■ 2005.8月読書記録

 8/1 『西方遊撃記 めざめよ運命の環』[漲月かりの/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 ビーンズで3作ほど作品を発表されてる作家さん。久しぶりの新刊だったので、購入してみました。

 内容は一言で言って西遊記モノ。三蔵と悟空が旅の途中で立ち寄った集落で巻き込まれた妖怪がらみの事件の話。手堅くまとまっているのでさらっと軽く読めるけど、全体的にはちょっと地味な印象を持ってしまったり。でもまぁ普通に面白かったです。あと、緊箍呪の設定はちょっと珍しかったかな。
 三蔵と悟空の性格などは、まぁお約束という感じ。……思いっきり趣味に走ってぼやくと、どうせなら三蔵が女の子な設定だったらなぁ、と思ったりしなくもありませんでしたが。つーか、イラストで胸があるように見えるのは願望から来る錯覚なんだろうか(末期症状)

 これ一冊できちんと完結してはいるけれど、彼らの旅は始まったばかりというのも事実なわけで(悟浄とか八戒とかまだ登場すらしてないし) 続編があることをほんのり希望。

 8/2 『彩雲国物語 欠けゆく白銀の砂時計』[雪乃紗衣/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 中華風どたばたコメディ(ちょっぴりシリアス)風味ファンタジー「彩雲国物語」第6巻。

 今回から新章開始。でも、そろそろ本格的に好みを外れてきた感じで、イライラしたり首をひねったりと始終そんな感じで読み進めていた自分がなんか寂しい。いや、細かい設定などは前から微妙と思ってましたが、今回はそこを切り離しても頭を抱える部分が多かったというか……工部のところとか、割と本気で本を投げそうになったし……結局のところ、「すごい」だとか「有能」だとか美辞麗句で飾られても、肝心の見せ方がどうにも、なんですよねぇ(しみじみ) あと、神仙系が本格的に話に絡んできそうなあたりも、個人的にはなんだかなぁ、という気分でした。そういう話は嫌いではありませんが、別にこのシリーズにはそういうのを期待してなかったので……。

 まぁそんなわけで、完全に好みの問題でしょうが、このシリーズは個人的にどうにも微妙になってきてしまったので、今回でリタイアしようかなぁ、と。……全く別の新作(逆ハー要素はできれば無しで)とかならまた読んでみたい気はするんですけどねぇ。

 8/3 『グラーレンの逆臣』[雨川恵/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 「アダルシャン」シリーズ3巻。今回は領有問題で隣国ともめているグラーレン地方にアレクシードが派遣されたことから始まります。

 相変わらず普通に面白かったですが、この巻も前に引き続き次回への前振りという印象。しかも、曲がりなりにも騒動に決着がついた次巻とは異なり露骨に「次回に続く」なので……あとがきによれば次巻で決着がつくとのことですから、それまで判断は保留、というのが正直なところでしょうか。

 ……しかし今回の兄王は情けないというかなんというか……結局それで揺らいじゃうぐらいの信用しか置いてなかったのか&自分との血縁とこれまでの年月で築いてきただろう信頼関係には自信が持てませんかと、ちょっと意地悪く考えてみたり。兄がそんなだから、余計にアレクを信じるユティが格好良く見えましたよ。確かに子供っぽい理屈だけど、兄を相手に啖呵を切る姿は好印象でした。

 8/4 『おまえが世界を変えたいならば -神話の子供たち-』[榎田尤利/講談社X文庫ホワイトハート] →【bk1

 「神話の子供たち」シリーズ第4巻。今回サラは罠にはめられ、エリアスたちと引き離されてしまうという事態に。

 3巻にも増して、サラの成長をまざまざと感じた巻でした。エリアス救出のため奮闘したり、「私に守られるのは嫌?」とか2巻の彼女では考えられない台詞が良かったです。新登場のアショクも、なかなか面白いキャラで好印象。つーか、このシリーズって総じて真面目・堅物な人が多いから、こういうタイプは貴重だと思う。
 また、1巻以降表に出てこなかったクローンたちの現状も語られましたが……冷静に考えなくても酷い話ですね……。

 さて、遂にフェンリルとの対面が叶ったサラ。これから彼女たちの運命はどう動いていくのか、先が気になるところではありますが、次巻からはしばらくフェンリル編ということで。1巻の後、彼がどういう道を歩いてきたのか。まずは語られるのを待ちましょうか、という心境です。

 8/8 『ヴぁんぷ!III』[成田良悟/電撃文庫] →【bk1

 人間と吸血鬼が共存しているグローワース島を舞台に、一癖も二癖もある吸血鬼たちが繰り広げる饗宴、第3弾。ちなみに「II」と上下巻構成になってます。

 面白かったけれど、前巻から期待したほどの盛り上がりではなかったかなぁ、という感じ。一応「カルナル祭」での騒動には決着がついたものの、最終的には今後の展開への伏線設置に終始していたように思ったり思わなかったり。あと、「バッカーノ! 1933」でも思ったのですが、登場人物が増えすぎたためか、個別で見るとそうでもないけど、全体で見ると微妙に印象が薄くなってしまってるような気がしました。面白い人は相変わらず(いろんな意味で)面白いけど。青の人とか(笑)

 まぁとりあえず、今回ばら撒かれた伏線がどういう風に収束していくのか楽しみ。まずは、あとがきで予告された短編待ちですねー。

 8/9 『ビートのディシプリン Side4[Indiscipline]』[上遠野浩平/電撃文庫] →【bk1

 謎の存在カーメンを発端に、それぞれの思惑が交錯する「ビートのディシプリン」完結編。

 加筆部分を除けば、綺麗に終わったといえるのではないでしょうか。これまで引っ張ってきていた「カーメン」についてもちゃんとした(?)説明というか種明かしというかがなされていましたし。ただ、私は最近上遠野作品全般脱落気味なため、細かい部分がちょくちょく思い出せなかったり混乱したりしてしまいましたが(苦笑)
 で、問題は加筆部分。ちょっと大変なことになってますよこれ。えーと、これは以前に電撃の缶詰だかで名前が出ていた魔女の話になるのでしょうか。一体何があってこうなったのか気になるところですが……。

 8/10 『平井骸惚此中ニ有リ 其伍』[田代裕彦/富士見ミステリー文庫] →【bk1

 大正浪漫な正統派探偵小説第5巻。これにてシリーズ完結です。

 今回は骸惚先生と澄夫人、そして發子ちゃんは先生の実家関係のパーティーに、河上君と涼嬢は涼嬢のクラスメイトの誘いでホームパーティーに出掛けるのですが、それぞれの場所で殺人事件が発生。先生と河上君が探偵役をすることに――と、そんな展開。ミステリとしてはいつものように難しいものではありませんでしたが、河上君が其四からさらに探偵っぽくなってるのには驚かされました。犯人を追い詰める場面で狙ったように登場したときには、「河上君のクセにちょっと格好いいぞ」とか思ったり(酷) あと、最重要課題のLOVEに関しましては十分に堪能いたしました。ごちそうさまです。

 まだまだ続けられそうなのにシリーズ終了というのは少しもったいない気もしますけど、あとがきに書かれている理由も理解できるし、すぱっと綺麗に締めてしまうのも潔いかもしれませんねー。でも、そのうちに番外編とか(あとがきにある某欧州住まいの少女との対決も可・笑)読めたらいいなぁ、と思いました。勿論、次回作も楽しみにしております。

 8/11 『老ヴォールの惑星』[小川一水/ハヤカワ文庫JA] →【bk1

 SFマガジンなどで発表されていた作品に書き下ろしを加えて発売の、小川氏初の作品集。表題作のほか3編が収録されています。

 個人的には、表題作が他と頭一つ分ぐらいの差で一番気に入りました。ホット・ジュピター型の惑星で誕生した知的生命体の物語。終幕が悲しくも、同時に限りない優しさを感じさせてくれます。それ以外の作品、「ギャルナフカの迷宮」「幸せになる箱庭」、そして書き下ろしの「漂った男」もそれぞれ味があって面白かったし、全編通してみるともうこれは見事としか。……それにしても、長編だといきなり機械仕掛けの神様が登場したりして後半がっくりくることが少なくない小川氏ですが、中編ぐらいの分量だとその余地がないからかえって綺麗にまとまるのかもなぁ、と思ったり思わなかったり。

 ともあれ、期待以上に楽しませていただいて満足でした。まずは来月の『疾走!千マイル急行』完結編を待ちつつ、新作も楽しみにしていたいと思います。

 8/20 『百星聖戦紀10 リム・アースの空へ!』[ひかわ玲子/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 動乱の時代を迎えようとしている大陸に、新たな時代を切り開く百の星が繰り広げる群像劇第10巻。約4年ぶりの新刊。

 イルディガル・ルーンガルド編完結ということで、これまで少数のグループに分かれていた百星たちが、次第に一つにまとまっていく過程が描かれています。……正直、これまでの布石やらを十分に承知していても少しばかり上手く行きすぎな気がしなくもなかったですが。でもまぁ、勢いがある時っていうのはこういうものだろうと一応納得はしてます。ついでに言うと、今回は敵役(これもかなり?がつく)はいても悪役がほぼ不在という状況で話が進むため、基本的に登場しているのが善人ばかりなのが個人的には物足りなかったですね。いや、そもそも世直しの話だから中心人物がそうなるのは当然とわかってはいますが、それでもやっぱり。特に、個人がどれだけ素晴らしい人間でもあんまり身内褒めされると逆になんだかなぁ、という気分になるひねくれモノなので。まぁ、そんな風に多少引っかかる面もありましたが、基本的にはやはり面白かったと思います。フェリアナがようやく幸せになれそうなのも一安心というところでしたし。

 ……で、角川公式で「完結」と書かれていたのでてっきり打ち切りかと思っていたのですが、どうやらシリーズ名変更の上でまだ続くようですね。なんだかんだで割と好きなシリーズなのでそれは素直に嬉しい(嬉しいのですが……ついでに発売ペースももう少し上げてもらえればもっと嬉しいんだけどな、と呟いてみる) ともあれ、リム・アース聖王国へ辿りついた彼らが今後どうなるのか。新章の舞台となる(らしい)ベルガリューン共和国はどのような状況で、どのような人物がいるのか。語られる日が来るのを、気長に待ちたいと思います。

 8/26 『結晶物語 1』[前田栄/新書館ウィングス文庫] →【bk1

 ウィングス文庫を中心に角川ビーンズ文庫でも何作か作品を発表されている作家さん。これまでの作品は私の好みからは微妙に外れていることが多くて最近は手を出していなかったのですが、他所様での感想を何件か拝見しちょっと興味を持ったので購入してみました。

 感想。「雨柳堂夢咄」や「百鬼夜行抄」あたりが好きなら、(傾向は多少違うけれど)気に入りそうな作品でした。内容は簡単に言うと、他者の激情を結晶にし食してしまう半妖怪の凍雨と、その父親で「最強にして最凶」と恐れられる大妖怪(最愛の妻が死んで以来、昼行灯を決め込んでいる)の白夜、とある事情で彼らと付き合う羽目になってしまった人間の黄龍が、厄介ごとに巻き込まれたり首を突っ込んだりする話。
 彼らの元に持ち込まれる「厄介ごと」はお伽噺や童話がモチーフになっており、1巻に収録されているのは人魚姫がモチーフの「幸福な人魚」と浦島太郎がモチーフの「竜神の花嫁」。「幸福な人魚」は1話目ということで、凍雨の性質や黄龍の過去などを簡単に語る紹介編でもありますが、同時に語られる魂を持たざるあやかしがそれを強引に手に入れたときの苦しみとささやかな救いの物語もなかなか良かったです。「竜神の花嫁」は、些細な行き違いが原因で生き地獄を味わうことになった女性が、永の苦しみから解放されるまでの物語。……正直、あの解決は「それでいいのかなー」と思わなくもないですが、いくらなんでも気の毒すぎる人生だし、犯した罪も長い年月の間に贖われているだろうとも思うので、やっぱりアレでいいのでしょう。うん。

 基本的に1話完結形式ですが、大事に繋がっていきそうな伏線やらも用意されているので、今後の展開が楽しみ。個人的には、今のままの調子で進んで欲しいのですけどねー。

 8/29 『結晶物語 2』[前田栄/新書館ウィングス文庫] →【bk1

 お伽噺や童話をモチーフにした現代あやかし譚、第2巻。収録作は雑誌掲載分の「就眠儀式」と「First Snow」、そして書き下ろし「鳥神の呪い」の3作品。モチーフになっているのは順に眠り姫、白雪姫、かぐや姫です。

 どれもまずまず面白かった、という感じですかね。内容に関して少し言うなら、1巻で匂わせていた人魚刀を狙う変化が「First Snow」で登場したのは、少し意外でした。まだ当分引っ張るだろうと思っていたので。この調子だと、彼とは次回で決着がつくのかな? あと、あやかしと人間では交友関係の認識の仕方に深くて大きい違いがあることがよく分かりました。つーか、あれで友達だと言うなら、凍雨は黄龍のことを普通に親友認定してそうだ(笑)

 まぁとりあえず、「First Snow」でいくつも謎を残したままの「結晶物語」版白雪姫がどんな風に幕引かれるのか、楽しみなところです。

 独り言。そういえば、今回収録されている作品は「鳥神の呪い」を除いて1巻ほどモチーフを意識させない作りになっていたような(とはいえ、あとがきによれば「First Snow」は3巻収録予定の「Last Snow」と前後編になっていて、後編はくどいぐらいになっているそうですが)

CopyRight©2000-2006. haduki aki. All rights reserved.