小市民的正義感の持ち主にしてへなちょこ魔王ユーリが頑張る「マのつく」シリーズも、いつの間にやら第8巻。
今回は、魔族と敵対的な人間の国・大シマロンで開催される天下一武道会(略してテンカブ)で優勝すれば、望むものが褒美に与えられると聞いたユーリが、「なら、連中が持ってる『風の終わり』(危ない兵器の名前)をGETしよう!」と、ある意味無茶なことを思いつき――という展開。持ち前の勢いで乗り切るユーリ、知識豊富な友人ムラケン君、男前度急上昇中の魔族三兄弟の三男坊・ヴォルフラム、久々活躍の密偵ヨザックと、それぞれ見せ場もあって楽しかったです。何より、これまた久しぶりに前魔王にして最強フェロモン美女のツェリ様の御登場に、現在シマロンの支配下におかれているカロリアの実質的領主・フリンも奮闘していて、女性陣も良い感じ。特にフリンは、何気にユーリに惹かれているっぽいですし、今後三男坊がどう出るかも気になるところです(笑)
一方、国に残っている面々は……ギュンターはまぁいつものこととして(酷)、長男・グウェンがすっかりギャグキャラになっちゃってるように思うのは、私の気のせいでしょうか(笑) さらに、ユーリの養女グレタをマッドマジカリスト・アニシナが教育中……ユーリ、早く帰国しないと娘が間違った道に進んでしまうぞ(汗)
で、いつものメンバーでいつものノリな話が展開されているのですが、その中でこれまで伏せられていたいくつかの謎に答えが出されています。「これで大分話が繋がったし、すっきりしたなー」とニコニコ読み進めていたら、最後のあれ……うわ、そうきましたかという感じでしたね。次巻で「シマロン編」は完結するとのことですが、この展開でどんな決着をつけるのか、気になるところです。
余談。今回思わず突っ込んだこと。ムラケン君、いくらなんでもガン=カタは教わって簡単に実践できるものではないだろう。
ギリシャ自治都市の凋落・マケドニアの興隆期を下敷きにした、架空世界の歴史ロマン。
うーん、なんとも王道な作品でした。個人的には、歴史絵巻というよりはハーレクインっぽいような印象……いや、それほどハーレクイン系統読みこんでないのですけどね。それでもなんとなくそういう印象を受けました。家族間での愛憎とか主人公の恋とか、あの手のツボを甘いながらも押さえていたからかな……。
で。とりあえず、諸悪の根源は親父さんのような気がして仕方がなかったのですが、私だけでしょうか。少なくとも長女が歪んだのは、彼の責任ではなかろうかと。他、ライアスとイオニアの悲恋にはちょっと泣けました。ああいうの、弱いんですよ……
あと、個人的には、登場人物の名前など元ネタ探しが楽しくてしょうがありませんでしたね。「あぁ、これはあれからかな」とか、一人でニヤニヤしてみたり(←不気味だし) 軍事史は専門外なのでそっち方面は分かりませんでしたが、これも元ネタがあるのですかねぇ。
某シミレーションゲームに燃えた人ならおそらく気に入るのではないかと思われる作品でした。
作品の雰囲気は『カラミティ』のそれのように陰鬱なものではなく、前向きな雰囲気すら感じられます。しかし、それ故になんともいえない悲惨さが滲み出ているように思えました。理由は簡単で、彼らの戦いに「勝ってはならず、負けることも許されない」――つまり、現状維持という絶対的な条件が存在しているからでしょう。これは憑魔の生態を利用した、できるだけ多くの人間を守るための作戦な訳ですが。その一方で、主人公たちには常に劣勢に立ちながら戦いつづけることを強いているわけで……そんな状況に置かれながら、「何処かの誰かの未来の為に」戦い、必死に生き延びようとする少年少女達の姿が健気で、切なかった。
登場人物は、なかなかに魅力的。主人公の英次は文句なく格好いいし、ヒロインの香奈ちゃんもかわいらしい。しかし、一番格好良いと思ったのは一流(イチル)さんですね。こういう、信念を持っていて強くて格好良い女性、好きだなぁ。
ひたすら絶望的な戦いを続ける彼らが、少しでも報われるような展開になればいいのですが……根本的かつ画期的な打開策が見つからない限りは難しいでしょうし……せめて「イコマ小隊」の皆が、馬鹿をやったり笑ったりしながらしぶとく生き延びて欲しいと願うばかりです。
「21世紀初頭」という予告が(当たり前ながら)無事守られました、『創竜伝』の13巻。まぁ、3年なら早いほうですな……(諦め気分)
肝心の内容は、というと……進んでいるんだかいないんだか。なっちゃんとの奇妙な同盟(?)関係が何時まで持つかは、まぁ見物でしょうか。しかし、幕府って……征夷大将軍って……(いろいろ言いたいことはあるらしい)
時事ネタ・社会風刺に関しては、時期的に予想通りなものでした。まぁ、好みに応じて適当に流すか笑っておくのが吉かと。
しかし、作中時間が1日しか経過していないのにちょっと愕然。このペースだと、完結までにあとどれぐらい時間がかかるんだか。いや、そもそも完結するのか疑問になってきた……
キノとエルメス、一人と一台のあてのない旅を綴った、寓話調の連作短編集。笑いの中にシリアスもありの第7巻。
いくつか感想。「迷惑な国」は……確かに迷惑な国の話でした。どちらも。そして、ちゃっかり相手を利用しているキノの姿にちょっと笑い。若かりし頃の師匠のお話「ある愛の国」、あれはオチが全てですね(笑) もう一つの師匠の話、「森の中のお茶会の話」は最初はさすがに驚きました。追い剥ぎっていうか強盗っ!?と思ったら……あ、そういうオチかという。しかし、何で師匠たちは気がついたんだろう。何か、旅人の間で噂とか流れていたのでしょうか? プロローグ&エピローグ「何かをするために」は、キノが師匠のところにいた頃の話。「キノ」の人格がある程度定まるまでの話、ともいえるかな。詳細を書くのは、どうやってもネタバレになりそうなので避けますが、なかなか良かったです。
忘れてはいけない、今回のあとがきは……最後に読もうと思っていたのに、一番最初に読んでしまいました。あれは卑怯だ(笑)
一言でいえば、「安楽椅子探偵モノ」。ただし、トリックに期待して読むと、十中八九裏切られます。馬鹿ミスってほどではないけれど、真面目に考えるには不条理にすぎるものばかりだったりしますから。
で。面白かったかと聞かれると……うーん。しずるさんとよーちゃんの微妙にすれ違いつつも仲良しな関係とかは、この方の作品にしては珍しくて新鮮だったかなーと。それぐらい、かな……。
ところで、これもやっぱり他作品の世界と繋がっているのでしょうか。2章の電波障害は多分あれだろうし、しずるさんの入院してる病院はスリムシェイプと同じところのような感じだし……
『西域剣士列伝』でデビューされた作家さん。新作は中華ファンタジーでした。
個人的に、文章は『西域剣士列伝』より多少読みやすかったです。話の内容的には無難にまとめてきたという感じ。ただ、展開がちょっとタルいというか、もう少しサクサク進められないかこれ、と疑問に思ったりする部分も少なからずあったり。まぁ、良くも悪くも今後の展開に期待というところですかねー。
しかしこれ、時代はいつ頃なんだろう。通俗小説として水滸伝が成立してる、みたいな描写があったから明以降には違いないだろうけど……だとすると、明末清初が最有力候補かなぁ? そういや時代がいまいち特定しきれない一方、次巻の舞台は中国だと決めてかかってたりするわけですが。あとがき通りに神聖ローマ帝国だのアステカだのが舞台になったら、それはそれで感心します。私(笑)
余談ながら。方臘の乱は多分史実のほうだろうし、それなら緑雨が仙術を行使するに枷があるというのはやっぱりあれ関係だろうかとか、無駄にいろいろ考えてみたり。つーか正直、話の内容そのものよりもそういう小ネタで楽しんでたかもしれない……
「ザ・サード」シリーズを刊行中の星野氏の新シリーズ。ハードボイルドを意識して書かれた作品だそうで……。
で、感想ですが。えぇと、(ケイオスヘキサ三部作+ブレードランナー+ロボコップ)÷3したものを、さらに薄めた感じとでもいいましょうか。そんな印象の作品でした。
あと、ハードボイルドやりたいのは分かるのだけれど……どうも私の持つハードボイルド観と食い違ってるようで。こういうタイプの作品では重要な位置を占める(私的認識)行動・言動の端々から透けて見える美学や感情等が、主人公には決定的に欠けてるために、正直読んでても何だかなぁ、という感じしかしなかった。加えて、戦闘シーンもそれほどカタルシスがあるわけでもなくて。退廃的で暗い作品も嫌いではない(むしろ好き)ですが、なんかもう今一歩二歩足りない印象。
そんなこんなで、個人的にはいまいちでした。シリーズモノなので今後の展開次第で面白くなることもあるでしょうが……化けるかなぁ。
以前に新書で発売されていた短編集『石ノ目』が、改題されての文庫化。簡単に一つずつ感想行きます。
民間伝承を下敷きにした話。登場人物達の微妙に古風な台詞が醸しだす雰囲気は、同様の手法がとられている「優子」(『夏と花火と私の死体』収録)や「華歌」(『君にしか聞こえない』収録)にも共通するもの。個人的には、なんとも奇妙な読後感がある作品。
現実と空想の、邂逅と別離。悪戯者のはじめと、悪友として過ごした数年間の、何気なく綴られる日常。だからこそ、最後の一行が妙に切なく思えました。余談ながら、この作品は少し前にジャンプ誌上でコミック化されてました。が、ページ数が絶対的に少なく、最終的には「そこは削っちゃ駄目だろう」という感想ばかりが残ったのですが。
海外が舞台になっている話なので、登場人物の名前になんとなく違和感。内容的には、いつもの乙一氏と変わりないのですが。親切な振りをして実は意地悪な王女たち、彼女らに眉を顰めつつ積極的にブルーと関わらない騎士、そして健気で純粋なブルーという組合わせに、ベタだなぁと思いつつ、最後は泣けました。
この短編集では異色作の、軽いテンポで笑える作品。でも、ちょっと泣ける話でもある。感覚的に近い話は、「失踪HOLYDAY」(同名作品集収録)や「手を握る泥棒の話」(『さみしさの周波数』収録)かな。
この『平面いぬ。』に収録されている諸作品は、それまでの作品とは微妙に趣の違う、現在の乙一氏の作風への過渡期ともいえる作品が多いように思えます。そういう意味でも、興味深い作品集です。
月刊ウブカタ、今月の作品は3ヶ月連続刊行中のSF(サイバーパンクのほうが適当なのかも)「マルドゥック・スクランブル」の第2巻。
前巻から続くボイルドとの直接対決の行方、永遠の箱庭〝楽園〟で仇敵シェルを追い詰めるためにバロットが決断したことetcetc…。物語の展開の何処も彼処も密度がたっぷりで、面白かった。ページを繰る手が止まらず、最後まで一息で読んでしまうぐらい。〝楽園〟での会話(主にプロフェッサー・フェイスマンの話)には、哲学的な要素が含まれているのでやや読み難い部分もありましたが、それがまた物語にけれん味を添えていてGood。というか、むしろこういうところが作者らしいと思ったりもした。
そして、中盤から始まる新たな戦いは、直接的な戦闘が一切省かれた純粋な知略戦。それはすなわち、カジノでのギャンブル――正直、こういう展開になるとは思ってなかったです。しかも、これがまた面白い。特に、女性ディーラーのベル・ウィングとバロットの勝負は秀逸。ベル・ウィングは勿論、バロットも格好良くて。この勝負が読めただけで、今回は満足だったかもしれないです。私。
ついでに登場人物についての感想。前巻ではウフコックの男前さがとにかく印象に残ったのですが、今回はドクターもその魅力を随所で見せてくれました。バロットも覚悟を決めてから随分格好良くなったと思うし。ウフコックは前半はダウンしていたものの、回復してからは相変わらず渋さと可愛さを兼ね備えていて素敵でした。……しかし、まさかネズミにダンディズムを感じる日がくるとは思わなかったなぁ(笑) とにかく、この三者が最終的にどういう関係に落ち着くかが楽しみ。また、敵役のボイルドもウフコックとの出会いをはじめ、その過去が断片的に語られたことで印象が幾らか変化。ウフコックを手に入れることに執着する彼の結末も気になるところ。2巻ゲストでぶっちぎりで格好良いと思ったのはやはりベル・ウィングですが、〝楽園〟の住人たちもそれぞれ味があってナイスでした。トゥイードルディムのキャラ、結構好きかもしれない。
さて。いくつかの勝負を経て、VIPルームでのブラックジャック勝負に打って出るバロットたちが、どんな方法で目的の物に近づくのか。それぞれにカジノに向かうボイルドとシェルの出方。そして、この事件の結末がどうなるのか。来月の最終巻が待ち遠しくて仕方がないです。
今月2冊目の乙一作品は、これまで『すばる』等に掲載されていた短編をまとめた作品集です。表題作をはじめ、全10作が収録されています。
作品数が多いので、一つずつコメントをつけるのは止めておくとして(根性なし) 作品の傾向としては「……なんでしょう、これ?」と思わず人に尋ねてしまいたくなるような微妙な作品が多かったような。どちらかというと、黒系統か?と思いますが。まぁ、今回はあまりジャンルがどうとか考えないで楽しむほうが良いのかもしれません。各作品によって、ちょっとエグかったり、どこかコミカルだったりとてんでばらばら。その時々で書きたいものを書いたんだろうなーという印象ですね。
私としては、「SO-far そ・ふぁー」がお気に入りかな。なんとなく、雰囲気的に。子供にとってあの結末が本当に満足な状態なのか、微妙なところも含めて。次点は「血液を探せ!」か「落ちる飛行機の中で」。ああいう馬鹿馬鹿しいところがある話も、結構好き。一方、「冷たい森の白い家」や「神の言葉」は……どうコメントすればいいのか真剣に悩む。一種病的な負の面が顕著に出ている作品で、眉を顰めつつ読んでしまった、とだけ。ところで今回、角川スニーカーのアンソロジー収録作「SEVEN ROOMS」まで収録されていたことがなんか不思議でした。……いや、別に構いませんけどね。
ちなみに、現在集英社の企画で、期間限定の乙一公式サイトが公開されています。 アドレスはhttp://www.shueisha.co.jp/otsuichi/top.html。各作品に対する著者コメントや未収録短編が読めるので、興味のある方は足を運ばれては如何でしょう。