『後宮小説』[酒見賢一/新潮文庫]

先帝の死去に伴い、新たな帝が即位した素乾国。新皇帝のため、後宮も一新されることとなり、各地で宮女候補の募集が始まった。平凡な田舎娘の銀河は、近所の女たちの会話で聞こえた「三食昼寝付」という言葉につられて募集に応じることにする。一方、王宮では権力闘争が激しくなり、また地方では反乱が起きるなど、世の中は不安定となっていき……。

 「腹上死であった、と記載されている。」――この、なんとも人を食ったインパクトの強い一文から始まる、架空の王朝(中国風)を舞台にした物語。言わずと知れた、第1回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。この作品のレベルが高すぎたために、ファンノベ大賞は以降もレベルの高い受賞作を多数世に出しているという話もあります。……ここ数年の受賞作を見ると、どうもその神通力も怪しくなってきた感じですが。

 個人的な雑感はさておき、この作品の感想。最初が最初なのでどんな話なんだと思ってしまいますが、中身は案外真っ当な(というのもあれですが)少女の純愛&成長譚(勿論、それだけではないけど) 加えて、全編創作にも関わらず、いかにも歴史小説っぽく仕立ててあるホラ吹き具合、文章のそこかしこで顔を出す作者氏のユーモアセンスが絶妙な味で楽しませてくれます。
 銀河が絡む部分の主な舞台は後宮。当然そっち方面のあれやこれやも話に絡んでくるのですが、銀河の好奇心旺盛&快濶&天衣無縫な性格も手伝って不思議とからっとした印象が残るのがなんとも不思議。つーか、銀河と紅葉、セシャーミン、場合によっては玉遥樹も交えてのやり取りは、ある意味女子高のノリに近いものがあるなぁと思ったり思わなかったり。この他にも、銀河と角先生の哲学的な問答や、コリューンとの交流など、それぞれ面白く読めます。
 一方、王朝を脅かす内憂外患諸々の話で飛びぬけて存在感があるのは、反乱軍の軍師とも言うべき渾沌。独特の哲学に基づく彼の行動が、それゆえにあらゆる場面でトリックスターとなっていくのは滑稽というのかなんというのか。しかし、一定以上に義理や他人に縛られない自由気ままな彼の生き様は、読んでいてちょっと小気味よくもありました。身近にいたら迷惑な人だろうけど。

 悲劇とまではいかなくても大団円ではない結末なのに、その哀しさや重苦しさをほとんど感じさせず、むしろ爽やかかつ軽やかな後味が残るラストが印象的です。

作品名 : 後宮小説
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著者名 : 酒見賢一
出版社 : 新潮文庫(新潮社)
ISBN  : 978-4-10-128111-7
発行日 : 1993/4/25

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