『風来忍法帖 山田風太郎忍法帖11』[山田風太郎/講談社文庫]

 昨年末から急に山田風太郎作品は面白いんだよーと主張してみたくなったので、Webの片隅でつらつら拙い感想を書いてきましたが、「そういや忍法帖の感想はまだ一冊も書いてなかったなぁ」と今更ながら気がついたので、とりあえず個人的お気に入りトップクラスのこれを引っ張り出してきてみた。ちなみにこの作品の作者自己評価は、「B」。……いや、冷静に読めばそう判断する理由はなんとなく理解できるような気がしなくもないんですが、それでもやっぱりいくらなんでもその自己評価は厳しすぎると思います。つーか、普通の作家なら十分すぎるほどに傑作でしょうこれ(←ファンの贔屓目入ってます)

 時は豊臣秀吉の小田原攻めと前後するころ。主な舞台となるのは北条方の小城・忍城。この城を巡る攻防戦に、戦場を喰い物に世を自由気侭・傍若無人に渡り歩いていた7人の香具師たちが巻き込まれていく、というのざっくりしたあらすじ。
 物語の主人公となる7人の香具師たちは、個性豊かではあるものの英雄とは程遠い、揃いも揃ってロクデナシばかり。戦禍に乗じて女を犯し売り飛ばすなど冒頭の行いの数々には嫌悪感すら抱いてしまうのですが、仲間同士の阿吽の呼吸や掛け合いが基本的に陽性の質を帯びているためか、どうにもこうにも憎みきれない。それでも、こんな連中が主人公では一体どういう話になるんだろうと思わせたところで、彼らにとって「運命の女」となる勇猛可憐な麻也姫との出会いがあり、そこから物語は二転三転していくことに。中盤までは、自分たちに恥をかかせた(自業自得ともいう)麻也姫に仕返しをしてやろうと意気込み、凄腕の風魔忍者が護衛する彼女に近づくためあの手この手を試す香具師たちの悪戦苦闘ぶりに、つい笑ってしまいます。また、秀吉の本陣から旗印を盗み出す羽目になったときの機転というか立ち回りというか舌先三寸の芸当は、彼らならではの仕事という感じでなかなか痛快でもあり。
 前半はそんな感じで珍騒動が繰り広げられていくのですが、中盤にそれまでの構図がひっくり返ったあとの展開は、ただ凄まじい。それぞれ一芸はあるもののほとんど凡人の香具師7人と香具師のリーダー格・悪源太に心奪われた風魔の女忍7人が、天と地ほどの実力差がある強敵に文字通り命を捨てて挑んでいく様は、壮絶・悲壮としか言いようがなく。しかしその一方で、自らの仕事のその成果にしてやったりと笑う彼らの姿が目に見えるようで、悲しいはずなのに不思議と爽快な印象も残るのです。

 忍法帖には異色の明るい作品としても有名で、事実最後までどこかユーモラスな雰囲気がありますが、それだけに、最後に描き出された美しいその情景には、言い知れないほどの寂寥感を覚えずにいられません。

作品名 : 風来忍法帖 山田風太郎忍法帖11
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : 講談社文庫(講談社)
ISBN  : 978-4-06-264627-7
発行日 : 1999/7/15

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