■ 2000.11月読書記録

 11/1 『暁の女神ヤクシー2 楽園を求める男』[小林めぐみ/角川スニーカー文庫]

 解説のひかわ玲子さんの『人の「名」を巡る物語』は、言い得て妙かも。名前なんて記号みたいなものとも言いますが、でもそれがないと『自分』を定義づけるものが、ごっそり無くなってしまう――そういうものでもありますから。一度死に、自ら名を変えた少年。自分の知らない『自分』の影に恐怖する青年。そして、自分が「女神」ではないと知った少女。彼らが最後に『自分』を見つけることができるのか。結局は、それがこの物語のポイントなのかな?

 今回、疑問の一つが解消。『ねこのめ』から遡ることざっと200年ぐらい?の時代のようです。それでも、懐かしい単語がぽろぽろと出てきて、ちょっと嬉しかった。……ところで、ヤクシーの持っていた反重力システムって剥き身っぽいんですけど。あれって、剥き身だと科法使いぐらいしか扱えないという設定だったような……違いました?

 話代わって。お気に入りのワズマル少佐の出番が多かったので、思わずニヤリ。でもこの人、最後には絶対何かやるだろうなぁ。というか、やってくれることを期待(←おいおい)

 でも、ジェイの正体って何なんでしょう? 個人的にはハイブリッドなんじゃないか、と思っていたんですけど、どうも違うみたいだし。他にも、シュシのことや「金烏」や「楽園」の示すもの、ERFには何か目的があるのか(←これが気になる辺り、やっぱり『ねこのめ』好きなんですわ。私。)等々、謎は沢山残っていますが、来月発売の三巻で全ては明らかになるでしょうし。それまで、いろいろ予想して楽しみましょう。

 11/8 『永遠の森 博物館惑星』[菅浩江/早川書房]

 久しぶりに買った『活字倶楽部』の紹介を読み、興味を持ったので購入しました。

 舞台は、地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館<アフロディーテ>。この博物館に収集されてきたものは、全て三つの専門部署(音楽・舞台・文芸部門<ミューズ>、絵画・工芸部門<アテナ>、そして動植物部門<デメテル>)に振り分けられ、管理される。物語は、総合管轄部門<アポロン>に所属する学芸員・田代孝弘が、芸術に関する様々な騒動を解決する為に奔走する連作短編集。もう一つの側面は、仕事に追われて大事なものを見失った彼が、同じく学芸員となった妻の行動によってそれを取り戻す――といったところでしょうか。

分析は要らない。ただ、僕は感じている。
究極の美学、天上の音楽、至上の幸せが、今ここにあることを。  (p.329)

 物語の締めくくりに、主人公が心の中で呟いた言葉。……これに、全てが集約されていると思います。

 ところで、データベースに直接接続してイメージで検索するって……どうでしょう。私、これはあまりいいとは思えないです。確かに便利でしょうけれど……なんていうのかな。なんだか大事なものを見落としてしまいそうな気がする。まぁ、私は基本的に文献漁りの好きな人間だからそう思ってしまうのかもしれませんが。『きらきら星』のエピソードで<ムネーモシュネー>が沈黙した際の主人公の姿が、忘れられません。

 11/9 『レベリオン 弑殺校庭園』[三雲岳斗/電撃文庫]

 ……よく考えたら、前巻の感想書いてない。ま、いいか(←おいこら)

 総じて、悪くはないと思う。でも、いまいちインパクトに欠けるかな。それに、2巻発売までの間に「カラミティ・ナイト」を読んでいたのも悪かった。どうしても比べてしまいます。いや、もちろん全然違う話ということは分かっていますが、でもなんとなく、重なっちゃって……。で、そうなると登場人物の行動がどうも納得いかない。特に、萌恵さんでしたっけ? 普通あんな場面に遭遇したら取り乱すと思うし……あまりに冷静すぎるのでは?と感じます。
 あと、皆が皆、格闘ゲームのキャラのように必殺技の名前を英語で叫ぶの、少し恥ずかしいです(^_^;

 現状では次が発売されても買うかどうか、微妙なところかなぁ……。

 11/10 『ダブル・ブリッドIV』[中村恵里加/電撃文庫]

 このまま下降線を辿るのかと思いきや、ここにきて復活の兆しを見せた、ダブルブリッド第四巻です。

 正直なところ、「もう復活は無理?」と思っていたんですけど、この巻で少し持ち直しましたね。展開も、「なるほど、こうきたのか」という感じ。二人に価値観の相違があるのはあるのは分かっていたけれど、それがこういう形で表面化するとは……ちょっと太一朗が気の毒。しかし、太一朗も優樹も、もう少し何とかならないのかなぁ? なんともならないからこそ、異種族なのかもしれないけど。

 ところで話変わりますが、虎くん。いいキャラだと思います。太田さんも好き(あの程度の薀蓄でまいってたら京極堂は読めないぞ、太一朗) でも、一番好きなのは浦木さんらしい私は、やっぱり悪趣味でしょうか?

 しかしこの作品。主人公が痛い目にあうのは避けられないのか(苦笑)

 11/16 『光の帝国 -常野物語-』[恩田陸/集英社文庫]

 一応ハードカバー発売時に立ち読みしたので、購入が大分後回しになってしまいました(^_^; ライトノベル……とはちょっと違うけど、雰囲気的には間違いなくファンタジー作品(良作)です。

 遠い過去から続く、不思議な能力を持った『常野』という名の一族が、当たり前の日常に溶け込んで暮らしている、その生活を描いた連作短編集。どの作品も、全体的にほんわかしているけれど、でも同時にゾクッとする冷たさを持っているのです。

 表題作「光の帝国」はあまりといえばあまりな結末に、泣きました。そして、最後の「国道を降りて…」でも涙。あぁ、やっと帰ってきたんだ……と。

 この物語には大きな流れもある様子なのですけれど、個人的には「大きな引出し」みたいな、こじんまりした作品の方がいいかな。でもやっぱり本流も捨てがたい(←優柔不断) とにかく、続きを書いて欲しいです。その際は、文庫希望。……だって、ハードはお金と場所がなくて、あんまり買えないんですもの(涙)

 11/17 『Dクラッカーズ 接触-touch-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 この新レーベルに対して「ちゃんとしたミステリがあるのか疑わしい」思ったのは、この作品の存在が大きいです(だって前にDM増刊号で読んだ短編は、どう考えてもミステリじゃなかったし……) でも気に入ってたので、発売されたのは素直に嬉しい。

 さて、内容は主に2パート。級友が起こした飛び降り自殺未遂をきっかけに、『カプセル』と呼ばれるドラッグが流通していると知った帰国子女のヒロイン・姫木梓。幼なじみ・物部景が売人だという噂が広まり、彼女はクラスメイトの海野千絵とその嫌疑を晴らそうと行動する……これが、ミステリパートの大筋。短編から受け継いだ超常パートは、その『カプセル』は単なるドラッグではなく、『飲むと悪魔を呼び出せる』薬で……という感じ。
 つまり、表面的な事件の解決は梓と千絵の二人が、超常的な戦い――いわば夜の場面は梓も関わるけど景が、という風に役割分担されています。

 で、感想ですが。う~ん、やっぱり『推理小説』ではないような気がする。広辞苑の分類でいうと(1)の雰囲気が濃厚です。というか、これならファンタジア文庫と大差ないよな……って、言わないお約束?(^_^;

 雰囲気は、大分変わってました(根底はやっぱり暗い感じだけど) これは、探偵役の千絵さんと自称コウモリの水原君が登場したせいなのかな? 特に千絵さん。やっぱりこういう小説では、友達の存在って結構重要ですね。

 しかし、これほど戦闘シーンが不健康に思える小説も珍しい……(どう不健康かは読めば分かります(^_^;)

 11/18 『これは王国のかぎ』[荻原規子/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]

 なんとなく読みそびれていたんですが、先日友人から貰ったので読みました。

 内容は平たく言うと、十五歳の誕生日に失恋し、泣き疲れて眠ってしまった少女が、ターバンを巻いた少年に魔神族<ジン>として召喚され、『千夜一夜物語』(←『アラビアンナイト』より、この言い方のほうが好き)風の世界を冒険するというもの。ベースになってるのが『千夜一夜物語』ということで、わりと安心して読めます。読後感も悪くないし、正統派の児童文学って感じかな。

 ……ところで、この作品を読んでいる最中は、我ながらかなり挙動不審だったかも。なにせ、「小説」だと知りつつも、資料検討なんぞしてましたから(馬鹿) まずは、舞台を「千夜一夜物語でバグダードなら、アッバース朝やね」と決めてかかるところから始まり、「大体どのカリフの時代と考えたらいいかな?」と都市の描写などから考えはじめるわ、アッバース朝の系統図を引っ張り出してくるわ。途中でふと我に返っても、しばらくするとまた同じ作業始めてたり。……職業病か?(苦笑)

 11/20 『トリシア先生、奮闘中!』[南房秀久/富士見ファンタジア文庫]

 アムリオン王国で開業している、生き物と意思の疎通ができる能力を持つ女医・トリシアの物語(はしょりすぎ) これも前の巻の感想を書いてなかったな(汗)

 トリシア、良いお医者さんですよね~。実際にこんな医者いたら、是非診てもらいたいな(ちょっと真剣)

 物語的には王様悪者ですが、でも普通はこういう判断するよなと妙に納得してました。王制だと、王族の結婚なんて政治の道具だからねぇ……それとわかってるけれど、でもやっぱり応援したいよな。めげずに頑張ってね、お二人さん(小声で応援)
 それと、前巻あんな終わり方をしていたので、てっきりトリシアとレンは恋人状態、最低でも友達以上恋人未満になったと思っていたんですけど……後退してどうするんだか、二人とも(笑)
 あと、作者さんのデビュー作『黄金の鹿の闘騎士』からハル&ベッツが出演。……なんだ、君らも進展してないのか(笑) ついでに『月蝕紀列伝』からもお爺さん登場。う~ん、なんか懐かしいねぇ(……って、そんな前に終わった訳じゃないな。このシリーズ)

 次巻は『黄金の鹿の闘騎士』のヴィントールが舞台になるそうで。お気に入りだったあの人は出てきてくれるだろうか。

 11/21 『銀河英雄伝説 雌伏篇(下)』[田中芳樹/徳間デュアル文庫]

 もう六冊目の銀英伝再文庫版。……覚悟はしてたけど、このまま本棚の占拠が進むと困ったことになりそうだ(汗) 表紙は帝国の『鉄壁』(あ。この時点じゃまだそう呼ばれてないか)ナイトハルト・ミュラー。失神する数分前ですか。でも、何も表紙にこの場面のイラストを採用しなくても(笑)

 印象的な台詞は毎度ながら色々あるけど、田中氏の政治観が良く分かるということで「目上? 政治家とは、それほどえらいものかね。…(中略)…私たちはよく言っても社会機構の寄生虫でしかないのさ」(ホワン・ルイ p.44)ですかね。私はここまでは思っていないけど。でも、読んだ日の前日が前日でしたからね(苦笑)

 読んでて思ったんですけど。ミュラー君、性格ちょっと違うのでは? なんか、もう少し穏やかでぽややんとした(←ある意味失礼な言い草)印象の人だったような……この時点ではまだキャラが固まってなかったのだろうと思うけど。

 ……さて、それでは来月発売の次巻を待ちましょうか。確か、策謀篇から話が大きく進むし、楽しみだなー。

 11/22 『<柊の僧兵>記』[菅浩江/徳間デュアル文庫]

砂漠の小さな村、ウシテケ。この村は、<光の矢>の儀式の日に謎の侵略者・ネフトリアに襲撃され、壊滅した。生き残ったのは、一般の人々と比べ聡明ではあるが体力的に劣っている白い肌の子供・ミルンとアジャーナの二人だけ。彼らは伝説の存在、<柊の僧兵>に助力を求めるために旅立つ。

世界は大きく愛の手を広げ、人々を抱きとめようとしていた――  (p.289)

 ラスト、この一文を読んだ瞬間、我知らず涙が浮かんできました。素直に感動できる、とても綺麗な物語でした。

 描写が巧みなのでしょうか。読んでいると、文字を通して景色が直接目に見えているような、そんな気分になってきます。あ、それと。最後の場面の、小難しい言葉など必要がないだろうその光景には、ちょっと既視感がありましたね。

 あと、主人公のミルンがいい感じです。彼、私の好みからは外れていますが(……私好みの人が主人公だと、それはそれで問題ですが……)、気弱な少年が次第に成長してたくましくなっていく姿には、思わず「がんばれっ!」と声援を送ってしまいます。そしてミルンだけではなく、アジャーナとトールもそれぞれ成長していく様子には、逞しい生命力とこの惑星の未来への希望を感じます。

 読み終わった後に心の中に何かがじんわりと染み渡る――そう感じる作品は、多いようで実は少ないと思いますが、私の場合、この作品は正にそれでした。これはもう、読まなきゃ損だと思います。

 11/24 『スカーレット・ウィザード4』[茅田砂胡/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]

 怪獣夫婦の爆走物語……と銘うっても、違和感全くない(笑) 要するに、深く考えずノリで読みましょう!という海賊ケリー&女王ジャスミンの話。ええと……甘い空気のところも多少はありますが、それでもやはりこの作品を『ラヴロマンス』と言う気には、どうしてもならないです(^_^;

 ……しかし、毎度ながらこの夫婦あらゆる面で人間じゃない(彼らが人並みはずれて頑丈な理由は、今回で一応説明されていましたが) そして、彼らが普通でないと知っている読者としては、最後の台詞がもう怖いったらありゃしない。役員連中、よくこんな化け物夫婦(失礼)相手に喧嘩を売ろうと思うよなぁ。……命があることを、祈っておいてあげましょう(^_^;

 11/25 『イーシャの舟』[岩本隆雄/ソノラマ文庫]

 貧乏青年と、彼に取り付いた天邪鬼の物語。……これだけじゃあんまりな気もするけど、これ以上はネタばれになりそうなので(苦笑)

 よく言われてるけど、先に出ている作品と一緒に小・中学生に読んで欲しい本。『鵺姫真話』もそうだったけど、読後にとても爽やかな気持ちになる作品。(『星虫』は読めてないから、何も言えない)

 えっと、『鵺姫真話』とのリンクが結構多いですね。特に、微角さん。まさか、あの人の再登場だとは思わなかったから驚いた。(新潮版では一体どういう設定になってたんだろう?) この人がもし『鵺姫真話』終了後に純たちと再会したら、どんな会話が行われるのか、気になるなぁ。

 ところで作者さん。眠気が出てきて寝るのはいいけど、熟睡じゃなくてうたた寝程度にして欲しいなぁ。……いやいや、本当に良い作品の書ける方だから、あまり長々と眠られるのはもったいない気がするのです。

CopyRight©2000-2006. haduki aki. All rights reserved.