■ 2001.5月読書記録

 5/5 『ふわふわの泉』[野尻抱介/ファミ通文庫]

「楽に生きたい」がモットーの高校生・浅倉泉。化学部部長の彼女は、文化祭を目前に控えてただ一人の部員・保科昶と 展示物を生成する為の実験を行っていた。しかし、実験最中に落雷が発生! 実験装置は見るも無残な姿になったが、その場には不思議な物質が発生していて……

 ソノラマ文庫で発売されている『ピニェルの振り子――銀河博物誌』が割と面白かったので、購入。しばらく積読の山に埋もれていましたが、掲示板でお勧めされたので発掘してきました。

 ……ノリは軽くてとても読みやすかったのですが、ある意味きつい作品でした。なにしろ私、SFに関しては初心者の上に(以前に読んだ作品が、当時の私にとってあまりに理解不能だったため、すっかり苦手になってしまっていたのです) 真剣に理系知識に乏しいものでそういう方面の単語とか出てきても全く分からないし、どんなものかも想像つかなくて(汗) でも、そういうのが分からなくても分からないなりに、面白かったですけど。

 「ダイヤモンドより硬く、空気よりも軽い」という夢の物質が生み出した様々な可能性。これはもう読んでてわくわくします。私はスカイサイクルさえ手に入ればいいかな。あ、でも空中コミューンにも住んでみたいかな。一回でいいから宇宙旅行も……結局できることは全部やりたいのか(^_^; でも真剣な話、こんな物質が開発されたら世界が変わっちゃうでしょうね。実際作れないものなのかなぁ?う~ん、全世界の化学者さんに是非とも頑張って欲しいです(理系知識がないからこそ気軽に言える台詞。実際、そっち方面に詳しい友人に言ったら蹴られた(^_^;)

 SFは最近まで敬遠していたジャンルなので有名な作品もほとんど知らないのですが、その筋では評価の高い『楽園の泉』という作品へのオマージュになっているようで。そう言われるとそちらもちょっと読んでみたいと思うあたり、私も相当単純ですな(^_^;

 5/9 『Hyper Hybrid Organization 01-01 運命の日』[高畑京一郎/電撃文庫]

 初期作の『タイム・リープ』が好きなので、新刊が出たら(というほど、この方作品出してないけど (^_^;)チェックしている作家さん。今回は、シリーズ展開するみたいです……って、なんか長くなりそうな気がひしひしとするのですが。定期的に新刊出してくれるんだろうか。…………限りなく不安。

 「悪の秘密結社」に「正義のヒーロー」が揃って、疑う余地もなく特撮な設定(それしか言うことはないのか。自分) 異なっている点は、[主人公がヒーローに復讐することを目的に行動する]という部分ぐらい、かな。
 そうそう、個人的には『ミュートスノート戦記』(麻生俊平著・富士見ファンタジア文庫刊)と、無意識に比較したりしましたね。現段階では、なんとなく根底にあるテーマが似てる気がするので。

 肩透かしをくらった気がするのは、多分期待しすぎたせいでしょうね。それにこの巻は、物語の本当の序盤を描いただけですし。そんなこんなで、今のところは「普通に面白い作品」という印象。今後、盛り上がってくれる事を期待です。

 独り言。主人公のイラストが、どうしてもKOFの京にしか見えない……。

 5/10 『パラサイトムーン 風見鳥の巣』[渡瀬草一郎/電撃文庫]

 先頃読んだデビュー作『陰陽ノ京』がなかなか面白かったので、今回も購入。

 ……まず、これだけ言わせてください。イラスト、絶対に合ってない!!……私、イラストにはあまり拘らない方なのですが(綺麗なイラストならそれに越した事はないけど)、それでも今回は強くそう思いました。だって、話の内容は、ぶっちゃけた話がクトゥルー系なんですよ!? なのに、このほえほえ~としたかわいらしい絵はないでしょう。あぁ、脱力する……せめてこの前の『陰陽ノ京』みたいに、本文中にはイラストなしにしてくれれば救いもあったのに……この手の話は、文章から自分で想像するほうがいいって。絶対。(そういえば、少し前に出たクトゥルー物もこういう系のイラストだったな……何? まさか電撃編集部、意図的にやってるのか?) この絵師さんのファンの方には申し訳ないけど、やっぱり内容と一致してないと思うなぁ。……以上、愚痴終わり。

 気を取り直して作品について。先にも言いましたが、クトゥルー系の話。と言っても、そのまま「クトゥルー」ではなく、あくまで近いというヤツ(独特の濃い雰囲気を、一般受けするように独自の調理法で軽めに仕上げた、という印象かな)ですので、その辺は、誤解のないように。
 作者さん、上手いなぁと思います。前作と同じく、文章のテンポも悪くないし読みやすい。話も結構シリアスで面白いし……やっぱりこの本、イラストでかなり損するんじゃなかろうか。

 一応物語に区切りはついていますが、反響次第でシリーズ展開するのでしょうね。それっぽい設定の影が、読んでてよく目に映りました(笑) ……ところで、『陰陽ノ京』は続刊出してくれないんだろうか……

 5/13 『こんなに緑の森の中』[谷山由紀/ソノラマ文庫]

元・高校野球選手の大内純一は、肩を壊したために高校を中退。今は大検を目指している。その彼が、海外出張で半年間アパートを離れる従兄の部屋で、猫の世話をしながら受験勉強をする事になった。ところが、アパートで純一を待っていたのは自分を「猫」と言い張る奇妙な少年。そして、半年の不思議な生活が始まった――

 『天夢航海』を紹介した時にこの作品の名前を挙げましたが、「それだけで終わるのもなんだかな」と思いましたので、きちんと(?)紹介することにしました。……好きなのでとにかくお勧めしたいだけ、というのもありますけど。

 主人公だけでなくこのアパートに住む他の人々も、大なり小なり心に抱えているものがあります。そして、「ちょっと歪んだ」その場所は、彼らの思いを反映して不思議な現象を見せて――いうならば、「人生の休憩所」を提供してくれるのです。自分自身に折り合いがつくまで守ってくれる、安らげる場所。永遠に留まる事が出来ないからこそ、貴重な癒しの時間。それを経て現実に戻った彼らは、また自分の道を切り開いて歩いていく。エピローグで、「では戻りたいか?と尋ねられたら、ぼくはやっぱりNO、と答える」(p.257)と言う、純一のその姿勢が好き。一人称なので、純一以外の人の行く末ははっきりとは分からないのですが、それでも、この問に関しては彼らも同じ答えになるだろうな、と思います。

 派手な話ではないのですけど、その代わりに心にじんわりと染みてくるものがあります。精神的に疲れたときとか、何かに挫折した時に読むと、元気が出る本(かも) 一読の価値は、あると思いますよ。

 5/21 『ぶたぶたの休日』[矢崎存美/徳間デュアル文庫]

 生きているぬいぐるみ、「山崎ぶたぶた」(♂)。彼と出会った人たちの、ささやかなエピソードを集めた連作短編集。

 あいかわらず、ほのぼのとしたお話です。個人的には、ファミリーレストランの場面が読んでて楽しかったかな。

 ただ、全体的に前ほど印象に残らなかったというのも事実。どんなに美味しい料理でも、同じようなのが続くと飽きちゃう。あれと、感覚的には近いですね。少しでいいから、趣向を変えて攻めてくれれば良かったのにな、と思うのです。まぁ、それでも読んでてなごむのですけどね。ぶたぶたはかわいいし(←結局それかい)

 5/23 『長安異神伝』[井上祐美子/中公文庫]

 『桃花源奇譚』に引き続き、この作品も中公文庫から発売。現在、徳間文庫版の入手はなかなか難しく……所持分は巻が欠けまくってるので嬉しいです。はい。

 『桃花源奇譚』は宋代を舞台にした武侠志怪小説(?)でしたが、この『長安異神伝』の時代は唐代・ファンタジー色の濃い作品で、主役を張るのは、顕聖二郎真君。楊セン(漢字が出ない……)と言えば、ピンとくる方もいらっしゃるかと。地上に降りた彼が、天帝の命で妖魔退治に乗り出すと、簡単に言うとそんな内容。主人公らの掛け合いはなかなか楽しくて、ちょっと笑えます。

 ファンタジーだからと馬鹿にしてはいけません。文章を追っているうちに、長安の姿が目に浮かんでくるような、そんな感覚を覚えます。専門ではないのではっきりとは言えませんが、時代考証がしっかりしているのでしょうねぇ。

 次巻は来月とのことですから、今後も毎月刊行になるのかな? それなら嬉しいな。早く三娘とかにも出てきて欲しいし。……中公文庫、ついでにいっそ『五王戦国志』も文庫化してくれれば、さらに嬉しいんだけどな……。

 5/25 『アンジュ・ガルディアン ~復讐のパリ』[年見悟/富士見ファンタジア文庫]

 富士見ファンタジア大賞佳作受賞の作品。とりあえず購入してみました。

 ……なんと言えばいいだろう。作品自体は悪くはないです。ないのですけど、なんだか全体的に盛り上がりに欠けてた気がする。物語に起伏はあるのですが、その起伏がちょっと弱いというか。そんな感じでしたね。

 それと、舞台がわざわざ「16世紀のパリ」と設定されていたわりに、あまり話に関係してなかったように思います。時代的が宗教戦争の頃ですので、それ関係の話なのかと思っていたのですが、そういう問題出てこなかったし……むしろ、全く関係なしで。自分勝手な理由ながら、少々拍子抜けでした。パリが舞台だった理由は、無理に考えても最後の場面で某有名大聖堂が必要、というぐらいしか思いつかない。これでは舞台がロンドンであろうとネーデルランドであろうと、とりあえず教会があれば、どこでもいいのではないかと思ってしまいます。せっかくだからもう少しなにかあってもよかったんじゃないかなぁ。私が寡聞にして知らないだけかもしれませんが。

 まぁ新人さんだしこんなものかな、というのが正直な感想。今後の成長を、それなりに期待。

 あと、編集さんに一言。微妙にフォローになってない事を解説に書くぐらいなら、あとがき書き直してもらったほうが良くないですか?(笑) というか、あれはちょっと引くと思うのですが。個人的には(苦笑)

 5/28 『閉鎖のシステム』[秋田禎信/富士見ミステリー文庫]

オープン時の熱狂も冷め、今は閑散とした雰囲気の漂う巨大ショッピングモール<プラーザ>。ある日の夜、ここで異変が起こった。停電し、巡回する警備員の姿もない。残業していた靴屋店員・論悟とスポーツ用品店店員・香澄、閉店時に帰りそびれていた高校生の康一と教子。暗闇の中で偶然一緒になった彼らは、携帯電話の液晶画面の僅かな光を頼りに、なんとか警備員室に辿りつくが……

 ネタ的には面白かったと思うんですけど、読後の感想は「なんだかなぁ」の一言。それなりには楽しめましたが、あのオチは如何なものかと思ってみたり。……というか、何時かの何かの広告で「ハードボイルド」と書いてあったのに、全然違うし(苦笑)

 秋田さんの文章のノリが好きな方にはお勧めできるけれど、それ以外の方にはちょっと……かも。

 5/29 『マンイーター』[吉村夜/富士見ミステリー文庫]

突然の親友の死――それは、陰惨な虐めが原因の自殺だった。自分に遺された遺書でその事実を知った一之瀬武士は、友人を死に追いやった相手への復讐を誓う。しかし、相手は性質の悪い擬似カルト集団。恋人や家族にも迷惑をかけるかもしれないと思うと、実際に行動を起こすことはできずにいた。インターネットで復讐代行サイトがないものかと検索を続けていたある日、彼は『マンイーター』というサイトに辿り着く――

 ありがちなホラーって感じでした。以上。
 ……これだけじゃあんまりか。でも、それほどグロくないし、モンスターの退治法もパターン(過ぎ)だし、最後のオチにしてもよくあるような気がするんですよねぇ。もう一捻りがあれば、もうちょっとは楽しく感じたと思う(←ホラーで「楽しい」って言うのも変だけど)

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