高殿円さんの新作。今回は、「遠征王」の時代から遡ること100年余り。パルメニア王として君臨しているのは「隻眼王」ミルドレッド。
いや、まぁ、なんと言いますか。面白かったです。面白かったんですが、これまで勝手に想像していた人物像が崩れたというか……。隻眼王は、オリエの前例があったからまぁこういうのもありだろうとか思いましたが、アドリアンが……意外にお茶目な人だったんだなぁと……
ヒロインのフランは、オリエと違う方向に型破りな女の子。しかも、済し崩しに決定したポジションが「遠征王」でのニコールだし。気の毒に、暑苦しいだろうなぁ(笑) それはさておき、呪いにも負けず、どん底から這い上がるため&金儲けのため奮闘する彼女はパワフルで良い感じだと思いました。
さて、今後フランたちがどんな冒険を繰り広げるのか。ミルドレッドの腹心エルゼリオたちにも出番があるのか。続刊に期待です(……出るよね、続刊)
「マのつく」(いい加減「まるマ」表記にしようかな。長いし)シリーズで大人気の喬林さんの新作ですが、「マ」(略しすぎ)のサイドストーリィと言って差し支えがないかと。
普通に面白かったです。一部、「マ」に繋がる伏線などもあったりして。しかし、このあちこちに張り巡らされたというか拡大する一方の伏線、ちゃんと回収されるんだろうかと少しばかり不安に思ってしまった。
まぁ、「マ」ほど笑いはしませんでしたが、これはこれで面白かったかな。次男とクリスタルの話もちょっと読んでみたいかも。
独り言。エイプリルとリチャードのらぶらぶシーンがもうちょっとあったら嬉しかったなぁ、と。いや、個人的な好みなんですけどね。
第1回ビーンズ小説賞にて優秀賞を受賞した作品。先月に引き続き、投資。
まぁ、無難に面白かったかな、と。展開にしろ設定にしろ結構古典的というかベタな物ではあるけれど、その分大きな破綻もなくまとまってるし。今後の成長を普通に期待ってところかな。
しかし、宣伝文にかかれている「ヴァンパイア・エロティカ」というのはどう贔屓目に見ても間違っていると思う。雰囲気ライトで健全ラブコメって感じだし。ヴァンパイアでエロティカって言ったらもっとこう……(以下問題発言につき削除)
唯一神を奉じる国家と、かつて彼らの侵略を受け虐殺された諸部族(多神教)の対立を背景に、陰鬱な空気が漂う正統派ファンタジー、第2巻。
2巻になって、主要人物の周辺以外でも話が少し盛り上がりを見せてきた感じ。野心を持った煽動者や、何食わぬ顔で韜晦しつつ行動する時を静かに待つ策士な人とか。彼らの思惑や行動がどのような結果を導き出すのかが気になるところ。
一方、中心的位置を占める若者たちに関しても非常に気になります。リリーベルとルァズの関係は、リリーベルの出身とルァズの誓いや信仰が生み出す微妙な緊張も相俟って、もどかしかったり切なかったり。また、アリエスとリリーティグ嬢も順調そうだったのに最後のあの展開で……。
次巻、早々に4人の若者が顔を合わせることになりそうですが、どうなるんだろう。主にリリーティグ。
禁酒法時代のアメリカを舞台に繰り広げられる「馬鹿騒ぎ」、第4巻。
今回は『1931』ほど派手なお祭騒ぎではありませんでしたが、それでも面白かったです。やはり構成力が凄いのでしょうね、この人。諸々の出来事がパズルのように組み合わさっていく様は見事としか言いようがない。
登場人物の話。これまで脇役だったガンドール3兄弟がメインにまわり、主に末弟ラックが「不死者」故の感情の鈍化に悩みつつも、マフィアのボスとしてやることはやってくれます。うーむ、彼らは疑う余地もなく悪党だけれど格好良いですなー。その他、これまでに登場済みの人々の一部もそれなりの役割を担って出演。ちなみに馬鹿ップルは今回の騒動の間は大人しかったけれども、それでもある人物に大きな影響を与えていたりして。クレアは相変わらず最強というか無敵というか傍若無人というか唯我独尊というか(以下延々と続く) しかし、彼が喋るなんでもない台詞(今回は「呼んだ?」とか)がやたら可笑しく感じるのは何故なんだろう。で、彼の被害(?)にあった情報屋のヘンリーは自業自得とはいえ気の毒……でもないのか。それから、ロイやイヴなど新規登場人物達もそれぞれ見せ場や味があって良かったと思います。個人的にはキースと奥さんのケイトのエピソードがなんとなくお気に入り。地味だけど、こういうのいいですよねぇ。
さて。多くの人間や思惑が入り乱れる馬鹿騒ぎ、今作で出番があった連中もなかった連中も、次回はどんな騒動を巻き起こしてくれるのか楽しみなところです。
一般小説でもあまりお目にかからない、第一次世界大戦期を扱った作品。とはいえ、雰囲気がさほど暗くない上に(少なくともこの巻は)基本的にコメディ調なので読み易いです。複葉機や飛行技術の説明も専門的になりすぎず、しかし理解はできるように描写されているのがGood。
登場人物の話。とりあえず「お馬鹿」の一言で説明が済んでしまうリック、複雑な生い立ちから幾分屈折しているものの、根本はやっぱり飛行機バカな英国貴族ロード(通称。本名はリチャード・レイストンと、ファーストネームがリックと同じ)、陽気で大酒飲みで不死身男のロシア人ピロシキ(これも通称。本名不明。舌噛みそうな名前らしい)、生真面目で妙に信心深いイタリア人パードレ(やっぱり通称。本名ガブリエーレ・ミノーニ)といった、航空部隊の面々が繰り広げるやりとりがとにかく楽しいです。
一方、敵であるドイツ軍登場人物は実在の人物で固められています。「レッドバロン」ことマンフレート・フォン・リヒトホーフェンは勿論魅力的に描写されていました。が、個人的にはヘルマン・ゲーリングのほうが気に入ったかな。この作品のゲーリング、プライド高くて短気でバカ(褒め言葉)だけど、愛すべきキャラクターなんだものなぁ(なんとなく遠い目)
とにかく、大空の戦場にはまだ騎士道精神がかろうじて残っていた時期。空を愛する飛行機バカたちの繰り広げるこの物語、一読の価値はあると思います。
第一次世界大戦末期、愛すべき飛行機バカたちを描いた「天翔けるバカ」完結編。第一次大戦終結で、彼らの物語は筆が置かれています。
「flying fools」より、雰囲気的には重くなっています。戦争末期だし仕方がありませんが……。あとがきで須賀さん自身がおっしゃられているように、第一次大戦は「忘れられた戦争」でありながら、同時に「それまでの構図や価値観がすべて崩壊した」戦争でもあるわけで。前回はほとんど触れられることがなかった地上戦の悲惨さの一端が垣間見えたり、激しくなる戦況にそれぞれ苦心するパイロットたち、そして祖国に訪れる変革の波などに翻弄されながら、登場人物達は生き抜いていきます。そんな暗くなりがちなストーリィを救ったのは、やっぱりリックの馬鹿さ加減かと。いや、勿論彼も精神的に成長はしていますけれど(……と思う)、バカなまま成長してるというかそんな感じで。
その他。印象に残った場面はやっぱりレッドバロン戦死のところかな。大空を翔けた「最後の騎士」、その最期は……言葉では上手く言い表せないです。胸が一杯になった。次点は、ピロシキの例の場面になりますね。これももう、何を言っていいのか分かりません。彼の目に映った景色が錯覚だとしても美しいものだったことは、救いになるのかな……。それから、個人的にはゲーリングが……読んでてちょっと辛くなった。俗物ながらもけして嫌な奴ではなかった彼が、次第に妄執ともいうべきモノに取り憑かれていくのが何とも言えず。彼の場合は第二次大戦期の立場や行動、そして最期が分かっているから、余計に……ねぇ。p.87の彼の言葉やp.248の地の文を読んで、凄く複雑な心境になってしまいました。あ、忘れちゃいけない。パードレには最後、驚かされました。吃驚したリックと一緒に「は!?」とか叫んだのは私一人ではないはず。
「欧州には珍しい、美しい秋晴れの朝だった。」――この一文で締めくくられる物語。戦争が終わった解放感を表しているようにも思えますが……まだこれで終わりではなく。既に新たな火種が燻り始めていること。火種は更に大きな炎として燃え上がることを知っていると、一抹の虚しさも感じられるような気がします。