■ 2001.7月読書記録

 7/1 『刑事ぶたぶた』[矢崎存美/徳間デュアル文庫]

 生きているぬいぐるみ、「山崎ぶたぶた」(♂)。これまでの作品では様々な職種についてるぶたぶたが見れましたが、今回のぶたぶたは一貫して刑事。……「どうしてぬいぐるみが刑事なんだ」とかツッコミを入れてはいけません。

 本当、ぶたぶたがぬいぐるみであることを除いたら普通の世界ですよね。今回はぶたぶたが刑事のため色々な事件が出てきたりしてますが、それ以外はこれまでどおりの、割とどこにでもありそうな、そんな感じのする日常のお話。やっぱりこういう雰囲気の、気軽にのほほんと読めるお話も良いものです。

 「ぶたぶたって、小学校の先生とかが向いてそうだなぁ」などと、ちょっと思ってみたり。

 7/4 『乱紅の琵琶 長安異神伝』[井上祐美子/中公文庫]

 唐代中国を舞台に、武神・顕聖二郎真君が天帝の命で妖魔を退治する中華ファンタジー。……これ以上の粗筋は、どう頑張ってもネタバレになってしまうので、省略です。

 今回は、ひたすらお堅い天界の将軍・韋護が登場。諸々の事情から、二郎真君に敵愾心を燃やす彼の気持ちがどうなっていくのか。それはまぁ、読んでからのお楽しみってことで。

 あとの見所は……やっぱり、二郎真君と翠心の恋愛の行方、でしょうか。この私でさえ「もうちょっとなんかあるでしょうー」と言いたくなってしまうほど、じれったいこの2人。結末は知ってるものの……どうもいらいらしてしまいます。はい。

 毎月発売してくれるのかと思ってたのに、次巻は1月とのこと……それでも発売してくれるのなら待ちますけどね。でも、やっぱり一寸残念。三娘に早く逢いたいのにな(涙)

 7/5 『野望円舞曲 3』[田中芳樹(原案)・荻野目悠樹/徳間デュアル文庫]

 なんだか泥棒さんことコンラッド氏が、タキシード仮面(古!)に見えて仕方がありませんでした(笑)

 まぁ、そういう馬鹿な感想は置いといて。『銀英伝』帝国主従コンビ女性Ver.が主役(私的認識)のこの小説。ですが、彼女たちがまだ資金集めの段階だからかそれとも最終目標が見えないためか、あまり感情移入できなくて困っています(……前回の影響も、まだあるかも……) 今後巻き返しがあると良いのですけどねぇ……。

 しかし、毎度のことと言えばそれまでですが、主人公サイドよりも敵役(?)であるケマル・エヴヂミク閣下のほうに期待してしまう私って一体(笑) だって好きなのですもの、こういうカリスマ的な独裁者というか乱世の英雄というか、そういうタイプのキャラ。実際に身近にいたら凄まじく迷惑だろうけど、こうして傍で見てる分にはかっこいいし(←おい) 他は、敵地に赴任中のジェラルド兄の今後の行動も、気になるところです。

 ところでこのシリーズの開始当初から気になってるのですが、トルコの人名って「名・姓」なのですかね? いや、アラブ諸国は厳密な意味での姓はないという話ですし。調べてみようとトルコ語の参考書見ても、特に何も書かれてないし。全然話の本筋に関係ないことなのですが、なんだか気になって仕方がないのです。(追記:後ほど情報頂いたり調べなおして分かりました。他のアラブ諸国は微妙ですが、少なくともトルコには氏姓制度が導入されています)

 7/7 『童話物語(上)・(下)』[向山貴彦/幻冬舎文庫]

南クローシャの小さな町・トリニティー。孤児のペチカは、街外れの森で亡き母の写真だけを支えに生きていた。周囲の人間の理不尽な仕打ちに、世界への憎悪を抱えながら……。そしてある冬の日、彼女は「地上世界を研究しにきた」と言う妖精――この世界では世界を滅ぼす存在と人々に恐れられている――のフィツと出会う。この出会いが、ペチカの旅の始まりだった。

 これはもう、絶品。M・エンデとか、あの系統が好きな方には是非とも読んで欲しい。むしろ、読まなきゃ損ではないかと。……私的な意見で恐縮なのですが、人気のハリー・ポッターよりもこちらのほうが断然面白かったです。

 物語前半での主人公・ペチカの行動は、はっきり言ってとても誉められたものではありません。けれど、それは彼女を取り巻く世界があまりにも過酷だから。理不尽な暴力や人々の悪意に覆われた世界では、ペチカが生来持っていた「優しさ」は生きていくのに邪魔以外の何者でもなかったのです。「自分以外の世界なんて滅べばいい」と言う彼女の姿はとても痛ましくて。容易に人の善意を信じることができない、何事も疑ってかかる彼女のペチカの姿に、一体何度「世の中そんなに苦しいことだけじゃないよ」と言いたくなったことか! でも恵まれた環境にいる私が言ったところで、おそらく彼女には届かないのだろうなぁと思うとまた……。

 でも物語が進むにつれ、ペチカは少しずつ変わっていきます。それはもちろん彼女個人の資質もあるでしょうが、彼女を慈しんだ人々の想いもまた、必要不可欠なものだったでしょう。本当の意味で成長したペチカの姿には、前半とは違った意味で涙。

 ……と、まとまりのないことを長々と書きましたが、この物語の魅力は私がどれほど言葉を尽くしても語り尽くせないと思うのです。とにかく、読んでみて下さい。

 7/10 『キノの旅IV -the Beautiful World-』[時雨沢恵一/電撃文庫]

 人間・キノと言葉を話すモトラド(バイクのことらしい)・エルメスの旅を綴った、短編連作集第4巻。
 これまでと同じく、寓話を連想させる一冊でした。微量の「毒」を含んだ作品あり、ちょっと笑える作品あり。1冊でいろんなパターンの作品が楽しめ、お得感があります。

 あと、今回はちょっとした仕掛けが上手かったと思います。第一話は、読んだその時は意味が分からなかったけど、第九話を読んだら「あ、なるほど」と納得できたり。他にも、プロローグ&エピローグは「これはやっぱり……かな?」とか。

 しかし、今回は何よりもあとがきに限ります。この作家さんは、毎回変わったあとがき(&著者近影)で楽しませてくれるのですが、今回のはまた……読後の余韻が吹き飛んじゃうぐらい楽しかったです(笑)

 7/15 『華胥の幽夢<ゆめ> -十二国記-』[小野不由美/講談社文庫]

 同人誌上で発表されていた短編三つ、そして『メフィスト』と『IN・POCKET』に掲載されていた短編二つを纏めた、十二国記初の短編集。お目にかかる機会がないだろうと思っていた「乗月(原題:函丈)」と「書簡」、そして「帰山」が読めたので満足(^-^) では、一言感想。

「冬栄」:使節として漣国へ赴いた泰麒の話。

 廉王&廉麟の主従コンビがいい味出してます。この話で初めてじゃないですか? こんなに普通にほのぼのしている夫婦(←違う) 少しだけですが、戴国主従の仲良し度も見ていて微笑ましい(……というレベルを越えてそうな気もする) しかしこのあとの、荒れた戴の姿を知ってると……本当に、なんでああなったんでしょう(哀)

「乗月」:峯王・仲韃が諸侯に討たれて四年。大逆の盟主であった月渓のもとに、慶国から二通の書簡が届けられる。

 これが、一番読みたかったんですよ。『風の万里 黎明の空』を読み終わったとき、「月渓にも祥瓊が変わったことを知って欲しいな」と思っていたので、なんというか……ほっとした気分です。それと、珠晶の対応がまたらしくて良し。供麒、また何か(余計な)意見言おうとして朱晶にしばかれてたりして(笑)

「書簡」:雁の大学で勉強中の楽俊と陽子の文通の話(←微妙に違うような……)

 楽俊と陽子の関係は、やっぱり良いなぁと思います。……しかし、楽俊が登場すると自然と気持ちが和んでしまいますね(*^-^*) 「ちんまり椅子に坐っている」、「ぽてりと書卓の上に顎を載せる」姿を想像するだけでかわいい。

「華胥」:才国を理想の国とすることを夢見た人々の、憧憬の行方は……

 「責難は成事にあらず」……この言葉に象徴される、なんともやるせない話です。王にしても官吏にしても、真摯に国を思っているから余計に。芳の仲韃も、こんな感じだったのでしょうか。それと、初めて失道中の麒麟が描かれていましたが、これがまた無茶苦茶痛々しい。でも美少女の麟達ならともかく、景麒とか延麒とかがこの状態になるのってちょっと想像できませんね(笑)

「帰山」:各国を放浪中の奏国太子・利広。柳で旧知の男・風漢と出会った後、久しぶりに帰国する。

 ……利広と風漢が、互いに雁と奏の滅ぶ姿(想像)を語るところと、碁石の話が出たときに思わず顔が引きつったのは、私だけじゃないですよね? 「あり得るような気がしてしまった」じゃないってば、利広~!!(>_<) あと、恭と範の間に国交が無いのがなんだか意外でした。……趣味が合わないのだろうか、珠晶と氾王(笑)

 7/19 『天帝妖孤』[乙一/集英社文庫]

 3年前に集英社のJブックスから発売されていた作品集の文庫化。表題作他一編が収録されています。

「A MASKED BALL」:学校のトイレで交換されていた他愛もない落書きが、やがて事件に繋がっていく話。

 これはホラーともミステリーとも言えるような……解説の我孫子さんの言葉を借りてサイコサスペンスとするのが一番良いでしょうか?……えっと。細かい感想は、我孫子さんの解説と結構被ってるので(ここまで考えてないけどさ)省略します(汗)

 追記。このまえ英和辞典を眺めていた時に見つけたのですが、「masked ball」って「仮面舞踏会」の意味なんですね。そういえばこれの題名だったと思い出して、「なるほど」と一人納得してました。

「天帝妖孤」:子供の頃、狐狗狸さんを行った際に、早苗と名乗る何者かと不用意に契約してしまった為に、怪我をするたびに少しずつ別の生物に変わっていく男の物語。

 記憶とは違う始まりだったので、単純に「加筆されたのかな?」と思いながら読んだのですが、もうほとんど別物になっています。

 最終的に主人公が至る結末は同じようなものですけど……今回は主人公、もうひたすら孤独で、救いといえる事柄が乏しい(-_-; もっともその分、杏子との交流が際立って、最後の辺りは完全に涙目になっていましたけれど。

 それと、Jブックス版はなんとなく読み難い印象があったのですが、それが解消されていたのが良かったですね。個人的には。でも、ところてんやすず虫のエピソードが削られたのは少し残念だったかなぁ。……そういえば今回は骨川さん出てこなかったし、早苗の正体も不明なままでしたな。

 7/20 『ザ・サード0 風花の舞う街で』[星野亮/富士見ファンタジア文庫]

 文明崩壊後の世界が舞台の「ザ・サード」シリーズ・番外編。本編では火乃香のサポート(?)を担当しているパイフウ女史が主役です。ちなみに、題名の「0」に本当は「/」が入っています。……どうやって出すんだろう。

 パイフウ女史、強いですね。冷静に考えると当たり前のことなんですけど、本編だとやはり火乃香の無敵さのほうが目立ってますから。あと、パートナー(?)のMJもいい感じでした。このシリーズでは珍しい、戦闘をこなせる男性(『蒼い殺戮者(ブルー・ブレイカー)』は別扱いで)なのですが、親しみやすい人柄でいざという時には頼れる。こういうタイプのキャラも嫌いじゃないです。

 いつものように全体としては読みやすく、またアクションシーンも多かったので、私としては楽しんで読めました。……でも、なんだか今ひとつ物足りない気もするんですよね、このシリーズ。どれも標準レベルに読ませてくれる作品ではあるのですけど。

 7/25 『ネコノメノヨウニ…』[田中啓文/集英社スーパーダッシュ文庫]

 久方ぶりにイラスト買いした作品(皇名月さん、好きなんです(^_^;) 少女小説雑誌『Cobalt』で連載されていたホラー6編を纏めた短編集、とのことです。

 どれもちゃんとホラーしてる作品だったので、面白かったです。怖さは……普通に怖いのではないでしょうか? 怖いと思います。多分。……ごめんなさい素直に白状します。怖いかどうか、判断できません。私、ホラー系(小説に限らず)には何故かやたらと耐性が強いので(汗)

 えーっと。私としましては何気に良いエピソードもありましたし、皇さんの美麗なイラストが拝めただけで満足です。はい。(田中啓文氏のファンの方、こんな感想でごめんなさい…)

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