■ 2004.9月読書記録

 9/1 『キターブ・アルサール 不機嫌なイマナ』[朝香祥/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 昨年完結した、サハラー・アフマルと呼ばれる沙漠の小国を舞台にした王道ファンタジー「キターブ・アルサール」の番外編。
 主役は本編主役の亡国エラーンの継嗣アルセスではなく、本編では敵国だったディラムの第五公子で学者馬鹿(とはいえ意外と現実に応用が利く策士の一面もあり)なティルフ。雑誌『ザ・ビーンズ』に掲載された短編と、書き下ろしの中編が収録されています。

 おおまかなあらすじは両作品とも、エラーンとディラムの間で和平が結ばれ、表面上は東の大国カダ・シエナも手を引いたことで、平和を取り戻したサハラー・アフマルで、成り行きでディラムの領主(イマナ)になってしまったティルフが、ゆっくり思う存分本を読むことも新たな知識を得ることもできない現状に鬱憤を爆発させてる話(←身も蓋もない) なんとか異母兄サイードに領主の座を明け渡そうと一計を案じ、エラーンまでやってくるのが短編、キレて家出し『平原の書(キターブ・アルサール)』の原書を学ぼうと遊牧民「風の民」の放牧地に押しかけるのが中編。
 双方割とどうということもない話ですが、知識を得ることにだけはひたすら貪欲なティルフの我侭というか子供っぽい行動やらそれのあおりで周囲が引っ掻き回される様子やらが読んでて楽しかったです。あと、中編で出てきたラケル(本編で重要人物だったカウスの娘。ちなみにカウスは中編でも活躍)がかわいくて。彼女がティルフに懐いて、ほのぼの仲良くしている姿がなんとも微笑ましいなぁ、と思ったり。

 9/2 『風の王国 天の玉座』[毛利志生子/集英社コバルト文庫] →【bk1

 唐の公主として吐蕃(現・チベット)に嫁いだ少女・翠蘭と吐蕃王リジムのややじれったい関係と、「唐の公主」を狙った陰謀劇が繰り広げられた「風の王国」の続編。

 今回は一応二人の新婚時期が描かれてるんですが。お互い心を通わせたものの習俗の違いなどからすれ違う翠蘭とリジムの関係やら、リジムと前妻との間の子供ラセルを狙う刺客など、どうにも平穏無事とは言いがたい生活なのが気の毒というかなんというか。つーか、リジムと翠蘭は今のうちにもっとらぶらぶを堪能しておかないでどうするんだと……いやその、先を知ってる人間のたわごとです。
 あと、リジムの父親であるソンツェン・ガンポ王の人となりについての描写もあれこれと。直接登場してないにも関わらず、なかなか迫力のある御仁っぽいのが伝わってきます。……個人的には結構好きなタイプのキャラかもしれないなぁ、などと思ったり。

 まぁともあれ、今作も普通に面白かったという感じですし。続刊があるなら、楽しみなところですね。(……それにしても、このままシリーズ展開されるなら、実際の公主の人生のどのあたりまで扱うつもりなんだろうなこれ……)

 9/9 『バッカーノ! 1933(上) THE SLASH ~クモリノチアメ~』[成田良悟/電撃文庫] →【bk1

鋏使いのチックは無邪気に人を斬る。見えない“絆”がどれだけ傷みに耐えられるかを確かめる為に。刀使いのマリアは陽気に人を斬る。この世に斬れないものなど無い事を信じる為に。槍使いのアデルは慇懃無礼に人を斬る。ただ存分に暴れたいが為に。ナイフ使いのシャーネは無言で人を斬る。自分の仲間を傷つける者を排除する為に。刃物使い達の死闘は雨を呼ぶ。それは、嵐への予兆──。

 揃いも揃って馬鹿と阿呆ばかりの悪人連中が繰り広げる馬鹿騒ぎを描いた「バッカーノ!」第6弾前編。今回は4人の刃物使いたちがNYで組織抗争を背景に刃を交える展開となってますが、基本はいつもの馬鹿騒ぎと大差ないですな。……ところでややどうでもいい疑問なんですが、槍も「斬る」って言うんでしょうか?

 今回は前哨戦という感じですねー。刃物使いのうちシャーネは1931で、チックと(名前は出てなかったけれど)マリアは1932でそれぞれ登場済みなので、感情移入というか内面の動きが比較的掴みやすかったですが、アデルのキャラがどうもよく分からないまま……『Mew Mew!』の猫ほどキレた感じでもないしなぁ。まぁ、下巻でもっと特徴を出してくれることを期待。あと、作者氏は今回の話の主役としてチックとマリアを配置しているそうで。確かに、今回のマリアの打ちのめされかたは主人公っぽいかも、と思ったり。下巻ではマリアの巻き返しがあるのでしょう……でも、あれで精神的にタフになったらますます手がつけられなくなりそうだなぁ。
 この4人以外にも、おなじみのメンバーが登場してます。馬鹿ップルはいつでもどこでも馬鹿ップルなのでこの際横においといて(何気に酷い) ある意味諸悪の根源である錬金術師セラードを『喰った』フィーロは思わぬ悩みを背負い込む羽目になっていたり、妹のイブによって助け出された「人間のクズ」ことダラスが思わぬ形で話に絡んできたりしかも酷い目に合わされてたり、シャーネの父親でもあるヒューイの容姿が意外に若かったり(これは直接話に関係ないか)、ジャグジーは相変わらず泣き虫だったりと、あれこれ楽しめました。

 ともあれ、マルティージョとガンドールに睨まれたジャグジーたちがどうなるのか、フィーロと馬鹿ップルの喧嘩の行方やダラスの復讐心や兄と弟の関係やマリアがどうなるのか、そしてヒューイの狙いは何なのかなどなど、これらの問題が下巻でどういうふうに片付くのか楽しみに待つことにします。……それにしても『ラミア』のクリストファーさんとやらがどれぐらいの実力者なのかは分からないけれど、とりあえず人外確定なロニーや『葡萄酒』相手にどこまで通用するんだろう……もしかしなくても同類だったりして(なんとなく遠い目)

 追記。人物紹介の馬鹿ップルの項で大笑い。うん、確かに彼らを紹介するのにこれ以上適切な紹介もなさそうだ(笑)

 9/10 『ゆらゆらと揺れる海の彼方 3』[近藤信義/電撃文庫] →【bk1

 異世界戦記ファンタジー第3巻。アールガウ神聖帝国に徹底抗戦することになったローデウェイク辺境州側の動きと、帝国との初戦がメイン。

 展開そのものはこれまで同様わりと王道とでもいうか、奇をてらったものではありませんが、その分安心して読めるというか。あれこれ都合よくいきすぎな気がして(いくらなんでも帝国側が、仕掛けられる謀略に対して無防備すぎとか)引っかかる部分もなくはないですが、まぁ今回も普通に面白かった、という感じですねー。それにしても、戦略・戦術方面を「疎いからよく分からないけど、そんなものなのかー」で読み流してるのは我ながらどうかと思います。……ちょっとはこっち方面も勉強するかな……。
 それから、これまではメインの二陣営以外の地域は蚊帳の外というかあくまで背景でしかないという感じだったのが、今回は他の王国も話に絡んできたりと徐々に舞台も広がりつつあるようで。今後、周辺国を含めてどういうふうに動いていくのか楽しみではあります。
 ついでに、ノウラの正体が遂に明らかになりました。……正直、ちょっと唐突過ぎるような気もいたしますが、あれもまだラシードの仮説で確定したわけじゃない……ですよね?(聞くな)

 次の巻から第2部が始まるとのことで。新展開に適当に期待。

 9/11 『ビートのディシプリン Side3[Providence]』[上遠野浩平/電撃文庫] →【bk1

 謎の存在カーメンを発端に、それぞれの思惑が交錯する「ビートのディシプリン」第3巻。

 ……2巻では変則的に登場したけれど、基本的にブギーその人は登場しないこの作品。それでも、登場人物の大半がブギーで登場したキャラなため、なんというか、新鮮味とかそういうのはないよなーとつくづく思ったり。つーか、統和機構の『中枢』後継問題やらも絡んできてる様子なので、結局ブギーシリーズの一幕としか捉えられていなかったりします私(苦笑)
 えーと、内容としましては、戦いにつぐ戦いが繰り広げられるので、逆に平坦な印象が残ってしまっているような気がしなくもなし。冷静に考えるとどうも話そのものもほとんど進んでないようし。思わせぶりな単語はあれこれ出てきているのですけど……。つーか、最近ブギー本編もやや脱落気味だから、最後までそれほど気分が盛り上がらないまま読み終わってしまったというのが正直なところかもしれませぬ。なので、最近のブギーの傾向もお好きな方なら、多分普通に楽しめるんじゃないかな。

 なにはともあれ、どうやら次巻で完結する模様。綺麗に締めてくれることを願いつつ、発売を待つことにします。

 9/12 『タクティカル・ジャッジメント5 湯けむりのディスティニー!邂逅編』[師走トオル/富士見ミステリー文庫] →【bk1

 司法改革で陪審制等の諸制度が導入された近未来の日本で、性悪弁護士が違法スレスレの(つーかそれはむしろ違法だろうというような)手段を駆使して無罪をもぎ取る法廷劇第5巻。今回は初の前後編&(旅行中に巻き込まれた事件のため)地方出張の裁判に。

 感想。えーと、どんな状況でも山鹿はやっぱりアクラツな弁護士(……弁護士じゃなくても根本的な性格が悪いか)だなぁと(褒め言葉) ついでに、やっぱり雪奈が絡むととたんにヘタレになるヤツだなぁと(これも褒め言葉) もうひとつついでに、温泉旅行中ということでいろいろお約束な展開もありで、笑わせていただきました。ちょっとばかり山鹿に哀れみの視線を向けそうになったし(笑)
 で、このシリーズ最大の見せ場であるイカサマ……もとい、あの手この手を駆使しての裁判シーンはといいますと、今回は意外と(山鹿にしては)大人しめでした。が、嫌というほど弁論する羽目になるらしい下巻ではどうなることやら。「あれ、これ回収されてない?」と思う伏線も残ってますしねぇ。

 ちなみに、今回新登場のキャラの一人に山鹿と探偵の影野と旧知の監察医・氏神という人物が登場。前の二人に比べると、奥さんのおかげで矯正が入っているのかまともな性格ですが、時々「あー、やっぱり類友なんだなこの人も」という部分が出てくるという感じの人でした。次巻でも出てくるのかな。

 一応この巻で一区切りがついているので、切実に「続編はまだかーっ!」という心境にはなっていませんが、それでもできるだけ早く第2の事件の解決を読みたいものですね。

 9/14 『クレギオン6 アフナスの貴石』[野尻抱介/ハヤカワ文庫JA] →【bk1

 「クレギオン」シリーズ6冊目。今回はミリガン運送社長ロイドが突然失踪、同社所有の宇宙船アルフェッカ号も売却され、いきなり失業者となってしまったマージとメイ。失踪したロイドを探す手がかりといえば、「生きた宝石」に関する怪しげな儲け話だけ。しかも、アルフェッカ号を買い取り、彼女たちの新たな雇用者となった二人組はなにやらワケありなようで……という内容。

 マージやメイは勿論、今回のゲストキャラまでも結局ロイドに振り回される羽目になってるのがなんともはや。いてもいなくてもはた迷惑な人だなぁ、などと思ったり(酷) 内容はいつもと大差なく地に足の着いた軽く読めるSFで……と言いたいところですが。ロイドを探す手がかりになっている「生きた宝石」というのがなかなか大層なシロモノで。最後のほうは、なんというか、やや呆気にとられてしまった感がありますね。まぁ、こういうのも面白いとは思ったけれど。

 次巻、『ベクフットの虜』でシリーズ完結ですね。メイの最後の奮闘(またの名を災難)を楽しみに待つことにします。

 9/22 『約束の柱、落日の女王』[いわなぎ一葉/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 第16回富士見ファンタジア大賞準入選受賞作。あらすじ読んだ限り好きな部類の話っぽかったので、試しに購入してみました。

 うーん、ストーリィは良く言えば王道悪く言えばパターンな感じですが、そう悪くはない、と思う。変にシリーズ化を目論まず(やろうと思えばできなくもなさそうですが)1冊できちんと完結してるのも好印象。もっともその分、展開が詰め込みすぎというより駆け足気味な感じになってしまっていたり、また随所随所で「え、なんでそういう展開になるの?」と戸惑ってしまうことがあったり。このあたりは、もう少し量があれば解消できたかも、と思うと惜しい気がします。
 あと、これは個人的な好みの問題でしょうが、致命的なまでに文章が肌に合わず……珍しく、最後まで読むのに苦労しました(汗)

 まぁあれこれ不満はありますが、デビュー作だしこんなものかなーという気もします。とりあえず、次回作に適当に期待しておくとします。

 追記。「コバルトっぽい」という意見をどこかで目にしましたが、個人的にはむしろTHだと思いました。良くも悪くも。

 9/28 『PARTNER 2』[柏枝真郷/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA] →【bk1

 NYを舞台にした刑事コンビの友情と事件捜査を描いた物語、第2巻。

 今回はカーチェイスで事件の幕が開いたりしたので派手な話になるんだろうかと思いましたが、やっぱり地味に捜査に走り回る話でした。感想としては、事件そのものは途中で意外な方向に転がったりしますが、前作と同じくきっちり解決してくれる安心仕様で、普通に面白かったという感じですねー。ネタばらしの部分で追い詰められた犯人がペラペラ自供するのはどうなんだろうなーと思いながら読んでいたら、登場人物の一人がきっちり突っ込んでくれて思わず笑ってしまったりもして(^_^; それにしても、全体的な構成になんとなく既視感を覚えるのは何故だ……2時間ドラマのノリとはまた少し違うと思うんだけどなぁ……。

 あと今回は、事件捜査の裏でセシルとドロシーの凸凹コンビが喧嘩というか衝突しつつもすこーし距離を縮めてます。最後に打ち明けられた、セシルの過去にちょっと涙目になってしまいましたよ……。この調子だと、次巻はドロシー側の掘り下げになるのでしょうか。ちょっと楽しみです。
 ついでに一言。前回の事件の被害者の恋人・フェイにフォローが入ってたのになんとなくほっとしました。しかし彼女、このままなし崩しにレギュラー定着とかするのでしょうかね?

 9/30 『彩雲国物語 想いは遙かなる茶都へ』[雪乃紗衣/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 中華風どたばたコメディ(ちょっぴりシリアス)風味ファンタジー「彩雲国物語」第4巻。今回の話は、官吏として茶州に赴任することになった秀麗一行の多難な旅路を中心に組み立てられてます。

 えーと、今回は茶州編の序章みたいな感じでしたね。とあるキャラの顔見世的な意味合いが強い話だったかも。その他の内容としては可もなく不可もなく。ある事情から静蘭たちと離れて行動することになった秀麗の悪戦苦闘(というほどでもないけど)が中心で、まぁこのあたりはいつもどおりのノリでした。
 キャラは最初こそまたわんさか増えたと辟易しましたが、今回は比較的整理が早かった、かな(ある意味惜しい使い方な人もいたけど) 結果的に今後も絡んできそうなのは……まだ名前だけしか出てない人を合わせて5人ぐらいか。まぁ、あんまり増やしすぎて収拾がつかなくなったりしないことを祈ります。そして、某爺さんはまたしっかり話に絡んでくるようで……そろそろ全面的に後進に任せたら如何かと思ったり思わなかったり。

 秀麗を巡る恋愛模様は「これまでどおり王様と静蘭の一騎打ちで、王様は遠距離になったからやや不利になるかなぁ」ぐらいに軽く考えていたら、思いがけず横合いから油揚げを掻っ攫おうとする鳶が登場。これがなかなか良い感じに性格が歪んでるキャラで、個人的には思わずニヤリとしてしまったり(悪趣味) 夢一直線な秀麗に良くも悪くも印象を残した彼が、次巻以降どう絡んでくるかちょっと楽しみ。

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