■ 2003.3月読書記録

 3/1 『レディ・ガンナーと宝石泥棒』[茅田砂胡/角川スニーカー文庫]

ゲルスタインの事件で知り合った異種人類の少女ミュリエルに招待され、彼女の故郷であるローム王国を訪問することになったキャサリン。これまでとは違う気楽な旅に心を弾ませていたキャサリンだったが、偶然駆け落ちの相談を聞いてしまう。これが、またもや起こる一騒動の幕開けだった。

 暴走お嬢様と愉快な仲間達のお話、第3弾。これまでのだいたい同じ、水戸黄門的勧善懲悪なノリで話が進みます。

 話が転がりだすのが中盤以降なので、そこに行き着くまでは少しタルいと思わなくもなかったですが、後半の勢いはさすがと言うべきか。ただ、話の本筋にほとんど捻りがないので(…つーか犯人、登場する前の人物評で見当ついたし…)、謎解きとかそういう面ではいまいち。
 総評としては、安全牌ではあるけれど、正直それ以上の評価は出来ないかも、というところ。もっとも、軽く読む分にはこれで十分ですが。でも、どうしても『デルフィニア戦記』レベルの作品を期待してしまうんですよねぇ。まぁ、次巻に適当に期待。

 独り言。ダムーのミュリエルに対する態度、やっぱりちょっと酷いよなぁと思いつつ、泣いて逃げるほど嫌いな存在がある身としてはあの行動も理解できてしまう。うーむ、複雑な心境だ。

 3/5 『シャリアンの魔炎』[ゆうきりん/集英社コバルト文庫]

シャリアン聖国の下級貴族の娘として生まれた少女、リリーベル。父が亡くなったあと、継母の策略でアースオン伯爵――リリーベルが淡い思慕を寄せている聖騎士アリエスの父親に、その第5夫人として迎えられることになる。しかし、伯爵家に向かう道中で、彼女は身代金目当ての賊に誘拐されてしまう。実家はもちろん伯爵からも見捨てられ、窮地に陥った彼女の前に現れたのは、シャリアンの貴族を無差別に殺害し続け、≪獣≫と恐れられている男だった。

 ゆうきりんさんの新シリーズ。あらすじを読んで、好みっぽかったので購入しました。

 とりあえず、話の主軸は唯一神信仰と土着の多神教の対立、といったところでしょうか。題材が題材なので予想してはいましたが、そのとおりの暗めの正統派ファンタジー。どこか、以前コバルトで刊行されていた「薔薇の剣」シリーズ(全8巻完結)を思わせる雰囲気があります。故に、好みはかなり分かれそう……いや、「薔薇の剣」がかなり好き嫌いが分かれる作品らしいのでそう思うだけですが。

 唯一神の名の元に行なわれた「聖戦」という名の虐殺や、腐敗しきった貴族や聖職者の姿といった、中世期の欧州を思わせる陰鬱な雰囲気がGood。一方の異教徒たちの生活も、リリーベルの微かな心境の変化に伴なって、その素朴な魅力が見えてきたりして良かったです。しかし、対立する二つの宗教はどっちもそれなりに問題ありだよな、と思ったりしましたが、まぁそれも良し(笑)

 ラストで、≪獣≫のルァズと共に行くことを決めたリリーベル。他にも、因縁の出来たアリエスとルァズの次の邂逅など、今後の展開が気になります。

 話の大筋に関係ないけど気になったこと。作中で語られる、リリーベルとアリエスの剣の師匠の容貌が二種類あるのは、やっぱり誤植なんだろうか。

 3/9 『ブギーポップ・スタッカート ジンクス・ショップへようこそ』[上遠野浩平/電撃文庫]

 どうも作中で使用されるスタッカートの意味が、私の解釈とは違っている気がして仕方のない今日この頃。まぁそれはさておき、ブギーポップシリーズの12冊目です。

 そろそろまとめに入りつつあるのかな、というのが読後の第一感想でした。それ以外は……うーん。なんというか、バトルロワイヤルみたいな話だったな、とか(……自分で言ってて、そりゃ違うだろうと思うけど)

 個人的には、平均的に楽しめるけれど、話がまだ熟成しきれてないんじゃないかな、という思いがつきまとう作品でした。やはり、『パンドラ』など初期ほどのインパクトは無くなってると思うし……まぁ、特殊能力バトルもそれはそれで面白いんですけどね。

 ところで、統和機構の次期「中枢」(正確にはその管理人)候補として目をつけられた様子の彼女ですが、彼女には一般人のままでいて欲しいと思う私は、少数派なのでしょうか。

 3/10 『アリソンII 真昼の夜の夢』[時雨沢恵一/電撃文庫]

「歴史的な大発見」により、大陸を二分する陣営で繰り広げられていた、長い戦争が終結した。それからしばらくして。冬期研修旅行に参加したヴィルは、アリソンの企みで彼女と一緒に過ごすことに。以前の冒険で知り合ったカー・ベネディクト少佐と再会したり、楽しい時間を過ごしていた彼らだが、偶然辿りついた村で思いがけない事件に首を突っ込むことになる。

 幼馴染の少年少女が繰り広げる、清く正しい(?)冒険小説『アリソン』の第2巻。ちなみに、前巻の事件で思わぬ出世を遂げたカー少佐が半分主役状態(作者公認)に。

 彼女たちの冒険はあれで完結にしたほうがいいのでは、と思っていたのですが。なかなかどうして、今作も面白かったです。全体的にほのぼのしていて、時々笑えるいい作品に仕上がっていたと思います。ご都合主義も許せるというか大して気にならないというか。そういった、キノとは違う優しい雰囲気が心地よくて。この続きもまた読んでみたいな、と素直に思うようになりました。

 キャラクターの話。アリソンとヴィル、二人の関係がおいしい。本人たち(特にヴィル)は意識はしていてもやっぱり幼馴染の延長として相手を見ている節があると思うんですが、傍から見るともうあんたらラブラブ(死語)じゃないのか?みたいなノリがツボです。
 脇役も、カー少佐は勿論、最初のほうに出てきたヴィルの友人やアリソンの同僚もナイスだったし。とりあえず、友人君の名前がそのうち明らかになるのかどうか、気になりますね(笑)

 追記。あとがき、なんでこう馬鹿ばっかりやるんだろうか。この方は……面白いけれどさ(笑)

 3/20 『カオス レギオン0 -招魔六陣篇-』[冲方丁/富士見ファンタジア文庫]

戦乱が続く混沌の大地、アルカーナ大陸。敵の侵略により危機に瀕したある都市で、万里眼が使いこなせず盲目となった少女・ノヴィアは、母の遺言を信じて一人の男の到来を待ち焦がれていた。その彼女の前に現れたのは、シャベルを担いだ赤髪の男。その男こそが少女の希望、聖法庁の「黒印騎士」ジーク・ヴァールハイトだった。

 先月に引き続き発売の『カオス レギオン』。今回は月刊ドラゴンマガジンで連載されていた短編5本に、書き下ろしが加わった短編集。

 前巻はジークの過去とドラクロワとの戦いに焦点が当たっていたのですが、今回は長編にてジークの従士として彼を補佐していたノヴィアが、そこに至るまでの姿が描かれています。それが軸になっていたためか、普通の短編集のように独立したエピソードを読んでいる、というより普通の長編作品を読んでいる、という感覚が強かったかな。

 前半では精神的にジークに大きく依存していたノヴィアが、自分の心を見つめて問題に立ち向かっていく姿が良かったです。また、試練を受けた後の台詞とか、大切な友人を救うために力を使う場面での一連の言葉など不思議と印象的。一つ一つを取ってみると割とありふれた台詞だと思うのだけれど、なんというか場面とばっちり合ってるというか。もうとにかく、この子は本当に健気で可愛かったです。
 また、長編において単なるマスコット的存在なのかと思っていた妖精のアリスハートにも、実は大きな意味が秘められていたことが判明したり、物語の背景に一層の深みが出た感じ。こういうことがあったからこそ、ノヴィアやアリスハートはジークを信頼して一緒にいるんだろうな、と。

 敵役がややパターン化していたのが気になったといえば気になりましたが、総評としては面白かったし満足です。少々駆け足気味だった長編と比べると丁寧な話の運びだったから、無理矢理感もなかったし。夏にはまた番外編が出るとのことで、今から楽しみです。

 3/21 『五王戦国志3 埋伏篇』[井上祐美子/中公文庫]

義京の乱から3年。形骸化していた<魁>王朝が滅び、耿無影の治める<衛>、<魁>の重臣だった魚支吾が統べる強国<征>、そして<魁>王朝の裔である夏氏諸国の三者が危うい均衡を保っていた。そんな中、<容>の地で雌伏の時を過ごしていた段大牙と耿淑夜のもとに、無影から連衡の誘いが届く。一方、西方では新興国<琅>では当主の死期が迫り、伯父の一人がその後釜を狙い暗躍する。それに対し、現当主から後事を託されている藺如伯の傍らには、淑夜と袂を別った赫羅旋の姿があった。
 

 古代中国をモデルにした架空世界で繰り広げられる戦国志、第3巻。<琅>も歴史の表舞台に登場し、いよいよ役者が出揃ったという巻ですかね。

 で、感想ですが。うーん、困った。何を書いてもネタバレになりそうな気がする(汗) 差し障りのないだろうことを書いておくと、淑夜がやや図太くなって謀士らしくなりつつあったり、羅旋が本人も気付いていなかった(というより、意図的に目を逸らしていた?)可能性に目を向けたりと、登場人物達の内面も少しづつ変化しつつあります。

 まぁそんな感じで、進む道を探る者あり、己を信じて進むものありで。そんな彼らが、いまだ定まらない時代の流れにどのように関わっていくのか。いよいよ盛り上がってきたというところです。……そういえば次巻では、彼らの再会があるのだったかな……

 3/22 『カルドセプト創伝 ストーム・ブリング・ワールド1 -星の降る都市-』[冲方丁/MF文庫J]

創造の女神カルドラが、世界を創りだした時に用いた『創造の書(カルドセプト)』。それは神々の戦いの果てに砕け散り、人間たちの住む地上世界に降り注いだ。地上に落ちた書物の断片は『神の石版(カルド)』と呼ばれ、神秘の力を人々にもたらした。『神の石版』を巡り、争いが絶えない世界――そこに、偉大な父から愛されたいが為に涙を封じた少女と、故国と家族を失い自らも微笑みを失った少年がいた。彼ら二人が出逢ったとき、運命の歯車は大きく回り始める。

 今月2冊目の冲方氏の作品は、DC及びPSで発売されている同名ゲームの小説版。ちなみに私、ゲームのほうは未経験なので、何処から何処までがもともとの設定なのかは分かりませんが、この小説版も十分に面白いと思いました。正統派ファンタジーで、ボーイ・ミーツ・ガールな物語。

 十二歳で全てを失って以来、感情の一部が欠落したように茫洋とし、それでも仇を討つために殺伐とした世界に身を置いていた少年・リェロンが、これから起こるという「嵐」を未然に防ぐためにセプター(カルドの使役者のこと)候補の少女・アーティという少女を守ることになる、というのが大筋な訳ですが。これまで送ってきた人生の経緯から一般の感覚とどこかずれているリェロンと、気が強くて面倒見のいいアーティの掛け合いが大変良い感じ。シリアスな話のはずなのに、まるでラブコメのようで(笑) その他の周囲の人々もそれぞれに味があって、面白かったし。

 一方、ほのぼのした情景の裏ではリェロンを始めとするセプター同士の争いも繰り広げられています。戦闘ルールは多分ゲームのままなのでしょうが、小説中で無理なく説明されているので特に理解し難いということもなく。「領土」とか「通行料」の概念なんか、面白いなーと思ったりして。しかし、リェロンの仲間であるゼピュロスの呟き(p.231)は微妙にぐさっときたなぁ……。

 新たな波乱の予兆が訪れて非常に気になるところで次巻に続く、となっているので来月刊行の下巻が楽しみ。アーティが見た、カルドに映し出される謎の存在など、消化されていない幾つかの事柄も明らかにされることを祈りつつ……。

 3/25 『二人の眠り姫 暁の天使たち4』[茅田砂胡/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]

 文句を言いつつ結局購入しつづけている「暁の天使たち」第4巻。まぁ、同人誌だと思えば腹も立たないというか、あるいは『スレイヤーズ』で言えばすぺしゃる、『オーフェン』で言えば無謀編のようなものだと思えば……(←やや自己暗示)

 しかし、今回は割と素直に面白かったです。あくまで上の前提に立てば、の話ですが。とりあえず、前巻ラストで復活したキングが、大人の余裕?で金・銀・黒の3人を眺めてくれたおかげで、これまでの話で感じていたウザさが随分影を潜めていました。なんというか、あの3人は緩衝材がなければ駄目なんだなーとしみじみ思いましたね。

 他。中盤で、タイトルにもなっている眠り姫のうちの一人、旦那に「最凶最悪の眠り姫」とまで言われた女王が復活。当たり前ですが、全然変わってなくて何よりでした(笑) 特にp.194の物騒な決意には、あまりにらしくて大笑いしてしまいました。どうやら避けられそうもない夫婦喧嘩がどうなることやら……。一方、もう一人の眠り姫は、ラストもラストでようやくその再起動に。そんなわけで、次巻もそれなりに楽しみになってきました。

 しかし、話の本筋はやはり見えないまま……無いのかな、やっぱり。

 3/26 『野望円舞曲 5』[田中芳樹(原案)・荻野目悠樹/徳間デュアル文庫]

 『銀英伝』帝国主従コンビ女性Ver.が主役で、通常の戦闘に加え経済面での抗争も繰り広げられているスペースオペラ4冊目。

 今回のノーラは、割と好意的に見られたかな。今までのように、他人を犠牲にしてもそれを省みたり悔いたりすることなく闇雲に突き進むのではなく、自分の選択を悩んだり迷ったりしながら進む姿が。でも、普通の恋する女性にはなって欲しくなかったんだけどなぁ(我侭) なんというか、もうちょっと……自分のその感情も軽やかに笑って抑えこむほどの鋼の意思とか、そういう一種のふてぶてしさ(?)が見たかったなぁ、と。

 その他の話。1巻から登場していた二人の人物が退場(一人は復活する可能性も無きにしも非ず) 予想以上にあっさりな退場だったので、なんかがっかりしてしまった。しかし、他の人物は元気に策謀を巡らしたりしてます。某保険屋さんとか、スケールの小さい陰謀家もいますが……まぁあの程度の相手、ジェラルドなら大丈夫だろう。うん。(←根拠無し) ところで、一応は仮想敵国であるはずのボスポラス帝国の提督たちが、足の引っ張り合いしてようともそれなりに面白いし魅力的な人たちだと見えるというのは、やっぱり私の趣味が悪いのでしょうか。

 さて。数多い登場人物のなかで、確実に宇宙規模の戦略を持っているだろうボスポラス帝国のケマル・エヴヂミク大宰相と、オルヴィエート国家元首レオポルド・ファルネーゼのお二人ですが。大宰相は、台詞は少ないものの存在感が違う、とやや贔屓目に思います。いや、作中で語られる彼の業績が、侵略行動を除いてどうもケマル・アタチュルク(注・トルコ共和国初代大統領にして、歴史上稀に見る天才的指導者。あるいは権力に溺れなかった独裁者)を思わせるもので。他にも曹操や信長、スレイマン大帝あたりも混ざってるみたいだけれど、どちらにせよこういうタイプの人が好きな自分としては、ねぇ(苦笑) 一方、レオポルド氏のほうはまた重要な情報をなんでもないように掴んでるし……つーか、素直にこの二人を中心にした群雄劇として(ノーラの行動も主役なればこそ気になるのであって、不確定分子としてならそれほど苛つかないと思うのです)話を展開してはいけなかったのか?とか思ったりもして(笑)

 さて、次巻はどう話が転がりますことやら。なにやら覚醒しつつあるノーラの能力や謎の女性との関係、大宰相閣下の次の目標など、伏線&気になることは意外に多いですからねー。

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