■ 2005.6月読書記録

 6/1 『流血女神伝 喪の女王1』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫] →【bk1

 架空歴史ファンタジー「流血女神伝」、いよいよ最終章ユリ・スカナ編開幕。バルアンとアフレイムに心を残しつつも、胎内に宿った子供――たとえそれが望んで宿した子ではなくても――を生きながらえさせるためエティカヤから逃亡したカリエとエド。ユリ・スカナの王子イーダルの厚意で、彼の領地に匿われた二人は傷ついた心と体を癒しながらしばし穏やかな時間を過ごす……と、今回はそんな展開。

 時間軸的には、「暗き神の鎖」終了後からしばらくあとぐらいから始まり、(カリエのこれまでの人生が激動すぎるんだよ、というもっともなツッコミはさておき)随分ゆったりと話が進んだ印象があります。しかし、穏やかに話が進めば進むほど、このあとの展開が空恐ろしく感じるのはもはやこのシリーズの仕様ですね。実際、カリエとエドはこれまでにないぐらい平和な時間を過ごせた一方で、今後に向けての不穏な布石(ザカールをほぼ掌握した形のバルアン、ユリ・スカナ女王バンディーカと王太子ネフィシカの確執、イーダルの周辺事情など)も着々と積み重ねられているわけですし。これらの事情がどのようにカリエに絡んでくるのか、次巻以降の展開が楽しみでもあり恐ろしくもあり。
 ところで、「暗き神の鎖」最後で一気に不穏さが上昇したバルアンですが。この巻での彼の思考や行動は、むしろ彼らしいと納得する思いでした。カリエの行動も意思も理解しながら、それと自分の情を容赦なく切り捨てる覇王としての非情さが、恐ろしくも格好良かった。
 そして終盤、混乱の最中に産み落とされた、ザカール民族が待ち望んだ1000人目のクナム(長老)にして、女神との契約により世界を統べる王と宿命づけられたはずのその子供は。……ラクリゼのこともあるから当然この可能性も考えてしかるべきだったのに、正直全く想像してませんでしたよ。嗚呼、思いこみって恐ろしい。しかし、このことすらも女神の思惑なのかは気になるところ。

 次の予定はBVとのこと。そちらも勿論楽しみですが、「女神伝」も今年中にもう1冊は読めることを期待しつつ続刊を待ちたいと思います。

 独り言。サルベーンに割と好感を持って読み進めている自分に気がついて少し驚いた。「女神の花嫁」「暗き神の鎖」でのフォローが効いてるのでしょうけど……彼の今後の動きも気になりますねぇ。

 6/3 『蛇と水と梔子の花』[足塚鰯/集英社コバルト文庫] →【bk1

 コバルトの新人さんの作品、なんとなく気になったので購入してみました。妖猫6人姉妹の婿取りにまつわる2つの物語。

 妖怪変化という設定はあるけれど、内容的にはコバルトらしい普通のラブコメで、ほのぼのなごむかわいい話だなぁ、という印象でした。表題作は、大好きな姉・三江がお嫁に行くのが嫌で見合いを潰そうと意気込む六姫の幼い恋心やささやかな成長がかわいかったし、もう一編は長女であるが故の悩みを抱える一妃の内面描写と、彼女が第一印象最悪の見合い相手と次第に距離を縮めていく過程がベタながら良かったです。つーか、あの仕草はかわいすぎるだろ鳥……(謎)

 この作品の続き(というか、今回触れられなかった二女、四女、五女の縁談話)も読みたいですが、全くの新作も読んでみたいとも思ったり。どっちにしろ、こういう手軽に楽しく読める作品はわりと好きなので、今後もこの路線で進んでくれることを期待しつつ、しばらく作品を追いかけていくつもり。

 6/7 『野望円舞曲 6』[田中芳樹(原案)・荻野目悠樹/徳間デュアル文庫] →【bk1

 母を見捨てた父親への復讐を目論む女性を軸に、様々な思惑が交錯する「野望円舞曲」第6巻。久しぶりすぎてこれまでの展開をほとんど忘れていたりしましたが、時間もないのにあえて読み返す気にもなれずそのまま読書強行。まー、読んでいくうちに大体の内容は思い出したので結果オーライ。

 読了後の素直な感想が「やっぱりエレオノーラ邪魔」だった自分は何か間違っているでしょうか。なんといいますか、単純に好みの問題(設定の一つ一つを取り上げればむしろ好きな部類のはずなのに、微妙に私的ツボを外した行動やら思考やらをしてくれるので最終的には大減点してしまう)もあるでしょうが、特に今巻は彼女が中心にいることで群像劇としての面白みが半減してしまっているような印象を受けてしまったもので。せめて主人公でさえなければ我慢できる……ような気がしなくもないのですが……。

 そんなこんなで主人公とその周辺に全く興味が持てないのは我ながら困ったものですが、それ以外は普通に面白かったという感じ。本能寺フラグが立ったような帝国の今後など気になることもあるので、おそらく次巻も買うでしょう。

 6/9 『ヴぁんぷ!II』[成田良悟/電撃文庫] →【bk1

 人間と吸血鬼が共存しているグローワース島を舞台に、少し変わった吸血鬼たちが繰り広げる饗宴、第2弾。

 今回は再来月発売予定の「3」とセットの、(『バッカーノ! 1931』見たいな変則ではない)上下巻構成になってます。つまり、いろいろ新キャラが増えたり伏線も張ってお祭りの準備を整え、いよいよこれから面白くなりそうなところで以下続くになっているので、やはり続きが発売されないことにはなんともかんとも。

 登場人物の話。思いがけずメイン抜擢となったヴァル、ただの西瓜吸血鬼だと思ってたのにそんな秘密があったのか……3でセリム共々どんな目に遭うのか気になるところ。それからミヒャエルは格好良すぎだろう……1巻とやってることは大して変わってないのに、何故ああも男前なのですか今回の彼は。最後に、吸血鬼コミュニティー(メンバーの1人に言わせれば町内会もしくは同好サークル)の会合には笑いました。青の彼はどうにも抜けていて憎めないなぁ(笑)

 まぁ、なんだかんだでこの状況から3巻はどんな展開になるのか素直に楽しみ。今回あまり活躍の場がなかった子爵と市長にももう少し出番があることを願いつつ、再来月を待とうと思います。

 6/12 『海の底』[有川浩/メディアワークス] →【bk1

横須賀に巨大甲殻類来襲。食われる市民を救助するため機動隊が横須賀を駆ける。一方、停泊中の潜水艦『きりしお』には未成年者数名が逃げ込み孤立してしまう。米軍の空爆というタイムリミットが迫る、彼らの運命は。

 有川さんの新作は、またもやハードカバー。お財布に優しくないと思いつつ、『空の中』はなかなか良かったので購入。そういえば、これで某少女小説作家のS賀さん(ちっとも伏せてない)と同じく陸海空の三軍制覇したことになるんですね。正直、『塩の街』は陸自というより空自のような印象が強いですけど。

 それはさておき今回の話。あらすじから分かるようにパニックもの……というよりも、特殊状況下での群像劇のほうが近いかも。恐怖感(むしろ存在感すら)ほとんどないし、エビ(←ちゃんと正式名称言ってやれよ)
 構成的には『空の中』と同じく2パート。ですが、前作と違うのは「対策にあたる警察の動き」と「孤立した潜水艦」の二つがほとんど関係しないまま話が進んでいく点。メインは潜水艦パートなんでしょうが、個人的には警察パートのほうが良かったかな、と思います。こういう意識の高いプロは素敵だ。一方の潜水艦パートも子供たち(特に圭介)の変化と最後のシメは良かったですが、いささかパターンすぎた感じ。あと、アレの話は個人的にはあえて入れる必要があるのか?などと思ってしまったのですが……男性にはどうだったのでしょ。

 まぁ、全体としてはいろいろさらっと流されすぎな印象もありましたが、期待した程度には面白かったです。次回作にもまた期待。できれば文庫で。

 6/13 『平井骸惚此中ニ有リ 其四』[田代裕彦/富士見ミステリー文庫] →【bk1

 大正浪漫な正統派探偵小説第4巻。

 今回はついに、というべきか。時代設定的に避けられない大災害――関東大震災が発生します。幸にもというべきかこんな時にというべきか、骸惚先生と奥方が先生の実家に出掛けていたため、留守番をしていた河上君と平井家の令嬢2人は九死に一生を得て避難所に逃げ込んだものの、そこで殺人事件が発生して、とそんな展開。震災そのものの描写があまりないためそっち方面でのリアリティは少ないものの、特殊な状況を上手く使ったミステリに仕上がっています。
 さて、先生が不在なもので、必然的に河上君がホームズ役担当。最後は例によって先生に美味しいところをさらわれてしまってますが、彼なりに頑張っている姿はなかなか良し。風邪でちょっと弱気な面を覗かせつつ悩む河上君の背中を押してあげるしっかり者の涼嬢も、かわいらしくて健気な發子ちゃんもいつもながら○。しかしそんなにかわいい涼嬢と發子ちゃんという二人のお嫁さん候補(←私的にはもう確定)がいながら、河上君はゲストキャラの綺麗な年上のお姉さんにふらっとなっていたりする……まぁ、吊り橋効果もあるだろうし最後はちゃんとケジメをつけたからいいけどさ(ぶつぶつ)

 独り言。黒幕の正体やら、今回はいつも以上に京極作品へのオマージュ度が高かったよなぁ、と思ったり思わなかったり。

 6/14 『タクティカル・ジャッジメント7 思いこみのリベンジ!』[師走トオル/富士見ミステリー文庫] →【bk1

 司法改革で陪審制等の諸制度が導入された近未来の日本で、性悪弁護士が違法スレスレ、むしろ違法だろうというような手段を駆使して無罪をもぎ取る法廷劇第7巻。

 今回は、計画殺人を実行し自供もしている被告人の国選弁護人を、弁護士資格剥奪を盾に押し付けられた山鹿。ついに無敗記録も途絶えるかと思われたものの、自体は思わぬ方向に……とまぁそんな展開。法廷場面がいつもより少なめで、かわりに容疑者の事件当時の回想が多め。おまけに自供済みという状況もあって山鹿お得意のトンデモ戦術もなりを潜めていたため、良くも悪くも普通という印象が最後まで拭えず。まぁ、いまひとつ物足りなかった分は、「山鹿最大の危機」となるらしい次巻で挽回してくれることを期待。ついでだし、しのぎも登場しないかなー。雪奈よりしのぎのほうが好きなんだけどなー(←思いっきり私情)

 6/24 『運命は剣を差し出す3 バンダル・アード=ケナード』[駒崎優/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA] →【bk1】

 それぞれの事情で追われている傭兵と医者の逃亡劇、最終巻。とりあえず、タイトルの意味が分かる場面ではなるほどな、と妙に感心してしまいました。

 今回は、一見もうどうしようもないとしか言えない状況をあれやこれやの手段で挽回していくシャリースの悪賢さと口の達者さ……もとい、知略と話術の巧みさが際立っていました。一方、ヴァルベイドは立場的に仕方がないかもしれませんが、何度も「囚われのお姫様」になってしまうのが……なんだかなぁ、と思ったり思わなかったり(笑) そういえば、ヴァルベイドの正体(?)はまぁ納得という感じでしたが、シャリースのほうはさすがに意外でしたねー。

 これでひとまず話の区切りはついたものの、この傭兵団を扱ったシリーズはまだ続くそうで。続刊がどういう展開になるのか、楽しみなところです。

 6/25 『アルレッキーノの柩』[真瀬もと/ハヤカワ・ミステリワールド] →【bk1

ヴィクトリア朝ロンドン。気まぐれで放浪癖のある主人のおかげで、新しい下宿と当面の生活費を工面する必要に迫られた藤十郎。占い師の言葉で立ち寄ったトラファルガー広場で、ため息を十三回ついたばかりに『十二人の道化クラブ』の臨時会員として招かれることになる。さらに、そこで起きた殺人事件に巻き込まれてしまい――

 新書館系で主に仕事をされている真瀬さんの新作は、お得意の英国モノ。ハードカバーなので悩みましたが、一応購入。

 感想としては……うーん、期待値が高すぎたのかもしれませんが、なんだか微妙でした。まず『十二人の道化クラブ』について色々面白そうな設定を作っておきながらいま一つそれを生かしきれていないのがマイナス点。それから主役の藤十郎とメイン登場人物の公爵があまり好きになれなかったのが大きかったかなぁ。
 とか言いつつ、夭折した恋人・珠紀にいまだ罪悪感を抱きつづけ、結果として彼女本来の姿を見失っていた藤十郎が、最後にそれを乗り越えた辺りはなかなか好みでしたけど。あと、最後に僅かな疑念を残して終わるところとかも良かったかな。

 まぁともあれ今回は、次回作にまた期待、というのが正直なところかも。

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