『忍法忠臣蔵 山田風太郎忍法帖2』[山田風太郎/講談社文庫]

 今年もどこかでやるのかどうかは知らないけど、そろそろ元ネタのドラマが放送されるような時期なので、今回の月に一度は山風小説の感想を書こう企画(適当に命名)は『忍法忠臣蔵』にする。作者自己評価は「A」。

 「忠臣蔵」といえば、近年変わり種もいくらかはあるものの、基本はやはり主君の無念を晴らすために討ち入りを決行した浪士たちの「忠義」の物語、というのが世間的なイメージでしょう。しかし、この『忍法忠臣蔵』において展開される物語は、その「忠義」の欺瞞や狂信的な部分を容赦なく暴き否定にかかっているのがまず面白い。つーかそもそも、主人公というか狂言回しに据えられている無明鋼太郎というはぐれものの伊賀忍者(余談ながら全忍法帖に登場する数多の忍者の中でも最強と言われる一人)が、恋人に裏切られたことをきっかけに「忠義(と女)が嫌い」になった男だという時点で「忠臣蔵」へのアンチテーゼにする気満々ですね、みたいな。
 で、「忠臣蔵」なら赤穂浪士側vs吉良側の二陣営に属する忍者達が相争う話になるのかと思いきや。互いに争うことになる忍者たちは全て上杉家(藩主が吉良の実子)所属で、赤穂浪士の仇討を阻止するという最終目的も一緒、但し命令者と用いる手段の違い(藩主の命令により浪士たちを実力で排除しようとする10名の忍者と、家老の命令で浪士の直接的な暗殺を阻止しつつ色仕掛けで浪士たちを骨抜きにしようとするくの一6名)から衝突を余儀なくされる、という展開にも意表をつかれます(実力チートな無明はくの一たちの監視役なので必要以上には手を出してこないという制限付き) そんな流れなので、実は物語の中で忍法勝負そのものは二の次になってるというか。くの一たちの繰り出すあの手この手に脱落していく浪士たちの姿や最後に全貌が明かされる大石内蔵助あるいは上杉家家老・千坂兵部の思惑などなど、なんというか、良かれ悪しかれ華やかな復讐劇の裏に押し隠された澱みに重点が置かれている印象がありますね。実際、くの一たちの忍法はエログロで娯楽小説的にもサービス満点(?)なんですが、個人的に一番強烈な印象が残ったのは忍法なしのある意味で真っ向勝負だった「小平太崩れ」だし。あれはもはや、何を言えばいいんだか分からなくなるわ……。

 史実の隙間では好き放題にやるけれど、最終的には史実にちゃんと合わせてくるのが山風作品の醍醐味ですが、この作品もその例にもれず。だからこその、無常さ・皮肉さに彩られた結末と、一人去りゆく彼の姿に、どうしようもないやるせなさが感じられます。

作品名 : 忍法忠臣蔵 山田風太郎忍法帖2
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : 講談社文庫(講談社)
ISBN  : 978-4-06-264503-4
発行日 : 1998/12/11

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