「彩雲国」の最新作は、雑誌掲載分に書下ろしを含めた外伝でした。
感想としては……秀麗と父上の愛され具合がよく分かる話だったなーと。許容できるかどうかは個人の趣味の問題でしょうが、個人的には「それにしてももうちょっと見せ方があるだろー」とツッコミいれる程度には納得いかないという感じでした。ようするに微妙。
まぁ、深く考えずに好きなキャラの暴走やらを楽しむだけなら普通に面白かったですかね。とりあえず、黎深さんがいつになったら秀麗に自己紹介できるかは気になります(笑)
妖精郷「ラノン」を追放され今はロンドンの片隅で身を寄せ合って生きる異種族と彼らの子孫たちが織りなす物語、最終巻。2巻から続いた狂える《魔術者》フィアカラとの因縁に決着がつく「星の銀輪めぐる夜に」に加え、後日談に当たる書き下ろし「花の名は《風》」が収録。
では感想。まず、「星の銀輪めぐる夜に」。3巻から引き続き緊迫した展開ですが、今回はフィアカラへの反撃が中心になっているので同時にどこか爽快な気分も味わえました。ジャックやラムジーたちメイン登場人物だけでなく、アンヌーンのアーロンやポーチュンといった脇役まで見せ場が用意されていたのもまた嬉し。そしてなにより、「星の銀輪」前半までで準備されてきた伏線が最後には全部綺麗に解消されていくのが気持ちよかったです。フィアカラがあんなことになるとは、流石に思わなかったしなぁ。それにしても、雑誌で読んでいたときにはそんな気がしなかったのにこうして改めてみると結構分量がありましたね。あと、何気に例のあの場面は描写がエグいね……。
書き下ろしの「花の名は《風》」はレノックスの恋(!?)の話を交えつつ、それぞれの日常に戻ったラノン関係者たちの姿を描いた後日談。ジャックと関係はあるものの、ラノンの存在には全く関わっていないエマとアーニーも登場したのが憎い演出でした。そして、フィアカラがらみの緊迫した話も面白かったけど、この話のように不思議が溶け込んだ日常の、柔らかで優しい雰囲気も捨てがたいなぁと思ったり。ところで、ラムジーは最後まで天然さんでしたね……おまけにジャックも相当朴念仁だし。二人があんなだから、ある意味レノさんが物凄いように思えましたよ(笑)
ふと気がついたらこの作品の雰囲気や登場人物たちに相当の愛着を持っていたようで、これで彼らとお別れだと思うと少し寂しくもありますが……余すところなく語られ、綺麗に閉じた物語に祝辞を。全4巻、とても魅力的なシリーズでした。次回作も楽しみにしています。
先王の隠し子という巫女姫を擁する七つの都市が並び立つ地、東和。七番目の姫として擁立された少女・空澄(カラスミ)を中心に移りゆく時間や世界を描いた物語、第3巻。
あとがきでも触れられていますが、2巻までが「空澄姫(あるいはカラカラ)の視点から見た世界の推移」を描いていたとすれば、この3巻では少々視点が持ち上がり「空澄姫を中心にした七姫とその周辺の物語」になっています。そんなわけで、多少作品の雰囲気が変わってしまってはいますが、それを差し引いても面白かったです。大規模な戦争を望まない東和の世情の中で交差する、各都市の思惑。幽かに見える中原の影――と、普通なら相当血なまぐさかったり残酷になったりしそうな状況なのに、この作者氏の文章自体の味なのでしょうか。世界を取り巻く雰囲気はどこまでも透明で、愛おしく思えてしまいます。まぁそれでも、本音を言えばもう少しカラカラがメインで動いて欲しいなぁとは思いましたが。等身大で世界に触れ、成長していく彼女の姿がとても好きだったので。
あと今回は七宮との関係上、三宮・常盤姫の出番が多かったのですが。2巻まででは「どっちかいうと、気性が激しい姫様?」ぐらいの印象しかなかったのに、今回の描写で好感度上昇。最後の空澄との会話が特に良いな。真っ直ぐな常盤の言葉に空澄が返した言葉は、いかにも彼女らしい。
どこまでが計算どおりなのか、情勢の変わった東和の地。空澄、テン、トエだけではなく、他の姫たちがどこに向かうのか。次巻以降の展開が楽しみです。
どうでもいい独り言。1年ぐらいは別に待ったうちに入らないと思う私は、何か感覚がずれているのでしょうか。
大正時代を舞台に繰り広げられる浪漫エニグマティカ最終巻。高久と藤木の友情の行方、そしてかつて藤木家で起こった事件の真相が明らかになる雑誌掲載分に加え、頼久の上海でのある仕事を描いた掌編が収録。
前巻で闇烏の正体が幼馴染で友人の藤木だと知り、高久がどう動くのかと思いきや……いやはや、案外立ち直りが早いというか切り替えが早いというか(笑) 前向きに、事の真相を探るため駆けずり回る姿は好感度高し。逆にどん底まで落ち込んだのは藤木のほうで。すっかり疑心暗鬼に陥ってしまい、破滅に向けてひた走るような姿にどうなることかとやきもきしてしまいました。あの場面では高久がいて良かったですよ。いやもう本当に。
他、美味しい場面を持っていった頼久。2巻まではいまひとつつかみどころのない人という印象でしたが、今回の話では彼の内心も少なからず描かれていたおかげで、随分人柄が理解できたという印象。やっぱり好きだなぁ、この人。色々はた迷惑な人ではあるけれど。一方、北沢さんは最後まで謎な人でした……。
あと、女性陣。桜子はこれまでどおりこまっしゃくれたかわいいお嬢さんぶりを発揮してくれましたが(褒め言葉)、それより今回で印象が変わったのは藤木の義母・ゆかり。これまでの話では正直あまり印象に残っていなかったけど、なかなかのやり手だったのですね……。あ、桜子の母親・桐子も出番は少なかったけど颯爽とした女性でした。……メインにならなければ女性陣が魅力的になるのか、この作者様は。それとも、アレがたまたまイマイチだっただけか……?
ともあれ、なんとか大団円。最後まで大きく盛り上がることはありませんでしたが(私見)、それでも地味に楽しめたシリーズでした。次回作にもまた期待。
性悪弁護士の事件簿・短編集Ver.第2弾。今回はなんと山鹿法律事務所に司法研修生がやってくるという大変な事態が発生しています。
さて、山鹿に思いっきり間違った幻想を抱いてやってきたこの研修生、一寸八尺 東鬼(「かまつか しのぎ」と読むそうな) ……もちろん幻想はすぐに打ち砕かれてしまうわけですが(笑) 山鹿たちに影響されて、最初は純粋だった彼女が段々染まっていくのが楽しかったです(酷) でも、彼女の場合はいくら山鹿流法廷戦術に染まっても根が真面目そうなので、山鹿とは一線を画した弁護士になりそうですけど。彼女がそのうち本編にも顔を出すこともあるのか、ちょっと楽しみ。
各短編であつかわれる事件(?)の内容は、前回の短編集と同じく小粒なもの。個人的にはしのぎが皐月の学校の学級裁判に引っ張り出される「はじめてのさいばん りろーでっど」が一番面白かったかな。
次巻は長編で、来月発売。今度はどんなペテン戦法が出てくるのやら。
富士見ファンタジア大賞史上、3人目の大賞受賞作家氏の新作。今回は人類と魔族の「扉」を巡る攻防を描いた長編作品です。
何故か読書中、なるしまゆりの「不死者あぎと」やら「少年魔法士」を連想しまくってました。話に共通点ないのに(「あぎと」のほうはカトリックとか聖女とか共通するキーワードがあるにはあるけどさ) 脳内ではイラストが勝手になるりの絵に変換されてるしさ……。
どうでもいい話はさておき感想。話自体は展開から設定までオーソドックスな筋立てでしたが、最後までダレることなく読ませる辺り、作者の筆力なんだろうなぁと思いました。主人公があんまり役に立っていなかったけど、この巻でいろいろ因縁もできたことだし今後の成長に期待というところでしょう。一方、今回戦った敵の変態さんも一筋縄でいかないというか独自の美学を持ってるキャラで、心ならずも彼に膝を屈することになった某人の行く末も含め、この先どう動いてくれるか楽しみ。
話としては一応の区切りがついているので続刊を待ちわびるというほどではありませんが。彼らの戦いがこの先どうなるか普通に気になるので、気長に待ちたいとは思います。
独り言。ベロニカ読んだときにも思ったけど、この作家さん女性キャラの位置づけというか使い方というかが物凄く微妙な気がする。この作品ではレイニーは実質主人公だからかそうでもなかったけど、レディ・キィはちょっと引っかかるものが。言ってしまえば、舞台設定のための道具にされてるような印象で。話は面白いと思うけど、その部分はすごく嫌だなーと思う今日この頃。
神によって封じられた魔法を、銃を介することで行使する術を編み出した世界を舞台に、強大な力を持つ魔法銃「銃姫」をそれぞれの事情で追う3人の少年少女たちの物語、第4巻。
3巻から続いたエピソード完結編。セドリックとアンブローシア、それぞれの打ちのめされっぷりが強烈でした。例のあれは、ああいう使い方するんだろうなーとは思ってましたが、実際の描写は想像以上に容赦がなく。さらに、止めとばかりに壮絶な[キトリの最期]……さすがに鬱気分になりましたよ……。それから明らかになったエルウィングの謎にはやはり驚きましたね。これまでの表現は単純な比喩ではなかったんですな。それにしても[てっきり、もともとセドリックの監視か誘導かそれに近い目的で作り上げられた生命体か何かだと思っていたのですが。何千年も昔に彼女が生み出されていたなら、彼女がセドリックにあそこまで執着する理由がよく分からないなぁ。まぁ、今後その辺の事情も明らかになっていくのでしょうけど。] ……ところで、今回でプルートの株が大幅に上昇した私はやはり趣味が悪いのでしょうか……いや、あの悲惨な過去や歪みまくった性格や人非人なところとか、美味しいキャラだと思うのですけど駄目ですか。
次のエピソードでシリーズに区切りがつくとのこと。これから彼らがどうなるのか、続刊を楽しみにしたいと思います。
独り言。死ぬほど分厚いというから「京極堂」か「真タロ」並の厚さかと思いきや……まぁ確かに、MF文庫ではこれでも分厚いほうか(←基準にするものがある意味間違っています)
滅多に出ないことで有名な富士見ファンタジア大賞の大賞を、初めて受賞された作家さん。久しぶりにライトノベル系レーベルからの作品発売。
さて、今回の作品。心霊主義が流行する倫敦を舞台に、男装の魔術師クリスティーナとメイド、そして諸事情で祖母の知人であるクリスティーナに預けられることになった日本人の少年・跡部遼太郎が怪異に立ち向かう……と、要約がちょっと間違ってる気もするけれど、まぁ大体そんな話。
この方の作品ってかっちりしたファンタジーというイメージがあったのですが、わりととっかかりやすく読めました。ですが、この巻は良くも悪くもまだ序章というかキャラクター紹介編という色合が強かったためか、話そのものは可もなく不可もなくという印象。ついでに書いておくと、今回の登場人物の中では伯爵夫人が素敵だなぁと思いました。こういう大人な女性は大好きです。
ともあれ、主人公の活躍やクリスティーナの謎やその他諸々の設定明かしなど、今後の展開に期待というところです。
NYを舞台にした刑事コンビの友情と事件捜査を描いた物語、第3巻。
基本路線は前2巻と同じ雰囲気。WHの別シリーズも何冊か読んでみたのですが、TVの刑事ドラマ(それも2時間モノじゃなくて1時間完結モノ)と同じようなノリなんですね。そういうノリが好きな人&これまでが楽しめた方なら、今回も問題なく楽しめるのではないかと。
一方、この作品のテーマに据えられてる「男女間の友情が成立するか否か」ですが。うーん、これがどうも個人的に微妙な感じになってきたかも。主役2人がちょっと意識して揺れるなら別に構わないのですけど、周囲までが必要以上に囃したてる(ように見えた)のはどうかと思ったり思わなかったり。こればっかりは、好みの問題でしょうけど、ね。つーか従兄がウザ……げふげふ、なんでもありません。
まぁとりあえず、もう数冊様子見、かな……。
高殿さんのデビュー作改稿版後編。パルメニア王国を揺るがす革命、玉座を狙うベロア公の陰謀、そして入れ替わったアルフォンスとキースの運命は。
表紙を見た瞬間、「アルが妙にかわいい……」と思わず呟いてしまった。いやだって、絶対『バルビザンデの宝冠』の表紙と見比べてかわいくなってますってこれ。やっぱり、[最終的に女性になったという以上に、愛する男と一緒に並べば表情も和らぐ]ということでしょうか。
それはさておき感想。前巻と同じく、大筋では大きく変わりはないものの細かいところで修正が入り、随分読みやすくなっています。終盤の展開はご都合主義が多々あることも否めませんが、「なんだかんだでハッピー・エンドで終わってよかったなー」とも思ったり。そして、ジャスターとコンスタンシア。年の差・主従・おまけに何気に幼馴染馬鹿ップル(←身も蓋もない言い様)も嫌いじゃないけど、様々な要因が重なって結ばれなかったこの恋人たちがまた切なくて良い。二人の最後の場面は、何度読んでも泣けます……。とりあえず、先代セリー侯爵は私の心の平安のためにも暗黒地下に落ちているべきだ(←思いっきり私情) あとはあれですね、マウリシオはヘタレ認定しても全く問題がないかと(酷)
書き下ろしは、留学先に戻ったエミリオがコンスタンシアに宛てた手紙。……えーとなんと言いますか、色々涙を誘う内容です(嘘) あとはまぁ、まうりんがアルにベタ惚れなのがよく分かる裏話とか。まぁそんな感じで、完璧に息抜き的な内容でした。
高殿作品ではシリアスとコメディとのバランスが一番上手く取れていることもあり今では一番お気に入りな作品なので、久しぶりに復刊されて嬉しかったし、展開知ってるとはいえ色々修正もありで面白く読めました。秋予定の「そのとき」シリーズ新作や年末に予定されてるらしい新作など、今後も色々楽しみです。