■ 2001.10月読書記録

 10/2 『暗黒童話』[乙一/集英社]

事故で左眼と記憶を失った少女・菜深。以前とうってかわって内向的な性格となった彼女は、親や友達とどこか噛み合わなくなってしまった。そんなある日、彼女は祖父のはからいで眼球移植を受けることとなる。手術は成功し、左眼の視力は無事に回復したが、時折激しい痛みとともに見知らぬ映像が頭をよぎるようになる。その映像は、どうやら左眼の提供者のものらしく――

 『きみにしか聞こえない』(角川スニ―カー文庫)のあとがきを読み、「まさかしばらく冬眠する気か!?」と勝手に心配していたのですが、杞憂に終わったようで一安心。と言うことで、個人的にお気に入りな乙一氏の新作(ちなみに新書サイズ) これまで発表されていた短編を纏めた作品集だろうと(これまた勝手に)思ってたので、完全新作&初長編というのは嬉しい誤算。

 さて今回の話は、ミステリ寄りのホラー? ホラー寄りのミステリ? なんにしろ、グロさではトップクラスに入るのではないかな。「手術」された人の姿など、どう想像しても……だし。なのに、何故か爽やかとまではいかないけれど、暗い印象が残らないのは、彼らが悲壮感を表に出さないから、でしょう。多分。しかし、冗談ナシで残酷な描写だろうに、不思議と静謐な、一種の美すらも感じてしまう、私の感性って変なのでしょうか(悩)

 話はグロいだけではなく、切ない部分もあります。周囲と上手くいかない、内向的な人間を書かせたら上手いのですよ、このお方(『失踪HOLIDAY』の元気な少女も良かったけど) ラストの「菜深」の「彼女」への黙祷のシーンとか結構好きです。

 追記。この方のあとがき(今回は「著者の言葉」も)、なんか妙にツボにくるんですよねー。作品とのギャップがなんとも言えない。うかつにも電車内で読んでいたのですが、危うく爆笑しかけました。必死で笑いを噛み殺していたから、周りの人には不審に思われただろうなぁ(笑)

 10/4 『カーマイン・レッド セトの神民(前編)』[霜島ケイ/角川ビーンズ文庫]

 今月は私的にスニーカー文庫が不作だったため、代わりに新創刊されたこのレーベルから数冊購入してみました。このビーンズ文庫って、基本的に非ボーイズの少女向け作品を扱うレーベルみたいですので(とか言いつつも怪しいのが混じってる気もしますが。まぁ、そういうのは買わなきゃすむ話・微笑)、男性の方でも大丈夫ではなかろうかと。

 えーと、この作品ですが。辺境の惑星・タビスを舞台に、莫大な報酬を目当てに死のゲームに参加する青年・ジャスパーと、彼の道案内を命じられたテロリストの少年・エイジュが謎の都アム・ドゥアトへ旅する――と言うのが表向き。裏では様々な人間の思惑や謎が渦巻く、実に楽しい物語。ちなみに登場人物はほとんど男性ですが、今のところはやばい雰囲気はないです。

 さて、作品の感想……といっても、上巻だけだと難しいな。でも、普通に面白いし、続きが気になる作品ではあります。……う~む……詳しい事は下巻が出たときにまとめて書くってことで。ではっ!!(逃亡)

 10/5 『ジャック・ザ・ルビー 遠征王と双刀の騎士』[高殿円/角川ビーンズ文庫]

 『マグダミリア』(角川ティーンズルビー文庫)は正直普通というぐらいだったのですが、続編『エヴァリオットの剣』もあわせるとなかなか楽しめたので今回も購入。世界観は前述作品と同じですが、250年ほど古い時代の物語となっていますので、前作を読んでいなくても特に影響はないと思います。

剣の腕を頼りに騎士を目指す青年・ジャック=グレモロン。街の酒場で偶然出会った自称地方領主の子息・オリエと成り行きでコンビを組み武術大会に挑むことになるが、そこから思いがけない事態に巻きこまれ――後に「遠征王」と呼ばれる男装の女王アイオリア一世と、「ジャック・ザ・ルビー」と渾名される王騎士の出会いの物語。

 こんな粗筋読んだら、普通は誰だって「ラブコメかな」と思いますよね。ところがこの女王様が変わった好みをしているものだから、全然そんな色っぽい話になってくれません(笑) うーむなんと言いますか、なかなか男前な女性なので。はい。……まぁ、アイオリアの裏設定を考えてみますと、シリーズとしては純愛要素or悲恋要素が含まれてそうな雰囲気もあるのですが。でもそうなるにしてもお相手は別人に確定してるし。

 その他にも味のあるキャラが出てくるし(個人的にはコック軍団に大ウケ。こんな連中に殺されたら死んでも死にきれないだろう・笑)、ストーリーも割合しっかりしてるので、最後まで飽きずに読めました。難を言えば、ちょっとひらがな多用しすぎ。作者さんが意図的にやってる事なのだろうけど、もう少し漢字入れてくれた方が読みやすい。まぁ、なんにしろ面白かったし気に入ったので、続刊が出るようお祈りしておきます。

 10/15 『死にぞこないの青』[乙一/幻冬舎文庫]

 暗黒童話と同じく、書き下ろし作品です。

 ホラー系を怖くないと豪語する私ですが、人間の持つ残酷さというのは非常に怖いと思うのです。ですから、「ある意味ではいい話じゃないか」と思う部分があった『暗黒童話』とは違って、この作品は非常に怖く、なにより痛く感じました。また、実際にありえそうな話だし。つーか実際にこんなことあったら、もっと悲惨な結末になるだろうけど(想像して鬱)

 読後感は、最近の乙一作品にしては良くない。最後の展開で少し救われた気もしますが、それぐらいでは解消できないほど胸にもやもやがわだかまってるというか。この人の作品でこれほど気分が悪くなったの、『夏と花火と私の死体』以来じゃないかな。

 読み終わって気になってるのは、羽田先生は退院したら教職に戻るんだろうかということ。この一件でそれなりの恐怖を味わったろうから退職しても変ではないけど、自分のやった事がバレてないってことでいけしゃあしゃあと復職してもおかしくないですし。……個人的には、こんなやつが復職したらイヤです(たとえ、それなりに追い詰められての行動だったとしても) というか、下手すればまた同じこと繰り返す可能性もあるわけだし、びしっと社会的制裁は加えて欲しかったなぁ、と思います。

 10/19 『エンジェル・ハウリング3 獣の時間――from the aspect of MIZU』[秋田禎信/富士見ファンタジア文庫]

 「エンジェル・ハウリング」シリーズ3巻目。今回は書き下ろしの、ミズーサイドの物語。ちなみに、2巻(フリウ編)終了から数日経過したあたりで今回の話は終わってます。なかなか進みませんね、このシリーズは。

 なんというか、なんというか……今回はほとんどおちゃらけなし、シリアス一直線って感じ。他人事ながら、「ミズーさん、もう少し肩の力抜けばいいのに」と随所で思わなくもなかったです。えー、他にも徒然と思うことはありますが、どれもネタバレになりそうなので省略。

 しかしやっぱり、「暗殺者」という言葉の似合わない女性だなぁ、と思います。イメージの問題なのでしょうが。「絶対破壊者」というのもなんだかなぁ。「戦士」というなら、まだ違和感を感じないと思うのですが……そのうち慣れるかしら?
 あと、アイネスト。1巻よりも、もう少し相棒に近い存在になるのかと思ってたら……全然違うし。本気で憎まれてるっぽい気もしなくもなし。まさかこの2人、ずっとこのままの状態なのでしょうか? いや、私も彼らにラブコメしてくれ、とまでは言わないけど。でも、いくらなんでも前に見たDMの特集での関係と違うんじゃ……(汗)

 10/25 『ミドリノツキ(下)』[岩本隆雄/ソノラマ文庫]

 ふふふのふ。前回は地元で探し回ったために入手が遅れましたが、今回は発売日当日にGETできました。やっぱり京都市内の本屋はちゃんと入荷してくれるなぁ(嬉) ……そんなこんなで、『ミドリノツキ』完結編。

 最終巻だというのに物語は二転三転。一体どうなるんだとはらはらしましたが、見事に大団円と相成りました(一部問題は残ってますけれど) ただ、ちょっと詰め込みすぎな感もありました。もうちょっとバランス良く振り分けられなかったのかなぁ?

 読了後の率直な感想としては、「やっぱりこれも岩本作品だなぁ」という一言に尽きます。正しいボーイ・ミーツ・ガールでしたし。

 それと、個人的にはあのイラストで物語の幕が下りたのがなんか良かったです。あぁ、やっぱりピュン良いなぁ(惚)

 追記。「彼ら」には見事に騙されました。なんか口惜しい。

 10/26 『追伸・こちら特別配達課』[小川一水/ソノラマ文庫]

「法律に触れない限り、どんなものでもどこへでも。あらゆる機材を駆使し迅速確実に配達する」がモットーの特別配達課。省庁再編の波も乗り切った特配課だったが、ここにきて高速配達網「G-NET」が完成、存亡の危機に立たされる。

 世にも珍しい郵便作品の続編。これを手にとったものの前作は未読だという方、まずは特配の仕事振りや登場人物などをより知るために前作・『こちら郵政省特配課』も併せてご購入される事をお勧めします。

 さて、感想。今回は、特配を潰させてなるものか!と奮闘する鳳一&美鳥コンビ。その為、前回のように一章ごとに様々なお届け物という形ではなく、特配とG-NET推進派とのバトルみたいになってたのは残念といえば残念かな。官僚権力&天井知らずの経費&最新鋭の装備で無茶苦茶な配達する、前回のスタイルも結構気に入っていたので。とは言っても、別に今作が面白くないわけではなかったですけど。

 あのラストは落ち着くところに落ち着いたってことで、個人的には納得。鳳一&美鳥の原点に還った姿なんかも良いと思うし。何より、二人ともお幸せにという結末ですしね(笑)

 あ、個人的に京都市内での配達競争は面白かったです。状況想像できますし。京都弁は……ちょっと「ん?」と思た言い回しもありましたが(最近の人は、普通の時に「……どす」なんてまず使わへんやろし)、でもまぁ商売人さんや年配の方やったらあんなもんでええんとちゃいますかね(なんとなく方言使用・笑)

 10/27 『ここほれONE-ONE!』[小川一水/集英社スーパーダッシュ文庫]

先祖が残した古地図を調べてもらうため、物理探査会社・山水ジオテクノを友人の渡拓丸と訪問した竹葉要平。二人の話を聞いた社長の山水備絵は、とりあえず過去の資料との比較だけは引き受けてくれた。しかしその翌日、山水ジオテクノの社員総勢4人が要平宅を訪問、地下探査をしてくれるという。彼らの話では、あの地図が彼らの探している鉄床石という鉱石の在り処を示しているらしく……

 土木SF……と言うと、「は?」とか聞き返されそうですが。でも、実際そうとしか言いようがない作品です(笑)

 基本的にやってることは土木作業なのにちゃんとSFにもなってるのが、意外な組み合わせというか発想というか、ともかくなかなか面白かったです。主人公の要平と備絵の交流とか、青春だねぇ、という感じだし。拓丸君も応援したくなるし。地下の謎とかはなんとなく見当つく気もしますが、なんにしろ面白そうだし続編が出たら買ってもいいかな。

 しかし題名……確かに土掘ってるけど、もう少し何とかならなかったのかな。なんか間抜けな気がして仕方がない(笑)

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