■ 2002.11月読書記録

 11/1 『流血女神伝 砂の覇王9』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]

 架空歴史ファンタジー「流血女神伝」エティカヤ編、遂に完結。表面に出てきてない部分でも、歴史が動きはじめただろう巻でした。

 副題にはそういう意味もあったのね、としみじみ思ってしまいました。一応歴史を学んでる人間としては痛いほど納得できることでしたが。それを全て納得していながら進むバルアン、カリエじゃなくても行く末を見届けたいよ。うん。で、最後のあれは――実は別人でした、とか言いませんよね? カリエ本人なんですよね? まぁ、[2年後ということは間違ってもサルベーンとの間に出来た子供じゃない]だろうから、その点は安心ですが……どっち似なんだろう。つーか、周りの人間を考えるとなかなか面白い性格に育ちそう……。ところで、[「大帝」ってことは、やっぱり今後エティカヤは帝政に移行するんでしょうが……ルトヴィアやユリ・スカナは、征服されちゃうのかなぁ。前巻のカリエの幻視もあるし、少し心配……]

 登場人物の話。シャイハンが予想以上に優れた為政者だという事実を目の当たりにし、カリエじゃないけどつい感情移入してしまった節が。サルベーンや周りに多少歪められはしたものの、資質は間違いなくあるんですものね。ただ、それが安定期に適正を示すだけで。実際の歴史上でもあることですが、惜しいよなぁ。彼を筆頭に、舞台から退場していった登場人物たち、皆それぞれ「らしい」生き様、「らしい」死だったというか……ご冥福をお祈りします(合掌) ……スゥランちゃん、これに負けずにまっすぐ成長してくれると良いな。弟も、ちゃんと可愛がってあげて欲しい。一方、ちっとも出番のなかったルトヴィアの人々。あとがきでも書かれてましたが、かなり大変なことになってそうで心配。それから民衆の間では[脱獄したトルハーンのバルアン援護]によって、カリエの評判凄いことになってそうですよね。うぅ、見たいような見たくないような。

 さて、次の本編は「ザカール編」だそうです。落ち着いちゃった(?)カリエもまた波乱に巻き込まれるでしょうが、どんな展開になるのか予想不可。早く読みたいですが、その前に番外編が2つ来るそうで。若かりし頃の天然ギアスさんとトルハーンの話は連載時に読んでるのですが、それでも楽しみなのには変わりなし。ヨギナ陥落時の話も当然気になる……なんにしろ、早くー!(地団駄)

 追記。巻末おまけ4コマ、爆笑してしまいました。エドファンの方、ごめんなさい。

 11/6 『仙姫午睡』[桂木祥/講談社X文庫ホワイトハート]

3年前、海で溺れて生死の境を彷徨った桐生泉。彼女はかろうじて息を吹き返したものの、記憶をすべて失ってしまっていた。何も思い出せないままそれでも生活を続ける泉だったが、不思議な青年と出会ったその時から彼女の周囲は俄かに騒がしくなり――。

 新人さんの作品。あらすじを読んで興味が湧いたので購入してみました。

 八尾比丘尼の伝説を下敷きにした、永遠から解放されようと足掻く者と永遠に恋焦がれる者の姿が対称的。個人的趣味としましては、最後の奇跡はどうかと思わなくもないけれど……[記憶を消す云々はともかく、香織があれで甦ったことがなんか納得いかないのですよ……]。それでも全体的には大きな破綻もなく纏まっているし、語り口も上手くてなかなか楽しめました。この一件が片付いたあとに旅立った異端者たちの行方、機会があれば見てみたいです。

 最後に一つ気になったこと。選考委員の夢枕先生と同じくサラスヴァティ登場になんとなく違和感が。彼の女神はインダス川の化身の筈では……あ、でも江ノ島って弁天様祀ってるんだっけ……ま、あまり深く考えずに、どこかに「道」が通じてるんだとでも納得しておけばいいか。

 11/8 『パラサイトムーンV 水中庭園の魚』[渡瀬草一郎/電撃文庫]

甲院薫の復活。その事実に、キャラバン内部は騒然とする。この機に仇敵である甲院派の殲滅を目論む山之内派に対し、真砂は甲院薫に体を乗っ取られたかつての仲間・由姫を救うため、組織を無視した別行動を開始する。

 未知の存在・迷宮神群の影響を受け、望むか否かに関わらず異能を得た人々の織りなす物語「パラサイトムーン」の第5巻。正直、再読するたびに随所で印象が変わったりして楽しめる作品も珍しいと思う今日この頃。作者さん、ここまで計算して書いてらっしゃるのでしょうか。だとしたら凄すぎ。

 今回は真砂と同じ実験室出身の能力者たちが由姫を助けるために尽力しているわけですが。もう一方、ラスボスである甲院薫に関しても細やかな描写がなされています。由姫の意識と薫の意識の目に見えない戦い、これも最終的にどう決着をつけるのかが気になるところ。あと、個人的には籤方君の存在も気にかかります。なんとなく彼が好きだというのもあるけれど、次巻で何か行動を見せてほしいな、とか思ったり。

 それからエスハ。彼(?)は、まだこの件に絡んでくるつもりなのでしょうか。……まぁ、実害は(多分)ないだろうから、観察している分には問題なし、かな。フェルディナンは……例のあれを密かに捜索してる最中だろうし、なにより甲院派も弱体化しているってことで即潰す方向には動かなさそう。そうなると、由姫救出を目指す真砂たちにとって甲院派以外での最大の懸案は、やはり各派閥の動向になるでしょうねー。次巻では、各派閥のトップが数名登場しそうな気配があるし……。色々予想(妄想とも言う)しつつ、おそらく3ヵ月後に発売となる第二部最終巻を楽しみに待つことにします。

 ところでイラスト。本文中からは姿を消しました……あのぅ、もうこれで満足するべきですか? 表紙と口絵だけとはいえ、やっぱり絵師交代を希望なのですが……

 11/9 『Hyper Hybrid Organization 01-02 突破』[高畑京一郎/電撃文庫]

 特撮モノをベースに展開される、ガーディアン(世間では「正義の味方」と言われている)と組織の戦いに巻き込まれたがために人生を狂わされたある青年の物語。一年半ぶりに続刊が出ました。まぁそう悪くないペースかも、と思った私はなにか間違っているでしょうか。

 今回は、謎の組織・ユニコーンに加入した主人公の貴久が、戦闘員養成所で送る訓練風景。恋人を奪ったガーディアンに対する復讐の一念で、過酷な訓練を乗り越えていく主人公が痛々しい……というのも少し違う気がしますが……つーかこの人、復讐を遂げたら生き甲斐を無くして燃え尽きてしまうのではなかろうかと心配に思うことが無きにしも非ず。同じく訓練生の友人(?)たちとの関係も含め、これからどう話が展開されていくのかが、非常に楽しみ。

 しかし……内容的には普通に面白いので文句はないのですが……続刊は何時になるのかな、と考えると少々悲しいものがありますね。

 11/12 『金色の明日』[甲斐透/新書館ウィングス文庫]

浮浪児のミオーニが旅の騎士ダニエルから貰ったのは、パンとチーズと「よく噛んで食べるんだぞ」という言葉。誰からも顧みられることがなかった少女に、初めて与えられた優しさといたわり。その出会いが、少女の運命を変えるのだった。

 オビの文句を見てなんとなく購入したのですが、とても可愛らしい話でした。話の筋自体は、王道モノというかわりとどうということもない話でしたが。主人公のミオーニは健気で可愛く、ダニエルは絵に描いたように優しくて凛々しい騎士。お互いに相手を信頼しているのが伝わって、読んでて気持ちがよかったです。ダニエルが国を出奔した経緯とかも読んでみたいかも……もしかしてデビュー作がそれだったりとかして。

 しかしミオーニ、今後素敵な女性に成長できるでしょうか。もとは悪くなさそうだけど……どっちにしろ、ダニエル相当鈍いみたいだから前途多難でしょうね(笑)

 11/20 『西域剣士列伝 天山疾風記』[松山寿治/富士見ファンタジア文庫]

時は前漢、元帝の御世。西域都護府に所属する武官の陳湯は、任務のさなかに一人の少女を救う。星星という名のその少女は、友好国・烏孫の公主だった。陳湯は、彼女から烏孫に迫る匈奴の一派の存在を聞き――

 第13回富士見ファンタジア大賞佳作受賞作。西域が舞台の作品ということで、「珍しい」と興味を持って購入。

 感想。けっして面白くないわけではなかったのですけれど、全体的に文章に色気が足りないというか……盛り上がる場面でも割と淡々と読めてしまったのが残念。素材がすごく美味しそうなだけに、もったいないなぁと思ってしまった……まぁ、新人さんだし今後の成長に期待です。ついでに言うと、個人的にロマンス部分は少々邪魔に感じてしまいました。ハリウッド映画並に唐突な気がしてねぇ……。

 余談。図書館で調べものするついでに『漢書』等を斜め読みしてきたのですが……本当に相当いい性格してたみたいですね。この人……よく粛正されなかったものだ(呆)

 11/25 『五王戦国志1 乱火篇』[井上祐美子/中公文庫]

自らの一族を滅ぼし、次いで主君を弑して<衛>公の位を簒奪した耿無影。実の兄のように慕っていた無影の凶行に、一族でただ一人生き残った耿淑夜は無謀な復讐を謀る。しかし、相討ち覚悟の復讐は失敗、淑夜は山中を逃亡する最中に半死半生の大怪我を負ってしまう。断崖の底で身動きが取れずにいた彼は、一人の男に救われる。赫羅旋と名乗るこの男との出会いが、淑夜の人生を大きく変えることになる。

 中国風の異世界を舞台に繰り広げられる、架空歴史物語(時代的には、おおよそ春秋戦国時代に該当するかと) さすがにこれが中公文庫から発売される可能性は低いだろうと思ってたので、吃驚しつつも素直に嬉しい。

 今回はまだ物語の序盤も序盤なのですが、話の展開は上手いし見所もしっかりとあるしで、一気に最後まで読めてしまうぐらい面白い。また、登場人物達もそれぞれに癖があってそれぞれに魅力的です。ちなみに私が特に贔屓なのは、女手一つで大商店を切り盛りする尤暁華と、陰気な策士の棄才でしょうか。あ、それから無影と連姫(無影の母方の縁者。無影の意思と利権に聡い叔父の意向で強引に後宮に入ることに)の、なんとも複雑な関係が好きだったり。

 主人公である淑夜はまだまだ甘い良家の公子といった趣ですが……彼はこれから成長していくので、楽しみです。はい。

 11/29 『天気晴朗なれど波高し。』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]

ルトヴィア帝国で代々海軍提督を輩出する名門ギアス家の三男ランゾット。小説家志望の彼だったが、海軍への入隊は本人の意思に関係なく決められていた。さっさと出世して引退しようと心に決めていたランゾットだったが――

 雑誌『COBALT』にて連載されていた、「流血女神伝」の姉妹編。後の天才提督ランゾット・ギアスと海賊王トルハーン(ルトヴィア名はトルヴァン・コーア)、彼らが出会って間もない、まだ士官候補生だった頃の物語。……ちなみに、雑誌のコメントでは『海駆けるアホ』というタイトルにしようかと考えていたとか書かれていました……いくらなんでもそれはストレートすぎです。須賀さん。

 えっと、本編のノリだと思っていると、十中八九痛い目を見ます。基本的には『天翔けるバカ』系の軽いノリの話なので。連載時に読んでいたにも関わらず、随所で吹きだしあるいは爆笑しながら読み進めました。もちろん笑わせるだけじゃなくて、きちんと真面目な話も展開されているのですけれど、悲壮感はほとんどない。これはもうギアスさんとトルハーン、二人の性格&言動の賜物でしょう。とりあえず、ギアスさんは天然だという認識でOKですね(笑) ところで、ネイ嬢は今回だけの登場なんでしょうか。個人的には、本編にも登場して欲しいぐらいの女性なのですが……せめてこの姉妹シリーズだけにでも登場をー。

 ついでに、密かに連載読んだ当初から気になってることが一つ。作中で著書から引用されているという形式のウェイン氏(ギアスさんの兄)の言葉……「悲劇の天才提督」ってなんなのでしょうか。本編でのトルハーンの「代償」はこの人関係じゃなかろうかと疑ってるので、思いっきり怖い&楽しくない想像をしてしまうのですが(汗)

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