■ 2003.8月読書記録

 8/1 『流血女神伝 女神の花嫁(中編)』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]

 架空歴史ファンタジー「流血女神伝」。本編主人公カリエと対を成す、ザカール人女性・ラクリゼの若かりし頃を描いた外伝の中編。やはりこの外伝、本編よりも人間のエゴとか嫌な部分が滲み出ている気がします。

 展開的には、それほど意外なものではなかったですかね。さすがに、ラクリゼ乙女化やラクリゼとサルベーンの初々しく熱烈ならぶらぶっぷりには目が点になりましたが。二人とも若かったと言えばそれまでの話なのでしょうが、どうしても本編でのイメージと結びついてくれない(笑) しかし、いくら外伝でそういう関係でも、本編での二人は進む道を異にし対立しているわけで……そう思うと、なんだか哀しい。
 そういえば今回は、我ながら意外なことにサルベーンがそんなに嫌な感じではなかった。ラクリゼ視点で話が進んでいるからでしょうか。それとも、まだ彼が自身の抱える闇を打破しようと足掻いているからか。とにかく、今までカリエを「利用できる物」としか見ていない感じでかなり嫌いだったサルベーンに対して、今回の話で初めて感情移入できて。最終的にはかなり同情する部分が……でも、多分本編ではまたむかつくのでしょうねぇ(複雑)

 その他の登場人物の話。「傭兵王」ホルセーゼはなんというか、見るところは見ているけどお茶目な小父さんですな。アリシアは、素直に考えてやはりエドの母親(あるいは養母)ですよね……え、でもちょっと待って。この時点でまだエドが生まれてないなら、本編でのラクリゼ&サルベーンの年齢って……考えたら怖いことになりそうだから、止めておこう。で、もう一人の重要人物アデルカは……これまたあまり楽しくない想像をしてしまったのですが(汗) 住まいの描写、微妙に似通ってる気がするし。でも、もし彼がそうなのだとしたら、ラクリゼが生命を賭けて使命を果たす時が本契約になるのだから、『砂の覇王』の時点でもまだ生きてる可能性があるのかな……

 そして、中編の最後に訪れた、女神とラクリゼの契約。……あの状況であの選択は残酷だとしか。トルハーンやミュカとは違い、今契約しないと死ぬという極限状態ではないけれど。契約しなくても自分は助かると言われても。それでも彼女は契約を選び、結果、「命の次に大事な存在」を永遠に失ってしまった――。こういう背景を踏まえると、『砂の覇王』でサジェを迎えにきたときや、自らの払った「代償」をトルハーンにあっさり告げたようにも思える彼女の台詞が、痛い。もしかしたら、本編でラクリゼが身を賭してカリエを守っているのには、カリエが「女神の娘」であるとかカリエ母と約束を交わしたとかいう以上に、カリエを自分の子のように思っている部分があるのかも、などとふと思いました。だとしたら、切ない……。

 さて、残すところは後編。ラクリゼとサルベーンの決定的な破局やギウタ滅亡など重いエピソード満載になりそうですな……。でも、今度こそ登場するだろうちびカリエは素直に楽しみ。そういえば、ヨギナ攻防戦が描かれるならバルアンの登場も可能性があるのか。ちょっと期待。

 8/4 『消閑の挑戦者2 永遠と変化の小箱』[岩井恭平/角川スニーカー文庫]

 天然混じりの天才な大阪……じゃなくて鈴藤小槙があくまでマイペースに活躍する「消閑の挑戦者」、2冊目。

 一作目の『パーフェクト・キング』で話としては完結してるのに、まだ続けられるのか?と疑問に思いながら読みはじめましたが、今回もなかなか面白かったです。ただ、前回とは違って突発的な事件(?)に巻き込まれた結果、小槙やパートナーの春野祥が行動することになるので、それが生かしきれていたかどうかはともかく、色々と凝っていたゲームのルールが無くなっていたのが少し残念。

 キャラクターの話としては、小槙の思考が1巻の同じところをぐるぐる回っているようで、少しだけ変化しているというのが良かったなぁと。ゲストキャラは結構熱血系なキリン君をはじめ、まぁそれなりに見所有りでした。

 あとは、今回も格闘戦の比重が大きかったのが残念だなぁと。チェスとかの頭脳戦も展開を省略したり、あるいは「超飛躍」の一言で説明を済ませないでもっと書き込めば面白いだろうに……と思ってしまうのは、某三部作を読了した余韻ですね。きっと。

 8/6 『人魚の黒珠 仙姫幻想』[桂木祥/講談社X文庫ホワイトハート]

悠久の時を生きることを強いられた少女、セイ。自らにかけられた呪いを解くための旅を続ける彼女は、ある時小さな山村に立ち寄る。セイと、その連れの障碍神・遊馬は、この地で思わぬ事態に巻き込まれる。

 昨年発売された『仙姫午睡』の続編。

 全体的には、可もなく不可もなくという感じ。読んでいて、面白かったことは面白かったけれど、どうも印象にはあまり残らないというか。普通の、よくあるタイプの作品になっちゃったなぁというか。前巻の、次第に壊れていく日常や、自分がけして得られないものへの憧憬や嫉妬など、作品全体の持つ微妙な雰囲気が気に入っていたので、それがほとんど無くなっていたのが残念。

 ともあれ、次巻で完結するそうなので、どういう風に物語の幕を下ろすのか、楽しみではあります。

 8/9 『タクティカル・ジャッジメント3 いやがらせのリベンジ!』[師走トオル/富士見ミステリー文庫]

ある日発生した殺人事件を、現場に居合わせた羽田刑事がスピード解決した。ニュースでそれを知った弁護士の善行は、数日前に嫌な思いをさせられた羽田刑事に対する仕返しを兼ねて、この容疑者の弁護を引き受けることにする。しかし、容疑者には動機も有り、既に犯行を認めてもいる。「負けるつもりは無い」という善行は、果たしてどのような弁護を展開するつもりなのか。

 司法改革で陪審制等の諸制度が導入された近未来の日本で、性悪弁護士が口八丁手八丁で様々な戦術を繰り広げる法廷劇、第3巻。

 感想。この作品には、まともな性格の法曹界及び警察関係者がいないのだろうかと、真剣に考えてしまったり。とりあえず、刑事があれだし。根拠は特に無かったけれど、この人もうちょっと違う性格だと思ってたのになぁ(溜息) まぁ、新登場の裁判長がまともだったのが救いです。

 やはりというかなんというか、トリックの類は古典的というか結構目星のつきやすいものでした。とはいえ、やはりこの作品の肝はどうやって無罪を勝ち取るか。特に今回は、被告は自分がやったと自供もしているという、圧倒的に不利な状況。しかし、ペテン師……もとい、辣腕弁護士の善行は諦めないでトンデモ戦術を展開していきます。いきますが……とりあえず「あれ」はいくらなんでもやりすぎじゃあ……と思ったのは、私だけではないはず。結果良ければ全て良しとはいえ、限度ってものが……ねぇ? つーか、前から思ってはいたけどあんた実は極悪人だろうと内心ツッコミ。

 まぁ、そんなこんなで気になる部分もあるとはいえ、作品全体としてはテンポよく読めるし、裁判があの手この手でひっくり返されるのも面白かったですし。少し先になるようですが、4巻の発売も決まっているらしいので、次はどんなトンデモ戦術が展開されるのか素直に楽しみとしておきます。ついでに次こそ、もっと有能な検事が登場するといいなぁ(遠い目)

 8/10 『バッカーノ! 1931 鈍行編 The Grand Punk Railroad』[成田良悟/電撃文庫]

1931年、アメリカ。大陸横断特急「フライング・プッシーフット」に、幾つかの集団が乗り合わせた。「不良集団」、「革命テロリスト軍団」、「殺人狂のギャング」と、およそ最悪といえる組合わせの集団が。一方、乗客にも一筋縄ではいかない連中がいた。作業服の女、魔術師のような男、そして一年前に世間を騒がせた泥棒カップル。クレイジーな乗客を乗せ、列車は静かに出発する。そして同時に、惨劇の夜が幕を開けた――。

 禁酒法時代のアメリカを舞台に繰り広げられる「馬鹿騒ぎ」を描いた物語、第2巻。

 前回ニヤリとさせられた構成の妙は、今回も健在でした。多くの人間と思惑が入り乱れる状況を、破綻させず収束させていく演出が見事。また、ほんの少しバランスを崩すだけでシリアスに流れそうな物語なのに、コメディっぽさが最後まで消えないのも良かったです。

 それから今回は、登場人物も前回の数割増で濃い。特に「殺人狂」ラッドは理不尽なまでに強烈なキャラクターでしたし、泣き虫なジャグジーも格好良かったし。その他の人々もそれぞれに味があったと思う。しかし、そんな連中に混じっても馬鹿ップルはやはり馬鹿ップル。負けていません。最高でした(笑) しかしアイザック、あの中途半端に間違いまくった東洋関係の知識は何処から仕入れたんだと、かなりどうでもいいことが気になったりした。

 一つだけ言うならば、列車の見取り図が欲しかったな、と。さすがに人数が多いものだから、途中で誰がどの辺りにいるのか混乱してしまって。『特急編』に簡単なものでもつけてくれれば、登場人物達の行動の整理がしやすくなるので助かるのですが。

 さて。上下巻ということで、てっきり今回は盛り上がったところでで終わっているんだろうと思っていたのですが……。なるほど、こういう形式できましたか。結局正体不明のままだった怪物・レイルトレーサーや、誰が『クレア』なのか、途中の行動が不明or姿が見えなくなった連中の行動など、残った謎の解明・伏線の回収がなされるだろう、来月発売の『特急編』が今から楽しみです。

 8/11 『ビートのディシプリン Side2[Fracture]』[上遠野浩平/電撃文庫]

 謎の存在カーメンを発端に、関係者の思惑が交錯する「ビートのディシプリン」第2巻(…何だか微妙に間違ってるような…)

 うーむ、読んでいるときはそれなりに面白かったのだけれど、読後にはなんだか微妙にもやもや感が残ってしまった。この作品にはブギー登場しないんじゃなかった?とか、つーか時系列狂いまくってるような……とか、細かいツッコミ&疑問が脳裏をよぎって。
 まぁ、それはさておいてもビートの過去話は結構良い感じな雰囲気でしたし、特殊能力バトルもいつもどおりに面白かったです。また、過去に「ブギーポップ」シリーズで登場した面々も顔を出していたりして、ちょっと懐かしかったりもした。

 とりあえず、次巻あたりでカーメンについてもう少し解明されることを祈ってます。色々情報は出ているけれど、いまいちよく分からないんですよ……

 8/30 『第六大陸 2』[小川一水/ハヤカワ文庫JA]

 近未来の日本で、民間企業が中心となって行なう月面開発を描いた物語、第2巻。

 中盤までは、正にプロジェクトXのような雰囲気でした。国際法を盾にした訴訟や想定外の事故、そして様々な圧力による資金計画の狂い。諸々の難題の解決に努力する登場人物達が、格好良かったし素敵でした。ついでに、メインヒロインの妙の成長にちょっと安心してみたり。
 しかし、多くの登場人物のなかで一番印象に残ったのは泰さん。あの場面は読んでいる最中に涙したのはもちろん、後から口絵のイラストを見てまた涙……。前巻の帯で何らかの出来事があると予告されていたけれど、こういう事態は何故かまったく予想してなかった(…したくなかったのかも…)ので、衝撃を受けてしまった。合掌。

 ただ、最後の方のエピソードのいくつかが、個人的にはちょっと。なんか、これまでの展開と微妙にテーマが違ってない?という印象を受けてしまって、気分的に少し醒めてしまった。

 まぁ、多少引っかかる部分はあったけれども、読みごたえは十分あって面白かったです。「第六大陸」建設を巡るエピソードは終了しましたが、その後の月面開発の展開や「施工者」達との接触など気になる部分も多々あり。続編の発売も期待したいところです。

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