■ 2003.9月読書記録

 9/1 『天空の剣<グラディウス>』[喜多みどり/角川ビーンズ文庫]

一年前、突如発生した酸の海によって滅びつつある世界で、傭兵として日々の生活を送る剣士ノクスと魔法使いダークロア。ある日彼らは、不思議な剣を持つ女剣闘士ウィルゴと出会う。彼女こそが、現世に酸の海を招いた人物だった――。

 第一回ビーンズ小説大賞にて奨励賞を受賞された、新人さんのデビュー作。とりあえず、投資の意味をこめて購入。

 感想。うーん、微妙。全体的に見ると無難にまとまっている感じだけれど、同時にインパクトが欠けているというか。登場人物達の行動も時折強引なところがあったりするし。描写が足りないと思う箇所も結構……。

 それでもまぁ、新人さんということを考えるとこんなものかなーと思ったり思わなかったり。ストーリーの筋自体は悪くなかったと思うので、もう数作は成長に期待して購入してみるつもりです。

 9/8 『バッカーノ! 1931 特急編 The Grand Punk Railroad』[成田良悟/電撃文庫]

「不良集団」、「革命テロリスト軍団」、「殺人狂のギャング」という、三つの集団が乗り合わせた大陸横断特急「フライング・プッシーフット」。彼らの奏でる不協和音は、泥棒カップルをはじめとする乗客達を巻き込んだ、クレイジーな夜を演出した。その騒ぎの裏で不気味に蠢いていた「赤い怪物」。その正体と目的は――。

 禁酒法時代のアメリカを舞台に繰り広げられる「馬鹿騒ぎ」を描いた物語、第3巻。

 前回謎のままだった事柄、主に登場人物の正体は特急編開幕時にほぼ明らかにされます。おかげで、余計な謎解きとか考えず「馬鹿騒ぎ」の一幕を楽しめたのは良かったなーと、個人的には思います。ところで、早々に明かされた『クレア』及びレイルトレーサーの正体に「あんたかーっ!」とツッコミ入れたのは私だけでしょうか。確かに、冷静に考えたらあいつぐらいしか該当者いないんだけどさぁ……。

 本編の感想。「くだらない上に馬鹿な話。だが、面白い」話を目指したという作者氏の言葉に納得。正にそのとおり、B級映画を思わせる面白さが満載の内容でした。つーかクレア……前回のラッドもかなり理不尽なヤツだと思ったけれど、こいつの場合は既にそういうレベルの話じゃないし。「奴は本当に人類か?」という彼自身の台詞をそっくりそのまま返してやりたいと思いましたね。ええもう真剣に。

 その他。馬鹿ップルはあくまで馬鹿ップルで最高だったし、ラッドも彼なりに筋は通して本人幸せそうだし良いかなぁ、と思う。そして、「狂信者」シャーネは……あの手紙が持ち去られていたって事は、返事はOKだったのかな? もしそうなら……最凶カップルの誕生だ……(震)

 個人的には、鈍行編特急編総合でかなり満足な出来でした。来月の新刊も楽しみ。

 追記。「切符を拝見させてください」。この何でもない一言と、その後の反応に思わず吹き出してしまった。確かに、あの状況でこれを言われるのはある意味怖すぎるだろう……。

 9/11 『金色の明日2 瑠璃色の夜、金の朝』[甲斐透/新書館ウィングス文庫]

騎士ダニエルの従者として、ミオーニが旅に同行してから一年半。仕官先を探して訪れたウェイミス王国で、二人は偶然、かつてダニエルの盟友だった男・ラドリと出会う。彼に示唆されたことに、それぞれ悩む二人の気持ちの行方は――

 去年発売された、ひたむきな少女と旅の騎士の物語、『金色の明日』の続編。

 今回も、とても可愛らしい話に仕上がっていました(褒め言葉) お互いを大事に思っているからこそ、ラドリの言葉で微妙にすれ違ってしまうダニエルとミオーニの姿が、お約束といえばお約束ながらGood。そして、とうとう鈍感男のダニエルが……という場面では、思わず顔が綻んでしまいました。こういう素直な小説も一服の清涼剤という感じで良いものです。

 それから、同時に収録されていた書き下ろし短編「薄荷色の貴婦人」は、ダニエルの妹・シャーロットがウェイミス王国を訪問してくる話。これはもう、とりあえずシャーロット最強だなぁ、という感想しか思い浮かばなかったですね(笑)

 9/22 『封殺鬼選集 鬼族狩り』[霜島ケイ/小学館]

三沢成樹は、一年ほど前から巫女装束を纏った女の姿を白昼夢としてみるようになった。現実には会ったことも見たこともないのに、「知っている」 と感じる女の顔。それに悩まされていたある日、成樹は戸倉聖と名乗る若い男から声をかけられる。ふざけた態度のその男と出会ってから、成樹の周囲に次々と奇怪な事件が起き始めて――

 あらすじ書いたら、成樹が主人公っぽいし……。確かに、この巻は内容的にそう言えなくはないけれど。でも実際、シリーズの中心格は違うんですよねー。まぁそれはさておき。もともとは、小学館キャンパス文庫で発売されている伝奇小説シリーズ(現在26巻まで刊行) 興味はあったのですが、やはり冊数で二の足を踏むことしばし。ところが先日、新書から選集という形式で発売されているのを見かけ、ようやく購入に踏み切れました。

 さて、感想。やはり、シリーズ最初の巻だからか説明的な部分がやや多めだったように思います。ですが、話の内容自体は普通に面白かった。千年という気の遠くなるような時間を生きてきた二人の鬼。お気楽な性格(でも、化生したときの話など暗い過去も抱えている)の聖(酒呑童子)と、冷静な弓生(雷電)。正反対の性格ながら(だからこそか?)、息の合ったこのコンビの掛け合いが楽しかったです。

 ところで、成樹はこの巻だけのゲストなのかな。いや、そのほうが平穏な生活が送れるということで、彼にとってはいいのでしょうが。

 9/23 『封殺鬼選集2 鳴弦の月』[霜島ケイ/小学館]

 「封殺鬼選集」2冊目。今回は、現代より以前――鬼たちの生まれた平安中期、武士階級台頭の少し前、そして文明開化と相成った明治期と、二人の鬼が生きてきた長い時間の中の一幕を抜き出した短編集になっています。

 一話目は表題作でもある「鳴弦の月」。聖(当時の名は鬼同丸)がまだ「大江山の酒呑童子」として盗賊団の頭領を務めていた頃の話。偶然迷い込んだ逢魔が辻で、希代の陰陽師・安部晴明とその使役鬼である弓生(当時の名は高遠)と出会い……という話。この後、鬼同丸がどういう経緯で大江山を出て晴明の元へ行ったのかが気になるところ。

 二話目の「影喰らい」は、晴明から数えて六代目の当主・安部泰親と鬼たちが対峙した、ある怪異の物語。この泰親という人は、茫洋としているようでも晴明の再来とまで噂される実力の持ち主。それ故に、表には出さなくとも葛藤を秘めていて……そんな彼の最後の言葉が、酷く切なかったです。

 三話目の「幻戯師」は、先の二話とは少し雰囲気が違うかな。明治の世を強かに生きている妖怪たちの姿に思わずニヤリとしてしまう、そんな風にどこか面白おかしい話でした。

 追記。「影喰らい」で聖が言い放った、「暇やからやっ!」に思わず脱力&笑ってしまった人、果たして何人ぐらいいるだろう……。

 9/24 『封殺鬼選集3 妖面伝説』[霜島ケイ/小学館]

 「封殺鬼選集」3冊目。現代を舞台にした作品2作が収録されています。

 表題作「妖面伝説」は、200年前に聖と弓生が始末し損ねた般若の面が復活。それが引き起こした凄惨な事件の解決に向かうという話。今回は、『本家』の術師・佐穂子が登場。最初は鬼たちに邪険な態度を取っていた彼女ですが、次第にその気持ちが変わっていき。最後の辺りは、なんだか可愛くて仕方がありませんでした。青春っていいなぁ(笑)

 同時収録の短編「蠱持ち」は、聖と弓生の住居に迷い込んできた霊獣オサキ。そのオサキの飼い主と彼らの、奇妙な縁を描いた作品。この話は、何はなくてもオサキちゃん。愛らしすぎます。文章の描写だけでも十分可愛いのに、イラストがまた……ゴキ○リホイホイに引っかかってじたばたしてるのとか、ちょこんと坐ってクッキーかじってるのとか。小動物好きにはたまりませんでしたよもう!……えぇと、ちょっと落ち着いて。オサキちゃんの魅力だけではなく、話も面白かったです。天然お気楽なオサキちゃんの飼い主も良かったし。時代を超えて彼らに関わった二人のオサキ持ちの言葉がとても優しくて、印象に残りました。

 ひとまず、新書版はここまで。文庫版がそろそろ完結らしいので、その後でまた続刊を出して欲しいものです。

 9/26 『五王戦国志6 風旗篇』[井上祐美子/中公文庫]

 古代中国をモデルにした架空世界で繰り広げられる戦国志、第6巻。西の辺境に位置する<琅>で、淑夜と羅旋、そして大牙が合流。中原の掟にほとんど縛られぬこの国で、彼らは「新しい国の形」を求めて戦うことに。

 さて今回の内容は、緩衝地帯がなくなった<琅>と<征>の武力衝突が主になっています。一方、<衛>も動きを見せていて……。そして、一人の男がその志半ばで退場。この人、もうちょっと長生きして若者たちを苦戦させて欲しかったなぁ、と思います。まったく、惜しい人を無くしたものです。

 その他、登場人物たちそれぞれの思惑や屈折、日常生活の面等にも動きあり。無影もあれで大分参ってきているみたいだし……。彼の場合は諸々の要素が重なり合った挙句に、必要以上に自分を孤独に追い込んでいる節もありますが。この点に関しては、<琅>の連中は本当に理解者に恵まれていますよねぇ(しみじみ)

 とにかく、これで最終的な勝者がかなり絞られました。波乱はまだ続いていますが、それでも徐々に、終幕に向けて物語は進み始めています。

 9/27 『黎明の双星 1』[花田一三六/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]

支配者たる聖典派、貧困に喘ぐ教会派。工場に変貌する農地、耕地を失う農民。聖典派であり、宗主国リュベリオン貴族のランカスター家、教会派でありながら母国シャムロックを売り渡したオニール家。複雑な歴史と事情が絡み合うシャムロックの地で、二人の若者の出会いがあった。名を、リィーン・ランカスターとダグラス・オニール。二人の邂逅は運命だった――。

 以前、角川から何冊か作品を発表されていた作者さん。その作品が結構好きだったので、懐かしい名前を見たなぁと思いつつ購入。ちなみに、全3巻で隔月刊行とのこと。

 話の内容は、アイルランド独立運動初期を下敷きにしたもののようです。となると、主役二人の今後の役回りはマイケル・コリンズかな? さすがに、片方がデ・ヴァレラになるということはないだろうし……。

 この巻の感想。まだ序章なためか、少し盛り上がりに欠けるような。主役の二人もまだ若いし。ですが、精神的に少しずつ成長し、自立し始めた彼らが今後どのような人生を歩んでいくのか。次巻以降の展開は普通に気になります。

 9/30 『デス・タイガー・ライジング2 追憶の戦場』[荻野目悠樹/ハヤカワ文庫JA]

 千年に一度の<夏>を間近に控え、生き残りを賭けた星間戦争を繰り広げる二つの星系を描いた物語、総合では8冊目。

 感想。個人的には、1巻より面白く感じました。大筋の展開的は、これまで刊行されている作品と時系列がほぼ同じなため、目新しいものは特にありませんでした。けれど、ちょっと既知の名前が出てくると「あぁ、あの人はあの行動をやってるぐらいか」などちょっと思い出してみたりでそれなりに独り楽しんでました。

 主人公カップルは……ミレがどんな目にあっても挫けず走り回って徐々に<虎>部隊の真実に迫っていく一方、キバもミレとの僅かな時間の再会でかつての自分を取り戻しはじめていく、という割とベタな展開ではあります。この主役カップル以外にも今後が気になる人もいるし。できれば、皆それなりに幸せになって欲しいなと思いますが、やっぱり難しいかな。帯の次巻予告でも、また悲劇が……みたいなことが書いてあるし。でも少なくとも、キバが例外で他の人はもう戻る可能性が全くないなんてことは、ありえないというかあって欲しくないしなぁ。

 ところで次巻は、時系列的には何処まで進むのかな。クーデター以後にも少し進みそうだと予想できるのですが……。

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