■ 2002.8月読書記録

 8/1 『夏休みは命がけ!』[とみなが貴和/角川スニーカー文庫・ミステリ倶楽部]

夏休みのある朝。瓜生高明は駅で今はすっかり縁遠くなった幼なじみ、五郎丸諒とすれ違う。その様子のおかしさが気になった瓜生が五郎丸の妹・綾に電話すると、とんでもない事実――祖父の猟銃が持ち出され、部屋には遺書が残されている事が発覚する。綾の頼みを断りきれず、瓜生は五郎丸のあとを追って東京行きの電車に乗る。こうして、瓜生のとんでもない一日が幕を開けた――

 講談社のホワイトハートで、レーベルに見合わないほど骨太の作品を発表されているとみなが貴和さん、別レーベルでの初作品です。「ミステリ倶楽部」からの出版ですが、ミステリというよりもアクション&追跡モノ?(←そのまま過ぎ)

 『EDGE』とはまた違うスピード&緊迫感があって、面白かったです。なにより、上手い方ですから作品にもあっという間に引き込まれてしまいましたしねー。とりあえず、幼なじみを探すのが目的だったのに、気がついたらその筋の人に追いかけられるという散々な目にあってる瓜生君には同情します(笑)

 ラスト、このまま丸く収まって終わりかな、と思っていたら……いやはや、正直意表を突かれました。今後二人(特に五郎丸)がどうなるのか気になります。しかし、まともに登場したのが最後の最後だけの劉氏をあっという間に気に入るあたり、私の趣味の悪さは救いようがないみたいです……

 ところで、今年はもうこの作品が発売されたということで。もしかして、『EDGE4』は来年なんでしょうか(滂沱)

 8/2 『愚者のエンドロール』[米澤穂信/角川スニーカー文庫・ミステリ倶楽部]

神山高校の文化祭は非常に活気がある。その文化祭に自分たちも参加したいと、あるクラスの文化系部活に所属していない者たちが自主制作映画を作ることにした。夏休みも終盤のある日、古典部に所属する「省エネ」少年・折木奉太郎は、部活の仲間・千反田えるに誘われてその映画を鑑賞することに。だが、ミステリ仕立ての映画は解決をみないまま、中途半端なところで終わっていた。

 昨年『氷菓』でデビューなさった作者さんの新作。時間は前巻ラストから少し遡りますが、主役も舞台も一緒なので続編と言っても良いかと。

 前回と違って一章で一つの謎を解いていくという形ではなく、諸事情から途中で終わってしまった映画の結末を検討・探していくという、まぁ一本道ですね。とはいえ、映画を製作した2年F組から3名が登場して彼らなりの考えを披露、それを奉太郎をはじめ古典部の面々が検討していく形で話が進んでいくので、前回ラストの謎と同様に少しずつ情報を積み重ねていく部分は変わってないように感じられました。

 オチは、『氷菓』に比べるとややビターだったかな。でも、今回もまた地味に面白く仕上がっていて、個人的には満足でした。

 独り言。あとがき……寿司屋の話、密かに気になってたのに(T_T)

 8/5 『黎明に向かって翔べ』[高殿円/角川ビーンズ文庫]

琅蘭帝国に伝わる神話に、このような一節がある。滅びと戦を司る天狼君。その化身は右手に瑪瑙を握って生まれ、世が禍に満ちた時、赤狼を従え民を導くという――。そのような神話を歯牙にもかけない琅蘭の第二皇子・太白は、あるとき忌み嫌われる赤い瞳の少女と出逢う。名も無く言葉もやや不自由なその少女を珊瑚と名づけ、彼は自らの館に連れ帰ることにするが……

 これまでずっと時代は違えど同じ国での物語を書いてこられた作家さんですが、今回は中華風の世界を舞台にした物語(でも、リンクはしてるんですけどね)

 話としてはまとまってるし、だいぶこなれてきた感じ。あと、一話完結だからか幾分軽く読めました。ただ、個人的には「遠征王」シリーズのほうが好みかなぁ。キャラ的には、今回の話もけして嫌いってことはないのですが。王朝滅亡への推移が、ちょっと「えええ?」と思えてしまったので……ここで、超自然的力が使用されるのはいまいち好きじゃないので、私。まぁ、この辺は完璧に個人の趣味ですから話半分で聞き流してくださいませ。

 それ以外はまぁ、展開的に多少地味というか王道パターンではありましたが、安心して読める作品でした。

 8/8 『パラサイトムーンIV 甲院夜話』[渡瀬草一郎/電撃文庫]

かつて、異能者の相互援助組織・キャラバンに甲院派と呼ばれる派閥が存在した。彼らの実験で、人為的に神群の影響を植えつけられた子供達――その一人である乾真砂は、甲院派壊滅後10年、紆余曲折を経て迷宮神群の研究者・榊糾の警護を引き受けることになる。一方、甲院派の大幹部であった仙崎竜太郎が、唐突に行動を開始した。榊糾の隠し持つある物を手に入れるために――

 そこに存在するだけで人間に様々な影響を及ぼす迷宮神群を巡る物語、「パラサイトムーン」の第4巻。これまでの3冊を第一部とすると、この4巻からは第二部といったところでしょうか。これまでの主人公たちとは異なり、最初からある程度キャラバンと関わりを持つ少年が主人公となっています。しかし、これまでの話が全く関係ない、ということはなく……詳しくは読んでからのお楽しみですが、諸々の糸が絡まった結果、今回の事態が導き出されてきた、という形ですね。この辺り、なんとも自然で上手いな、と思いました。

 今回は、わりと新登場人物やこれまで顔見せ程度だったキャラや設定の紹介&掘り下げの色彩が強かったような。そんなわけで、最初は「面白くないわけじゃないけど、少したるいかな」と思いながら読み進めていましたが後半は展開が早くて。しかも、気になるところで以下続刊――次は11月になるのでしょうかね。素直に楽しみです。……でも、カーマイン氏は登場しないだろうなぁ(今回ちらりと出てきた話で、少し興味)

 で。毎回言ってることですが、すみません今回も言わせてください。やっぱりイラストは、どう贔屓目に見ても合ってないと思います。いっそ、これも『陰陽ノ京』の人に描いてもらう訳にはいかないのでしょうか(涙)

 余談。密かに第3章の扉絵にかなり大きな誤植がありますが、作者HPで本来の文章がUPされています。気になる方は、訪問なさってみては如何でしょう。……しかし、丁寧というか律儀な方だなぁ……

 8/9 『キノの旅VI -the Beautiful World-』[時雨沢恵一/電撃文庫]

 キノとエルメス、一人と一台の旅を綴った連作短編集、いつの間にやら6冊目です。
 内容的には、いつもどおりの寓話調。1巻発売当初は、このパターンであまり続けてもすぐに飽きるんじゃないかなぁと思ってたのですが、意外と飽きませんねぇ。

 今回のキノは、傍観者的立場を守ってるという印象。「忘れない国」ではおいおい、何か一言ぐらい……と思わなくもなかったり。あと、シズ&陸の「祝福のつもり」は良かった……と単純に言うのもどうかと思うのですが、でも良かったです。ラスト、少し物悲しくて。しかし、女の子の名前をどうしても読み間違えてしまう自分がいる……特別ガン○ムファンというわけでもないのに、何故。師匠の話は……この人は、やはり最恐……もとい、最強ということで(笑)

 ちなみに、あとがき(?)&著者近影はやはり無茶苦茶(笑) ついでにいうと、巻末特別問題は私には無理でした(←一応挑戦はした・笑)

 8/18 『明天快晴<あしたははれるさ> 金陵城内記』[真樹操/角川スニーカー文庫]

 このサイト、基本的にその月の新刊を中心に紹介してますが、今でも普通に入手できるなら過去に発行された作品の紹介も良いだろう、と思いまして。お気に入り作品をちまちまと紹介していくことにしました。

 前置きはこのぐらいにして、作品紹介。この「金陵城内記」はある意味凄く所帯じみた話です(いや、本当に) 物語の舞台は北宋の都市・金陵(現在の南京) そこそこ成功している商人の七男坊・田子玉が、科挙に落第したため実家に居辛くなってしまい、伯父で高名な学者(学識に反比例するように生活能力低し)の公孫光の家に転がり込んだことから始まります。一作目は短編集の体裁で、前述の二人に加えた他のメイン登場人物(公孫家の家事全般を取り仕切る段おばさん、気が強い上に手癖が悪い狐使いの少女・巧娘、公孫先生の教え子で変り種のお役人の蔡思文)の日常と関わることになった事件の話。

 この巻は特に、劇的な展開や派手な捕り物があるわけでもないのですが、登場人物らの営む普通の(たまに厄介ごとに巻き込まれながらの)庶民生活が伝わってきて楽しい。なにより、作品の持つほのぼの明るい雰囲気が気に入ってます。
 ついでに、中国モノとは信じられないぐらいに読みやすいです。しかし、時折出てくる時代考証等は意外としっかりしてて手を抜いてる気配はなし(最近読み直してそう思った) 中国モノは敷居が高い、という方にも是非読んでいただきたい作品です。

 ……ところで、これまだ普通に買えますよね? よく行く書店の棚に並んでるのでまだ大丈夫だろうと思ってるのですが、一応bk1やAmazonで検索してみたところ引っかからないので微妙に不安。たった5年前の作品なのに……どうもライトノベル系統は消えていくスピードが速いですからねぇ。

 8/19 『明星快演<スターのでばんだ> 金陵城内記』[真樹操/角川スニーカー文庫]

ひょんなことから公孫家に住みついている流れ者の狐使い・巧娘。彼女が金陵で大人気の舞台役者・簫国華(正確には彼の演じる二郎神君)に熱を上げているのを見て、同じく公孫家に居候中の田子玉はなんとなく心配していた。そんなある日、簫が何者かに追われて公孫邸に逃げ込んできた。なりゆきで、知り合いの役人・蔡思文を頼ることになるのだが……

 「金陵城内記」2巻目。今回は、アクション数割増(前巻比)の一本立て。

 ゲストの簫国華がどうしょうもない奴で笑えます。女好きで自分勝手で日常生活での記憶力は無くて……と欠点だらけなのですが、舞台に上がると人が変わる。こんなのでもやっぱりプロなんだねぇ、という感じ。自分に関わってこない限り(強調)、こういう奴は好きです。身近にいようものなら、色々と振り回された蔡さん(……いや、苦労の半分は身から出た錆か。この人の場合)状態になりそうで嫌ですけど(笑) で、もう一人のゲストだった徐奉さんは、簫と比べるといまいち存在感が薄かったような。出番が中盤からだったせいもあるだろうけど。

 ちなみに、完全に話の外にいた公孫先生は、最後の最後でいいところを見せてくれました。あれで、もう少しでいいから生活能力があればいいんだけどなぁ……それじゃ、公孫先生じゃなくなっちゃうか(笑)

 8/20 『明朝快走<あしたもげんきで> 金陵城内記』[真樹操/角川スニーカー文庫]

生活能力の低い伯父・公孫光に、居候の巧娘とそのペットの狐・小宦に囲まれ、気苦労の絶えない日々を送る科挙浪人中の田子玉。一方、公孫が妖狐使いだと、役所に訴えが寄せられる。下手をすれば謀反の容疑にもなりかねない訴状に驚いた蔡思文は、恩師を助けるために行動を開始する。

 「金陵城内記」3巻目にしておそらく最終巻。……今さらに気がついたのですが、子玉と私、実は似たような境遇なんですよね……(注・当方、本年度公務員試験不合格)

 ……落ち込んでても仕方がない、気を取り直して紹介行きます。えっと、今回は2本立てですが、話の中心は公孫先生に絡む誰か(隠さなくても、結構すぐに怪しい奴は明らかになりますが)の思惑。その誰か、先生になにやら遺恨があるようなのですが……当の本人はちっとも思い出してくれないばかりか、実は最後まで自分が事件に巻き込まれてたことに気がついてなかったんじゃないか、という(笑) おかげで、苦労するのは蔡さんと子玉君ばかり……別にいつものことか(酷) それから、子玉と巧娘は、出会った当初を思うと随分仲良くなってます(恋人同士、というのではなく兄妹みたいに) これ以上の発展は……どうなんでしょうねぇ?(←人に聞くな)

 さて、この『明朝快走』が発売されてから早三年。続編は無理でも、せめて新作発表されないかなぁ(ほろり)

 8/21 『ジオメトリック・シェイパー 桜の下にカミは眠る』[紙谷龍生/富士見ファンタジア文庫]

 えぇと……いわゆる一つの学園伝奇モノ? ……すみません、これ以上適切な解説が思いつきません(平謝)

 戦闘方法は割と珍しいほうで、なかなか面白かったです。ただ、それ以外は……よく言えば王道パターンな話だったなぁ、と。予想した展開が滅多に外れなかったので、ある意味楽しかったですけど。
 で、続けようと思えば続けられなくも無い終わり方でしたが。続刊出すなら、もう少しこっちの意表をつく展開を見せて欲しいかなぁ。

 独り言。……途中のとあるシーン、マジでやめて欲しかった……富士見だからまさか本気であの展開にはしないと、分かっちゃいましたが。それでもコバルトやホワイトハートで地雷踏みまくった思い出があるから、条件反射で身構えちゃうんですよ。あっち系が苦手な人間としては(涙)

 8/22 『野望円舞曲 4』[田中芳樹(原案)・荻野目悠樹/徳間デュアル文庫]

 『銀英伝』帝国主従コンビ女性Ver.が主役のスペースオペラ4冊目。経済面での闘いも、この作品の特色かも。

 うーん、やっぱり2巻での彼女の行動が後を引いているのか、どうも私、ノーラを好意的に見られないです。ピンチの時は、最低一回は泥棒さんが助けてくれるってパターンも……まぁ、この辺は個人の趣味ですが。でも、今回は彼女も頑張っていたとは思います。ただなんというか、ノーラって詰めが甘いからか、結局世間知らずのお嬢様みたいに見えるんだよなぁ……。

 その他の話。新キャラも登場したり、人類の裏で蠢く機械知性体の存在も明らかになりつつあったりと、様々な展開が。正直、ノーラの行動よりもこっちのほうに重点を置いて話を進めて欲しいかもと思ったり思わなかったり。

 ……なんか、自分で書いてて「あんた、実はこのシリーズ嫌いか?」とツッコミいれたくなる感想になってしまった。別にそんなことはないんですけどね。ただ、私的ツボから微妙に外れたまま話が進んでいってるので、完全にのめりこめないだけ(^_^;

CopyRight©2000-2006. haduki aki. All rights reserved.