■ 2004.11月読書記録

 11/1 『遠征王と秘密の花園』[高殿円/角川ビーンズ文庫] →【bk1

パルメニア国王アイオリア1世(注意:女性)は大の女性好き(注意:しつこいようですが、アイオリアはれっきとした女性です) 彼女の後宮(通称『花園』)では、選ばれた愛妾たちが時には喧嘩しつつも仲良く暮らしていた。そんなある日、アイオリアの第一夫人であり影武者まで勤めていたオクタヴィアンが、突然引退を表明。さらに、オクタヴィアンは次の愛妾候補に(アイオリアにとって)とんでもない条件を持ち出す。それを認めたくないアイオリアは一つの賭けを申し出るが――。ともあれ、急に空くことになった花園の席を巡り、大騒動が始まるのだった。

 昨年春に完結した「遠征王」シリーズ番外編。時間的には『ドラゴンの角』と『尾のない蠍』の間に位置するエピソード。

 同人誌で発表されてる作品を改稿した短編集になるのかと思っていたので、書き下ろし長編だったのはやや意外でした。で、内容的にはまぁ、あらすじで書いたとおりのお気楽な(後半やや重くなりますが)、いかにも番外編といった印象の話でした。ゲストキャラに別シリーズのメインキャラやら現在のところ雑誌掲載の短編ぐらいでしかまともにお目見えしてないキャラやらそもそも作中でちょっぴりエピソードが出てるぐらいじゃないか?というキャラが登場したりと、なんだか無駄に豪華な感じがあったりなかったり。……しかし、ゲルトルードによればあの扉は「過去にも未来にも通じている」らしいのにマグダのキャラはいないっぽかったのが納得いかない……単に私が気づいてないだけかもしれませんが。

 あとがきによれば春ごろにまたビーンズで作品発表されるらしいのですが、これは「そのとき」シリーズなのか、それとも完全新作なのか。どちらにせよ、楽しみですね。

 11/6 『バッカーノ! 1933(下) the Slash ~チノアメハ、ハレ~』[成田良悟/電撃文庫] →【bk1

 揃いも揃って馬鹿と阿呆ばかりの悪人連中が繰り広げる馬鹿騒ぎを描いた「バッカーノ!」第6弾後編。なんかもう、奇人変人オンパレードになってきましたな……って、前から十分そうか……。

 前編はどちらかというと前哨戦という感じでやや盛り上がりに欠けた感がありましたが、今回の後編ではいつもどおりいろんな面々の思惑が交錯しつつのお祭り(というか乱闘)騒ぎで、いつもどおり楽しめました。上巻で凹んだマリアもなんだかんだで復活し、チックもいいところを見せてくれてgood。この二人は面白くて良いコンビだなぁ、と思いました。物騒だからオトモダチにはなりたくないけど。『葡萄酒』は相変わらず強すぎ(ところで、婚約者との再会時のエピソードはそのうち読めるんでしょうか) あと、ロニーさんは演出がなかなか粋でした。ついでに、前編で登場した面々に加えてなかなか意外な人たちも登場したり。つーか、彼はよく死ななかったなぁ……。

 今回のエピソード以降、1930年代を舞台にした『バッカーノ!』は「ヒューイ・ラフォレット編」に入るとのことで。今回明らかになった『ネブラ』の秘密やらなにやらが、今後にどんな風に絡んでくるのかが楽しみなところです。

 追記。某あとがき作家に続けとばかりに、今回のあとがき(?)は「技ありっ!」て感じでしたね(笑)
 追記その2。イブの名前の誤植に思わず笑い。いっそ本当に嫁入りしちゃっても面白いかも(←無責任な発言)

 11/7 『空ノ鐘の響く惑星(ほし)で 5』[渡瀬草一郎/電撃文庫] →【bk1

 微量のSF要素を含んだ正統派異世界ファンタジー5巻目。アルセイフ王国の内乱は無事終結したものの今度は他国が不穏な動きを見せはじめ、フォルナム神殿に戻ったウルクにも思わぬ苦難が……という展開。

 この巻の全体的な印象としては、幕間劇という感じだったでしょうか。内乱が一件落着したあと、タートムがアルセイフへの侵攻を開始するまでの情勢の変化が語られています。同じ正統派ファンタジーでも、「流血女神伝」とはまた違った堅実な面白さで楽しめました。次巻以降の盛り上がりにも期待。
 それにしても、ウルクは単純に「囚われのお姫様」的役割になるのかと思っていたのですが、なるほどこうきましたか。元には戻るのかなぁ。リセリナや教授の言動からすると難しそうだけど。……でも個人的には、もう一度恋をしなおすというのもありかも、と思ったり思わなかったり。

 かなりどーでもいい独り言。私、どうやらこの作品の現時点での一番のお気に入りが、パンプキンらしいですわ……ふざけてるようで、実は結構良いキャラですよね、彼。

 11/9 『帝都・闇烏の事件簿 2』[真瀬もと/新書館ウィングス文庫] →【bk1

 大正時代を舞台に繰り広げられる浪漫エニグマティカ第2巻。雑誌に掲載された中編2本と、書き下ろしの短編1本が収録。

 中編のほうは、事件そのものはまぁ普通に面白かったという感じです。闇烏こと藤木子爵の出生の秘密やら目的やら思わせぶりな謎も明らかになったりして、この先どういう展開になるのかと興味を惹かれます。
 登場人物の話。1巻で登場した面々に加え、高久の不肖の兄で風来坊の頼久も登場して、あれこれ思わせぶりな言動を振りまいてくれたりしてます。結構好きなタイプのキャラなので、今後もあれこれ引っ掻き回してくれるといいなぁ……高久の苦労が増えそうですが。あと、桜子は今回も生意気で可愛かったです。彼女が主役の書き下ろし(風邪の高久を見舞い(?)に来る話)がまた微笑ましいというか。「レリック・オブ・ドラゴン」のダフネといい、この作者さんは何気に年少の少女が良い感じだと思う今日この頃。

 さて、思わぬ偶然で闇烏の正体を知った高久は、自らの決意を貫きとおせるのか。思わぬ嫌疑をかけられた藤木はどうなるのか。頼久は一体何を知っているのか。なにより闇烏の最後の標的は一体――など、気になることは多数。次巻あたりで完結しそうな感じですが、どんな決着になるのか楽しみなところです。

 11/10 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or a Bullet』[桜庭一樹/富士見ミステリー文庫] →【bk1

山田なぎさ――片田舎に暮らす、早く学校を卒業し、社会に出たいと思っているリアリスト。 海野藻屑――自分ことを人魚だと言い張る少し不思議な転校生の女の子。そんな13歳の少女二人は出会い、言葉を交わし、ともに同じ空気を吸い、思いをはせる。全ては生きるために、生き残っていくために。これは、そんな二人の小さな物語。

 うわぁ。……読了後、思わずそんな声を洩らしてしまう作品でした。イラストがほんわり系なので、余計に内容がツライ……鬱系なだけならまだともかく、児童虐待系は苦手なんですよ……。「ミステリー」かどうかはともかく、「青春暗黒」物語というのは確かですね。

 何が起こってしまうのか、それ自体は冒頭ではっきり書かれています。誰がそれをするのかなども序盤ですぐに見当がつきます。だからもう、どこで破綻してしまうのだろうとはらはらしながら読み進めてました。その間に、着実に築き上げられていく二人の少女の関係が……また、なんとも。
 そうして、遂に事が起こってしまったあと、特に終章付近の救いの無さに、涙するとかそういう以前に、とにかく苦しくなってしまいました。うん、本当に苦しかったです……。

 単純に「面白い」という感じではないし、好き嫌いもはっきり分かれると思いますが……なんというか、良くも悪くも後味が残る作品でした。

 11/11 『クレギオン7 ベクフットの虜』[野尻抱介/ハヤカワ文庫JA] →【bk1

 「クレギオン」シリーズ7冊目&最終巻。今回は、メイの両親が彼女の働き振りを見学しに来ることになって……という話。

 これまで嘘の手紙で両親を安心させていたメイはなんとか取り繕おうとするのですが、そう上手くいかないのが世の常というヤツで(笑) 仕事先の海洋惑星ベクフットでいつもの如くトラブルに巻き込まれてしまったミリガン運送の面々は、果たしてメイの両親と無事に合流できるのか、と、まぁそんな展開。様々な状況下での、メイの奮闘振りが見ものでした。あと、両親との再会場面でちょっと笑い。まぁ、お約束ではあると思いますけどね。
 あと、『アフナスの貴石』に引き続いて人類以外の知的生命体の存在を、ベクフットの不思議な植物を通して垣間見ることができます。うーん、なんとも壮大な趣味……。

 メイの新たな巣立ちをもって完結となったこのシリーズですが、機会があればこの後のミリガン運送のトラブル話(←それはもう決定事項になってるのか…)も読んでみたいなぁ、とも思います。

 11/15 『空の中』[有川浩/メディアワークス] →【bk1

200X年、二度の航空機事故が人類を眠れる「秘密」と接触させた。「秘密」を拾った子供たち。「秘密」を探す大人たち。「秘密」に関わるすべての人が集ったその場所で、最後に救われるのは誰か。

 第10回電撃ゲーム小説大賞にて大賞を受賞された作家氏の新作はなんとハードカバー(おかげで周りで話題にならなかったら気がつかないところだった) しかも帯が橋本元高知県知事に恩田陸と、無駄に豪華な印象を持ったり持たなかったり。

 で、感想としては。「オトナの話なのに児童文学、SFでサイコ、しかも感動作。」という恩田陸の紹介文が全てなような気が。未知の知性生命体とのファーストコンタクトを扱った作品で、全体的に粗はあるにしても綺麗にまとまってるし、読後感もなかなか爽やかで普通に良作という印象。
 登場人物では宮じいが良かったです。いいなぁ、こういうおじいちゃん……。高巳&光稀、瞬&佳代は丸く収まって良かったねーという感じ。真帆さんは……これから徐々にでも良い方に向かうことを願います。

 次回作も素直に楽しみにしたいところ。……お財布的には文庫のほうが嬉しいんだけど、どうなるんでしょうねぇ。

 11/16 『平蜘蛛の妖し夢 黎明に叛くもの1』[宇月原晴明/中央公論新社・C☆NOVELS] →【bk1

 今年初めにハードカバーを4分冊して発売された歴史伝奇小説。司馬遼太郎氏の『国盗り物語』へのオマージュとのこと。ちなみにハードカバー版刊行から僅か3ヶ月後の新書化、おまけに新書版には全巻にそれぞれ書き下ろし外伝がついてるあたり、中央公論新社は某コー○ー級に悪ど……もとい、商売上手だなぁと思ったりしなくもなし。

 作者氏の他作品を知っておられる方ならお馴染みの、思わず仰け反ってしまうようなトンデモ小説ぶり(褒め言葉)は勿論今回も健在。この作品で主役に据えられたのは、戦国時代の梟雄・松永久秀なのですが、久秀は密かに日本に伝来した邪法「波山の法」――モンゴル軍の遠征によって根絶やしにされたはずの、かの有名な『山の長老』率いるイスマイリ派ニザリ教団の暗殺術の継承者で、どんな仕掛けかまるで生きているかのように動く金髪碧眼の傀儡・果心を自在に操る術者として設定されていたりします(しかも、兄弟子が斎藤道三) この兄弟弟子は、ある時老師を殺して出奔し、天下を二分するという約束を交わし戦国の世へと躍り出る――と、ストーリィ展開はそんな感じ。癖は相変わらずあるけれど全体的に前2作と比べると随分読みやすい作品になってますので、(傾向はちょっと違うけれど)山田風太郎作品が大丈夫なら多分いけるんじゃないでしょうか。

 さて、この1巻では元亀二年(1571年)信貴山での久秀と光秀の出会い、大永二年(1522年)の兄弟弟子の別れから始まって久秀が三好長慶と共に天下をうかがう辺りまでの話が交互に語られています。天下取りを目指して二人がそれぞれ動く比較的健全な場面も勿論良いのですが、信貴山の夢か現か定かではない妖しげな雰囲気もなかなか良い感じに仕上がっていて面白く読めました。
 そして、あれこれ先が気になるところで2巻へ続く……。

 11/17 『堕天の明星 黎明に叛くもの2』[宇月原晴明/中央公論新社・C☆NOVELS] →【bk1

 「黎明に叛くもの」第2巻。久秀と道三、それぞれが成り上がっていく様と新世代の台頭に凋落していく様が描かれています。

 この巻で、信長が歴史の表舞台に登場します。信長を目にした道三と久秀の反応が好対照。道三は己が遂に日輪足りえぬことを悟って天下を諦めた風情となり、一方久秀はあくまでそれを認めまいと己を奮い立たせる。それぞれがそれぞれに向ける感情は、どこか哀愁めいたものやらなにやらを感じさせたりしてくれます。おかげでつい感情移入&応援したくなってしまうのは……言うまでもなく作者の術中にハマってますな……。まぁ、語られるのがほとんど久秀からの視点なもので、道三の心境には「なんでそこまで……?」と首を傾げてしまう部分も多少はありますが。

 無情に過ぎる時の中、道三は我が子に叛かれ討ち死にし、主を失った久秀は遂に信長の前に屈することに。しかし、久秀がその立場を良しとするはずが無く。彼の今後の動き、平蜘蛛の見せる幻影に惑わされる光秀の行く末も気になるところで以下3巻。それにしても、この作品の信長は随分まともというか普通に人間だなぁ……。彼絡みでは、金ヶ崎前後の会話が良かったです。

 11/18 『風林火山を誘え 黎明に叛くもの3』[宇月原晴明/中央公論新社・C☆NOVELS] →【bk1

 「黎明に叛くもの」第3巻。今回は題名から分かるとおり、信玄西上に関わる久秀の暗躍が主になってます。

 2巻の時点でその傾向はあったのですが。性格的には大きく変わったわけでもないのに、信長登場以降の久秀はなんだか小物っぽく見えてしまうのがなんともはや。信長に強い嫉妬心を抱くあまり微妙に空回りしてしまっているというか、様々な謀略や果ては妖術まで仕掛けても事が思うように運ばないばかりか裏目に出てしまうと、そんな状況に陥ってしまってる印象があるんですよね。「日輪」である信長と比べると、やはり器に差があるんだなと少しばかり寂しく思うのは、久秀が極悪人でもしっかり魅力があるように描かれているからでしょうねぇ(しみじみ)
 で、今回は結局頼みの綱の信玄は(ネタバレにつき削除)なんてことになっちゃうし、それを信長に一番屈辱的だろう勘違いされちゃうねぇ……なんか気の毒になってくる……。

 あと、今回収録されている外伝は全ページ数の1/3ぐらいの分量を使った、ちょっとした中編(……といっても100ページ弱だからやっぱり短編かな?)に仕上がってます。内容も先の2冊とはちょっと趣が変わっていて(ちなみに先の2冊の外伝はそれぞれ久秀と道三がまだ「波山」の老師の元にいた頃の話と、道三の娘・帰蝶の嫁入り前のある夜の話)、「波山の法」が日本海を渡る前、フビライ・ハーン治世の大元帝国でのある事件の話になってます。こちらの話もなかなかハッタリが効いていて面白かった。個人的には、ジパーノ爺さんが良い味出してたと思います。

 11/19 『本能寺の禍星 黎明に叛くもの4』[宇月原晴明/中央公論新社・C☆NOVELS] →【bk1

 「黎明に叛くもの」第4巻。内容は、久秀の壮絶な最期と、運命の本能寺へと誘われる光秀と。

 さて最終巻。最期までただ己のみを恃み続けた久秀ですが、遂にその命運は尽き信貴山城にてその生涯を閉じることになります。光秀に向ける言葉に「永遠に自負を手放さぬものの、果てしない愚かさと哀しみ」が集約されているようで、そっと溜息を吐いてしまうような、そんな心境。
 そして、久秀の死で事は収まったかと思いきや……彼の妄執・嫉妬に取り込まれる形で新たな「暁の明星」となってしまう男が現れます。言うまでもなく、その男とは明智光秀。これまでの話で散々に不可思議な夢に翻弄されていた彼は、愛宕山にて止めを刺されるのですが……この演出がなかなかえげつない。久秀に目をつけられたのが、不幸としか言いようがないですな。なんとも哀れ。でも、この虚ろに彩られる光秀の描写は悪くないと思ったり(酷)
 ちなみに外伝は大返しに関する話。嗤うように蠢く傀儡の手がそこはかとなく不気味。……つーかもうあんた成仏しろよと……。

 ともあれ全4巻、面白く読めました。次回作も、期待しつつ気長に待ってます。

 11/24 『累卵の朱 万象史記』[大澤良貴/白泉社My文庫]

天孫とその配下たる霊道者たちによって千年にも及ぶ絶対的支配を為してきた「帝国」。だが、その支配力は徐々に減少し、やがて混沌割拠の時代が幕を開ける。そんな中、ある一人の男によって、再び天下を望む「帝国」と、帝国から独立し今や最大勢力を築いている「白秋」、そして主君を殺した暴君・黒瞳を国主とする「後蓮」による三つ巴の情勢が形成されようとしていた。

 三国志関係ではそれなりに名前が通っている(……と思う)ライターさんの初オリジナル小説で、内容は一言で言って古代中国風異世界を舞台にした三国志。現在絶版になってる作品ですが(つーかレーベル自体が消滅してるし)、本棚漁ってたら出てきたので続編読みたいなぁと言う希望を込めつつ感想を書いてみる。

 構成は、三国鼎立を決定づけた帝国と後蓮の激突した戦いを描いた第3部と、おそらく後世でも相当悪名高いだろう後蓮国軍師・永冬の幼少時を描いた第1部中盤までという、かなり変則的なもの。ちょうど中間部分がすっぽり抜け落ちてるもので、悲惨な境遇で生まれ育った少年が、どういう経緯で目的のためには手段を選ばない冷酷無情な軍師となっていったのかさっぱり分からず。勿論続刊が発売されればそれで問題はなかったのですけど……今となっては、素直に第1部か第3部のどちらかで1冊使って読みきりでも問題が無いような形にしてくれれば良かったのに、と思わずにいられません。
 内容そのものは、第1部も第3部もそれぞれがそれぞれの持ち味があって面白いのですが、個人的にはやはり歴史色の強い第3部のほうが好き。戦術・戦略方面はそっち方面に疎いため断言はできませんが、作者氏の経歴からしてしっかりしているのではなかろうかと。でもまぁ、「なんとなくすごい」というぐらいの認識でも十分面白く読めました。……それにしても、後蓮国ってどれだけ人材がいるんでしょうねぇ。あのペースで人死が出ていたら、普通はあっという間に人材枯渇しそうなものですが……。

 最初に書いたような事情で続刊はほぼ絶望的な情勢ですが、やはり続きが読みたいと思うのでどこかの出版社が拾ってくれないものかと願うしだい。具体的に言えばM○文庫あたりが(某マンガ誌で新連載の原作者に起用するらしいから、それ繋がりでこれも拾ってくれないかなーと……)

 11/26 『多情剣客無情剣(上・下)』[古龍/角川書店] →【bk1 (上巻下巻)】

一撃必殺・百発百中の飛刀の達人、李尋歓。とある事情で世捨て人同然の生活を送っていた彼だが、ひょんなことから獣のような剣客・阿飛と出会い、彼とともに梅花桃という盗賊の復活騒動に巻き込まれていく。

 ちょっとばかり趣味に走って、武侠小説御三家の一人、古龍作品の感想を書いてみる。
 武侠小説を知らない方のためにちょっと補足しておくと。ものすごく端的に言うと、凄腕の武術者たちが活躍する中国流時代小説。ただ、殺陣は日本のそれに比べて荒唐無稽(……いや、日本のでも無茶なの結構あるけど) えーと、香港あたりのワイヤーアクション全開な映画をイメージしていただければ大筋で間違っていないかと(実際、『スウォーズマン』とかは原作が御三家筆頭の金庸だし)

  で、この作品の感想ですが。何はともあれ主役の小李飛刀こと李尋歓が素敵。親友の妻となった元許婚を忘れられず日々飲んだくれ、加えて病に冒され始終咳き込んでいるうらぶれた中年男で……って書くとすごくアレな人なんですが(笑) でも、「小李飛刀に仕損じなし」とまで言われる百発百中の技量に加え、「義に生き、義に死ぬ」ハードボイルドな生き様がアレな部分を補って余りあるぐらい、本当に格好良い漢。しかし、彼が格好良すぎるおかげでもう一人の主人公、阿飛がいまひとつ目立たない……まぁ、阿飛はこの作品の時点ではまだ成長途上だから仕方も無いのですけど。あと、悪役では龍小雲や荊無命、そして上官金虹はもちろんそれぞれ良い味出していて好きなのですが、彼らをぶっちぎる勢いで好き勝手に暴れまわってくれた悪女・林仙児がねぇ……「あんたら簡単に誑かされすぎっ!」と何回ツッコミいれたかもう覚えてないし。特に阿飛とか阿飛とか阿飛とか(苦笑) まぁ、フラストレーション溜めまくった分、終盤での林仙児と孫小紅との舌戦や、阿飛が枷を外して再び立ち上がる場面で拍手喝采となるのですけど。

 話そのものは結構(というかかなり)行き当たりばったりで無茶苦茶な展開なのですが、正直そんなことは些細な問題(断言) 勿論好みはあるでしょうが、私にとっては格好良い漢に燃えられて、話が面白ければノープロブレムと思わせてくれる、稀有な作品です。
 それにしても現在邦訳されてる古龍作品で(値段を除いて)比較的容易に入手できるのはこれだけというのが悲しい。金庸の翻訳が終わったんだから、次はこの人のを邦訳してくれないものかなぁ。「陸小鳳」の続編が読みたいのに……原書を読めというのか(涙)

 11/30 『アダルシャンの花嫁』[雨川恵/角川ビーンズ文庫] →【bk1

最強の誉れ高いカストリア帝国と新興国アダルシャン王国の戦いは、大方の予想を裏切ってアダルシャンの勝利に終わった。思わぬ結果に周辺国が騒然とする中、和睦条件としてアダルシャン王の異母弟にして常勝の英雄アレクシードとカストリア帝国第六皇女ユスティニアの政略結婚が取りまとめられた。懐いていた騎士の仇として自分を憎む、まだ10歳の花嫁を困惑しつつ見守るアレクシード。一方、宮中では不穏な事件が起こり――

 第2回角川ビーンズ小説賞・読者賞受賞作。先月のが個人的に地雷だったのでどうしようかと思いつつ、あらすじ読んだ限り大丈夫そうと判断して結局購入。

 政略結婚で嫁いできた姫君が次第に旦那に心を開いていく、というのも大好きなシチュエーションだし、年の差カップルも非常に好きな題材の一つなので、個人的には大変美味しゅうございました(いやまだ正式にカップルになってないけど。まぁ、時間の問題だろう……) なに、10歳ぐらいの年の差は8年もすれば問題ないのですよ。うん。
 陰謀劇のほうも、多少ご都合主義だったり展開が甘いかなーと思ったりしなくもなかったですが、普通に面白かったです。アレクシードに対する首謀者の、最後の別れの言葉がなんともいいよなぁ。本心がどうであろうと、表面上は欠片も救いが無くて(酷)

 次回作が完全新作になるにしろ続編になるにしろ、素直に期待。

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