『狐笛のかなた』[上橋菜穂子/新潮文庫]

亡き母から「聞き耳」の力を受け継ぎ、とりあげ女(産婆)の祖母と共に村はずれで暮らす少女、小夜。呪者に命を握られ使い魔とされている、この世と彼の世の狭間の「あわい」に生まれた霊狐、野火。有力者の家に生まれながら、敵対する一族からの呪いを避けるために森陰屋敷に閉じ込められた少年、小春丸。孤独な三人の子供たちを結んだ一時の縁は、やがて彼らの運命を大きく左右することになる。

 「守り人」及び「旅人」シリーズで人気の児童文学作家・上橋さんの読みきり作品で、ある土地を巡って憎みあう二つの一族の争いと、それに巻き込まれた子供たちそれぞれの行く末を描いた物語。ちなみに、上橋さんの作品ではこれが初の一般文庫化ですね。

 この作品の魅力の一端を担っているのは、やはり確かにそこで生きていると感じさせる登場人物たちの描写ではないかと。味方であれ敵であれ、それぞれに苦悩を抱えた上でそれぞれの道を選んで(あるいは選ばざるをえなくて)生きている、というのがまざまざと伝わってきて、人の業というものになんともいえない切なさや哀しさを感じます。そして、立場等に縛られ憎しみの連鎖にとらわれている大人たちの姿があるからこそ、純粋に互いを想いあう小夜と野火、そして己の行いに涙する小春丸の姿には余計に胸を打たれるのです。それにしても、野火はいちいち切なすぎると思う……。
 あと、無駄の省かれたシンプルな描写ながら脳裏にはしっかりとその場の情景が浮かび上がってくるのはすごいとしか言いようが。それに、ここぞという場面での形容や描写がまた、憎らしいぐらいにびしっと決まってるのもまたすごい。

 終章に描かれる場景はとても美しいけれど、どこか物寂しさも感じてしまう。小春丸のように「むごい」という思いはないのですが(大体、小夜はああなったことを後悔していないだろうし)、「ああ、ここからは少し遠い場所に行ってしまったんだなぁ」と、そんな思いをどうしても抱いてしまうのです。

 以下、一回書いて別に言及するほどでもないかなぁと削除したけどやっぱりもやもやしたものが残るので呟く独り言。裏表紙のあらすじ、前半はいいとして後半はちょっとどうだろうと思う。いや、具体的にどこがどう、と上手く言えないんですけど、でも何か違うというか……二人の行動が「愛」の一言で単純化されてるのに違和感があるんでしょうかねぇ。

作品名 : 狐笛のかなた
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著者名 : 上橋菜穂子
出版社 : 新潮文庫(新潮社)
ISBN  : 978-4-10-130271-3
発行日 : 2006/11/28

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