■ 2000.10月読書記録

 10/4 『双星記2 世界の彼方の敵』[荻野目悠樹/角川スニーカー文庫]

 先月に引き続き刊行の、荻野目さん作のスペース・オペラシリーズ

 今回は『顔がいいだけのお父さんがんばるの巻(by 作者)』だそうです。実際、本当に苦労しているお父さんことラインバック氏はお気の毒様です。……でも、まだまだ幸せだと思う。『魔術貴族』を除いた他の作品の主役に比べりゃね(あ、『大地物語』もまだ不幸じゃないか)

 ついに戦争もはじまり、面白くなってきました。……それに、登場人物たちも微妙にいじめられてますしね(←やっぱりこれがポイント・笑) まぁ、登場人物が不幸な目にあうのは、この作者さんですから仕方ないですね(酷) 今作で、ラインバック氏と並んで不幸な人は、捕虜になってしまったベルゼイオン艦隊のカーペンター提督ですかねぇ。この人の場合は、ラインバック氏とは違ってエリート軍人さんですからね。一回つまずくと、なかなか立ち直れなさそうだわ。あと、ランディスヴァーゲンの謎はなかなか根が深そう。この人、本当に何者なんだか。

 今のところは、主人公たちの陣営<ベルゼイオン>よりも、ラインバック氏の陣営<アル・ヴェルガス>を応援したい気分かな。主人公たちにははっきりいって全く感情移入できてません(笑)

 10/5 『暁の女神ヤクシー 鳥の呼ぶ声』[小林めぐみ/角川スニーカー文庫]

物語の始まりは、クマリという小さく貧しい国。この国が隣国の侵略を受けた時、青年僧兵・シュシと雑誌記者・ジェイは、女神『ヤクシー』の化身としてその名を継ぎ、奉られている少女と出会う。彼らは成り行き上、彼女を守って逃亡することに……

 最近の小林さんの作品はあまり肌に合わなかったのですけれど、これは読みごたえもあって面白かったです。それと個人的には、どうやら「ねこのめ」三部作と同じ世界設定らしい、というのが嬉しかったですね。あの作品、好きなので。

 登場人物も、なかなかいい感じでした。一番好きなのは最初に書いたとおりワズマル少佐ですが、他の登場人物も魅力があって好き。それに登場人物たち皆、なにやらわけありの様子で、それが今後の展開にどう絡んでくるのかも気になるところです。

 全3巻予定だそうですから、だらだら長続きせずに(←最近、腹に据えかねてるシリーズが多いからな~) すっきりと終わってくれるでしょうし、とりあえず続きが待ち遠しいな。来月発売予定らしいけど……本当に出るのかな?

 10/7 『ザ・サードV 惑いの空の凶天使(ハーフ・ウィング)』[星野亮/富士見ファンタジア文庫]

 荒廃した世界の辺境で生活している何でも屋・火乃香の物語、第5弾。……今回はえらく待たされましたな……

 今回のメインは、文句無しで蒼い殺戮者(ブルー・ブレイカー)でしょう。初登場時はこいつがこんな役回りになるなんて思ってなかったのに。読んでて「あんた、そんなにかっこよくてどうするよ!?」ってぐらいかっこよかった。この手のキャラにも弱いので、不覚にも一番贔屓の浄眼機よりかっこいいかもとまで思ってしまいましたわ(^_^;
 それに、今回は浄眼機も色々動いてくれてたから嬉しかったです。火乃香とも珍しく長い間話してるし。頑張れ、浄眼機。イクスには負けるなよ!(←意味不明)

 ……暴走気味な感想はとりあえず置いといて。やはり今後は、クエスの動向に注目でしょうね。この人(?)が何のために動いてるのか全く分からないんですけど(←想像力不足) イクスが彼の存在を敵視しているっていうからには、絶対に穏やかな事ではないのだろうし……。他にも謎が幾つもあるし、続きが気になります。

 10/10 『キノの旅II -the Beautiful World-』[時雨沢恵一/電撃文庫]

 人間・キノと言葉を話すモトラド(二輪車。この場合はバイクかな)・エルメスの旅を綴る、短編連作集第2巻。
 やはりこの作品は童話……より正確には、寓話的。グリムやアンデルセンより、イソップって印象を受けます。

 物語全体の毒は強すぎず弱すぎずで読みやすい。時々妙にザクッとくる台詞があるのも1巻と変わらず。正直、2巻が出ると聞いたときは「下手に続けると作品の質が落ちそうだから、止めた方がいいのでは?」と思いましたが、その点は大丈夫でした。やはり、気に入った作品の質が落ちてしまうのは、あまりいい気がしませんからね。

 この作品、個人的にはすごく気に入ってます。でも、あまり続ける作品じゃないと思う。珍しい類の作品だし、今はそれなりに評価されてる(と思う)からいいけれど、何冊も出されるとすぐ飽きが来そう。適当なところでシリーズ完結させるのがいいんじゃないかなと思います。

 10/18 『紫の砂漠』[松村栄子/ハルキ文庫]

生まれたときには性別がなく、『真実の恋』によって男女の性別が決定する人々の住む星に、三柱の神が信仰される地『紫の砂漠(デゼール・ヴィオレ)』がある。この地には、7歳になった子供は生まれ育った場所から『書記の町』に集められ、そこから新たに神の定める運命の親へ授けられる。その後7年は仕事を覚え、7年運命の親のために働いた後に独立するという習慣がある。
その運命の旅を控えた子供の中に、辺境の『塩の村』に生まれ育った、少し風変わりな子供がいた。神の領域であり禁域である紫の砂漠に強く惹かれ、独立後には一度でいいから砂漠を歩いてみたいと思っている子供。神の一柱『聞く神』が捜し求めているとされる、光る音響盤を手にした子供。尖った耳を持つ人々の中で、なぜか丸い耳を持つ子供。そんな子供、シェプシの運命の旅が始まる――

 『動』の部分がほとんどない、『静』の作品。そして、その『静』がひどく心地良く感じられました。

 文章はとても綺麗。表現も真っ当。それなのに、読んでいるとどこか妙な、地に足がついていないような感じがする。そして、その感覚は決して嫌なものではなくて……。この独特の空気に引き込まれ、物語に存分に浸ったような感覚。

 ……いや、もうとりあえず何も言わずに読んでください。私には、この作品の持つ雰囲気や読了後の自分の気持ちを、思いつく限りの言葉を使ってもきちんと伝えられる自信がありません(^_^;

 10/20 『エンジェル・ハウリング1 獅子序章――from the aspect of MIZU』[秋田禎信/富士見ファンタジア文庫]

 「魔術士オーフェン」シリーズの作者・秋田禎信氏の新シリーズ。どうでもいいけど、題名長いと思う……

 この巻の主人公・ミズーは『絶対殺人武器』――要するに、殺し屋として育てられ、生きてきた女性。……それはいいんだけど。そういう設定、むしろ大好きだけど。それにしちゃ、この人感情動きすぎじゃないかな~? こういう職種の人って、もっと乾いた感じがするものだと思うんだけど。荻野目氏の「暗殺者」シリーズのメムとアシュカルは、その点良かった……なんというか、殺人技を極めながら心を育て損ねた人間の哀しさがあったというか。……っと。独り言は置いといて。

 とりあえずこの巻は、『エンジェル・ハウリング』という作品全体の序幕に過ぎない感じ。だからかどうか知らないけど、読んでてもあまり盛り上がらなかったです。まぁ、続刊でたら買うだろうけど。

 ところであとがきに、2巻は主人公変わるとか書いてあるのですけど……ミズー女史の話、こんなところで放っとくのかなぁ?

 10/21 『銀河英雄伝説 雌伏篇(上)』[田中芳樹/徳間デュアル文庫]

 今月も恒例の、銀英伝再文庫版の発売です。今回の表紙は同盟のユリアン・ミンツ。しかし、なぜに上巻だけの発売なのかな……一気に二冊出してくれる方が、嬉しいんだけどな。今更出し惜しみする作品ではなかろうに。

 前の文庫版と違って、最初の登場人物紹介で死者が分けられてます。個人的には、キルヒアイスの紹介にちょっと笑い。『ラインハルトをかばって…』とかではなくて、『アンネローゼの信頼に殉ず』という辺りが、なんか微妙な感じで(笑)
 あと笑ったのは、イラストに犬の絵があったこと。あったらいいな~とは思ってけど、まさか本当にあるとは……。さすがオーベルシュタインの犬(意味不明) そういや、飼い主も何気に毎回イラストある……意外に人気あるとか? まさかねぇ……(←酷)

 この巻の見所はやはり「査問会」でしょうか。同盟側の主役であるヤン・ウェンリーの思想、あるいは哲学を窺い知ることができる場面ですし。ちなみに、この場面での「国家が細胞分裂して個人になるのではなく、主体的な意思を持った個人が集まって国家を構成する」(p.216) というヤンの台詞、好きです。

 しかしこの辺りのルビンスキーって、思いっきり陰謀家・策略家って感じでいいですよねぇ(←おいおい) この人が後半もうちょっと頑張って、オーベルシュタインと智略戦を繰り広げてくれれば面白かったろうな、と思うことしきりです。

 ところで、このデュアル文庫版って全30巻予定って話を小耳に挟んだんですけど。もしそうなら外伝も出るってことですよね。外伝は図書館で借りて読んだだけで持ってないから、本当だったら嬉しいな。

 10/26 『亡き勇者のための哀歌 聖堂騎士アルチュール』[吉田縁/エンターブレイン・A-novels]

 買う気、全くなかったんですけど……イラストが皇名月さんと聞いたら、理性の抑えがきかなくて(^_^;

 内容は、タイトルから想像できますように、歴史上有名な聖堂騎士団に入団した一人の騎士の成長物語……という訳ではなく、異教徒の娘を助けようとしたために、中東に赴き聖骸布を見つけ出すように命じられた男爵家三男坊の冒険話。時代的には、第三回十字軍遠征直前辺り。

 この時代は好きというか、専門にやってる時代に近いので、ごく自然にそれなりな出来を期待してしまっていたのですが……全然、十字軍時代って感じがしない。空気が全然伝わってこないんですよね。これじゃ、十字軍サイド中心のでも、概説書読んだ方が数倍マシ。また、最初にいかにもメインっぽく匂わせた聖骸布絡みの話も中途半端で……というよりも、はっきり言って消化不良。設定はそれなりに練ってるのかもしれませんが、それが全くもって作品に生かされていないように思えて、すっきりしませんでした。

 ……あと、個人的な意見で恐縮なのですが、細かいところが無性にむかつきます。なんか随所で、イスラームが「残虐非道」「了見が狭い」と言われてるような気がして。そのくせ、十字軍の行った残虐行為に関してはほとんど言及されていないから、余計に腹が立ちます。 大体、最近のニュースを見てれば信じ難いと思うけど、少なくともこの頃のイスラームはユダヤ教含めた他宗教にも割と寛容だったはず(税金さえ払えば) この時点ではキリスト教のほうが性質悪かった印象があるんだけどな。……まぁ、これは偏見かもしれないけれど……そもそも十字軍自体が……(以下、延々と続く)

 それとあとがきで作者さんが、「名前にも拘りました」みたいなことを書かれてますが、それならせめて「イスラム」と「イスラーム」のどっちを使用するのか固定しろよ、と思いますね。複数の研究者の論文が載ってる専門書とかでならともかく、一人の作家が書いてる小説作品でこの2つが混在するのは、いくら発音の違い程度の問題とはいえこの上なく美しくないと思うんですがねぇ、私。ちょっと細かくなるけど、「ムスリム」と「イスラム教徒」も同様に。それとも、もしかしてこの人が凝ったの主人公サイドだけなのかな? そうか、きっとそうなんだな。あまり考えすぎると腹が立つから、そういうことにしておこう(笑顔)

 しかし、この手の話を書くのなら巻末に参考文献を一冊ぐらい挙げればいいのに。

CopyRight©2000-2006. haduki aki. All rights reserved.