■ 2003.7月読書記録

 7/1 『地にはマのつく星が降る!』[喬林知/角川ビーンズ文庫]

 小市民的正義感の持ち主にしてへなちょこ魔王ユーリが頑張る「マのつく」シリーズ第9巻。4巻続いたシマロン編が今回で完結。

 うーむ、微妙に胸にもやもやが残る読後感。これは一重に、前巻ラストで生存が確認された次男の、意外な去就のおかげでしょうが。彼の目論みについては予想できるものはあるのですけれど、それにしても、ユーリやヴォルフは理由を教えて欲しかっただろうなと思ったり(あ、ユーリは知らずにチャンスを逸したのだったか) ともあれ、いつかは彼のこの行動やスーパー上様モードの変化だの、新たに生じた謎は明らかにされるだろうから、楽しみに待つことにします。

 それ以外の話。舞踏会の場面、個人的には好みでした。ユーリ&フリン、今後も良い関係が続けばいいなー。ヴォルフは、すっかり男前になっちゃって。ふと、わがままプーだった頃の彼を思い出して、一瞬遠い目をしてしまった(笑) アーダルベルトは、ユーリが実は……ということを知って、その行動に変化が生じるかどうか、次回登場時に注目。ツェリ様は、出番が少なくてもやっぱりツェリ様だったということで(笑)

 その他、いつものように細々と笑えるシーンもあったりして総合的には満足でした。私としては、これで長男グウェンやアニシナが登場してれば、もっと良かったのですが。

 7/3 『第六大陸 1』[小川一水/ハヤカワ文庫JA]

 これまで、旧郵政省だの土木建築だの海洋調査だの戦時医療だの、地味というか地に足がついた素材で作品を書いていらした小川氏、その新作は民間企業による月面開発! ……まぁなんといいますか、つくづくプロジェクトXが似合いそうな作品を書く人だなぁと思いました。

 私は生憎、宇宙開発に対してほとんど知識も興味も持っていない人間なので、そっち方面の正確さは分かりかねるのですが、そういう人間にも「ふーん、そんなものなんだ?」と思わせるぐらいには詳細に書き込まれていたと思います。まぁ、個人的に楽観的にすぎる世界情勢の変化には苦笑してしまいましたが。これって現状に対する皮肉も含まれてそうだなーとか思ったり。

 ともあれ、プロジェクトの成否は勿論、それを推し進める人々それぞれの思いや目的はどうなるのか。また、2巻ではNASAとの本格的な競争や何らかのトラブルが発生しそうな感じもあるので、どう話に決着をつけるのかが楽しみなところです。

 どうでもいいけど、題名を見たときに「今回は南極開発モノか?」と思ったのは、私だけではあるまい。

 7/13 『Dクラッカーズ・ショート2 過日-roots-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 「Dクラッカーズ」シリーズ、2冊目の短編集。書き下ろし6本と現シリーズの雛型となった短編1本が収録。

 プロローグにあたる「家路1 -a day-」は、茜がセルネットに入る前の掌編。結構したたかですよね、彼女って……。

 「相棒-accomplice-」は景と水原がコンビを組んでまもなくの頃の話。二人の意志の疎通が上手くいっていなかったり、景もまだ未熟で〝影〟を支配しきれていなかったり。そんな幼いコンビが、激闘を経て少し成長し歩み寄る姿が良かったですね。しかし、そんな二人をぶっちぎって印象に残ったのは、ゲストの敵役。セルネット幹部のキメリエスが素敵に格好良すぎでした。彼の場合は幕引きが微妙なので、無事でいてくれてればいいのですが。7巻に登場したりはしないかなぁ。

 2話目の「狂犬-hound-」は、景が甲斐に目をつけられるきっかけとなった遭遇戦の話。お互いに相手の動きを読みあいながらの戦闘は面白かった。あの決着のつけ方や律儀に10円置いていくところには、思わず笑ってしまいましたわ。しかし、景の最後の呟きは何のことだろう?と思っていたら、3話目の「夜道-pathway-」でその謎が明らかに(笑) これは、幼い頃の梓&景の肝試し話だったのですが。地球は私を中心に回っている!と言わんばかりの梓の暴挙に耐えて、彼女の後を必死でついていく景ちゃんがかわいかった。それしか言いようがないよ、この話は(笑)

 4話目、「同胞-accomplice-」は、セルネット創設者であるバール、ベリアル、ベルゼブブ――四宮庸一、緋崎正介、水原信司がつるむきっかけとなったある事件の話。どちらかといえば淡白で、気だるげな雰囲気が漂う作品に仕上がっている感じ。多分、話の中心にいる庸一の性格からなのでしょうけれど。そんな中、事態の終止符をつけに登場した水原兄の長口上には思わずニヤリとしてしまった。どうやら私、この人のキャラがかなり好きなようです。諸悪の根源だと分かっているのになぁ。あと、正介はなんだかんだ言いながら、やっぱりいいヤツだと思いましたね。

 「家路2 -a day-」は茜の話と少しだけリンクした、千絵の掌編。ちょっと落ち込み気味の少女探偵が、また前に歩きだしていく。彼女のこういう姿勢、やっぱり良いですねー。

 最後に収録された短編は、今になって読むとやっぱり少々物足りないところがありますかね。でも、もしこのままの雰囲気で作品が書かれていたらどんな話になったのか、興味はあります。

 さて、次はいよいよ本編ラストエピソードとのこと。景と梓、そして仲間たちの戦いがどのような結末を迎えるのか。うーん、楽しみで仕方がない。今年中に読めれば嬉しいのですけれどね。

 7/14 『鬼神新選 京都篇』[出海まこと/電撃文庫]

 それなりに好きな新撰組ネタということで、つい購入してみた一冊。

 えぇと、一言でいえば『魔界転生』(著・山田風太郎)ライト版。主役は永倉新八で、普通に面白いという感じ。ただ、キャラ的にはどうだろうと思わなくもなかったですかね。霊感持ちの女忍や「安部晴明」の名を継承した幼い巫女といったオリキャラにしろ甦った新撰組隊士にしろ、設定・性格など結構ありきたりで。もっと濃くしても良かったんじゃないかなーと残念しきり。まぁ、今回は伏線張るだけ張って終わったので、続刊の展開に期待というところです。ところで、永倉&沖田が新撰組二強という設定なら、斎藤一の出番はないのでしょうか。やっぱり。新撰組といえば、沖田・永倉・斎藤が三強だと思ってる人間なので、少し寂しい……

 ちなみに。新撰組を含め時代考証には細々と気になる部分がそれなりにあります。まぁ、一つ一つにあえてツッコミいれませんが、これだけは言わせてください。新撰組副長助勤は、「隊長」じゃなくて「組長」でしょう。普通。

 7/15 『ブラックナイトと薔薇の棘』[田村登正/電撃文庫]

 『大唐風雲記』でデビューされた田村登正氏、初の別系統の作品。内容は現代モノで、自殺を仄めかすBBSへの投稿を見た高校生二人がそのカキコの主を探そうと奔走する話。

 個人的には非常に微妙。それなりに色々調べて書かれてるんだろうなーとは思いますが、上手く作品に消化しきれていない感じといいますか、読んでてとってつけたような印象を受ける部分が多々有り。あと、あまり詳しくない私でもこれはおかしいだろうと思うネット関係の記述とかなにやらとか……。まぁ、そんな感じで粗も多いけれども、古き良き青春モノとでもいうべき雰囲気は○でした。

 「大唐」シリーズにしろこの作品にしろ、今一歩二歩足りない気はするものの、根本的にかなり真面目な作家さんなようだし、やっぱり頑張っていただきたい。そのうち化けてくれることを期待しつつ、当分はまったり応援して行くつもりです。

 7/17 『霧の日にはラノンが視える』[縞田理理/新書館ウィングス文庫]

イギリスの田舎にあるクリップフォード村に伝わる、七番目に生まれた子供には妖精の呪いがかかっているという言い伝え。その「7番目の子供」にあたる少年ラムジーは、呪いを解く鍵を探すために自殺した叔父が残した書置きを頼りにロンドンへやってきた。慣れない土地で道に迷い、不良に襲われていたところをジャックという青年に助けられる。そのまま済し崩しに彼の世話になることとなったラムジーだが、ジャックやその仲間らしき刺青の男レノックス、そして心を閉ざしたカディルたちにはある秘密があって――

 ……表紙の眼鏡の子が、女の子だと思ったんですよ。ついでに、左上の人物も。それで、どんな話かなぁと思って購入してみたんですが。男の子だと分かったあと、「BLだったらどうしようか(冷汗)」と怯えながら読むことに。結果としては、私的にはセーフな領域だったので、何よりでした。

 それはさておき。雑誌『小説Wings』に掲載された表題作と、ラムジーの一時帰郷とその時起こった騒動を描いた書き下ろし「晴れた日は魔法日和」の2本が収録された、著者初文庫だそうです。話の内容はわりとオーソドックス。罪を犯して妖精郷ラノンを追放され、今はロンドンで生活する異種族の面々の物語。くどくないので、最後までさらっと読めました。

 ラムジーが天然・善良・純真と三拍子揃った性格をしているところとか周囲にかわいがられる様子とかが、ほとんど犬にしか見えなかった……いいのか、お前。仮にも(ネタバレにつき伏字)なんじゃないのかと思わずツッコミ入れてみたりして(笑) でも、ちょっと切ない終わり方だった表題作では、彼のこの性質が周囲に対して癒しになってるよな、と思えました。本当に良い子だし、ラムジー君。あと、なんだかんだでレノックス氏も面倒見が良くて好印象。それから個人的に、怜悧だの狡猾だの散々な言われような《同盟》盟主のランダル氏が気になって仕方がなかったり……出番少なかったけれど。

 雰囲気的には嫌いな作品ではないので、続刊が発売されれば(露骨に怪しい方向に走らない限り)様子見を兼ねて購入してみるつもり。しかし、ノーマル少女小説推進派(勝手に作った)としましては、女性が少ないのがやはり寂しいのですよねぇ。ラノン追放者に女性が少ないというならば、せめてアグネスのレギュラー化に期待したいところですな。

 7/24 『五王戦国志5 凶星篇』[井上祐美子/中公文庫]

 古代中国をモデルにした架空世界で繰り広げられる戦国志、第5巻。並び立つ諸国のうち、一国が脱落していく巻であります。

 今回の見所は、ページのほとんどが占められてるように大牙&淑夜 VS 羅旋で決まりでしょう。互いの信念のために、また生き残るための必然にぶつからざるをえなかった彼ら。その勝敗の行方は……読んでからのお楽しみですね。

 その他。<衛>の無影は、目に見える動きは比較的少なかったですか。一方、軋みが表面化してきたのは魚支吾の治める<征>。支吾に採りたてられた謀臣・伯要の本性というか公人としての質とでもいうものが露わになりつつあり(まぁ、こういう世の中ならそれが悪いとは言いませんが。でも、謀臣としての能力にも疑問符がつきはじめる感じ)、遂には国主である支吾に異変が。このあたり、以後の情勢に与える影響が楽しみになります。

 さて。紆余曲折を経て再び羅旋の元に戻ることになった淑夜。軽くいなしたとはいえ、決定的な言葉を突きつけられた羅旋。彼らの戦いは、まだ続きます。

 7/25 『マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust―排気』[冲方丁/ハヤカワ文庫JA]

 3ヶ月連続刊行のSF作品「マルドゥック・スクランブル」、終幕。読了後、しばし酩酊したような余韻に浸ってしまいました。

 仇敵シェルが経営するカジノに保管されている12枚の100万ドルチップ。その中の4枚に隠された「腐った卵の中身」を手に入れるため、正面から乗り込んだバロットたち。そして、VIPルームで繰り広げられるブラックジャック。これが、2巻でのベル・ウィングとのルーレットに負けず劣らず素晴らしかった。最初のディーラーとの勝負も、バロットが恐ろしいスピードでゲームを支配していく様など十分に見ごたえがありましたが、「カジノの用心棒」アシュレイとの勝負が凄かった。前回のベル・ウィングとの勝負とはまた違う、でも同じくらい最高のゲーム。手に汗握る勝負と、交わされる会話の最中、バロットが手袋を見せつけるように脱ぐシーンには、震えがきましたね。ベル・ウィングも作中で言っていましたが、このシーンは勿論、他の様々なシーンからも、本当にバロットは良い顔をしているんだろうな、良い女に成長しているな、と思えます。

 この物語でのクライマックスは、文句なくカジノのシーンでしょうが、もう一つの見所だったのが、バロット&ウフコックとボイルドの闘い。カジノを出た直後のカーチェイスは短くも密度はたっぷりで読みごたえがありましたし、最後の銃撃戦もとても良かった。ただ、この場面での存在感はバロットよりもボイルドにやや軍配が上がるかと。虚無感に支配されたボイルドが、「好奇心(キュリオス)」によってウフコックを求め、新たな同類であるバロットが自分と相対することを喜ぶ。時折ボイルドが洩らす言葉は言うまでもなく、もはや闘うことでしか他者と関係を持てない彼の存在が、酷く切なく感じられました。また、心理面を丁寧に描く一方で、これが映像化されれば『マトリックス』並ではなかろうかという戦闘描写は圧巻の一言。

 そして、まるで映画のようなエンディング。寂寥感が漂いながらも、美しい幕引きでした。続編の発売にも期待したいところですが、まずなによりもこの物語がリアルタイムで読めて、本当に満足です。

 7/26 『カオス レギオン01 -聖双去来篇-』[冲方丁/富士見ファンタジア文庫]

 今月2冊目の冲方作品は、「カオス レギオン」シリーズの新作。時間軸では、『招魔六陣篇』と『聖戦魔軍篇』の間に位置する物語。収録されているのは月刊ドラゴンマガジンで連載されていた中編と書き下ろし中編の2作……ということになっていますが、書き下ろしのほうは実質的にちょっとした長編並だったり(笑)

 で、話の内容はというと。雑誌連載分「在りし日の凱歌」は正式に<銀の乙女>の修道女になるための試問を受けるノヴィア。彼女のことを思うが故に、一人旅立とうとするジーク。そして、ジークに思わぬ試練を与えられたノヴィアの選択は――という感じで、ノヴィアの成長物語と言ってもいいかも。ちなみに、ジークが<招くもの(レギオン)>の能力を得た経緯が、この話で明かされます。
 一方の書き下ろし分「シャイオンの怪物」は、かつてジークとドラクロワ、そしてシーラが平和のために尽力したある領地に、聖法庁から離反したドラクロワに呼応している疑いがかけられたことでジークが調査に赴くことに。そこで、思わぬ因縁が明らかになる――と、そんな内容。

 どちらも、それぞれに見所があって面白かったです。一番気に入った場面は、「シャイオンの怪物」での父親から息子への最後の教示。ベタだなぁと思いつつ、大泣きしてしまった……。キャラクター的にも、一見無愛想で相手を突き放しているようで、意外に細やかな気配り&優しさを見せるジークは良い男だねぇ、と思うし。そんなジークを慕い、まっすぐに追いかけようとするノヴィアは健気でかわいい。新登場のキャラクターたちは、今回の経験がどのような影響となって表れるのかが気になるところ。

 今後もこのシリーズは続いていくとのことで。次はどんな話が読めるのか、楽しみです。

 7/28 『女王と海賊 暁の天使たち5』[茅田砂胡/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]

 まぁ、割り切ってしまえばこれはこれで面白いかも、と思いはじめた「暁の天使たち」シリーズ第5巻。……でも正直、何か騙されてるというか誤魔化されている気がしなくもない今日この頃。

 キングに続き、女王、そしてダイアナが復活。そして、怒り狂った女王が連邦の秘密施設に軟禁中(というか、女王と確実に合流するために待機している)のキングのところにすっ飛んでいく、というのが今回の展開。てなわけで、この巻は「スカーレット・ウィザード」の面々の独壇場でした。金・銀・黒は、基本的にのんびり観戦&ツッコミモード。

 感想は、面白かった。以上。困ったことに、これ以外に言うことが無いのですよね。結局今までのところ、ストーリィらしいストーリィがないし、勢いで読んでいるというか。どうしても作者自らが手掛けた、既存作品のキャラを使った同人作品って印象が拭い去れないまま、キャラ(それも「スカウィ」サイド限定)の力で読まされている感じなんですよねー。まぁ、細かいことを考えなくても、女王の無茶&無敵っぷりを楽しむ分には文句なく楽しめるからこれでいいのかな、と思ったり思わなかったり。ちなみに、これまでいまいち扱いの悪かったダンも、今回は少々株を回復してます。女王とのどこかちぐはぐな会話にちょっと笑った。

 さて。どうやら次巻冒頭では黒がマジギレして暴走してしまいそうな雲行。一体、どうなりますことやら。(微妙に適当)

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