■ 2003.1月読書記録

 1/1 『いつかマのつく夕暮れに!』[喬林知/角川ビーンズ文庫]

 前巻ラストでいきなりシリアスに方向転換してしまい、今回はどうなることやら、と思ったのですが。まぁ、結果としてはいつものノリで楽しんで読めましたか。前回で、幾分耐性が出来ていたのかも。

 フリンがただの悪役かと思いきや、意外なキャラで吃驚&好感度上昇でした(このままユーリとくっついても面白いかもしれない……あぁ、でもそれだと三男坊が怒り狂うか・笑) アニシナさんは今回も大暴走……もとい大活躍で、長男はやっぱり苦労人でした。しかし、いくらキレててもちょっとはヒューブに喋らせてやろうよ、とか思ってみたり。ちなみにこのシーンはグレタが良い子で、アニシナに蹴られてグレタを抱きしめるグウェンの姿にちと涙。あと、ギュンターはユーリのこと以外ではそうアホでもないんだな、とかしみじみ思ったりもして(笑) 一方、ラストでユーリのところに辿りついた三男坊はまたかっこよくなってるし。しかし、結局次男の消息は謎なまま……次巻でこそ明らかになりますよね?(汗)

 で、正体不明のムラケン君。今回でちょっと混乱してしまった。え、元クリスティンさんだとしたら、地球の魔族になるはずで。でも、ヨザックが「猊下」と呼んでたってことはやはりあの世界の魔族の転生? ……記憶違いかなぁ。『トサ日記』読み返さないと。

 きな臭さもどんどん上昇していく中、へなちょこ魔王のユーリの選択と平和のための戦いがどうなっていくのか。クライマックスに向けて盛り上がってきた感じです。

 1/2 『尾のない蠍 遠征王と流浪の公子』[高殿円/角川ビーンズ文庫]

歴史と伝統はあるけれど、お金がない。そんな小国・ボッカサリアの国王に近々即位することが決まった王太子ルキウス。彼は祖国を立て直すための援助を求めて、パルメニア国王・アイオリアに結婚を打診する。その後、ルキウスの即位式に招かれたアイオリアは、そこでかつての夫であり現在は敵国ホークランドの将軍であるミルザに再会する。

 とりあえず、読了後の第一声は「ミールーザーっ!(怒)」でした。うーん、私はこれまでミルザとオリエがくっついて欲しい派だったのですが。それはあくまで、二人ではどうにもならない運命に引き裂かれてしまっただけで、お互い想い合っているという大前提があってこそ成立する話で。今回の話で、ミルザは「オリエを愛している」というのとはちょっと違うかも、と感じていたところに、最後のあれでしたからね。くそぅ、ナリス頑張れ(←今さら転向かい。) あと、従姉どのの恐ろしさもますます……あの人の主はおそらく従姉どのなわけでしょ。その彼女が求める、ナリスにとって一番の幸せにも苦痛にもなるもの……最後のあれからいって可能性的には……でもそれだと……うーん(←一人で悩むな) ともあれ、三者三様のオリエ争奪戦(微妙に違うし)がどのような結末になるのか。うーん、最終巻が待ち遠しい。

 その他の話。ゲストキャラの少年王ルキウスは、なかなか将来が楽しみな子でした(実際、かなりの賢君になるみたいだし) 今回、密かに主役周辺の人間関係がドロドロしていた分、より爽やかな印象が残りました。脇役ではオクタヴィアンの昔日のエピソードがえらく背徳的だったなぁ。ファリャ家の令嬢とその騎士は、予想どおりでした。ジャックやガイも、なんだかんだ言いつつも幸せそうで何より(笑)

 ところで。公式ページを拝見したかぎり、結構エピソード削られてるみたいで。その辺のエピソードにもしばしば触れられているおかげか、かなり読みたいのですが……完結後に外伝で、とか無理なのかなぁ。アドリアンが失踪した経緯とか知りたいよぅ(涙)

 独り言。予告されている最終巻のタイトル、かなり不穏だ……というか、隻腕って(汗)

 1/10 『撃墜魔女ヒミカ』[荻野目悠樹/電撃文庫]

帝國空軍に所属するヒミカ・シンドウ中尉は、軍でも数少ない女性パイロット且つ、撃墜王(エース)だった。その技量に加えて、感情を表に出さない振る舞いや謎の多い行動から「魔女」と渾名され、周囲から避けられていた。複葉機を駆り大空を翔ける「魔女」、彼女と関わった人間の辿る道は――

 読んでいて、何故か『笑ウせぇるすまん』を思い出してしまった。それほど類似点があるわけでもないのに。
 とまぁ、そんな呟きはさておき。個人的にお気に入り作家の荻野目氏の新作。第一次大戦期をベースにした異世界での物語。一応背景としては戦時中であるものの、物語的にはあまり関係ないかも。

 正直、キャラは弱いと思いました。ヒミカ以外のレギュラーは、それこそエピソードを進めるためだけに存在していて、個性があまり感じられないというか。それでも、最後のエピソードまで行くとある程度はこういう性格のやつなんだろうな、と想像できますが……うーん、もうちょっとそのキャラ独特の色を出して欲しかった。
 ただ、ある意味暗くて救いのない話の展開は、個人的には「これでこそ荻野目さんだよな」という、非常に嬉しいものでした。……主人公は、別に不幸じゃないけれど(←だから、何故そこにこだわる)

 ヒミカが宝石を集めている理由は謎なままで、続編があってもおかしくない状況ですが……荻野目さん、微妙にシリーズ鬼門だからなぁ。今まで個人名義でシリーズ化(予定含む)された作品が6つで、作者の構想どおり最後まで書かれたのは……あれ、もしかして1つだけか?

 1/11 『Dクラッカーズ2 敵手-pursuer-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 不健康な戦闘描写が独特の味を出している「Dクラッカーズ」シリーズ第2巻。この作品に関して「ブギーに似ている」との評価を時々見ますが、むしろJoJoのほうが近いんじゃないかなーと思ったり。

 さて。今回も1作目に引き続き、「ミステリー文庫」からの発売なのにほとんどミステリじゃない話でした。なにしろ、探偵役の千絵がまだ高校生だということもあってか、能力は備わっていても正義感や義憤に駆られて行動に出てしまったりして。おかげで、冷静に考えなくても危ない場面が割とあって、内心冷や冷や。まぁ、完璧じゃない分、身近な感じもしますが。

 一方、カプセルによって悪魔持ち(オーナー)となったジャンキーたちが所属するアンダーグラウンドでは。第一勢力「セルネット」のみならず、1巻では名前だけだった「ドラッグ・ドックズ(DD)」も登場。武闘派、とか言われてたのでもっと危なそうな連中の集まりかと思ってたら、血の気は多そうだし間違っても善人ではないのだろうけど、なんだか意外に面白そうな連中でした。TOPの甲斐からして、ガキ大将かあんたはって感じだし(笑)

 今回の話で、悪魔狩りのウィザード=景だと、甲斐とセルネットのメンバーである茜にばれたことがどういう具合に絡んでくるのか楽しみ。あと気になるのは、梓がカプセルを飲んでいなくても悪魔が見えるってこと。潜在的なオーナーなんだとしても、普通はカプセル飲まないと見えないはずなのに。景が言うとおり単なるフラッシュ・バックなのか、それとも何か意味があるのか。まだまだ謎は多いです。

 1/12 『Dクラッカーズ3 祭典-ceremony-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 セルネットとDD、そしてウィザード入り乱れての乱戦となった第3巻。しかし、事態はそれだけで収まらず急展開をみせました。

 今回は事件らしい事件は起こることなく、これまでの流れを踏まえて話が進みます。では、探偵さんである千絵は出番がなかったのか?といえば答えはNo。彼女は地道に常識的なアプローチを続け、その結果ある重要な情報にたどり着きます。この時はまだ悪魔の実在を知らなかった彼女には全て言葉どおりには受け取れなかったでしょうが、読者にはこの時点で謎の一部が垣間見えます。そして、セルネットの運営を仕切っていたIX-Cと呼ばれる幹部会議に、唐突に姿を現したセルネット創設者・3人の執行細胞(ファースト・セル)の一人、バール。単純に、景が追っている悪魔のオーナーが彼なのかな、と思っていましたが……

 梓たちを守るために攻撃に転じた景、DDの甲斐すら巻き込んだ彼の目論みは九分九厘達成されていたにも関わらず。力尽きた景の前に現れた「彼女」は、無慈悲にも言葉を紡ぐ。「わたくしのことを、お忘れですか?」と……ここからはもう、景ちゃんが景ちゃんがーという感じ。それにしても、明らかになった梓の幼少期の行動にはちょっと驚かされてしまいました。でも、子供って無邪気というか素直なだけに、酷く残酷な面がありますから……なんか、分かるような気もするんですよねぇ。しかし彼女の過去の行いがどうだったとしてもっ!「彼に必要なのはわたくしです。あなたではない」「わたしもそう思う」……って、これは絶対にちがーうっ!!(叫)

 『堕落』し姿を消した景と、傷ついて倒れた梓。日頃の軽薄さをかなぐり捨てて叫ぶ水原、諸々の事情に触れて涙する千絵の姿が痛々しい。一方、「帰還」した女王の前に跪くバール……こちらは、どこか空々しくて現実感が薄い。それは「自分が、虚幻の王を仰いでいる」と自覚しているが故なのか。それでも彼が女王に託しているものはなんなのか。そして、彼らの闘いがどのような結末を迎えるのか。非常に気になるヒキです。

 つーか、ここまで読んでようやく思ったってのもあれなんですが、1-2巻は思いっきり序章だったのでしょうねぇ。

 1/13 『Dクラッカーズ4 決意-resolution-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 ウィザードの計略により壊滅に追い込まれたセルネット。しかし、復活した執行細胞(ファースト・セル)はその混乱をも利用して、「帰還」した女王とともにある目的のために動き出す。一方、過去を悔いて彷徨う梓と、事態打開のためにできることをしようと奔走する千絵と水原。セルネットの元構成員という境遇を利用し、情報収集に当たる茜。そして、一同が集う――と、最終決戦にむけて粛々と時間が過ぎていった印象の第4巻。

 バールに続き、3人の執行細胞の一人「始末屋」ベリアルが復活。彼の場合は、正に復活というのが相応しいですな。えぇと、ベルゼブブがあれを実行した直後ぐらいに、女王の力で眠りについていた、という認識でいいのかな? しかしまぁ、想像していたのと全く違うキャラでした。彼。

 そして、どん底にまで落ち込んだ梓でしたが。偶然知り合った女子中学生3人がセルネットに入ろうとしていることを知り、彼女たちと一緒に行動するうち、本来の生気を取り戻していくという感じ。最終的に立ち直ったのは、自分の本当の気持ちを自覚したこと、友人の暖かい心遣いと残された景の言葉に後押しされたのでしょうが。にしても、あの景のメッセージは反則……かっこよすぎだよ、景ちゃん。そして、今回千絵は影に日向に大活躍。1巻当初「あああ、なんだかこの子のせいで中途半端に明るくなってるよ。読みきり短編のダークな雰囲気が良かったのにー。」とか内心文句言ってたのを平謝りしたい気分になりました。高校生にして確固たる自己を持つ彼女は、「日常」に必要不可欠な存在だったのね……。ちなみに、「家出」の場面にはちょっと受けました。お母さんもナイス。

 女王と梓の2度の会話は、また設定に深く関わってそうな。とりあえず梓は悪魔を召喚する資質はないらしいですが、その彼女を雛型として女王が生み出されたというのも、また因果な話だなぁ。そして、無慈悲な女王に「妬ましい方」と言葉を紡がせ、景を取り戻した梓たち。乱入した甲斐も合流し、メンバー総結集で。 最後の景の一言は、割とありがちだなぁと思う一方で確かに決まってて、執行細胞の面々との決戦にむけて気分が盛り上がります。……でもやっぱりミステリじゃないよなこの作品……思いっきり広義にすればそうかもしれないけど。

 1/14 『Dクラッカーズ・ショート 欠片-piece-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 5巻の前に、短編集。全部で8話が収録されています。しかし、残念ながらミステリー文庫創刊以前の短編は収録されず。ちっ。

 全エピソード中、個人的には「序曲-prelude-」が一番興味深く読めました。色々と謎になっていた部分が部分的にでも明らかにされ、読了後には思わず1巻を読み返してしまいました。単純に笑えたのは「休日-horiday-」と「台風-storm-」。「休日」は千絵と水原のある一日で、ほとんどの話にどうしてもつきまとうカプセルの影が全く見えない貴重なエピソード。しかし、いいコンビだよなぁこの二人(笑) 一方の「台風」は景と梓の幼少時のエピソード。傍若無人な梓にそれでも懸命についていく景がなんとも微笑ましい。

 「狩猟-hunt-」「炎踊-flame-」「逃走-runaway-」の3編は、ウィザードとしての景の物語。「狩猟」は水原がネットを抜ける際の話でもあり、この頃にはもう役割分担が出来てたんだなーという感じ(そういえば、そもそも水原がネットにいたのはネットの現状を探るため、あわよくば女王を抱えた人間を見つけ出すことだった、ということでいいんですかね?) 未熟な頃の景が見れた「逃走」も良かったけれど、このしばらく後に起こったと思しき甲斐との初対決も見たかった……。残る「炎踊」は正直少し違和感がありました。この作品は雑誌掲載分だったらしいから、その関係でかな、とは思いますが。

 そして、「手紙-a day-」。巻頭は梓、巻末は景の側から見た、1巻終了時のささやかな、けれど後の重要な伏線でもあったエピソードの顛末。このあと、景がどんな思いであのメッセージを綴ったのかな、とか妄想……もとい、想像すると非常に楽しいです。

 1/15 『Dクラッカーズ5 乱-rondo-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 ネットのシステムが崩壊し、暴走をはじめる一般のカプセル・ユーザー。それぞれの理由から、女王と執行細胞を追う景たち。遂にはじまった両者の激突の結末は――第5巻は、大体こんな感じの展開です。

 彼の場合はせいぜい回想ぐらいでしか登場できなさそうだなーと思っていたベルゼブブが、思いがけずに復活……いや、再構成というべきか。教師のようとも評される彼の語りは、不思議な吸引力がありました。他の敵方の面々も、なんだか凄く良かった。バジリスクも悪の組織女幹部の鏡って感じで。彼女がベリアルに自分の真情を吐露する場面は、かなりツボでした。それぞれ異なる歪みを抱えた彼らですが、その分独特の印象が残ります。つーかベリアル、ある一面では本当にいい奴だなぁ、としみじみ。

 対する景や梓たちの陣営としては、執行細胞の潜伏先の捜索に大苦戦。その合間に景と梓の会話等が挿入され、比較的穏やかでなごむ空気が漂っていましたが、相手の潜伏先に乗り込む段取りになると一転、緊張が高まりぴりぴりした感じに。この辺りの運びが上手いなーと。

 決戦の口火を切った甲斐とベリアルの戦闘は、お互いの特徴が出ていて面白かったです。本気を出したベリアルの自分を投げ出した戦闘スタイルも然る事ながら、甲斐は転んでもただでは起きなかったというか。一方、景と「騎士」の闘いにおける梓の役回りは、結構予想通りだったな、という感じ。しかし、誰よりも意外な見せ場を見せてくれたのは、4巻で仲間に加わった女子中学生3人組みの1人、天然お気楽&好奇心の塊である久美子でしょう。他人の呼称からして、「梓ちん」「景ちん」はまだ理解できるとして、甲斐まで「氷たん」呼ばわりするとは……と呆れていたら、極めつけにベルゼブブを「ベルぱー」……この娘、ここまでくると天然を通り越して相当大物だなぁと感心してしまいました。で、思いがけず一番危険な人物の元に辿りついた彼女、翻弄されるだけかと思いきやなかなか健闘。実際、彼女の機転がなければ事態がどう転んだか分からない訳で。うーん、彼女は正に伏兵でした。つーか、そういうことをさておいてもベルぱーとの会話は楽しすぎ(笑) その他、脇役の大人たちもいい感じでした。常識的な立場から事態の収拾に当たらなければならないため、自然と限界が生じる、というのが説得力があって。

 久美子とベルぱーとの会話で明らかにされた、シリーズ最大級の謎の回答はさすがに予想の範囲外。ベルゼブブを「希代の悪魔持ち(オーナー)」とバールが評したのも頷けますな。

 さて。てっきりこれで完結かと思いきや、もう少し続く模様。結局、『建国』についてはその全容が明らかになってなかったりするわけですから、その辺りの謎が幾らかでも明らかにされといいな、と期待。これについてはある程度予想はしているのですが、それだとベルゼブブの例の行動がいまいち説明つかないんだよなぁ……

 1/22 『ザ・サードVI 異界の森の夢追い人(プロメテウス) (下)』[星野亮/富士見ファンタジア文庫]

 文明崩壊後の惑星を舞台に、辺境の砂漠で生きる何でも屋の少女・火乃香と彼女を取り巻く人々が織り成す物語、「ザ・サード」。3ヶ月振りの新刊で、初の分冊エピソード完結編。

 今はもう滅んだ、別惑星の文明によって生み出された「プロメテウス」。その彼が構築した平行世界「ウロボロス」に取り込まれた火乃香、彼女を救出するため別ルートで侵入したボギーとパイフゥ、調査目的で当該地点を訪れていた浄眼機とB.B.、そしてしずく。彼らの再会というか遭遇は、予想以上に早かったかな。とりあえず、刀を手にした火乃香はやっぱり無敵だったということで。あと個人的には、カッコいい浄眼機の姿が読めただけでかなり幸せ気分に。やっぱり私、彼が一番好きみたいですわ(^_^;

 最終的に、火乃香はプロメテウスを永遠から解放した、と言ってもいいのでしょう。しかし、プロメテウス自身が納得し、また望んだ結果であろうと、残されたエレクトラは深い絶望に叩き落されたわけで。謎の存在クエスとともに去った彼女、今後の去就が気になります。

 しかし、いつの間にやら話がすごく大きくなってるよなぁ。一体この作品、どういう決着がつくのか、楽しみなような不安なような。

 1/23 『12月のベロニカ』[貴子潤一郎/富士見ファンタジア文庫]

 第14回富士見ファンタジア大賞受賞作。これまでの大賞受賞作2つは文句なしの出来だったので(あえて言うなら『風の白猿神』……頼むから続編出してください)、今回も期待して購入。

 感想。うーん、ちょっと期待しすぎていたのでしょうか。最後まで読んで、拍子抜けしてしまった。いや、ラストが悪いってわけではなくて(むしろ、あっさり綺麗に終わってると思う)、なんというか全体的に淡白な印象が残ってしまって。構成なんかはそれなりに凝っていて面白いと思いましたが、一方でその演出が無駄に混乱を招いて、結果的に話に没入し難くしてしまっている感もあるし。第一この演出、せっかくのカタルシスの芽を潰してしまったのでは、と思うのですが。もう少し別の見せ方もあったんじゃないかなぁ……。
 それから、同じく大賞受賞者である五代さんや滝川さん、こちらは電撃大賞ですが円山さんと比べると、世界設定も弱くて物足りない。その世界の空気を感じられるような、あるいはその世界の過去や謎について知りたい、と思わせるほどの吸引力が感じられなかった。キャラクターに共感できればもうちょっと楽しめたかもしれませんが、これに関しては私は生憎いまいちでした。「……というかさ、それでいいの?」みたいな気分にさせられたし。価値観が違うといわれれば、それまでなんだろうけれど。

 とまぁ、文句ばっかり書いてしまった気もしますが、大賞受賞作として見ると不満が残るものの、佳作ではあったかな、という印象。個人的な好みに合致しなかったため、私はあまり楽しめませんでしたが。まぁ新人さんですし、今後にはそれなりに期待。……どうでもいいけど富士見ファンタジア大賞って、何故か大賞は正統派の作品が選ばれるんですよね……。

 1/25 『五王戦国志2 落暉篇』[井上祐美子/中公文庫]

巨鹿関の戦いから半年。耿淑夜は義京の豪商・尤家に匿われ、潜伏生活を送っていた。一方、野心家の<征>公・魚支吾は策を巡らし、形骸化した<魁>王朝内部に波を起こし、巨鹿関にて敗北を喫した<衛>公・耿無影も次の機会を虎視眈々と窺っていた。このような動きと呼応するように天変が相次ぎ、民衆の間には不安が広がる。戦乱の時代が、その幕を開けようとしていた。

 古代中国をモデルにした架空世界で繰り広げられる戦国志、第2巻。この巻で描かれた<魁>王朝の滅亡に関わる一連の流れは、1巻で淑夜の策を用い、結果として巨鹿関の闘いで勝利を収めた<奎>をも、あっけなく地図上から消し去ってしまいました。1巻読んだ時点では、「この国を盛りたてていくのか?」と思うような部分もあったので、やはりその命運に驚く人もいるでしょう……少なくとも、初読時の私はそうだった(笑)

 また今回、数名の新規登場人物が。<征>の謀士・伯要は、淑夜とはまた違うタイプなので、今後はどのような手を打ってくるのかが楽しみ。また、羅旋ですらその器を認めていた<奎>の士羽。優しく、また精神的に強かった彼の思いがけない死は、本当に惜しいものでした(黙祷)。

 辺境の<琅>へ向かうという羅旋と別れ、国を喪った大牙と共に<容>へ行くと決めた淑夜の道がどうなっていくのか、また今回は比較的動きが少なかった無影の動向など、物語の続きは3月発売の第3巻にて……

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