■ 2003.5月読書記録

 5/8 『陰陽ノ京 巻の四』[渡瀬草一郎/電撃文庫]

 平安京を舞台にした、しっとり味わいのある陰陽師モノ第4巻。今回は、(一応)主人公である保胤の友人の一人、住吉清良の周辺に起こった異変を軸に展開される、哀しい恋物語と言ったところでしょうか。

 話の結末は、最初に情報が揃った時点で想像がついてしまうのですが、そこから結末に至るまでの各々の葛藤が上手いです。また、陰陽師の面々を悩ます少女・蓮。彼女がまた健気で一途なものですから、この際御都合主義でも何でもいいから何とかならないものかと、余計に歯痒く思ってしまいました。別れの前、蓮が幸せそうに清良君ととりとめもない思い出話をしている場面は本当に切なくて、思わず涙……。そんなこんなで、切ない気分のまま終わるのかと思いきや。最後に保胤に迫る時継に吹き出してしまったり。保胤、いい加減に覚悟を決めちゃいなさい(笑)

 時継と言えば、彼女の生家である伯家の役割が判明。お役目自体はそれほど意外なものでもなかったけれど、選ばれると普通の生活が出来ない、というのが……可能性としてはありかと思っていたけれど、事実として語られると改めてその酷さを認識させられてしまった感じ。貴年の態度から言って、他にもまだ何かありそうですしね……この辺は、次巻以降への伏線になっているのかな。

 それから、『電撃HP』に掲載されていた「絵草子・訃柚」が収録。その名のとおり、保胤の識神・訃柚の物語で、語りの雰囲気にぴったりのイラストが良かったです。だから『パラサイトムーン』も(以下略)

 独り言。最初、「清良君ってば、守備範囲広い」と思ったのは私だけではないですよね……いやだって、普通に妻問婚だと思ったんですもの……

 5/9 『双霊刀あやかし奇譚 1』[甲斐透/新書館ウィングス文庫]

時代は大正。良家に生まれ、不自由なく暮らしていた少女・安曇早苗。そんな彼女が、父の留守中に押し入った強盗から身を守るため、夢中で手にしたのは無銘の古い刀。ところが、その脇差に刀匠の吉光と禰宜の加瀬兵衛介直継、二つの魂が取り憑いていたことから、早苗は不可思議な体験をすることになる。

 何気に買った『金色の明日』が意外に面白く、その後読んでみたデビュー作もまた良かったので、今回もそれなりに期待して購入。

 で、感想は。うん、まぁ面白かったです。王道って感じで。元気な女の子(早苗)と、それを微笑ましく思いながら見守る青年(兵衛介)というベタな構図もまた良し。でも、一番好きなキャラが荒事大好き&凶暴な吉光というのが……まぁ、私らしいと言えば私らしいか(苦笑) ちなみに、次点は好青年な高根沢さん。意外と、彼と早苗と御似合いだと思うのですが、早苗は……ですし、さてどうなることやら。

 ただ、面白かったとは思うものの、なんとなく物足りなくもあったんですよね。あえて言うなら、「王道過ぎる」とでもいうか……。もう少し、独特な味が欲しいところ。まぁ、まだデビュー後3作目(マンガの原作があるそうだけど)ですし、この点は今後に期待ですね。

 5/10 『タクティカル・ジャッジメント2 きまぐれなサスペクト!』[師走トオル/富士見ミステリー文庫]

腕は立つけど性格が悪い弁護士の山鹿善行。ある日、彼の事務所に入り浸っている中学生・皐月伊予が友人を連れてきた。なんでも、彼女の姉が窃盗の容疑で逮捕されたという。いまいち乗り気ではない善行だったが、幼馴染の雪奈の説得もあって依頼を受けることに。しかし、これを発端に思いがけず大掛かりな事件に巻き込まれ――

 陪審制等が導入された近未来の日本で、性悪弁護士が依頼人の無罪を勝ち取るために口八丁手八丁で様々な戦術を繰り広げる法廷劇、第2巻。

 今回も、スピード感があって面白かったです。事件に深く関わってくる登場人物の名前が覚えやすくて(ふざけてるのか、と思わなかったと言えば嘘になるけれど・笑)、相関図がごっちゃになることもなかったですし。ミステリとしては、別の真犯人候補があからさまに存在したり、トリックと言うほどのトリックもなかったりといまいちな面も。とはいえ、この作品は不利な状況からあの手この手で無罪を勝ち取るのが肝だといえるので、あまり気にならないとは思います。少なくとも、私は気にならなかった。

 キャラクターの話。やっぱり主人公の善行は嫌味というか自己中心的というか。ですが、助手になった雪奈にベタ惚れで頭が上がらなかったり、密かにいいように使われているっぽかったりと、微妙に三枚目なあたりがちょっと笑える。雪奈は、まぁ実は善行の反応とかも全部計算ずくで行動してたら面白いんだけれどなぁ、と思ってみたり。探偵の影野氏はもちろん、共産主義かぶれの皐月も前巻より数割増で活躍していたような印象。しかし、やはり検察側が無能すぎるような……やはり有能なライバル検事が登場して欲しいなぁ(堀内検事も有能とは言うけれど、どうも善行に軽くあしらわれている、という感じが拭いきれないのですよね)

 ところで、善行の呟き……「他に検事(判事)はいねーのかよ」は、むしろ他の二人のほうが切実に感じていることだと思う。特に裁判長が(笑)

 5/24 『マルドゥック・スクランブル The First Compression―圧縮』[冲方丁/ハヤカワ文庫JA]

港湾型重工業都市マルドゥック市。少女娼婦ルーン・バロットは、市でも有数のカジノ経営者にして賭博師であるシェルの「保護」を受けていた。しかし、蜜月は長く続かなかった。シェルの策略に利用されたバロットは、爆炎に飲み込まれて瀕死の重傷を負う。彼女を救ったのは、委任事件担当官ウフコック。「彼」は、戦時中に生み出され、現在は緊急法令「マルドゥック・スクランブル-09」によって存在が許可されているネズミ型万能兵器だった。自らも「マルドゥック・スクランブル-09」の適用を受けて蘇生したバロットは、ウフコックとともにシェルの犯罪を追うが……

 本当に月刊状態の冲方氏、今月の新刊はSF。ちなみにこの「マルドゥック」は3ヶ月連続刊行……当分は月刊状態解除されそうにありません(笑)

 で、今回の話。前半は世界設定や人物等の説明といった色あいが濃く、またバロットの送ってきた人生が明るいものではないこともあって、どこか鬱々とした展開が続きます。しかし後半、ウフコックのかつての相棒であり、現在はシェルの協力者であるボイルドが、本格的にバロットの排除に乗り出してくると、それまでの鬱憤を晴らすかのようなアクションも展開。それまで抑圧されてきた少女が初めて得た力に酔い、それを過信して暴走した結果、招いてしまった危機。バロットとウフコックは、絶望的な状況を脱してシェルを追い詰めることができるのか――非常に気になるところで以下続刊。来月発売の『The Second Combustion―燃焼』が待ち遠しいです。本当に。

 登場人物では、ウフコックが男前(外見はネズミだけど・笑) ドクターも憎めない感じが良いですし、ボイルドも敵役としては申し分ない。バロットはまだ評価が難しいところですが、今後の行動・精神的成長には期待できそう。是非とも良い女になって欲しいものです。

 比較的読みやすい『カオス レギオン』や『カルドセプト創伝』のような作品もいいけれど、やはりこういう凝った作品が似合う人だと思います。もっともその場合、気軽に周囲にお勧めし難くなるのも事実なのですが。

 独り言。あとがき読んだら、完全にバロットの外見イメージがナタリー・ポートマンで固まってしまった……。

 5/25 『デス・タイガー・ライジング1 別離の惑星』[荻野目悠樹/ハヤカワ文庫JA]

女性指導者ジェニファー・クローゼンヴァーグ率いる単一政府が支配する惑星ベルゼイオン。その首都クローゼンナイツに暮らす医学生のミレは、父親の意向で名家の子息キバと見合いをすることに。乗り気ではなかった彼女だが、純朴なキバに次第に惹かれていく。しかし、千年に一度の<夏>がもたらす破滅を克服すべく、政府が他惑星への侵攻を宣言したことから、彼らの運命も思いがけない方向に向かっていく。

 『双星記』(角川スニーカー文庫)及び『ダイアナ記』(EXノベルス)と同一設定での作品。これまでと違うのは、中心人物がこれまでのように軍の上層部所属ではないところでしょうか。

 要約してしまえば、「戦争に翻弄される男女の恋物語」となります。第一部は、主人公カップルによる恋愛話が繰り広げられるのですが、周囲の思惑も絡んで次第に怪しい雲行きになっていき。さらに、星間戦争がはじまった第二部では二人がそれぞれ過酷な状況に置かれて……と、そんなこんなで割と古典的といえば古典的な展開。今のところは普通に面白い、という感想。

 しかし、荻野目氏の文章はなんというか描写が淡々としすぎていて、特に登場人物の心理描写はあっさりすまし過ぎる傾向があるので、主役二人の感情の変化がいまいち伝わってこなかったのが残念。特に、ミレ。個人的には、彼女の感情は果たして「恋」なのか?と悩んでしまう……。まぁ、これは私の好みの問題もあるでしょうが。それはさておいても、今後彼らは少しでも幸せになれるのかどうかは気になるところ。個人的にはさらに不幸になるに一票、ですが(酷)

 余談。顔がいいだけのお父さんことラインバック氏の出番がなくて残念。まぁ、そもそもこの段階ではまだラインバック氏は歴史の表舞台に上がってないから仕方がないのですが。次巻以降少しぐらい登場してくれれば嬉しいなー。

 5/26 『五王戦国志4 黄塵篇』[井上祐美子/中公文庫]

大国<征>の中原制覇を阻むため、<衛>と<容>が盟約交渉の席についた。その場で、<衛>王・耿無影と無冠の謀士・耿淑夜の二人は再会を果たす。かつて兄と慕い、また仇と憎んだ無影が明かした思いもかけぬ真実に、淑夜の抱えていたわだかまりは溶けていく。だが、四年の歳月はもはや後戻りできぬほどに二人の立場を隔てていた。

 古代中国をモデルにした架空世界で繰り広げられる戦国志、第4巻。

 今回の見所は、やはり淑夜と無影の再会ではなかろうかと。日頃何も語らぬ無影が、相手が淑夜だったからこそ吐露した心情からは、周囲に本当に信頼できる人間がいない無影の孤独と苦悩が偲ばれます。また、それを十分に理解しながら、無影を止めることが己の役割だと心に決めた淑夜の姿は、1巻当初から随分成長したなぁと思わせてくれます。ついでに、無影と連姫に関しては、言いたいことを暁華さんがずけずけ言ってくれたのでちょっとすっきり。でも、この二人の関係は結構お互い様な面があると思う今日この頃……

 その他、<征>では、国主・魚支吾とその謀臣である伯要の間に大きな溝が生じていたり、支吾自身には病の影が忍び寄っていたりと不穏な空気。<征>と<衛>が事を構えようとしている中、この状態がどう響いてくるかが気になるところ。また、<容>と<琅>の間でも一戦が。この戦で「勝ちすぎた」大牙と淑夜には、他の有力者達から牽制が。こちらも、今後が気になるところです。……しかし、あっちもこっちも苦労しているのに、一人だけ比較的悩みも少なく思惑通りに事を進めているように見える羅旋が、なんか恨めしくなってきますな……いや、彼もそれなりに苦労してると分かっているのですが。

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