草上仁氏の新作。前作『スター・ダックス』(SFコン・ゲーム)とはまた異なる雰囲気の今作は、ハードボイルド・ファンタジー。
ヒトやエルフ、ホビットにノームにゴブリンなど、異世界ファンタジーらしく多様な種族が暮らす街の描写は、種族ごとの思考やその他諸々の違いも含めてかなりリアル。そういうしっかりした土台の上で展開される物語は説得力があって良かったです。
また、物語が進むにつれて次第に明らかになる、20数年前に失踪した公国の世継と秘法「一度きりにしてただ一対の瞳」を巡る陰謀に、リュークたちがどう挑むのか、といった部分も楽しめました。作品がしっかりハードボイルドしていたのも○。
作品はしっかり完結していますが、もし続編があるなら謎が多いリュークという人物について、もう少しだけでも知りたいところです。ついでに言うと、『スター・ダックス』の続編も読みたいなぁ……。
第5回えんため大賞受賞作。わりあい評判が良さそうなので購入してみました。
突如吉永家の同居人(?)となったガーゴイルを中心に展開される、ハートウォーミング・コメディ。全体的に、ほのぼのしていて良い感じでした。それから、連作短編の形式を取っているので、ガーゴイルが様々な経験・情報を得て、次第に成長していく過程が分かりやすかったですね。第3話「佐々尾さん家のおばあちゃん」はお気に入り。他の話も、甲乙つけがたいですが。
キャラクターは、ガー君と吉永和己・双葉兄妹を筆頭に、脇役もそれぞれ個性が強くて印象に残ります。一番印象的なのはやっぱりガー君ですが、菊一文字や小野寺さん家のエイバリー少尉も大好き(勿論外見含めて) あとはまぁ、双葉の担任は出番が少ないのに妙に濃いなぁとか思ったり(笑)
吉永さん家とそのご近所を舞台にしたエピソード、この巻だけでも一応の完結をしていますが、3月に2巻が発売されるとのことで。次はどんな話になるのか楽しみです。
草原の遊牧民族国家を舞台に展開される架空世界の物語、完結編。
……一応、完結はしていると言えなくはないと思うのだけれど、なんとなくすっきりしない感じ。なんといいますか、全体的に展開が早すぎるというか、色々詰めこもうとしすぎてかえってあれこれ端折っているように思えてしまうというか。無理に上下巻に収めないで、もう少し個々のエピソードを膨らませて欲しかったですね。それが少し残念。
登場人物の話。レンは相変わらず単純馬鹿(褒め言葉)でしたが、エルクは上巻より少し落ち着いたといいますか、雰囲気が柔らかくなっていたのが良かったです。それから、敵役のアスリエル殿下は、思っていたよりもえげつない人だったのでちょっと吃驚したり。……よく考えてみれば、彼女周辺の細かい設定やシュ・ルムの目的、その他の謎などが最後まで明らかにならなかったのが、読了後のもやもや感の元凶かもしれないな……。
あとがきによると、パレット文庫での次回作はまたがらりと雰囲気の変わったものになるとのことですが。そのうちにでいいから、この作品のフォローもして欲しいですね。正直なところ。
「一番恩田陸らしくない作品は?」と聞かれたならば、恐らくほとんどの人間がこれを挙げるだろう作品。面白くないって訳ではなく、どこか幻想的な雰囲気がある他の作品群に比べて、エンターテイメントに徹してはっちゃけたと言いますか、ノンストップで突っ走るパニック・コメディなので。ライトノベル読者には、『バッカーノ!』及び『バッカーノ! 1932』のような感じの話と言えば分かりやすいでしょうか。
出発地点も目的がバラバラなのに関わらず、ほぼ全ての登場人物の行動がラストの一騒動へ繋がっていく様は見事。また、恩田陸は中盤は良くても最後のまとめ方がいまいち、という作品が結構多かったりするのですが、この作品は最後までテンション高く突っ走ってくれます。それぞれの話もちゃんとオチをつけてくれましたし。
登場人物について。上で『バッカーノ!』を例に挙げましたが、この作品ではどこかの馬鹿ップルとか殺人狂のギャングとか傍若無人な最強殺し屋とか、あそこまで無茶な連中は出てきません(←当たり前です) コメディですから多少は誇張した演出が施されていたりするものの、普通に隣人として挨拶してても違和感がないような人たちばかり。しかし、27人もいる人間の個性がほとんどかぶっていないというのはかなり凄いのではなかろうかと。ちなみに、冒頭に登場人物一人一人のコメントが掲載されているのですが(ハードカバー版ではイラストもあり)、それぞれ個性が出ていて面白いです。
あまり肩が凝らずに気楽に読める作品ですから、興味のある方は是非。
揃いも揃って馬鹿と阿呆ばかりの悪人連中が繰り広げる馬鹿騒ぎを描いた「バッカーノ!」第5弾。いきなり21世紀に時代を移した今作は、「バッカーノ!」の中ではやや異色作に仕上がっています。
21世紀が舞台といっても、舞台となるのは周囲から隔絶され、前近代的な生活をしている小さな村。不死者たちも、現代の常識とはどこかずれた連中ばかりなわけで。そういう意味では、別に2001年である必要はなかったような気がしなくもないです。でも、物語が進み、謎が明らかになるにつれて2001年である必要性があったんだなぁ、と納得出来ました。ともあれ、いつものハイテンションな群像劇とはまた違った雰囲気で繰り広げられた物語は、いつもと違う少し新鮮な方向性で面白かったです。
また、今作で300年前に不死者となり、現在も存命中の錬金術師の名前が全て判明。今回詳しく語られなかったマイザーとチェスがナイルやシルヴィと再会した経緯も、彼らを含めた船の生き残りの面々がそのうちにNY組と絡むことがあるのかも気になりますね。個人的には、ヒューイが娘の旦那(?)候補にどんな感想を抱くのかに興味があったり(笑)
さて。「バッカーノ!」の次回作は夏の予定だとか。舞台となるのは、禁酒法が廃止される1933年。夏の話らしいので、直接的には禁酒法廃止は関係ないでしょうが。それにしても、今度はどんな馬鹿騒ぎが繰り広げられるのか、楽しみなところです。
追記。カラーページ最後を飾った馬鹿ップルの掛け合いに、誰もが思っただろうけれどあえて言おう。いくらなんでも、気づくの遅すぎ(笑)
SF要素が加わった異世界ファンタジー、第2巻。今回は『来訪者(ビジター)』関連の話はほとんど絡まず、王と世継を失い混乱に陥っていくアルセイフ王国など、『御柱(ピラー)』がある「こちら側の世界」のあれやこれやが描かれています。
1巻読了後の期待は裏切られず。主要登場人物の顔見せ的な印象が強かった1巻に比べて、今回は登場人物達が初登場の面々も含めてそれぞれ動き出したとでも言いますか。とにかく様々な思惑や陰謀が交錯して、個人的に非常に好みな展開でした。からくも故国を脱したフェリオたちの話と、リセリナと彼女を追跡して「こちら側」に現れた『来訪者』たちの話がどう絡んでくるのか。楽しみなところです。
登場人物の話。あんまり正統派な主人公には惚れこまないほうなのに、何故かフェリオに対する好感度が急上昇。彼のウルクへの無意識の王子様っぷりがツボだ……。しかし、リセリナが序盤で離脱したために一気にヒロイン的位置に踊り出たウルク。なんか彼女、もっともらしい理屈はつけているけれど、既成事実を作ろうとしているように見えるなぁ(笑) まぁ、それはさておいても一途で有能な彼女は結構好きです。
新登場の面々では、ラシアン卿がいい感じだなぁ、と。今後の彼の役回りには、大いに期待。第2王子レージクは、1巻の話からイメージしていたよりもクセのある……というか病んでいる人で。レージクは勿論、復讐心につけいられて彼と結んだクラウスがどう動くのかも気になる。そういえば、リセリナが偶然救助した彼女は、無事生き延びて意識を取り戻すのでしょうか。彼女が一命を取りとめたと知れば彼は正気に戻れそうだし、なんとか助かって欲しいですね。
とにかく、俄然盛り上がってきたこのシリーズ。既に脱稿しているらしい3巻発売が、今からとても待ち遠しいです。
第10回電撃ゲーム小説大賞の大賞受賞作。試しに購入してみました。
読み始める前に、『キーリ』を連想する、とかいう類の感想をちょくちょく見かけましてはいました。で、実際に読んでみたら、「確かに近いかも」と妙に納得。
前半は連作短編形式で、後半入江が登場したあとは一本道という感じ。さすがに大賞を受賞しただけあって、全体的にそつなくまとまっています。逆にいえば、優等生すぎて物足りない部分も。
つーか、前半は例え雰囲気がキーリに近くても、これはこれで良いんじゃないの、という心境だったのですけれどね。個人的には。しかし、後半の思わず「ハリウッド映画かよ」とツッコミいれたくなるような展開で一気に醒めてしまって。そんなわけで、いまいち登場人物に感情移入が出来ないままEDを迎えてしまい、ちょっと虚しくなってしまったり。
まぁ、なんだかんだ言っても雰囲気自体は悪くはないですし、良作だとは思います。次回作にも期待、というところですね。
ビーンズの新人さん、2作目はデビュー作の続編。
話自体は、ベタな展開とはいえなかなか面白くなってきた感じ。あとは、ヒロインがもう少しでいいから成長してくれれば個人的にとても嬉しいのですが。今のままでは、本気で餌程度の役にしかたってないし。次巻辺りで、例えば「マルドゥック・スクランブル」シリーズの、バロットにとってのベル・ウィングに相当するような格好良い女性キャラを追加して、それに触発されてヒロインが成長していってくれればいいなぁ、と手前勝手な希望を抱いてみたり。
ギブのお師匠様もそのうち登場するのだろうかと思いつつ、続刊にもそれなりに期待。
昨年の10月に発売された作品。3月に続編が出るということなのでちょっと感想書いてみました。
実は私、この作品は表紙を見て「わー、可愛い女の子だー」と思って、その勢いだけで購入したんですよね。それだけに、その正体が明らかになった時には思いっきりがっくりしましたよ……ふふふ……。いや、表紙折込み部分のあらすじにもしっかり書いてあるから、全面的に私が悪いのですけどね。ああでも、やっぱり普通に女の子でも問題なかったようにも思うし、個人的には物凄く残念なところ。
趣味に走った発言はさておき。話自体はなかなか良かったです。特に終盤の展開には涙しましたし(……涙腺弱いんですよ、騙されてるとでもなんとでも言ってください) ともあれ、沢山の嘘の中に一握りの真実――辛い記憶や経験を紛れ込ませて表に出さず、馬鹿をやりながら明るく笑っていくアルスとアーウィンのコンビが良い感じだな、と思いました。
終幕は続編があってもおかしくない感じではありましたが、このエピソードだけでもきちんと完結していたのがまた好印象。とりあえず、来月の新刊が一体どんな話になるのか、楽しみですね。……そういえば、アルスたちがタイレンを離れたのなら、ラティスやダーモットはもう登場しないのかな。やっぱり。
『氷菓』『愚者のエンドロール』と、角川スニーカー文庫にて小粒ながらも良く出来た日常ミステリを発表されていた米澤氏の新作。ちなみに今作は、これまでの2作品とは舞台も役者も異なっています。
感想。これまでの2作品と同じく、ミステリ要素を備えた青春小説。でも、味わいは随分違う感じ。これは探偵役というか、語り手の性格の違いも少しは影響していたのでしょうか。いや、あくまで勝手な印象ですが、守屋君は奉太郎と比べて、良くも悪くも傍観者としての性質が強かった気がしたもので。
思っていたような内容ではなかったけれど、それでも面白かった……というのはちょっと違う気がするのですが。そうですね、例えるなら季節はずれの淡雪のように儚く綺麗で、切ない話でした。
それにしても、作品内の時間とマーヤの母国の名が揃った時点で、ああいう結末は予想できたし、ある程度覚悟もしていたつもりだったのだけど。やっぱり、手の届かないところで終わってしまった物語の結末には、なんとも言えない哀しい気持ちになってしまいましたね……。
追記。作者サイトのコメントによれば、もともとこの作品は「神山高校古典部」シリーズの第3弾として考えられていたようです。この作品が、もしも当初の予定通りに奉太郎の話として出版されたなら、どんな話になったのでしょうね。結末は変わらないかもしれません(むしろ、大して変わらないだろうとも思う)が……やはり、気になります。