■ 2003.4月読書記録

 4/1 『運命よ、その血杯を仰げ 遠征王と隻腕の銀騎士』[高殿円/角川ビーンズ文庫]

かつての夫であり、現在は敵国ホークランドの将軍となったミルザの手に落ちたパルメニア国王アイオリア。共に時間を過ごす二人だったが、ミルザの庇護者であった皇太子が死去したことにより、事態は急変する。一方パルメニアでは、アイオリアを取り戻すために銀騎士ナリス、そして女大公ゲルトルードが動き始めていた。

 架空歴史ファンタジー「遠征王」シリーズ、いよいよ最終巻。今巻は、どちらかというと登場人物それぞれの恋愛(?)模様とその結末に重点がおかれていた印象。勿論、これまで引き摺っていた諸々の事象にも決着はつけられていますし、物語的には綺麗に完結したシリーズだと思います。

 惜しむべきは、内容がやや詰め込みすぎということでしょうか。もう1冊増やしてでも書き込んで欲しい事柄が少なからずあったりして。ついでに趣味を承知で言うならば、もうちょっと「歴史」や「戦記」といった側面を出して欲しかったですね。いや、正直この点は物足りないもので。それまで書き込むと一冊に収まりきらないというならば、いっそお遊び要素を削っても良かったと思うのです。個人的には。まぁ、この辺りは今後の作品に期待ということで。この作者さん、確実に一冊ごとに力量が上がってると思いますので。

 その他の話。これまでほとんど眼中になかったフランシア(ミルザの現在の妻でホークランド皇女)が、意外にも格好良かった。キレた……もとい、ふっきれた女性は強いということでしょうか(笑) で、その夫の最期。前巻で(私の中では)大暴落した株が、少々回復。結局彼も運命に翻弄された、哀しい人なわけですから……でも、前巻のあれだけはやっぱり許す気にはなれませんけれどね(怒)
 パルメニア陣営では、とりあえずオクタヴィアンが幸せになれそうで一安心。ジャックやガイ、それにオリエの愛妾たちも、それぞれの幸せを掴んだようでなにより。ナリスやゲルトルードも失ったものは大きかったでしょうが、手に入った掛け替えのないものもあったのだし。ゲルトルードといえば、エピローグにもなっている一幕が妙に気に入りました。彼女らしからぬ穏やかな雰囲気がいいな、と。

 独り言。なんか、ところどころで微妙に『マグダミリア』と設定が違っているような気がするのは気のせいか……?

 4/10 『Dクラッカーズ6 追憶-refrain-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 「Dクラッカーズ」本編6巻目。前巻でほとんどの事柄に決着がついていたので、「無理に話を引き伸ばして、蛇足にならなきゃいいんだけど」と失礼なことを考えたりもしていましたが、杞憂に終わって何より。

 今回はこれまでになく景ちゃんの内面描写がなされていたのですが……暗いというか後ろ向きというか……。小学生の頃の、女王と自分が引き起こしてしまった事件が完全にトラウマになってるんだろうなーと、それは分かってはいるのですが、それにしても考えすぎですよね、彼。もっと人生開き直らないと……まぁ、そこで開き直れるなら、そもそも女王の依代になることも(多分)なかったのでしょうけれど。

 さて、話の内容としましては。梓や千絵、水原といった面々が、前半は割とほのぼのとしていたというか普通の生活に戻っていたので(景ちゃんもまぁ比較的)、「Dクラッカーズ」らしからぬ雰囲気だったりしたのですが。中盤、茜やD.D.に起こった変化が発覚すると再び緊張した雰囲気に。しかし、時は既に遅く……ラスト近くのシーンでは、千絵ちゃんが良い子で(涙) 果たして相手に一矢を報いることが出来るのかもわからない八方塞な状況下で、一人諦めずに駆け回ってくれた彼女の必死な姿に思わず涙。本当に彼女に関しては、初登場時に内心では邪魔者扱いしててごめん、と言いたいです。梓も梓で、自分にできることを必死に考えていたのでしょうね。その結果の、あのメモ。あの一言に、どれだけの想いが込められているんだろう……。とにかく、「そうだ、頑張れ梓! 負けるな皆!!」と心底から応援したくなりました。…………しかし、女王も女王で結構健気なんですよねぇ、これが…………

 一方、前巻ラストでとんでもない状況になってしまった執行細胞の面々は、女王の離れ業で無事復活と相成りました。それはそれでよかったのですが、一人三役漫才が見てみたかった、と思わなくもない。そういえばベルぱー、久美子との会話を思いのほか気にしてたのね(笑)

 さらに今回、遂に『建国』という言葉の示すものが明らかに。小難しいことをいろいろ言ってはいましたが、つまりは「究極の現実逃避」って認識で問題ないみたいですな(←要約しすぎです) その最終目標自体は予想からさほど外れていませんでしたが(規模や方法等は外れた)、この期に及んでもベルゼブブ(本人)のあの行動の意味がわからない。うーん、何か読み落としてるのかなぁ……?

 ともあれ、長編はあと1冊ぐらいで終わりそう。気になるところで終わってることもあわせて、一刻も早い7巻の発売を期待したいところですが、次の予定は短編集とのこと(涙) まぁ、短編集も楽しみなのですが、7巻はいつぐらいになるんだろう……次の桜の季節とか言われたら哀しいなぁ……

 4/23 『カルドセプト創伝 ストーム・ブリング・ワールド2 -星を輝かせる者-』[冲方丁/MF文庫J]

所属する組織『サダルメリク』から、偉大なセプターとして知られるダイオン・フェランの娘、アーティミスを護るという使命を与えられ、彼女の住む「神殿」に遣されたリェロン。普段はぼんやりしている彼は、護衛対象であるアーティに何かと世話を焼かれつつ、表面上は穏やかな日々を過ごしていた。しかし、『王宮』の騎士団が神殿の自治権を侵し、駐屯をはじめたことによって、事態は急転する。

 しばらく月刊状態の冲方氏、今月の作品は先月発売された「カルドセプト創伝」の下巻。同名ゲームの設定を下敷きにした、正統派ファンタジー&ボーイ・ミーツ・ガールな物語。

 上巻では、リェロンとアーティ、それから学友たちの交流が大部分を占めていたためか、ラブコメ色の強い雰囲気だったのですが。この下巻ではカルドの使役者であるセプター同士の戦闘の場面も増えて、そういう方面でも楽しめました。ゲームのルールとかカルドの性能とか、そういう細かい事柄を全く知らなくても、必要最低限のルールは作中で示されているので無問題ですし。ただ、そういうことも知っていたら「私ならこうする!」等、色々考えられてもっと楽しめるかもしれません。つーか、ちょっとこのゲームやりたくなってきたかも……。ちなみに、もとになっているゲームの戦闘は、どうやらMAGICをはじめとするTCGのような感じみたいです。

 一方、ラブコメな部分も完全に消えた訳ではなく、ややシリアスになりつつも話の邪魔にならない程度に織り交ぜられていまして。その仲の良さというか絆の強さというかは、「あぁもう、この無自覚バカップル(死語)め!」と思わずツッコミいれてしまうほどでした(笑)

 ただ、話の展開自体はそれほど意表をついたものではなかったのが、個人的にちょっと残念でしたかね。この方の作品は、もっとこう独特の、波長の合った読者は強制的に酔わせてしまう、そういう吸引力というか雰囲気が気に入っていますので……その点は、正直物足りないといえば物足りませんでした。とはいえ普通に面白い作品だったし、アーティやリェロンたちの今後も気にはなるので、続編も是非出て欲しいです。

 4/25 『流血女神伝 女神の花嫁(前編)』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]

流血女神の二つ名で恐れられる大地母神ザカリア。女神の忠実な僕であり、その寵愛を受けているとされるザカール人長老の家系には、女神との「約束」により男児しか生まれない筈だった。しかし、999番目の長老として生まれたラクリゼは、女。「呪われた子」として父親の愛を得られず、また周囲には男と偽って育てられた彼女は、武芸や学問に打ち込むことでその苦しみを紛らわせていた。そして、彼女が12歳になった年、一人の少年が村を訪れた。彼の名はサルベーン。かつてザカールの村を棄てた女と、ザカールにとって仇敵とも言えるルトヴィア人との間に生まれた混血児だった。

 架空歴史ファンタジー「流血女神伝」、今回は外伝。主役を務めるのは、本編にて主人公のカリエを裏に表に守りつづけているザカール人の女性・ラクリゼで、時間軸では本編より十年程過去になっています。作品の雰囲気も『海駆けるアホ』……じゃなくて、『天気晴朗なれど…』とは違って重い。須賀さん本人もあとがきで仰っていますが、外伝とはいえほとんど本編同様な、時間軸が違うだけという作品。

 「女神の花嫁」という副題に相応しく、これまでになく詳細に流血女神及びザカール人周辺の設定がいくつも明らかにされています。特に、本編にも絡んで重要な、ザカール人にとっての「女神の娘」が如何なる存在なのかも、これではっきりと認識できましたし(……「女神の娘」は勿論、長老も哀れだよな。この設定……) しかしまぁ、選民思想に裏打ちされたザカール人の思想と閉鎖された箱庭のような社会は、読んでて居心地が悪かったですね。いや、こういうのあまり好きじゃないので……。そんな中で育ったラクリゼも、最初はザカール人であることに固執して、また自分が女性であることを知られてはいけないと必要以上に頑なになっていたせいもあってか、尊大な性格でしたが。「外からやってきた少年」との交流により、変わっていきます。しかし、彼女を変えたのが本編における胡散臭い男No.1のサルベーンというのがなんともはや。子供の頃だからと言っても、彼の場合は性格は幾らか違ってても、本質的な部分は変化してなさそうだもんなぁ……。

 それから、今回の話で特に感じたのは、言葉は悪いけれどなんだか生臭いな、と。それも、これまでの政治的なドロドロや、よくある戦争モノとかでのそれとは違って……なんて言うか、もっと身近な生臭さが透けて見えるというか。カリエの物語では彼女のあっけらかんとした、作者曰く「ラクリゼより遥かにアホ」な(笑)性格に隠れて誤魔化されているものが、真面目で責任感の強いラクリゼ中心の話になると、浮かび上がってきたというか……上手く表現できないのですが、そんな印象。

 ラスト、二人してザカールの村から出たラクリゼとサルベーンですが。お互いに支えあってるというか頼りにしあっている二人が、どうして本編のような微妙な関係になったのか。また、ラクリゼがどのような状況で女神と「契約」を交わしたのかも気になるところ。(「契約」と言えば、彼女の「代償」も気になりますよね。言葉のままなのか、その能力なのか……) この辺りは、後編で明らかになるのでしょうか。後編では多分ちびカリエも見られるでしょうし……うーん、色々と楽しみ。

 4/26 『キターブ・アルサール 皓い道途』[朝香祥/角川ビーンズ文庫]

敵国ディラムの虜囚となった異母兄ファラン。彼を敬愛するアルセスは、しかし故国奪還の為に私情を押し殺して指揮をとる。一方のディラムでは、義母とカダ・シエナ高官によって奴隷に落とされたサイードを中心に、現政権に対する反抗の準備が進められていた。

 正統派ファンタジー「キターブ・アルサール」第3巻&完結巻。

 結末自体は割と予想の範囲内でしたか。前回登場したサルジュが、最終的に担った役割も。ですから、物語上ではあまり意外性はなく、無難なところでまとめたな、という印象。個人的趣味を承知で言えば、外交面での駆け引きやもっと濃い目の謀略戦も見たかったですかね。

 しかし、キャラクター的には少なからず驚かされたりも。特にファラン。前巻までは、「ヒロインじゃないんだから」と呟いてしまったりもしていたのですが、今回は「あなた、実はそういう性格ですか!?」と見直して(?)しまう場面が多々。また、サイードの異母弟ティルフの立ち回りも個人的にはいい感じでした。サイードとアイシアの関係も、一応きちんと決着がついたので満足。アルセスも、それなりに主人公らしくなっていましたしねー。しかし、従者のお兄さんは1巻での重要人物的扱いは何処へやら、と言いたくなるぐらいに完璧脇役になってる……風の民の二人のほうが、よっぽど目立ってたし(笑)

 さて。故国奪還の物語は完結はしたものの、ところどころで謎な部分も残っているので、そのうち外伝を書いてくれれば嬉しいところです。

 4/27 『レリック・オブ・ドラゴン 世界樹の水晶』[真瀬もと/角川ビーンズ文庫]

半年前に巻き込まれたイスカウトの騒動以来、度々頭痛と奇妙な幻覚に悩まされるようになったロルフ。原因は、彼の中で覚醒しだしている「世界樹の水晶」という特殊能力にあるらしい。身を護るため、契約上の主人であるアンセルムの館に身を寄せるロルフだが、彼の力を欲する黒の魔術師ディ・エムリスは巧みに状況を操り、ロルフの身柄を得ようとアンセルムに罠をかける。その過程で、ロルフが兄のように慕っているエドガーが諜報組織<12>の標的とされ――。

 20世紀初頭、第一次大戦後の英国を舞台にしたゴシック・ファンタジー、完結編。もう少し続くかと思っていたので、少々意外でした。

 面白かった。以上。……いや、冗談ですけど。でも実際、この一言で感想が言い尽くせてしまうんですよね。ロルフを中心に窺い知ることが出来る、アンセルムとディ・エムリスが持つ価値観の相違と、彼らの奇妙な友情(?)に裏打ちされた遣り取り。ハワード教授が率いる<12>の崇高な、しかし普通の人間から見れば常軌を逸した実験及び目的やら、こんなの読みたいなぁと思っていたエピソードはあらかた読めたので。他にも随所で、これまでの伏線を利用して一気に最後まで読ませてくれた、という感じでしょうか。

 少しだけ登場人物の話。ロルフに関してはエドガーの幸せ第一なのは変わりないものの、アンセルムともそれなりに友好関係が築けているようで何よりです。一方、エドガーとアンセルムは……色恋が絡むだけに、あれ以上の歩み寄りはやっぱり難しいのだろうなぁ……二人して、面倒な女性に惚れるんだから(苦笑) それから、前回だけのゲストかと思っていたダフネの登場が嬉しかったです。やっぱり可愛いなぁ、このお嬢さん。タフタフも役立たず(いや、今回はちょっとだけ役に立ったか)とはいえ、ぷりてぃなので何でもいいや、という感じだし(←動物好き) この一人と一匹の登場している場面は、微笑ましくも暖かい雰囲気があってお気に入りです。ついでに、ハワード教授とエリオット。傍迷惑には違いありませんが、あそこまで堂々とされるとかえって清々しい……と思う私は、やはり何か間違ってますか?

 3巻まできて、話も面白くなってきていたと思うだけに、これで完結というのが残念。作者さんとしては同一世界を舞台にした作品の構想があるみたいなので、そちらに期待。……でも、やっぱり彼らの話の続きも読みたいなー。一話完結形式でいいから、今後も続編出してくれないかしら。

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