■ 2004.6月読書記録

 6/1 『スカーレット・クロス 新月の前夜祭』[瑞山いつき/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 不良神父とその『聖なる下僕』となった吸血鬼の少女の物語、スカーレット・クロス3巻目。

 感想は、結構面白くなってきたかも、という感じ。これまであんまり役に立ってなかったヒロインのツキシロが、彼女なりに頑張っていたのが好印象。……やっぱり足も引っ張ってますけどねー。なんか、彼女はこれでいいか、と思えるようになってきました。
 一方、これまで不良神父ことギブと敵対してきたヨセフ神父。後ろ盾に切り捨てられた彼は、最後の攻勢に。今回は、彼と彼の『聖なる下僕』エヴァの過去が明らかにされていたりするんですが。哀しい過去があっても、悪事を働いていいって理屈はないだろうとツッコミつつ、思いっきり涙ぐんでいたりするのは結構毎度のことですが、今回も例によって例の如く。……だって、哀しいものは哀しいじゃないですか(何故か言い訳口調)

 さて。次巻あたりで完結しそうなノリですが、どうなりますか。わりと楽しみです。

 6/3 『流血女神伝 暗き神の鎖(前編)』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫] →【bk1

カリエがエティカヤ王(マヤライ・ヤガ)バルアンの正妃(マヤラータ)となって1年。自分より先に、親友でありバルアンの妾妃(シャーミア)でもあるナイヤが身ごもったことに、カリエは祝福しながらも複雑な想いに囚われていた。一方、バルアンはカリエにある役目を与えることを決め、それを実行するための布石として彼女とともに聖山オラエン・ヤム巡礼へと向かう。やがて、明らかになるカリエの懐妊。「女神の娘」としての過酷な宿命が、再び彼女を呑みこもうとしていた――。

 架空歴史ファンタジー「流血女神伝」、約1年半ぶりに本編再開。今回のザカール編は、全三部構成とのこと。
 ザカール編と言うことで、てっきりカリエが出産を終えた辺りから話が始まるのかと思いきや、意外な時点&場所から話が出発。しかし、「砂の覇王」での経緯が完全に過去のものとなってしまうほどでもなく、冷静に振り返れるだけの時間は過ぎた、というこの時点から話が始まったおかげか、カリエやその周囲の心境の移り変わりやらなにやらがすっと理解できて良かったと思います。

 エティカヤの話は、なによりもカリエとバルアンの関係に思わず微笑んでしまいました。単純な愛情で結ばれたわけではないけれど、それでもやっぱり夫婦なんだよなぁ、と。エドに語ったカリエの言葉に、彼女の成長が感じられたのも良かったですね。母は強し。それから、表紙でもらぶらぶ新婚さんな二人に影響されたか、今回エティカヤ側の話は明るく笑えるような場面が多かったように思えます。カリエの侍女たちの会話なんか、ノリがほとんど女子高だし。そうそう、『わたしとマヤルの愛の軌跡、その全てを徹夜で語る会』には私も是非潜りこみたいと思いました(笑)
 一方、ルトヴィア。こちらは対照的に息苦しく感じるほど苦しい雰囲気で。下層階級の不満やら支配階級の抱える多くの問題やら、動乱の火種が本格的に燻ってきた感じですねぇ……。今後ルトヴィアはどうなってしまうのかと、嫌でも不安を覚えます。サラさんについては、そんな予想通りな行動をとってくれなくてもーと言いたくなってしまいました。あとは、グラーシカ頑張って欲しいけど無理はしないでーとか。ついでにもう一言言うなら、ドーンの大馬鹿者、かな……。そういえば、ミュカは次巻でカリエと再会するのでしょうか。ミュカにとってはものすごく複雑な心境でしょうが、一体どんな対面になるのか興味がありますね。

 そして。無事に男児を出産したカリエの耳に飛び込んできた言葉。目にした瞬間、それまでの幸せで暖かな空気が一瞬で凍りついたような錯覚を覚えてしまいました。黄金寺院の地下で、ラクリゼと対峙するザカールの長老(クナム)――ラクリゼの弟、リウジール。ほとんど台詞なかったけれど、相当に性格が歪んでそう、とか思ったり。偏見でしょうか……。ともあれ、最強と信じていたラクリゼでさえも及ばぬ彼。今後の行動(いや、当面の目的は分かってるわけですが)が気になるところ。……そういえば、サルベーンは今回姿が見えませんでしたな。彼のことだから、水面下で色々画策しているのでしょうけれど。次巻以降、話に絡んでくるのかどうか。こちらも気になりますね。

 以下、一応反転させて独り言。[「砂の覇王」最後の記述から、カリエは間違いなく「世界を統べる王の母」となったと言えるのでしょうけれど。でも、アフレイムはクナムとの間に生まれた子供ではなく、バルアンの子供なわけだし……この辺り、ザカールの伝承との齟齬はどうなるんでしょうか。あと、ムイクルの幻がカリエに告げた言葉も気になるところ。カリエがバルアンと別れるにしても、それが彼女自身の意志なら残念だけど納得できるんですけどねー。ザカールに誘拐されて、そのまま死んだものとして扱われるとか戻ってきても例えば姦通罪に問われて追放されるとか、そんなことにはなりませんように(祈)]

 6/4 『風の王国』[毛利志生子/集英社コバルト文庫] →【bk1

時は7世紀。唐の皇帝・李世民の姪という身分でありながら、商家で育てられた男勝りな少女・翠蘭。彼女はある日突然皇帝に呼び出され、「皇帝の娘」として吐蕃王に嫁ぐことを命じられる。背くわけにもいかず吐蕃の地に旅立つ彼女だが、道中で刺客に襲われ川に転落してしまう。危ういところで翠蘭を救ったのは、吐蕃の武人・リジム。二人は目的地まで、行動を共にすることになる。

 あらすじ読んで、面白そうだったので購入してみた一冊。
 中国史に詳しい方ならあらすじ読んだ時点で想像がつくと思いますが、文成公主降嫁のエピソード。周辺異民族に嫁いだ女性といえばやっぱり王昭君が一番有名でしょうけれど、文成公主もかなり波乱万丈苦労人な人生を歩んだ人なんですよね……って、話がずれた。

 えーと。お話自体は少女小説の王道!という感じでしたね。描写も丁寧で読みやすく、好感。リジムと翠蘭の微妙な距離を楽しませていただきました。ただ、悪役側のネタばらしはもうちょっと別の演出が良かったなぁ。いくらそこがメインじゃなくても、敵役があんまりぺらぺら喋っちゃ駄目だろう……まぁいいけど。

 続編があるなら読みたいですね。できれば翠蘭が幸せ新婚さんな時期の話を……と思う一方、その後の話も興味あるかも、と思う私は性格悪いですな……。

 6/5 『クレギオン4 サリバン家のお引越し』[野尻抱介/ハヤカワ文庫JA] →【bk1

 クレギオンシリーズ4冊目。今回は、ひょんなことからミリガン運送が請け負った地表から宇宙コロニーへのお引越しの話。もしくは、「MDに任命されたメイ、頑張る」の巻。

 依頼主の奥様から無理難題を言われ、マージはキレてしまったりしてますが、仕事の責任者となったメイは頭を抱えながら奮闘します。さらに、あれよあれよと予想外のことが重なり、気がついたら宇宙軍との立ち回りを演じるハメに。正直、今回の展開は少なからず強引だったように思わなくもないんですが、空間の性質をしっかり生かしたアクションやらは面白かったです。……それにしても、類は友を呼ぶのというのでしょうか。つくづくトラブルに困らない会社ですよねぇ(しみじみ)
 そして、最後はやはりちょっと「うーん……?」となってしまった。いや、悪いってわけではないんですけどね。でもなんだかねぇ……。

 さて。次の「タリファの子守歌」は、マージの話でしたね。

 6/10 『Hyper hybrid organization 00-01 訪問者』[高畑京一郎/電撃文庫] →【bk1

 特撮ヒーローモノをベースに展開しているH2Oシリーズの外伝。
 本編「01-**」より数年前の話で、悪の組織「ユニコーン」の結成秘話、というところでしょうか。独立しているので「本編読んでないと分からない」ということはないと思います。ですが、言うまでもなく本編読んでるほうが楽しめます。あー、あの人こういう人だったのか!とか。

 で、感想は一言でいえば、爽やか任侠モノ(……自分で言ってて何か言葉が間違ってる気がしなくもないんですが、事実だから仕方がない)
 今回は、のちのユニコーン幹部7人&ガーディアンの出会い編とも言えます。まだ誰も「ユニコーン」の「ユ」の字も考えてなさそうな状態ですが(……いや、宮内は漠然とでも考えてそうか)、ここからどうやって「悪の組織」が結成されるに至るのか、そしてハイブリッドの技術が確立されていくのか、今後の展開に期待。

 ともあれ、次巻の発売が楽しみなところ、なのですが……来年ぐらいに読めれば上出来でしょうねぇ。ついでに、本編は今年中に続刊が出るのでしょうか(遠い目)

 6/11 『復活の地 I』[小川一水/ハヤカワ文庫JA] →【bk1

王紀440年。惑星統一を果たし、星間列強諸国に対峙しようとしていたレンカ帝国は、未曾有の大地震に襲われる。国家中枢機能の破壊、市民数十万が死亡――帝都トレンカは、一瞬で壊滅した。植民地総督府の一官僚であったセイオは亡き上司の遺志に従って緊急対策に奔走するが、帝都庁との軋轢や陸軍の不穏な動向に苦しめられる。

 プロジェ○トX作家、小川一水氏の新作は、大震災からの復興モノ。全3巻構成とのことです。

 ベースになっているのは、時代背景的にも関東大震災ですね。今巻では被害状況と地震直後の救助活動その他諸々の話が中心。淡々とした筆致にも関わらず、混乱した状況や被害の甚大さが嫌になるほど伝わってきます。
 今巻の終盤でなんとか組閣にまでこぎつけたものの、そのメンバーはそれぞれに思惑&一癖ありの連中。さらに、帯の予告を見ると次巻でまた波乱がありそうで。セイオやスミル、その他臨時政府の面々が難局にどう立ち向かうのか。また、どのような未来を選択するのか。8月予定の2巻に期待です。

 独り言。……震災ネタは、苦手というか、読んでてしんどいです。散々映像を刷り込まれたものだから、必要以上に光景がリアルに思い浮かんでしまうんですよね……。

 6/20 『王国神話 第二夜 約束は夢にとけて』[明日香々一/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 王子様とその幼馴染の少女の恋の行方と、ある世界が新たな神を得て再生するまでの物語を紡いだ「王国神話」、2巻目。
 今回の物語は、王子様とその妃となった少女の子供たちに主軸が移っています。……正直なところ、1巻でしっかり綺麗に完結していたため、下手に続編を出したらぐだぐだになっちゃうのでは……と勝手に心配していたのですが。杞憂に終わってなによりでした。

 感想。ほんわか甘く優しく、けれどもしっかりシリアスな面もありと、1巻に引き続きやや地味ながら良い感じなファンタジー作品で、しっかり楽しませていただきました。物語前半で幸せほのぼのな日常がしっかり描写されていたおかげで、後半に皆がそれぞれの「優しい夢」を守るために必死になる姿にも納得できたのが良かったです。

 キャラクターの話。最初、子供たち6人(正確には3柱と3人か?)が一気に登場した時には誰が誰だか混乱。まぁそれはさておき、仲良く交流している子供たちの姿に、なんとなく救われたような気分になりました。1巻ラストで、三つ子がシスルーンにあれ以上関われなかったら哀しいよなぁ、と思っていたもので。
 で、子供たちの両親ディオンとオルフィナは、相変わらず。全てを話せないオルフィナと、そんな彼女を受け入れて支えているディオンの強い信頼関係や馬鹿ップルぶりに思わず微笑してしまったり。また、今回の話のメインでもあったリディスとケットの関係も、最後こそ切ない終わり方になってしまったけれど、子供だからこその純粋な想いが良かった。……が、その二組を遥かにしのぐ勢いでツボにはまったのは、3柱のお目付け役クロノスと現・空神シャルだったりする私。シャルの片想いは報われて欲しいなぁ、と思いますね。

 あとがきを素直に受け取ると、まだ続きがありそう。次は、エリス・ウィレスの話になるのでしょうか。それとも、今回出番が無かったディオンの妹夫妻の話とか? ともあれ、素直に楽しみです。……あ、クロノスとシャルのフォローがあればなお良し。

 独り言。一方は神様なんだから、近親婚でもOKなんじゃないの?とか思った私の感性は、何か間違っているでしょうか。……いやだって、普通の神話でも近親婚多いじゃないですか。結局は本人たちの意識というか倫理観(?)の問題だろうし、それでも互いに心を残しているからこそ、あのちょっと切ないラストになると分かってるし、さらに素直にくっついてたらそれはそれで引っかかっただろうと思うのだけど、なんとなく、ねぇ。

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