主人公たちがどうなるのかということよりも、久しぶりに登場したケイン・ラインバック氏に目を奪われた私って一体……。まぁそれはさておき、ラインバック氏は今回はまた何もしてないけれど、でも登場しただけでなんとなく嬉しい。つーか、気分が和みます。お父さん、頑張れー。あと、ランディスヴァーゲンも久々に登場していたり。彼も今回は特別何もしてないけど……って、いい加減旧作がらみの話は横に置いといて。
 えーと、ミレとキバは、なんか微妙に展開に納得できない部分もあったりしますがとりあえず良かったね、と。正直、キバは結局戦場に向かいそうな気がしますが。アーサは……私の読解力の問題かもしれませんが、なんか行動などにいまいち一貫性が感じられず、結局最後までよく理解できない人で終わってしまったのが残念です。あと、脇役ではアンデション夫妻も何気に良かったと思います。

 とりあえず、〈虎〉を巡る物語は完結したものの、星間戦争は未だ終結を見ないまま。……つーか、今回も結局ベルゼイオンのクーデター以後の話にはほとんど踏みこまれなかったのが残念でした。この世界を舞台にしたシリーズ、次回もあるのならいい加減に作中時間を進めてほしいなーと思ったりする。でも、作者サイトのコメントを見る限りそれは無理っぽいのかな……いくら主役や舞台が違うとはいえ、さすがに飽きてきたのだけれど。

 7/25 『銃姫2 ~The lead in my heart~』[高殿円/MF文庫J] →【bk1

 神によって封じられた魔法を銃を介することで行使する術を編み出した世界で、強大な力を持つ魔法銃「銃姫」を追う3人の少年少女たちの物語、第2巻。

 今回はセドリックの成長話。それに加えて前巻で名前だけ出ていた他国も絡んできたりと、大風呂敷もしっかり広げられています。とりあえず、魔法が原因不明で使えなくなって焦りつつ頑張るセドリックの姿が好印象でした。こうしてみると、彼って割と正統派主人公なのですねー。少し成長した彼の変化に伴い、エルウィングやアンブローシアとの関係も変化を見せます。個人的には、アンとの微妙な距離がツボ。一方、エルはちょっと怖かったかも……。セドリックとエルの関係は、今後どうなるんでしょうか。いや、それよりも彼女の持つ秘密がどう話に作用するのか……気になるところですね。あと、新キャラのバロットは今後も話に絡んできそうかなぁ、などと思ったり。ギースは……微妙、つーか無理っぽい? 個人的には結構好きなんだけど。

 そして、ラストはちょっと思いがけない展開に。アンはメインヒロインだからそう無体なことにはならないと思うけれど……遠征王のオリエはかなり酷い目に合わされたからなぁ。ちょっと心配しつつ、次巻に期待。

 7/26 『流血女神伝 暗き神の鎖(中編)』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫] →【bk1

 架空歴史ファンタジー「流血女神伝」、ザカール編第2幕。この巻では、体が満ちた「女神の娘」カリエを狙うザカールの長老(クナム)リウジールと、それぞれの想いからカリエを守ろうとする人々。そして、愛する子供のためある選択をするカリエの姿……と、展開自体は奇をてらったものではないにも関わらず、しっかり読ませる骨太の物語が描かれています。

 感想ですが、まずは一言。リウジールのヤツにかなり本気で殺意を抱いてしまった私は心が狭いでしょうか。あぁ、いけない冷静に、冷静に喋らなくては。えーと、カリエは言うに及ばずバルアンやラクリゼにまで何をしやがるんでしょうかあの外道クナムは(←ちっとも冷静になってません) まぁ、最後の描写からかなり不遇な少年時代を過ごしたと推測はできますがね。「あのラクリゼ」と常に比べられて、劣等感を感じないわけはないし。でもね、だからといって物事には限度というものがあるだろうという話なわけですよ。だいたいね(以下、延々と聞くに堪えない文句が続くため割愛)

 腹の立つ話ばかりしても仕方がないので、気分を入れ替えて別の感想にいきましょう。どっかの馬鹿のおかげで今回は始終どことなく重苦しい雰囲気だったわけですが(←ちっとも切り替えてないし…)、それとは別に「マヤラータ」という称号につきまとう責任もカリエの苦悩を深めることになってしまっているのが辛いところ。バルアンもカリエの気持ちはわかってるんだろうけれど、でも彼は最終的には「公」の立場を優先させてしまう人だからなぁ。それでも、一緒にいればその齟齬も何とか埋めていけたりしたんだろうけれど……うがー、リウジールめーっ! こうなったからには、バルアンがカリエの真情をほんの少しでも察してくれれば救いはある……と思いたいですよ。バルアンがカリエの最終的な伴侶だとは思っていなかったけれど、それでもこういうのは彼のファンとしていくらなんでも辛すぎます(T_T)
 ルトヴィア側は、すっかり親馬鹿になったドーンに一喝を入れてくれる人が登場。ああでも、絶対ドーン分かってないよこれ。自分がグラーシカに取ってる態度がおかしいとも思ってないし。……でもまぁ、これで多少は客観的になってくれればいいんですけど……。
 あと、ラクリゼやエドをはじめとする、カリエと縁が深い人々。エドが自分からカリエを守ると決めたことが驚きでもあり嬉しくもあり。「砂の覇王」での不遇をこの1冊で挽回するぐらいの勢いで格好良かったですよ。ラクリゼはいつもどおりだったわけですが、サルベーンとの会話は喧嘩するほど仲がいいというかむしろじゃれあってるように見えてしまったりして。そういえば、サルベーンはやっぱり何か企んでるのかもしれないけれど、「女神の花嫁」でちょっぴりフォローされてることもあって多少は優しい目で見られるようになってるかも。単にぶっちぎりで印象最悪なヤツが出てきたから、かもしれませんが(微笑) あ、肝心要のカリエについて書くのを忘れてた(汗) えぇと、前巻でも思ったことですが、やはり母は強いですね。ラクリゼに己の意志を語る場面では、あの猪娘がいつの間にか自然とこういう考えができるようになったんだなぁ、と妙に感慨深く思いました。今回の彼女の決断はどこまでも辛くやりきれないものでしたが……とにかく頑張れ、カリエ。

 まぁ、そんなこんなで厳しい物語が展開されている中、ほっと一息、にやりと笑える場面は素直に面白かったです。特に久々登場たらしなイーダルと純情生真面目なミュカの会話や、エドとサルベーンの意外な迷コンビ、それからトルハーンとの交渉(?)とか。特にトルハーンとの交渉は……あんたら、なんでそんな普通に漫才やってるんですかという感じで(笑) ここにもう一人の海アホがいたら、また面白い会話してくれたかもなぁ……などと思ったり。

 ともあれ、ここにきて全く読めなくなってしまった展開や、カリエの運命などなど、11月予定の下巻が非常に待ち遠しいです。一体、どこからどこまでが神の介入なのか。そもそも女神の意思がザカールのそれとイコールで結ばれると決まったわけではないですし、ねぇ……。

 7/28 『癒しの手のアルス -月の光に凍れよ涙-』[渡瀬桂子/コバルト文庫] →【bk1

 嘘つきコンビと彼らと関わった人々のドタバタ(ところにより涙ありの)物語、「癒しの手のアルス」の第3巻。

 今回は、アルスと過去に恋仲だった女性との再会話が。アルスの抱える事情から別れざるをえなかった二人が、それでも過去の日々を愛おしい想い出として抱え、今でも互いを大切に思ってる様が切なくてなかなか良い感じでした。そして、再びの別れの場面でちょっと涙……。また、長年対立していた父子の話も同時進行で扱われているのですが、こちらもなかなか良かったです。

 一方、前巻で仄めかされた妖精族の謎。こちらも小出しであれこれと。妖精族と人間が対立したといわれる伝説の真相、「盟約の子」は一体どういう存在なのか等、おそらく次巻以降の展開で明らかにされることでしょうけれど、こちらも楽しみですね。

 比較的話の本筋に関係ない独り言。今回もやっぱりアルスの外見に騙される人登場。思わず気持ちは分かるよ、と肩を叩いてあげたくなりました。ついでに、彼の趣味を作った原因も判明。ああ、原因はシリアスだったのか……今では単なる趣味と化してるけど。

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