『くノ一忍法帖 山田風太郎忍法帖5』[山田風太郎/講談社文庫]

「お千、そのわがままをゆるしては、おれの大仕事にひとみが入らぬ。豊臣家の血は、一滴たりともこの世にのこしてはならぬのだ。見ておれ、かならずその女ども、ひっとらえて成敗してくれるぞ」
 千姫は凄艶な笑顔をみせた。
「お祖父さま、恐れながら、お千はお手むかいつかまつります。豊臣家はやぶれました。けれど、わたしはやぶれておりませぬ。これがお千のお祖父さまへの果し状でございます」

  ――忍法「くノ一化粧」(p.23-p.24)

 完璧に自己満足で続けている「月に一度は山風小説の感想を書いていこう」企画、新年早々『魔界転生』や『妖説太閤記』はきついかなーとかあれこれ考えた挙句、『くノ一忍法帖』を引っ張り出してきた。……基準が何かおかしいような気は自分でもしているので、あえてツッコミいれないでください。

 それはともかくこの話のざっくりとしたあらすじはというと。大阪夏の陣にて豊臣家を滅ぼし、天下の支配を盤石のものとした徳川家康のもとに、孫娘・千姫の侍女の中に豊臣秀頼の胤を宿した5人の女忍者が紛れ込んでいるという、信じがたい情報がもたらされた。家康は後の禍根を断つため、伊賀忍者に命じて「子が生まれる前に始末せよ」と密命を下す。これを迎え撃つ千姫と、5人のくノ一たちの運命や如何に!という感じ。作者自己評価は「A」。

 えーと、「くノ一」という言葉からはやはりお色気方面を連想する向きもあるのではないかと思いますし、実際作中で使用される忍法は性に絡んだものが多いので、それもあながり間違った連想ではないのかも知れません。しかし、読んでて顔が引きつるような、あるいは悲鳴を上げたくなるような術のオンパレードなので、もはやエロいとかそういう次元じゃないのが、ある意味特徴であるかもしれません(苦笑)
 あと、「くノ一」つまり「女」が主役の忍法帖である、というのも本書の特徴の一つ。如何に忍術を使うとはいえ腕力では劣る女(それも妊婦)たちが、女という性すら最大限に利用し、どうやって敵の伊賀忍者の襲撃を切り抜けていくか――あるいは冥土の道連れとしていくのか。そのあたりの駆け引きが見物です。また、くノ一ばかりでなく、戦力外ではあるものの悲劇のお姫様ではなく冒頭で引用したように苛烈な意志を随所で見せる千姫や、家康側で権勢を振るうお福の方、そして物語の中盤に登場し、もうこの人止めようと思ったら十兵衛とか剣聖、忍者なら能力チート組連れてくるしかないんじゃ……と思わせるほどの激闘を伊賀忍者と繰り広げる女丈夫・丸橋のお方(この人も妊婦)もインパクト大。

 そしてラスト数行。史実は曲げずしかし空隙を利用することで、時代の勝者に一矢を報いんとした女たちの物語を、これ以上ないほど見事に締めくくった作者の手腕にはただただ敬服。

 ……まぁしかし、こんな経験をしていたら、そりゃあ『柳生忍法帖』で会津七本槍や加藤明成程度を敵に回したところで怯えて身を引くどころか、艶然と微笑みながら売られた喧嘩を高値で買うよな千姫様、と思ったり思わなかったり。

作品名 : くノ一忍法帖 山田風太郎忍法帖5
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : 講談社文庫(講談社)
ISBN  : 978-4-06-264559-1
発行日 : 1999/3/12

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