■ 2002.1月読書記録

 1/1 『キターブ・アルサール 赫い沙原』[朝香祥/角川ビーンズ文庫]

一面に広がる「赤い沙原」サハラー・アフマル。この地はその地理的要因から統一国家が成り立ち難く、小さな都市国家が並び立っている。 その中の一つエラーンが、敵対するディラムによって征服された。何とか落ちのびた領主の末子・アルセスは父の言葉に従い、「誓約」によって代々一族を守護する「風の民」のもとへ身を寄せる。

 コバルトで三国志(呉)や古代日本を舞台にした小説を書いてらっしゃる作家さん。今回はオリジナル設定でのヒロイック・ファンタジー。直球勝負というか、正統派な作品に仕上がっています。
 おそらくアルセスによる沙漠統一物語になるのでしょうが、沙漠を挟んで対峙している二大国の存在が見え隠れしていたりして、思っていたよりもスケールの大きな話になりそうです。英雄譚の序幕としては悪くなかったですし、今後の展開も期待できるかな、という印象。

 主人公のアルセスは、まだまだ未熟。でも、最後にはそれをしっかり認識したわけだし、今後の成長に期待。周りの人たちも、まだ印象薄いかと思わなくもないけど、結構好きな感じなので、こちらも今後の活躍に期待、という感じですね。まぁとりあえず、従者の兄さんにはもう少し目立とうね、と声を掛けてあげたいところ(笑) ついでに個人的趣味を言えば、次の巻ぐらいで主人公を支える役割で、元気な女の子が登場してほしいなぁ。……とかなんとか言いつつ、現在一番お気に入りなのは毎度のことと言うべきか、ディラムの継嗣・サイードだったりする私。ついでに、彼とアイシア(主人公の姉。現在幽閉中)の愛憎入り混じる微妙な関係をメインに据えて、沙漠の諸国家の興亡を、中国史に例えれば春秋戦国や五胡十六国、五代十国みたいな雰囲気で書いてくれればもっと面白いだろうなぁ、とか考えてみたり……我ながら何でいつもこうなるんだろう。

 あまり関係ない独り言。シリーズ名『キターブ・アルサール』の「サール」って、日本語で一体なんて言葉なんでしょう? 「キターブ」とか「アル」は多分これだと思うのがあるので、アラビア語だと思うんですが……これだけ分からない。気になる。

 1/3 『レディ・ガンナーの大追跡(上)』[茅田砂胡/角川スニーカー文庫]

 一昨年の4月に発売された『レディ・ガンナーの冒険』の続編。これもシリーズ化が決定したのでしょうか?

 前後編ということで、今回はほとんど前振りだけで終わってます。前半では、意外と根深かった異種人類への偏見について、2つの秘密結社(……というほど大掛かりなものではないけど)を出して説明。そして、それぞれの理由で変身するインシードを捕獲しようとしていたところ、お嬢様ことキャサリンが学校の授業で描いたベラフォードの絵に興味を示す、という感じ。そんなわけで、主人公のお嬢様が登場するのはページ半ばぐらいからですし、今回は全然暴れてもくれませんでした。前回メインキャラの用心棒4人組も、影も形もありゃしないし。でも意外と重要人物だったのか、ヘンリー氏やランスーリンは登場してました。

 最後の展開は、さてどうなりますか。お嬢様はリィやキングや女王並みの超人じゃないから、なんとか機転を利かせて切り抜けるのかな? なんにしろ、この分ではかなりの爆発をしてくれるでしょうから、楽しみですね(笑)

 ふと思ったこと。天使、まさかこの作品にまでは登場しないよな……。いや、別に彼が嫌いというのではないのですけどね。彼が登場すると、本気で「何でもあり」になってしまうから。でもこの世界、リィの養父の故郷である可能性も捨てきれないし……微妙だ。

 1/9 『キノの旅V -the Beautiful World-』[時雨沢恵一/電撃文庫]

 キノとエルメス、一人と一台の旅を綴った物語、5冊目。バイクが空飛ぶと知って、吃驚。でも、それじゃあ『魔法使いの国』ではどうしてあんなに……飛行機はまた別なのか? というか、この世界の文明レベルって……個人であんなもの作って、その上商売までできるのか?(汗)

 まぁこの手のことは深く考えても仕方がないってことで、感想に行きましょう。えっと、今回もいつもどおり、社会風刺を織り交ぜた残酷でありながら優しさもひっそりと同居した作品で、面白かったです。個人的には、第4話『英雄達の国』が良かったですね。キノでは珍しいアクション主体の話でしたが、続く第5話を読むとまた微妙に印象が変わって楽しめました。『病気の国』もなかなか好き。彼女、本当のことはうっすらとでも気がついているのかな……? 師匠の話『用心棒』は、まぁらしいといえばらしかったですね。まさに、「この師匠にしてこの弟子あり」ってヤツ(^_^; そうそう、あとがき&著者近影は……最早なにがなにやら(笑)

 ところで、ドラマCDが発売されるんですね。新作書き下ろし付で。ちょっと読みたいけれど、余裕がない……。

 1/14 『シンフォニア グリーン』[砦葉月/電撃文庫]

 第7回電撃ゲーム小説大賞に応募されていた方で、何でも「敗者復活組」だとか。とりあえず購入。

 主人公は植物を採取したり輸送したりするプラントハンターの女性・リィン。彼女が毎回ちょっとした事件や仕事を請け負い、事態の当事者に必要最小限の助力する、といった趣の話をまとめた連作短編集。

 現実で身の回りにある様々なものがほとんど植物という発想はなかなか面白いです。ただ、話は至って地味。全体的に穏やかな話なので盛り上がりに欠ける、というか。これで、同じ連作形式でいろんな意味で印象の強いキノと同時発売というのは、ちょっと不幸かも。嫌いじゃないですけどね。こういう話。

 1/17 『導きの星I 目覚めの大地』[小川一水/ハルキ文庫]

 簡単にいうと、惑星育成シュミレーションですね。地球外生命体の文明を、より良く発展させる手助けをすることを目的とした機関(……余計なお世話だ、と思わなくもないですが・笑)の、新米・辻本司が彼を補佐する三体のパーパソイドと『オセアノ』と名づけた惑星の生命体――スワリスとヒキュリジ(人間でいうところの黒人と白人。つまるところ、人種が異なってるわけですね)の文明形成に介入していく、という感じ。……改めて書くと本当に余計なお世話だなぁ。

 話自体は、面白かったです。ただ、根本的な設定が気に食わないというか……向こうから援助を求めてきた訳でもないのに、人間が勝手に介入していく、というのが個人的にはちょっと好きじゃないです。三体のパーパソイド達に極秘に課せられた命令とか、気になる部分もありますし、今後物語は銀河規模に膨れあがっていくようでそれも気になるのですが、ね……。こればかりは、個人的な好みだから仕方がないか。

 1/21 『野望円舞曲外伝 デッドライン23』[荻野目悠樹/徳間デュアル文庫]

 店頭に並んでいるのを見て、思わず「先に本編進めようよ」と呟いたのは秘密です(ここで言ったら意味ないし)
 それはさておき。今回は外伝ということで、正伝主役の女性主従コンビは今回お休み。メインはボスポラス帝国の工作員(本編では……どんな役柄だったっけ? コンラットが某美少女戦士の「タキシード仮面」みたいだという印象は残ってるんですが・汗) 彼らが手がけたとある作戦の話、ですか。一言でいうと。

 うーむ、正直いまいちだったかも。結局彼らが生き残るのを知ってるからかいまいち緊迫感がなかったというか。ノヴェラ(中編)だから、中途半端に短くて物足りないというか。その他、諸々の要素が集まっていまいちという感想が残りました。

 独り言。個人的に、荻野目氏の作品はダーク・ファンタジーが一番気に入っているのですが。もう初期のような作品は書いてくれないのかな。

 1/22 『エンジェル・ハウリング4 呪う約束――from the aspect of FURIU』[秋田禎信/富士見ファンタジア文庫]

 「エンジェル・ハウリング」シリーズ4巻目。雑誌連載中のフリウサイドの物語。やっぱり、話はなかなか進んでいません。というか、4冊目にして既に話を把握しきれていない感がある私って一体……馬鹿?(沈)

 えっと、話は――破壊され尽くした故郷を離れ、何処に向かうのかもちぐはぐなまま歩き始めたフリウとサリオン(ついでに人精霊のスィリー) その途中、精霊狩りに参加することになった彼らは思いがけない人物と再会し、一人の老人と出会う。ざっと纏めると、こんな感じでしょうか?

 もう一人の主人公・ミズーと比べると。フリウの場合は基本的に受身……というか、わけもわからず異常な事柄に巻き込まれて戻れないところまで来てしまった、という印象(異能からして、生まれつきの体質によるものですしね) その彼女が、運命に立ち向かう為に選んだ選択。それが、更なる悲劇に結びつかない事を祈る限りです。

 そういえば、フリウって「未知の精霊」の存在自体を知らないんですよね。名前は何度か聞いてるけど、彼女の中では意味のある名前と認識されていないような。この辺は、今後どんなふうに処理されていくのかな?

 1/25 『クリスマスのぶたぶた』[矢崎存美/徳間書店]

 手に入ったのが年末だったので、「時期外れちゃったなぁ、感想どうしよう」と思ってたのですけど……開き直って、一月遅れで感想(笑)

 生きているぬいぐるみ、「山崎ぶたぶた」(♂)の今度の仕事はサンタさん(厳密には違う) イブから当日に、彼に遭遇した10人の女性の物語。彼と遭遇した人たちが、ささやかな奇蹟のような贈り物――有形無形に関わらず――を得る。そんな感じの、基本的にはなんだかほんわかした気持ちになれる話。どの話も好きですが、中学受験のため勉強中の小学生たちが一番好きかなぁ。笑えたのは、酔っ払いOL二人組ですが(笑)

 余談ながら。今年のクリスマスには、うちのぶたぶたさん(モデルのぬいぐるみ、いつのまにか購入していたりする)にもサンタさんの衣装作ろうか、と考えてみたり(←何ヶ月先の話だよ)

 1/26 『将神の火焔陣・天長篇 長安異神伝』[井上祐美子/中公文庫]

太宗李世民の御世、都・長安の上空に唐王朝滅亡を示す不吉な星が現れた。李氏に下された天命は、約300年あったにも関わらず――。地上に降りていた顕聖二郎神君は、そこに天地双方の王朝転覆を狙った、ある存在の陰謀を感じ取る。

 待ってました、「長安異神伝」シリーズ第3巻。お気に入りの、二郎神君の妹・楊慧瑛こと三娘登場の巻でもあります。ヒロインの翠心みたいな、たおやかな、でも芯の強い佳人もいいのですが、個人的趣向としましては三娘のような闊達な女性のほうが好きなので。

 話の感想は……二郎とその伯父・玉帝の腹の探りあいがいい感じ。でも、結局玉帝のほうが一枚上手? 最後の二郎の行動も予想の範囲内みたいだし、彼が結局行き着く結論も見越しているような。で、今のところは有益な駒扱いしてると。……あらためて書くと、結構嫌な人ですな。

 うぅむ、上下巻ということでどうも感想が書き難い(というかむしろ、このシリーズ自体なんだか書き難かったり……でも好きだから書く) 兎にも角にも、次巻で事件がどのような結末を迎えるのか、気になるところです。はい。

 追記。今回、意外と東方朔こと太歳童子を気に入ってる自分に気がついた。私にしては、珍しい奴を気に入ったような気が。

 1/31 『ミステリ・アンソロジーII 殺人鬼の放課後』[角川スニーカー文庫・ミステリ倶楽部]

 角川スニ―カー文庫ミステリ倶楽部2回目の配本。今回のアンソロジーは恩田陸と乙一が執筆してるので問答無用で購入。他の方の作品もなかなかに楽しめましたので、損した気分にはなりませんでした。

湿原に建つ全寮制の学校で、流行りだしたという「笑いカワセミ」という悪意を含んだゲーム。美貌の少年ヨハンはどうするのか。(「水晶の夜、翡翠の朝」 恩田陸)

 まさかここでヨハンにお目にかかるとは(注意・ヨハンだけでなく、舞台となっている学校は『麦の海に沈む果実』という作品で登場済み) なんだかちょっと得した気分ですね。話も面白かったです。さすがに上手い。やっぱり、ヨハンはいいキャラだと再確認できましたし(笑) あ、ちなみにこの作品で必要な事は作中で触れられていますから、『麦の海…』が未読でも問題はないです。

僕と恵美、二人の暮らす部屋で彼女が語りだしたこと。誘拐された、3人の少女の運命は。(「攫われて」 小林泰三)

 ミステリというより、むしろホラー系の雰囲気が漂う作品。そんなわけで、「エグイなぁ」と思いながら読みましたし、もちろん後味も良くなかったです。……だって、ねぇ?

学習塾の講師・綾子が新しく受けもつことになった受講生は、死んでしまったあの娘とあまりにもよく似ていた。(「還って来た少女」 新津きよみ)

 まぁ普通に面白かったかな。読みはじめて結構すぐ、なにがどうしてそうなったのかは見当がつきましたが、個人的には別に問題なかったような気がする。思い込みって怖いね、という話。

コンクリートで固められた7つの小部屋。その一つに、わけもわからないまま閉じ込められた2人の姉弟。彼らは、この立方体を支配する殺人者から逃れられるか。(「SEVEN ROOMS」 乙一)

 暗黒モードの乙一作品。映画『キューブ』のような感じだと、『活字倶楽部』の特集にてご本人が仰ってました。私、この映画観てないので分かりませんけど。結末は……まぁ、こんなものかな。「もう少し子供らしく足掻いても」と思いましたが……でも、数日でもこんな生活したら死に対する感覚が麻痺してしまうだろうから、仕方がないのかもなぁとも思います。

CopyRight©2000-2006. haduki aki. All rights reserved.