■ 2005.3月読書記録

 3/1 『ディバイデッド・フロント III.この空と大地に誓う』[高瀬彼方/角川スニーカー文庫] →【bk1

 憑魔と呼ばれる謎の生命体が人類を脅かすようになった地球で、憑魔に寄生されたために否応無く隔離戦区で「負けるのも勝つのも許されない」戦いを強いられることになった人々の物語、全3巻完結。

 読後にしばし呆けてしまうほど凄く面白かった&良かったです。
 2巻での某人の死亡によってすっかり雰囲気が変わってしまった「イコマ小隊」。再編成が迫っているのに最後までこの調子なのかなぁと少し寂しく思っていたところ、救世主のように登場したのは日本の英雄的存在でイチルの元カレ朝霧和磨。もっと真面目系の人かと想像していたので、予想以上に軽い性格に少々唖然としてしまいましたが(笑) ともあれ、彼のおかげでかつてのような明るいムードを取り戻したのも束の間、ひょんなことから憑魔たちの「楽園」に踏み入ってしまった彼らは意図せずして憑魔の「女王」との絶望的な戦いを強いられることになるのですが、その間の各登場人物たちの思考と行動が凄まじいばかり。英次も、香奈ちゃんも、イチルも。そして羽生さんや桐島さんや朝霧さん、そして出番はちょっとしかなかったけど彩も。皆が皆、恐怖や焦りを感じつつもそれに呑みこまれず、それぞれの形で敵に対している姿が格好良かった。後半のイチルさんと英次のやりとりなんかは涙なしでは読めませんね。

 絶望の中で見出した希望、受け継がれていく想いが凝縮したようなラストはイラストも含めて秀逸。生ある限り戦い続けることを運命づけられた彼らですが、これからも精一杯生き抜いて欲しいと心から願います。

 3/2 『ブラック・ベルベット 病める真珠が愛した司祭』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫] →【bk1

 荒廃した世界を舞台に、ひょんなことから行動を共にすることになった少女3人の物語、第2巻。

 舞台はバレンから『いびつな真珠(バロック・パール)』とも呼ばれる東の大都市ファウラーへ移りましたが、まだまだ出会い編というか導入編という印象。あとがきで「B級映画やロードムービーを意識して作った」と書かれてますが、まさにそんなノリで読めるので、今のところは「女神伝」ほどハマりこめないけれど、単純に面白いなぁという感じ。とりあえず今巻では、キリが探していた元神父ハルをはじめ、ハルに従うシュトラールや派手なアフロ男レインボウ(まんまな名前だなぁしかし)、ファウラーで急速に勢力を拡大している組織「スターリングシルバー」の支配者シルヴァーナなど、それぞれ個性的な新登場人物たちに興味を惹かれてしまいました。特にレインボウは、イラストが物凄いインパクトでしたよ……なんか一人世界が違うし。中身はわりと良いヤツというか男前っぽいのに。

 まぁなにはともあれ、伏せられている設定がどうなっているのかやこの先の展開がどうなるのかなど、いろいろ楽しみなところではあります。
 それにしても、最後のグラハム氏の言動はなんか意外だった……いやなんか、そういう浮いた話には興味なさそうなイメージを持っていたので(笑)

 3/3 『彩雲国物語 漆黒の月の宴』[雪乃紗衣/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 中華風どたばたコメディ(ちょっぴりシリアス)風味ファンタジー「彩雲国物語」第5巻。茶州編がこれであっさり一区切りついてしまったのが少々意外。

 ……朔洵はもっといろいろ引っ掻き回してくれたりするかと期待していたので、この決着のつけ方はかなり不満。話そのものもなんだかバランスが悪いというか舌足らずというか説明不足というか、部分部分が上手くかみ合っていない印象で、読後に物凄く消化不良感を覚えてしまいました。でもまぁ、「この作品はそういうものだから」と細かい部分を思いっきり割り切ってしまえば、それなりに面白かったと思います(それでも引っかかる&突っ込みいれたくなる部分は多々ありますが) ただ、登場人物はやはりもう少し整理するべきだと思いました。つーか、わりと似たキャラが多いおかげで、固有名詞がどうにも区別できないんですが……私だけですかね。あ、ついでに言うと秀麗びいきがすぎるのもなんだかなぁと思ったり。いや、彼女も頑張っているのは分かるのですが、それでも必要以上に持ち上げられすぎてる気がしてなんだか居心地が悪いのですよ……。

 ともあれ、次巻は王都組もいろいろありそうなので、そちらの展開を楽しみに待ちたいと思います。

 3/4 『風の王国 竜の棲む淵』[毛利志生子/集英社コバルト文庫] →【bk1

 唐の公主として吐蕃(現・チベット)に嫁いだ少女・翠蘭と吐蕃王リジムの物語、第4巻。

 ……ガルが戻ってきちゃったよ……いや、キャラ的には大好きなタイプっぽいので嬉しいのですが。でも、やっぱり、ねぇ……(ごにょごにょ) あと、翠蘭が嫁いで1年半が経過したという明確な数字が出されて思わずドキリ。そうか、もうそれだけ時間が経っちゃったのか……ということはあああああ。
 えーと、史学的知識からの叫びはさておき、この巻の感想。リジムの父であるソンツェン・ガムポ王の居城に向けて旅立った翠蘭が、途中立ち寄った小国で事件に巻き込まれてしまう、というもの。翠蘭がちょっと呪術をかけられ記憶を失ったりしてますが(←それを「ちょっと」の一言で済ませないように)、話はいつものとおり安心して読めます。それに加えて今回は、ガルが何かと含みのある言動を取ってみたり彼が翠蘭の立場を知ってしまったりなど、物語全体から見ても微妙なさざ波が立った印象。ガルとリジムの間で今後に関しては一応合意したものの、この先の展開がどうなるのかと楽しみなところです。……ところで、さり気にサンボータと朱嬰の雰囲気がなかなか良いような気がするのですが、これは願望から来る錯覚でしょうか。

 さて、次巻でいよいよソンツェン・ガムポ王がお目見えのよう。多分ティツン妃あたりは一緒に登場するのでしょうねー。どんな性格に設定されてるのか、少し期待。

 3/5 『スカーレット・クロス 月牙の命脈』[瑞山いつき/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 不良神父とその『聖なる下僕』となった吸血鬼の少女の物語、スカーレット・クロス5巻目にしてセカンド・シーズン開幕編。

 今回から悪魔が封じられているという伝説の『聖櫃』を巡る物語が始まり、スケールがこれまでとくらべて大きくなってきています。その過程で、ギブとツキシロの主従関係にも変化が生じることに……とりあえずこの展開、私はお布団の中でごろごろすることにしたいと思いましたな(あとがき参照)

 まぁそれはさておき、ギブとツキシロの関係だけは最後の最後で大きく動いた感がありますが、話そのものはまだ始まったばかり、という印象。次巻以降、ハクティバやイブリスが次にどんな手を打ってくるのか、それからウォルター氏がツキシロ関係の事実を知ったときどんな動きを見せるのかも、興味深いところ。もちろん、ギブとツキシロの関係がどうなるのかも普通に楽しみです。

 3/6 『ハルシフォンの英雄』[雨川恵/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 昨年発売された『アダルシャンの花嫁』の続編。今回は嫁いできた皇女様との関係より、互いに不器用な異母兄弟の話にスポットが当たっています。

 前回の陰謀劇も多少引きずりつつ、兄王が病に倒れてしまったため、一気に注目される立場となった王弟アレク。庶出故にこれまで軽んじられてきた彼がどう動くのか――というのが大まかな話の内容。王国の抱える領土問題や歴史的事情の説明、それに最後の一文といい、良くも悪くも次巻への前振りという印象が強かったです。全体的には盛り上がりには欠けるもののまぁ普通に面白かったと思います。ユティも子供らしくてかわいかったし。でも、個人的にはもう少しアレクと絡んでくれれば嬉しかったと思ったり。
 あとそれから、この兄弟はとりあえずもう少し腹を割って話したほうがいいよな、と思いましたね。いや、お互い相手を思いやってるといえば確かにそうなんですが、それでも現状では自分の意見を相手を無視して押し付けてる感があって……。

 この分だと、次はグラーレンを巡る戦争の話になるのでしょうが……はてさて、どんな事態になりますか。

 3/7 『天の階 竜天女伝』[森崎朝香/講談社X文庫ホワイトハート] →【bk1

 昨年デビューされた新人さんの2作目。あ、ちなみにデビュー作に関しては感想書く気が全く無いのであしからず。

 中華風の世界(ついでに言うとデビュー作の数百年後の話。ただ、別王朝なので直接の関わりはありません)の世界を舞台に、「ある時刻に生まれた娘が世継を生む」との予言を信じた皇帝によって、後宮に召し出された女性たちの姿と、それに平行して語られる一人旅を続ける少女の物語。
 読んでて面白かったことは面白かったのですが、後宮の話と少女の旅路の話を一緒にする必要があったのかと思わず考え込んでしまいました。なんだか二つの話が上手く融合してないというかバランスが取れてない気がしたので、どちらかに焦点を絞ったほうが良かったんじゃないかなーと思ったり。あと、「仙人」の解説でオチをつけるのは少々如何なものかと……。
 登場人物については、とりあえず皇太子と海霞の関係が微笑ましくていいなぁと思いました。他の寵妃たちもそれなりの幸せを手に入れられただろう中、玉鳳様はお気の毒というかなんというか……(苦笑) それから、ややこしい状況を作った張本人である皇帝については腹が立つとかいう以前に、「まぁ立場やらなにやらからすれば普通はこんなもの&総合的にはマシなほうだろう」というぐらいの印象しかもてず。一方、話の構成的にはメインヒロインっぽい旅の少女・月季と彼女につきまとう青年・月笙に関しては……個人的にはあんまりだったかな……性格的には二人ともそう嫌いでもないんですが、ねぇ。彼女らの関係や設定が、王道を通り越してご都合主義に感じてしまったのかなぁ。

 まぁいろいろ気になる点は多かったですが、それなりに楽しめたことは事実ですし。なによりまだ新人さんだしということで、今後の成長&次回作には期待、というところです。

 3/9 『デュラララ!!×2』[成田良悟/電撃文庫] →【bk1

 池袋を舞台に、それぞれ何かがキレた連中が繰り広げる群像劇、第2巻。

 今回は池袋で頻発する切り裂き通り魔事件に、ひょんなことから何名かが首を突っ込むことになる、という展開。1巻では出番の少なかった平和島静雄ことシズちゃんが大暴れ。まさにゴジラを人間サイズにしたような暴れっぷり。この人、某葡萄酒さんとも正面きって喧嘩できそうだよなー、と思ったり。セルティはやや脇に回っていたものの、情報収集兼サポート役としてあちこち走り回ってます。それにしても彼女、今回はなんか妙にかわいかったですね。何気に新羅と馬鹿ップル化してるところもまた良し。来良学園の3人組では杏里が目立ってました。彼女の「秘密」は流石に予想外だったのでちょっと吃驚。彼らの関係は好きなので、なんとか最後まで崩れないでいて欲しいものですが……はてさて。他、イザヤは裏で動いて存在をアピールしていましたが、偽装カップルやブラコン姉、寿司屋のサイモンなどの登場はちょっとしかなくて少し残念だったかな。
 あとそれから、遊馬崎&狩沢の電撃ネタは相変わらず健在、むしろパワーアップしてる?というぐらいでした。読者としては気楽に笑わせていただきましたが、これに毎日(?)付き合わされてる門田と渡草は大変だなぁと思わず同情(笑)

 一応今回の事件は収束したわけですが、その一方でイザヤの目論見どおり三つ巴+αの抗争が勃発する下地が整いつつある模様。今回はあまり大掛かりに動かなかった「ダラーズ」や、一部のメンバーがシズちゃんに地獄を見せられたぐらいの出番しかなかった「黄巾賊」も活躍してくれるだろうし、いろいろ先の展開が楽しみです。

 ……ところでダラーズサイト、何名か正体が分からない人がいるんですけど。これも次巻以降の伏線なんでしょうかね?

 3/10 『霧の日にはラノンが視える 3』[縞田理理/新書館ウィングス文庫] →【bk1

 罪を犯して妖精郷「ラノン」を追放され、今はロンドンで生活を送っている異種族の面々を描いた物語、第3巻。
 最終話まで収録されているのかと思いきや、雑誌掲載分で収録されているのは「ミソサザイの歌」のみ。それに書き下ろし「この街にて」を加えての刊行。この分だと最終巻にも相当分量の書下ろしが期待できそうで、嬉しい誤算。

 さて感想。「ミソサザイの歌」は、かつてラノン出身者たちの隠れ里だったクリップフォード村の遺跡に異変が生じ、その情報を得た魔術師フィアカラの姦計により《同盟》が崩壊してしまう、という展開。これまでの話と比べれば、やはり展開が展開なだけに緊迫感がありますね。特にレノックスは物凄く痛そうな目にあってしまいましたが、おかげでこちらの人間社会を少し見直すきっかけもつかんだようで、まぁ、結果オーライかな? ともあれ、主要なメンバーが揃いフィアカラへの反撃態勢が整ったところで、4巻収録の最終話「星の銀輪めぐる夜に」へ続く。
 一方書き下ろしの「この街にて」は、ジャックとカディルが《地獄穴》に堕とされラノンからロンドンにやってきた頃の話。ジャックがこちらの世界に馴染んでいく、まったり日常な雰囲気が○。しかし、最初に出会ったのがアーニーだったのがジャックにとって何よりの幸運だったよなぁ、としみじみ思ったり。カディルは……話を聞き終わったレノックスの言葉に多少救われた気もしますが、それでもどうにもならなかったのかなと少し切なく思ってしまいますね。

 4巻は5月に発売予定だそうで、発売が今から待ち遠しいところです。

 3/19 『BLACK BLOOD BROTHERS 3 -ブラック・ブラッド・ブラザーズ 特区震撼-』[あざの耕平/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 吸血鬼と人間の共存地帯『特区』を舞台にした吸血鬼と人間たちの物語、「BBB」シリーズ第3巻。

 『九龍の血統』の暗躍により、崩壊の危機に直面した特区。事態打開のため奔走する各勢力のトップたち。一方、ジローはこれ以上ミミコを危険にさらさないため別れを告げるが、それに納得しきれないコタロウは「せめてちゃんとお別れを言ってくる」と姿を消してしまい――という展開。2巻あとがきの「派手にいく」との宣言どおり、なかなか派手な話でした。これでまだ前哨戦、というんだから今後への期待も自然と高まるというものですよ。
 メイン主人公と思われる3人の話。仇敵に「結構うじうじしたところのある奴」、知り合ったばかりの女の子に「青臭い吸血鬼」と散々な評価をされてしまったジローは……ごめん、フォローのしようがないや、という感じでした(笑) いやもちろん、決めるところは決めてくれましたけど。ミミコは、2巻に引き続きストレートな思考や行動に素直に好感が持て、応援したくなります。今でも十分魅力はあるけど、このまま成長したら格好良い女性になりそうだ。そしてコタロウは、現時点で無意識に最強という感じですね。要するに、ミミコのジローへの説教も「彼女」が引き出したか共鳴するかして諭したってことだろうし。
 それから、騒動を特区全体の勢力の動きで見た感想。吸血鬼陣営ではセイとケインが本領を発揮。セイは「東の龍王」の二つ名に相応しくあくまで鷹揚に構えて王様然としていましたが、ケインさんはキレたら性格変わるんですね……。それからゼルマンはコタロウにラーメンおごってあげてる場面やらその他の行動やらのおかげか、「なんだかんだで面倒見の良いお兄さん」というイメージで固まってしまったのですがどうしましょう。我ながら何かが間違ってる気がして仕方がないのですが……まぁいいか(←適当) あと今回は、人間陣営もなかなか頑張ってた感じ。とりあえず、二代目……もとい、カンパニー会長の尾根崎氏は幹部を前にしての一喝が格好良かったです。張氏は性格がつかめるような描写は少なかったですが、でも容赦の無さが素敵っぽい。ああそれから忘れちゃいけない、陣内部長は普通に「この人鬼だ」と思いましたね。いや、言ってることはまぁ理解できなくはないのですが、「だからってああいう手段に訴えますかっ!?」みたいな。
 一方、敵対する側の『九龍の血統』たち。今回主に活動していたのはカーサやザザ、それにヤフリーだけでしたが、それでもジローたちは苦戦させられたのですからねぇ。兄弟全員が揃ったら、そして、彼らが求める存在が甦ったらどうなるか。想像するだけでワクワクします。それにしても、ジロー(それから「賢者」)に歪んだ親愛を示すカーサといい愉快犯的なザザといい、生意気盛りの小童ヤフリーといい、『九龍の血統』の9兄弟はそれぞれ良いキャラしてるなぁと思いました。今回顔見世程度&未登場の兄弟たちにも期待大。

 ともあれ話は一段落しましたが、明らかになった「十一区に眠る香港の遺産」を巡る騒乱は今後も続くわけで。『九龍の血統』が次にどんな手段に出るか、それからジローとカーサの因縁の行方など、この先の展開が楽しみ……でも、次は短編集の予定だそうで。今回はDMでの連載ストックも多いようですが、「Dクラ」のときみたいに書き下ろしも期待していいのかな。とにかく楽しみですね。

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