■ 2006.2月読書記録

 2/1 『流血女神伝 喪の女王3』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫] →【bk1

 架空歴史ファンタジー「流血女神伝」、最終章ユリ・スカナ編第3巻。王太子ネフィシカの衝撃の告白がもたらした波紋と、イーダルの計らいで修道院に身を隠したカリエも再び激動の運命が始まる兆しが……といった感じの内容。表面的にも水面下でもいろいろ動き出した巻、という印象ですね。

 読了直後は「何故ここに4巻がない、というかなんでまだ完結してないんだっ!」と思わず錯乱しかけました。いや冗談じゃなくて真剣な話。かなりの長編にも拘らず、読めそうで読めない怒涛の展開で全く飽きさせてくれませんね、このシリーズは。
 つらつら感想を書いてたらきりがなさそうなので、特に気になったことだけいくつか列挙。まずは、最近はすっかり頼れる味方になっていたサルベーン。しかし、どうやらまたきな臭くなっていきそうな雰囲気がひしひしと。メナイク大僧正の発言なんかは明らかに彼が絡んだものっぽいし。いつの間にやらサルベーンも嫌いじゃなくなってるだけに、何とか救済されて欲しいとは思いますが、さてどうなるか。つーか、あんたが変な方向に進むと、またラクリゼが悲しむからやめてよ本当。
 王宮関係では、前巻でネフィシカにしてやられたバンディーカ女王が、体調は悪いままながらも精神的にはかなり立ち直ってらっしゃいます。サルベーンを信用しすぎているのがやや気になりますが……考えすぎだといいなぁ(遠い目) 女王については、今回語られた背景がかなり興味深かったこともあり、好感度が急上昇してしまいました。この人主役の外伝予定があったそうですが、面白そうだし本編完結後にでも出してくれないかな。それから、イーダルは相変わらずさりげなく立ち回りの上手さ&やり手なところを見せてくれて満足。彼にまつわる設定は「もしかしてそういうこと?」と思うものがありましたが、この辺もこの先絡んでくるのでしょうか。あと、グラーシカがルトヴィアに帰らないでいい口実を見つけ、無意識に安堵していたのは少し切なかったです。そのうちに帰国できるのかなぁ(不安)
 一方、森での逃亡後修道院に匿われたカリエ一行。森の中で尋常でない力を発揮したセーディラは、やはり女神そのものなのでしょうか。今後明かされるとは思いますが、やはり気になります。そのセーディラの母親たるカリエはカリエで、また激動の運命に飲み込まれていきそうですが、彼女に関しては基本的に逞しい娘なので途中でどれだけ悩み苦しんでも、最後にはきっと乗り越えてくれると信じてます。実際、そうして生きてきた娘だし。ああそれから、エドが完璧にお父さんになってたのには、なごみつつも思わず笑ってしまいました。

 さて、最後で遂に女王と対面と相成ったカリエ。果たしてこの二人の間でどんな会話が交わされるのか。そのほかにもサルベーンの決断や他国の動向など、この先の展開がますます楽しみです。

 2/2 『ガイユの書 薔薇の灰に恋がれ』[響野夏菜/集英社コバルト文庫] →【bk1

 人間に追われて旅を続ける二人の「灰かぶり(ドルー)」と、彼らを追う二人の旅人の物語、第2巻。

 今回は追う側のマイとユサーザの話から始まります。彼らの話は、マイの親戚筋が治める領地で起きた「不死の薬」を巡る悲劇。ここで明かされたマイの正体というか身分に少し驚きました。良家の子息だろうなぁとは思っていたけど、そこまでとは。相棒のユサーザもなにやら思わせぶりなところがありますが、彼の背景もそのうち明らかになるのでしょうか。話の内容は、なんとも気が滅入ってしまうものでした。嗚呼、全くもってやりきれない。
 一方、後半は追われる側のポーシアとルー。なんだかんだで互いを支えとし、それなりに上手くやってるらしい二人に安堵。それでも、彼らを取り巻く状況の救いのなさは一向に変わってないわけですが。前半の事件で新たな「灰かぶり」となった人物との出会いや会話なんかも、光明が見えずに暗鬱になってしまいましたよ……。
 そして今回初登場で、追う側と追われる側のどちらとも接触を持った、ルーの魔術主にしてポーシアと瓜二つの容貌を持つ少女の一人、アーシア。残酷で不遜な彼女とその目的がこの先どのように絡んでくるのか、気になるところ。

 故郷を襲った奇妙な事件の報せに、追跡を中断して北へ向かったマイとユサーザ。自分のことを知ろうと、マイとの再会を望んで同じく北へ向かうポーシアとルー。彼らは無事に出会うことができるのか、出会ったとしてどのような事態になるのか。3巻の展開が楽しみ。

 本編に関係ない独り言。あとがきで、一番人気がマイでルーイチオシな作者さんが驚いた、みたいな話が書かれてましたが。……ユサーザは駄目ですか。そうですか……。

 2/3 『シャリアンの魔炎 3』[ゆうきりん/集英社コバルト文庫] →【bk1

 唯一神を奉じる国家と、かつて彼らの侵略を受け虐殺された諸部族(多神教)の対立を背景にした、陰鬱な空気が漂うファンタジー、第3巻。
 感想書くの忘れてそのままになってたのですが、今月最終巻が発売されたので簡単に。

 ……正直、この巻あたりからアリエス側はわりとどうでもよくなった私(←酷) いや、彼も嫌いではないんだけど、それよりルァズとリリーベルの関係にページを割いてよ!という心境で。そんなこんなでどうにももどかしい二人の関係はこの巻でも変わることはなかったのですが、最後になって遂にルァズがリリーベルの身分を知ってしまうことに。果たしてルァズはどうするのか、というところで以下次巻。

 2/4 『シャリアンの魔炎 4』[ゆうきりん/集英社コバルト文庫] →【bk1

 唯一神を奉じる国家と、かつて彼らの侵略を受け虐殺された諸部族(多神教)の対立を背景にした、陰鬱な空気が漂うファンタジー、第4巻。

 リリーベルも貴族だと知ってしまったルァズ。どうしても彼女を殺すことができず葛藤していた彼が、リリーベルの危機に思わずとった行動は「よくやった!」と喝采を送りたくなる一方、彼と神との関係を知っているだけに複雑な気持ちにもなってしまいます。この結果、彼らがどういう結末を迎えてしまうかは……次巻ということで。
 あとリリーティグ。率いていた少女騎士団をルァズによって壊滅させられ一人生き残った彼女は、『獣』が出現するきっかけになった10年前の遠征について調べ、遂に真相に辿りつきます。……まぁ、どうせそんなことだろうと思ってはいましたけどね。ともあれ真実を知った彼女が、口を封じようと迫る相手と対峙する様はなかなか良かったです。

 あちこちで状況が錯綜・混乱しつつ、物語は最終巻へ。

 2/5 『シャリアンの魔炎 5』[ゆうきりん/集英社コバルト文庫] →【bk1

 唯一神を奉じる国家と、かつて彼らの侵略を受け虐殺された諸部族(多神教)の対立を背景にした、陰鬱な空気が漂うファンタジー、最終巻。

 想像していた中ではまだマシというか救いのある(ような気がする)終わり方でしたが、それでも「……こういう終幕か……」と軽く凹んでしまいました。御都合主義でも二人とも生き延びて幸せになって欲しかったという思いがあるだけに。とはいえ、あの状況ではあれ以上の最善はなさそうだし、互いに納得もしてるようだし、もう仕方がないんだろうと分かってはいるんですけどね……。まぁ結末自体は少し哀しくなってしまうものでしたが、それでもルァズとリリーベルの関係は最後まで切なくも甘くて、良かったと思います。

 これまでのペースに比べてちょっと駆け足な気もしましたが、無事に完結してくれただけでも良かったです。少年向けレーベルのお仕事もあるでしょうが、また機会があればコバルトでこういう系統のファンタジーを書いて欲しいなーとひっそり願いつつ。

 2/14 『図書館戦争』[有川浩/メディアワークス] →【bk1

 公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律「メディア良化法」が成立・施行されている日本で、図書館は超法規的な検閲に対抗するため防衛員を擁して対抗している、という設定で繰り広げられる月9風な行政戦隊図書レンジャーの物語。

 ビブリオマニアな連中が活躍する話かと勝手に想像していたのですが、別にそうでもなく。これって形は違えど、根本的にはこれまでの作品と同じく自衛隊ものだよなぁと思いつつ読んでました。で、感想としては……面白くなかったわけじゃないけど、今作は個人的にいまいち合わなかった、というのが正直なところかも。なんというか、主に設定周りで読んでいて最後までどうしても違和感が拭いきれなかったというか。主人公の郁をはじめとする個性的な登場人物たちの会話やらは楽しく読めたんですけどねー。

 ともあれ、次回作もまた楽しみにしたいと思います。……ところで、次もハードカバーだろうことはもう諦めるとして、既刊の文庫化はしないんでしょうか?

 2/17 『BLACK BLOOD BROTHERS 5 -ブラック・ブラッド・ブラザーズ 風雲急告-』[あざの耕平/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 吸血鬼と人間の共存地帯『特区』を舞台にした吸血鬼と人間たちの物語、「BBB」シリーズ長編第5巻。

 第2部開幕となる今巻は、望月兄弟とミミコが共同生活をはじめて1年後から始まります。カンパニー上層部と吸血鬼たちの軋轢が影を落とす中で起こった一つの事件をきっかけに、『特区』は変化の時を迎えることに――という展開。序盤は割と軽い雰囲気(短編っぽいノリのミミコと兄弟の仕事風景)でしたが、中盤以降は一気にシリアス急展開。とりあえず、陣内や張、尾根崎会長などオヤジ組がそれぞれ良い味出してて素敵でした。あとがきでなにやら気にされてましたが、オヤジ分過多でも全然構いませんよあざのさん、とWebの片隅でひっそり応援しておきます(←渋好みな奴) 一方、ミミコにはまたしても試練が降りかかることとなりましたが、へこたれず前に進んでいこうとする彼女はやはり格好良い。今後の奮闘が楽しみなところ。
 吸血鬼陣営では、今回はゼルマンが印象強かったですね。彼の場合、「Dクラ」の甲斐みたいに暗いもの抱えてるんだろうな、と思ってはいたけれどここまでとは。それでもサユカもいることだし、何とかプラスの方向に進んで欲しいなぁ、と思います。
 そして九龍の血統からは、九兄弟の末妹が初登場。彼女はこの先もコタロウと絡んでくるのかな? 今回も暗躍していたザザは、相変わらず楽しそうで何よりでした(笑) あと、ダール卿はやはり九龍側だと判明。彼の本格参戦も待ち遠しい限りです。

 さて、今巻は全体的にはまだ新たな波乱の幕開けという雰囲気ではありましたが、この事件を経てこの先『特区』がどうなっていくのか。「香港の遺産」こと九龍王の遺灰に繋がる人物を見出した『九龍の血統』はどう仕掛けてくるのか。そしてミミコはこの激動の中、どのように歩いていくのか。続きがとても気になります……つーか6巻どこ! なんでここに6巻がないのっ!?(←つい最近も同じような無茶を言ってませんでしたかあなた)

 2/18 『煉獄のエスクード3 RHYTHM RED BEAT BLACK』[貴子潤一郎/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 人類と魔族の「扉」を巡る攻防を描く「煉獄のエスクード」第3巻。
 今回薫は、新たに魔術師の少女ルーシアとパートナー関係を結ぶことに。前回の事件で知り合ったクラウディアの弟子でもある彼女と、ある学校で発見された魔獣の死体調査中、魔族の徘徊する城に転移してしまう、という展開。

 今更ながら、魔族には基本的に変態しかいないというのがよく分かりました(苦笑)
 それはさておいて、話としては薫とルーシアの信頼関係構築過程と今後へのネタフリという感じ。これまでと同じく堅実というかオーソドックスな内容で、まぁ普通に面白かったです。2巻で出番なかったレイニーや真澄も今回は登場&見せ場もあって、それなりに満足。そういえば、今回初登場で真澄と一緒に行動していた使徒のヴァルデリーは、この先どういう役回りなのでしょうかねぇ。今回限りのゲストという風でもなかったし多分再登場はあるかとは思うけど、重要人物かといえばそれほどでもない感じだし……。あとは、1巻以降戦線を退いているリラフォードさんが現場復帰するのかどうかがちょっと気になっていたりします。

 ともあれ、この先の展開がどうなっていくかは楽しみです。それにしても、名前が失われた貴婦人の、妙に思わせぶりな一言が気になる……あれって、そういうことなのかなぁ。

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