『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』[栗原ちひろ/集英社オレンジ文庫]

幽霊男爵の通り名を持つオカルト事件に目がない有閑貴族エリオットと、自分を「人形」という美貌のボーイ(下級の男性使用人)コニー。彼らが社交界でのおしゃべりや伝手で舞い込んでくる不可解な事件や出来事を解き明かしていく、19世紀のロンドンを舞台にした連作形式のオカルト・ミステリ。

主人公のエリオットのからりと明るい性格が影響してか、「オカルト」や「19世紀ロンドン」という言葉から連想するイメージとはちょっと違う仕上がりになっているというか、一味ふた味加わってる感じが面白かったです。あと、エリオットが自然すぎるほど自然に「見える」ことを生かした作中のちょっとした仕掛けに、この話では「誰」が「そう」なのか考えるのも楽しかった。収録作は幽霊よりも生きてる人間のほうが悪質だなあとなる話が多め。個人的には収録作の中ではオカルト色強めの3話と当時の社会事情・常識も絡んでなんとも言えないやるせなさが残る4話が印象に残りました。

登場人物関係は、エリオットとコニーのどことなく共依存的な主従関係の行方が気になるところ。あと、エリオットの友人のヴィクターは堅物ではあれど自分には見えない存在にも礼儀を持って紳士的に接し(ようとし)ていたり、時代背景を考えると十分にいい人だよなあ……としみじみ。他、女性陣では小さな貴婦人レディ・リリアンとエリオットの従姉妹で女性冒険家のアレクサンドラ、エリオットに従う執事ふたり等、それぞれ魅力的で良かったです。アレクサンドラの冒険話、私も聞きたい。

エリオットの痛快な怪奇事件解決をまだまだ楽しみたいのももちろんですが、最終話で明らかになったコニーの背景事情を知ると彼がいつか独り立ちする日が来るまで見守りたい気持ちにならざるをえなかったので、続刊がそう遠くない未来に発売されることを期待しています。

作品名 : 有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿
    【 amazon , BOOKWALKER , honto
著者名 : 栗原ちひろ
出版社 : 集英社オレンジ文庫(集英社)
ISBN  : 978-4-08-680317-5
発行日 : 2020/4/22

『カフェ飯男子とそば屋の後継ぎ~崖っぷち無職、最高の天ざるに出会う。~』[喜咲冬子/スターツ出版文庫]

相棒に裏切られてカフェ開業の夢が潰え自殺を考えていた青年・武士が、「死ぬ前に美味しい飯を食べよう」と入ったそば屋・ななせ庵で偶然小学生時代の友人・道久と再会したことで思わぬ方向に人生が転がっていくことになる――と、そんな導入ではじまる、人情(幽霊要素あり)物語みたいな一冊。

全体的に主人公含めた登場人物とその周辺が優しくていい話でした(諸悪の根源と第六話で出てきた彼女除く) 武士のどん底から徐々に再起動していく過程と、道久の先行き不透明な中でそれでも自分で進む道を考えている姿勢、どちらもそれぞれ応援したくなる感じ。読後、幽霊絡みはそのあたりとのやり取りを経て主人公の武士が徐々に意識を変えていく面もあったとはいえ、あえてそういう要素もってこなくても普通に生きてる人で良かったんじゃね?とちょっと首をひねったりもしましたが、まあこれは好みの問題ですね。美味しい料理でなんやかんやともてなし(?)して成仏させるのはちょっと面白かったし柴犬かわいいし。
あと、再開発の始まった地域の話なので商店街の今後についてもちょいちょい作中で触れられるのですが、そのあたりは割とシビアというかなんというかな感じだったので、今後良い感じに進んだらいいよねえ……。つーかいっそタツさんも加えて3人組んでお店やる方向に進んでも良いんじゃないかなーと思った。

ななせ庵の今後が気になるので、続刊あったら嬉しいなあ。諸悪の根源との対面は第六話の彼女みたいな感じだったら間違いなくイラッとするしあえて直接登場しない方向でも……いやでもうだうだ絡んでこられるとそれはそれで腹が立つしすぱっと決着つけてほしい気もするな……

『エリスの聖杯 2』[常磐くじら/GAノベル]

十年前に冤罪で処刑された公爵令嬢スカーレット・カスティエルの亡霊と、誠実が家訓の地味な子爵令嬢コンスタンス・グレイル(愛称コニー)。性格も考え方もまるで違う凸凹コンビが、スカーレットの「復讐」のために10年前の事件の真相を探るうち、国を脅かす巨大な陰謀に足を踏み入っていくクライム・サスペンス2巻。(なお、1巻読了後に結局我慢ができずWEB版読了)

2巻は、なろう掲載版の「回想(エルンスト・アデルバイド後編)」まで収録。この巻で、スカーレットの旧知であり2年前に自死したリリィ・オーラミュンデが遺した「エリスの聖杯を破壊しろ」という言葉の意味、かつてスカーレットが知らず巻き込まれていた陰謀、そして、何故彼女の処刑が止められることがなかったのか――と、そのあたりの事情が明らかに。スカーレット処刑の真相が、やはりつらい。他に選択肢はなかったのか、本当になんとかできなかったのかと、どうしても苦い気持ちになってしまいますね……。また、リリィの自死についてもその経緯が詳らかになりましたが、さすが、生前のスカーレットと(本人たちは素直に認めないにしても)長年友人やってただけあって、このひとも苛烈な人だ。文字通り命をかけたリリィの「時間稼ぎ」、ひとつは凸凹コンビの結成により無事に実を結びましたが、あともうひとつははてさて、というところ。
そんなこんなで、本筋では国家間陰謀劇のシビアな展開が否応なく繰り広げられている一方、コニーとスカーレットのお互いになんだかんだ相手を信頼して気を許してるやりとりや、コニーの婚約者になったランドルフとの亀の歩みで進展している関係(ただし、お互いの性格もあって若干斜め上)等のエピソードが挟まれているおかげでほどよく息がつける感じ。

話数的に次の巻で本編完結かな。追加エピソード等あるかどうかも含めて、楽しみにしています。

なんとかかんとか生存中。

最近はもう、新型コロナこのやろう、と事あるごとに毒づいてる気がする今日この頃。転職活動は状況的にかなり厳しくなってしまったし、なにより私の宝塚月組SS席を幻にしたことは次に同等席が当たるまで恨み続けてやる……(妙なところで執念深い)
そんな個人的な恨み節はさておき、未知の感染症相手に世の中全体が戦闘モードに移行して、日が経つにつれてなんかギスギスしてるなあと感じることが多くなってますね。こういうときこそ平常心で過ごしたいものですが、それがなかなか難しい。
まあとにかく今は、生きてるだけでえらい!の精神で、できる範囲でストレス発散させつつなんとか乗り切りたいですね。あと、自分の好きなものへ、無理のない範囲での応援もしっかりと。

『薬屋のひとりごと 9』[日向夏/ヒーロー文庫]

中華風架空王朝を舞台にした宮廷ミステリ&ラブコメ(?)、9巻目。なろう掲載中のWEB版壬氏編2を加筆修正した内容ですが、書籍版では8巻ラストで壬氏がとんでもねーことしでかしてるのでその後処置も含めつつ次の展開への布石置きが進められた感じ。

個人的に8巻のアレはえええーという感じだったんですが、あの行動から猫猫と壬氏の関係が動いたのは間違いないようで、今巻の終盤は猫猫の側から壬氏へのあれこれが。一般的な色恋とはやや毛色が違いますが、ほんのり情を交えつつも共犯・相棒めいたこのふたりの関係、好きだなあと思います。
一方で、姚と燕燕とともに禁書とされている知識に触れる流れなどは、「医官になること」やこの国における女性の立場云々も交えつつ羅門や羅半等を適宜介入させることでより自然に、わかりやすくなった印象。姚については、頑張る娘さんに幸多かれと願いたくなりますな。
で、なんやかんやあって西都に向かう壬氏一行の随行員になった猫猫。同行する面子が変人軍師(愛娘と一緒にいられるせいかテンション高め)筆頭にことごとく濃くて笑った。そんな彼らを、西都で待っているのは果たしてなんなのか。まだまだ謎ばかりですが、楽しみです。

作品名 : 薬屋のひとりごと 9
    【 amazon , BOOKWALKER , honto
著者名 : 日向夏
出版社 : ヒーロー文庫(主婦の友社)
ISBN  : 978-4-07-442420-7
発行日 : 2020/3/10