■ 2001.2月読書記録

 2/2 『流血女神伝 砂の覇王4』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]

 これまでなんとなく感想書きそびれていたシリーズ。現在展開中の「砂の覇王」が一段落したら感想書こうかな、と思っていたのですが、まだ当分続きそうなので今回から感想書いていくことにしました。――ということで、架空歴史ファンタジー「流血女神伝」、砂漠の地・エティカヤを舞台にした「砂の覇王」編第4巻。

 これまでのお話をちょっとまとめてみますと。主人公は、ルトヴィア帝国のとある村で育った少女・カリエ。ある日、彼女はエディアルド(エド)という男に拉致された(としか、言いようがない。あれは)ことを発端に、波乱の人生を歩む事になります。まず顔がそっくり、ということで帝国の皇子の身代わりに。それから紆余曲折があって、現在は隣国・エティカヤの型破りなマヤル(王子のこと)・バルアンの小姓として生き延びている、という状況。(←ネタばれになるので、はしょりまくってます。詳しいことは既刊――「帝国の娘(上・下)」及び「砂の覇王(1-3巻)」をどうぞ)

 今回は、ルトヴィアでのドミトリアス(カリエが身代わりを務めていた皇子の異母兄)とグラーシカ姉様(ルトヴィア隣国のユリ・スカナ王国王女。男装の麗人。)の婚礼&戴冠式に出席するバルアンにカリエも同行する事になって……という所から。この婚礼を軸に物語が展開していくので、どことなく華やいだ雰囲気なのですが、やはり『流血女神伝』というべきか。裏で入り乱れる陰謀や人々の思惑も、凄いです。久々登場の怪しい僧侶・サルベーンはまた影でいろいろ画策しているしわ、バルアンの寵妃の一人・ビアンも今後後宮だけでなく、深く関わってきそうな気配だわ……。そんな状況の中でも、ルトヴィアを救うための変革を志すドミトリアスとグラーシカ姉様は文句なしにかっこいい。このコンビなら既に傾きかけてるルトヴィアを何とかできる、と思いたい(-_-; ……そういえば、カリエの出生に関する疑惑、バルアンが口にするまですっかり忘れてました(馬鹿)

 あと、バルアンがやたらと意地悪でしたな(←そんな言葉で済ませるな) ただ本能で動いてるだけの馬鹿王子ではないって事なのでしょうね。ちなみに私、バルアンは「乱世の英雄」なのだと思ってます。イメージする人物としては曹操とか信長が一番近いかな。(エティカヤが「騎馬民族」ということを考えるとチャガタイがモデルなのかな、とも思うけど。でも、それだと兄貴のモデル=ジョチになるので、ちょっと嫌。)……しかし、今回の件で大多数の人に嫌われたであろうバルアンに益々惚れ込んでしまった私って……やっぱり趣味悪いのだろうか(悩)

 で。無茶苦茶気になるところで終わってるのに。次巻は11月だなんて、つらすぎます。まぁ、読者としては素直に待つしかないんだけど(ブツブツ) 次はラクリゼ姐さんが活躍してくれると良いな。ついでに、ミュカの近況も書かれているとさらに嬉しい。

 2/3 『桃花源奇譚 風雲江南行』[井上祐美子/中公文庫]

追っ手を振り切り開封を旅立った白公子、陶宝春、包希仁。あらぬ嫌疑で囚われた3人は、字を漢臣という少年に助けられる。一方、殷玉堂・何史鳳の2人もそれぞれの事情から江南へ向かい――

 中国・宋代が舞台の伝奇小説第2巻。感想は……史鳳姐さんが、現状ではとことん運に見放されてて気の毒。江南までの同行者が玉堂ってのは、どう考えてもつらかろう。白公子並みの図太さ――もとい、度量があればともかく。で、最後はまた桃花源に縁の人物に保護(?)されたけど、当分は不幸(というか、想い人に逢えないまま)だろうし。……めげずに頑張れ。

 あ、個人的には、白公子と殷玉堂のやり取り、好きです。「公子のペースに簡単に巻き込まれちゃって、玉堂もかわいいところがあるなー」などと微笑ましく思ったりするんですよね。……単に、玉堂が好きなだけとも言えるけど。

 2/9 『ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド』[上遠野浩平/電撃文庫]

統和機構に所属するMPLSの少女・九連内朱巳。彼女は、集団昏睡事件の調査のためにある街にやってくる。そして、変わり者の同級生・霧間凪と出会い――

 「ブギーポップ」シリーズの10巻目。1年も新刊出てなかったのか、とちょっと驚き。時間的には『夜明けのブギーポップ』以後『VSイマジネーターpart2』冒頭以前――霧間凪や宮下藤花が中学生の頃の話です。

 「穂波顕子って、誰だったっけ?」と、しばらく真剣に考え込んでしまいました。前の話で出てきたばかりの人を忘れてどうする。私(苦笑) でも、辻さんはちゃんと覚えていたのですけどね……最近のキャラって初期ほどの印象がないのか?(←単に自分の記憶力がないだけでしょうが)

 以下、ネタばれ気味。[朱巳の「嘘」って、あれはもう天才的ですよねぇ。……とはいうものの、統和機構は本当にだまされてるのかな、と疑ってみたり。システム上、数え切れないほどのMPLSを見てきてるわけだから、「何かおかしい」ぐらい見当がつくと思うんだけど。ひょっとして、その「嘘」の才能自体が彼女の能力なんだったりして。……いくらなんでも考えすぎか。]

 さて、次はどんな話になるのかな。とりあえず個人的には、今回「単純バカ」と評されてしまったフォルテッシモが報われれば良いです。はい(笑)

 余談。毎度思うんだけど、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』って、そんなに有名ですか? いや、登場人物の大多数が知ってるのがすごい不思議で仕方ないのですけど。

 2/10 『ダブル・ブリッドV』[中村恵里加/電撃文庫]

 ダブルブリッド5巻目。今回は、優樹さん元同僚の夏純ちゃんと京都に出張です。

 「え。鴨川の河川敷って、公園だったん?」……素直に、今回一番驚いたことです。はい。(何年京都に住んでるんだ。自分。) 確かに言われてみたら、そうかなぁと思わなくもない。上流の賀茂川の辺りは子供が遊ぶスペースも、確かにあったし。……にしても、ふぅん。そうだったのか……って、いかんいかん。感心するだけで、話の感想全く書いてないし。

 えぇと、感想。……何というか、「古都・京都で起きた殺人(?)事件を美人(?)刑事が追う! アヤカシと人間、種族の違いが生んだ哀しい愛の物語!!」とかそんな感じの適当なテロップと一緒に、火曜サスペンス劇場のテーマが聴こえてきそうな感じでした。なにしろ京都だし(←理由になってない)

 優樹さんの目。あれ、反則じゃ……お父さん、過保護はいけませんよ。(え、違うって?) しかし、この作品のアヤカシって基本的に優樹さんに甘いねぇ。そんなにカリスマ、というか構わずにいられない雰囲気があるんだろうか?
 あと、2巻の吸血鬼(名前覚えてない)再登場はちょっとびっくり。……このまま済し崩しにレギュラー化は、ちょっと遠慮したいな。ただでさえ覚えてない人(?)結構いるのに、これ以上記憶力使いたくない。

 追記。私、やっぱり太一朗はあまり好きじゃない……

 ◆ 2/11 『陰陽ノ京』[渡瀬草一郎/電撃文庫] ◆

 第7回電撃ゲーム大賞金賞受賞作。平安時代を舞台にした陰陽師もの。ただし、主役は晴明に非ず。家業の陰陽道ではなく、あえて文章道を選んだ青年・慶滋保胤が主役。物語は、彼と親交のある安部晴明が、近頃都に現れた外法師についての調査を依頼してくるところから始まります。

 面白かったです。……この一言で終わってしまうのが、ちょっと困ったものです(汗) いや、本当に面白かったんですけどね。話もよくまとまってるから読みやすかったし。……でも、少々地味というかこれといって際立った印象が残らないというか。まぁ言ってしまえば、普通の陰陽師ものだなぁという印象感じでした。

 個人的には、晴明が「狸のような体型の中年男」だったことに一番衝撃を受けました。なにしろ私、「晴明=美形」という公式が脳内で勝手に成立している人間なもので(^_^;

 2/15 『詩人の夢』[松村栄子/ハルキ文庫]

 人生でただ一度の〈真実の恋〉に巡りあったとき、性別が決定する人々の住む星を舞台にした物語――『紫の砂漠』の続編。

 前作の印象が『静』だったのに対して、今回の印象は『動』。
 言ってしまえばこの『詩人の夢』と言う作品、神話時代の終焉、もしくは一つの転換期を描いた作品ではないでしょうか。……あくまで私の解釈ですが、これまでのこの世界の人々って、古からの因習・宗教を守りつつ、その範囲の中で自分たちの属する職種――例えば書記の権限を強める、といった思考だったように思うんですよね。ところが今回、その古からの因習に綻びが生じた。自分たちを導いてくれる筈の〈神〉は耳を塞いでしまった。また、新しい〈神〉の誕生を説く者がいる……etcetc。人々の意識を含めて、世界が停滞よりも変革を求めた姿が浮き彫りになっているように思えます。

 数百年に及ぶ停滞を経て動き出したこの世界の未来が、果たしてどうなっていくのかは判断できませんが、新しい秩序が必要とされているのには代わりないでしょう。そんな時代に、既存の説に捕らわれない発想のできる、シェサのような天才が世にあることは、幸運なのかもしれません。……そう思いはするものの、シェサには心情的に多少、同意しかねるのですが。

 ふと思ったのは、前作『紫の砂漠』が(ありきたりな表現ながら)一つの石だったのかな、ということ。凪いだ湖面に波紋を生じさせるように、ひたすら静かで安定していた世界に変化をもたらす要因となるもの。もちろん、この物語で起こった異変全てが前作に端を発している訳ではありませんが……でも、そういう感じを受けました。

 う~ん……『紫の砂漠』もそうだったけど、どうも感想が上手く言葉に出来ないです(ここまでも結構支離滅裂だし)。私にはもう、とにかく読んでくれ、としか言いようがないです(^_^;

 ところでこのシリーズ、まだ続編があると期待していいのでしょうか? 個人的には、〈瑠璃色の海〉を越えた世界――〈紫の砂漠〉とは異なる秩序の支配する世界も見てみたいと思うのですが。

 2/21 『さすらいエマノン』[梶尾真治/徳間デュアル文庫]

 「地球に生命が発生してから現在までのことを総て記憶している」という少女――「no name」をさかさまに読んでエマノンと名乗り、世界中を旅してまわっているその少女と、彼女とすれ違った人々との僅かな時間の交流を描いた連作短編集の2巻目。なお、第1作目『おもいでエマノン』も同じく徳間デュアル文庫から発売されています。

 前作は、「表題作はいいんだけどなぁ……」という感想だったのですが、今回は全体的に面白かったです。ほとんどの作品で環境問題が関係していたことも関係しているかも。親しみやすい……というのも変ですが、身近な問題ですからねぇ。

 そういえば、最後の『いくたびザナハラード』に登場した老人。あの人の行動と似たエピソード、聞いた事があるんですけど……あれは何県の話だったっけ……? う~ん、気になるけど思い出せない。もう歳なのかなぁ(-_-;

 2/25 『桃花源奇譚 月色岳陽楼』[井上祐美子/中公文庫]

 中国・宋代が舞台の伝奇小説第3巻。今回は、まさに『転』。白公子を狙う劉妃一派の齟齬が表面化してきたり、ついに白公子の母親も登場したり――極め付きに宝春が(以下自主規制)という事態。最終巻である次巻が、とても気になるヒキになってます。

 さて、主人公である白公子の敵・劉妃。彼女の気持ちは、狄妃(白公子の義母)も作中で言ってますが、(一応)同じ女としては分からなくもないんですよね。……とはいっても、私は権力志向は薄いので、分かるような気がするのは「母親」としての彼女の心境なのですが。無理だろうと思うけど、何とか万事丸く収まらないものかなぁ(←ちょっと同情してしまってる)

 もっとも、丸く収まって欲しいのは劉妃のことだけではないです。丁謂や雷充恭は別にどうでもいいけど(酷)、主人公4人組や彼らの縁者・支援者、さらに個人的には玉堂も……本当に最終巻が早く読みたい。

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