■ 2002.7月読書記録

 7/14 『GOTH リストカット事件』[乙一/角川書店]

処刑道具や拷問の方法を知りたがったり、殺人者の心を覗きこもうとする等、人間の暗黒部分に惹かれるものたちがいる。適当に周囲と合わせながら生活している「僕」もその一人。犯罪者や事件の現場を第三者的立場から傍観することを密かな楽しみとしている「僕」と、どこか似たような雰囲気をもつクラスメイトの森野夜。そんな2人が遭遇する様々な事件を描いた連作短編集。

 ……紹介文を適当に書いてみたら、かなり暗そうというか黒そうな話に見えますが、読んでみるとそれほどグロい感じはしないのが不思議。死体の描写なども結構書き込んでるはずなのですが、どこか乾いて淡々としてるというか。そういう文章を書けるのが、乙一氏の特徴だなぁ、と。ところで、この作品は実質主役コンビのラブコメに近いんじゃ……とか思った私はやっぱり変でしょうか?

 主役コンビの、似ているようで全く違うところとか微妙な距離とかが個人的には良かったです。だんだん普通の人(?)になっていく森野さんと、暗黒化が進行していく「僕」の姿が対照的で。また、p.319の「僕」の声に出さない独白とかに、ちょっとぞくっとしたり。で、そんな2人の会話はやっぱりどこかラブコメっぽいと思うんですけど……他者の同意は得られそうにないか?

 収録作品で一番好きなのは……ちょっと決められないです。どれもそれぞれ面白かったし。あえて挙げれば「土」かなぁ、という気もしますが。本当に僅差で。でも、他の作品も良かったですし……(以下堂々巡り)

 追記。何気にカバーめくってみたら吃驚しました。こういうお遊び(?)があるとは思ってなかったから。

 7/23 『暁天の夢(上)・(下) 長安異神伝』[井上祐美子/中公文庫]

 伯父である天帝との軋轢から人界に降りた二郎神君が、唐代の長安で遭遇する様々な事件を描いた物語。今回のエピソードで完結です。

 今回の話は平たく言えば、これまでも度々語られてきた、半神半人である二郎の内心の葛藤に対する決着、ですね。それに関連してとんでもない事態が発生し、大騒動(……というレベルですむ話か?)となり。でもまぁ、ラストは一応ハッピーエンドになるでしょうね。二郎とその恋人・翠心は、今後は穏やか……かどうかはともかく、幸せな生活が送れそうですから。ところで、巻末に何も書かれてないって事は、ラストは新書版と変わってませんよね? ……ってことは、もしかしなくても私、随分長い間記憶違いしていた模様です(この巻は借りて読んでたもので記憶があやふや・汗) なんかもっと救いがない終わりだったように思っていたのですが、今回読むとハッピーエンドだったのであれ?と思ったりしましたが(笑) 同時期に読んだ別の本とごっちゃにしてたんでしょうね、多分。

 話変わって。最終巻で、二郎や翠心よりも韋護と三娘が目立ってた……と思うのは、ファンの欲目でしょうか。この2人は今後どうなるのかなぁ。個人的には、三娘に迫られてあたふたしてる韋護の姿が目に浮かぶんですが(笑) この2人だけでなく、他のキャラもそれぞれ味があってよかったです。太歳童子は出番は少ないながらも重要な仕事をこなしてたり、『還魂の花燈』で登場したばかりなのでこれはもしや見せ場なし?と危惧していた曹無常も意外と出張っていたりして。……実は、曹よりも二郎の旧来からの部下のほうが印象薄かったりしたのは、はたして私だけなんだろうか。

 7/26 『流血女神伝 砂の覇王8』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]

 「流血女神伝」エティカヤ編(とはいっても、今回の舞台はルトヴィアだったり)の第8巻です。

 というか、何を言えばいいのだろう……「リシクの大祭」の日の出来事のせいで、読了後も呆然とした気分が抜けません。いや、以前にあったラクリゼとサルベーンの会話から、いつかはこういう場面が来るんだろうな、と予想はしてましたよ。だけど、よりにもよって相手がサルベーンだとは思ってなかったもので吃驚したというか……まぁ、この出来事がきっかけとなって、カリエもザカール人と女神について知ることになったので、それはそれでよかったというか必要なことだろうとは思うのですが、でもサルベーン……凄く複雑な心境だわ。私が彼にあんまり良い印象ないから余計にそう思うだけなのかもしれませんが……どうせなら、マヤルが良かったなぁ(遠い目) ところで、サルベーンの告白の場面で「こいつ、殊勝なこと言っても何か企んでそうなんだよなぁ」とか思ったりした私は、何か間違ってるでしょうか。

 それ以外の登場人物の話。ドーン兄上……この人も、どんどん深みにはまっていってますね。カリエが一瞬垣間見た幻も意味深だし。なにより最後の一言は、否応なく嫌な予感を掻き立ててくれますが(涙) ミュカはミュカで、いろいろと辛いでしょうし。それから、トルハーンとギアス。雑誌の『Cobalt』で連載されていた外伝(彼らの若かりし頃の話)を読んでいたためか、何で彼らがこういう境遇にならなくてはいけないんだろう、と非常にやるせない気分になりました……。最後にマヤルに一言。この甲斐性なし(←それは逆恨みというものです)

 話題転換。誰かが国のためを思って行動しても、現実の壁は厚くなかなか思うようにいかない。民衆もまた、大きな枷となってくる――そんな具合で、ルトヴィアという大国が本当にどうしようもないほど病んでいることが判明した巻でもありました。特に今回は、所々で描写される民衆の姿に、溜息しか出ないというか。これはもう、どうしようもないかもしれない、と一瞬思ってしまったのがなぁ。あれじゃ、ドーンやグラーシカやミュカといった面々がいくら尽力しても、ちっとも報われなさそうで辛いです……。そんなこんなで、これまで以上に気鬱になる場面が多かっただけに、廃帝宮での先帝とその皇妃の関係や舞踏会の場面などは素直に和めて、後光が差してるような気さえしました(言い過ぎ) 良い息抜きというか、笑って読める貴重な場面というか。

 とにかく、いよいよ次巻で長かったこのエピソードも完結。物語がどのような展開を見せるのか。ますます目が離せなくなってきました。

 7/27 『エンジェル・ハウリング5 獲物の旅――from the aspect of MIZU』[秋田禎信/富士見ファンタジア文庫]

 「エンジェル・ハウリング」シリーズ5巻目。奇数巻の今回は、書下ろしのミズーサイド。正直、私ってこの話の内容を十分の一も理解していないのではないか、と真剣に考える今日この頃。
 私が話をつかめていないせいもあるでしょうが、どうにも感想が書きづらい話ではあります。面白くないってわけじゃないんですけどね……完結してから一気読みしたら、もうちょっと内容掴めるかな……自信ないなぁ(遠い目)

 基本的にシリアスですが、今回は3巻最後で登場したジュディアと行動を共にしているためか、どことなく和やかな(本人意識してないですが)雰囲気。ちょっと吹きだすようなシーンもあったし。ジュディアとの関係は、全面的に信頼してるってわけじゃないのが面白いかな、と。

 しかし、微妙に話が進んでるんだか進んでないんだか良く分からないというのに、作者さんの中では中盤に差し掛かってたんですか……いや確かに、今作で伏線が多少解消されてましたが……やっぱり私の理解力の低さが問題なのか(沈)

 7/28 『神々の憂鬱 暁の天使たち2』[茅田砂胡/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]

 前巻が私的には「どうもなぁ……」という出来だったので、購入するかどうか真剣に悩みましたが。結局、一縷の希望を捨てきれずに購入。(←微妙に酷い言い方)

 結論から言うと、前巻よりはまし?という感じ。でもやっぱり、作者が自作品の中でも特にお気に入りのキャラを猫可愛がりしている、という印象が拭い切れなかったり。だって、ダン親子の描き方が……なんだかあんまりなように思うのは私だけ? それから、メインキャラの思想にちょっとついていけないのも辛いかも。特にシエラは、ここでこういう発想・対応する人じゃなかったと思うんだけど……という部分が目について。ついでに言うと、作者がこのシリーズで何を書きたいorなにをやりたいのかさっぱり分からないし……細かいことを気にしたら負けなんでしょうが。

 まぁ、当分様子見、というところ。次回が気になるヒキではあるので。問題は、キングと女王がどういう復活をするか、ですね。それと、現在消息不明のダイアナも。デル戦の人たちは……どちらかといえば、登場して欲しくないような。あの人たちにまで周りを見下す態度取られたら、さすがに立ち直り不可能ですからね(-_-;

 最後に一つ、気になった点。前回を入学準備編にして、今回から学園生活開始させたほうがすっきりして読みやすかったと思うんですけど。禁句? しかし、こういう読み方する私って作者にとっては良い読者じゃないんでしょうね(微笑)

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